第九章 第八話 実技テスト・個人編 6
「なんか、無我夢中でスワニーソード振ったら、一刀両断出来ちゃった」
音葉の舞い上がる喜びを見るに、今回の速攻は、狙って放った一撃ではないという偶然の産物によるもの……だれもがそう理解した。
思うに、敵である二式一号は敏捷性に乏しく、近距離特化型の素早い動きなら、仕留めるに易い。
技を繰り出すタイミングと、度胸さえあれば、個人戦闘でも短時間での戦闘終了が望めるだろう。
そして、今回の音葉には運も味方した。
必死になって振った剣の一閃が、タイミングよく、そして見事に、敵のコアを切り裂いたのだ。
その点で言えば、今回千早は運が悪かった……のかもしれない。
何らかの起因により、一太刀目をしくじり、敵弱点を攻撃出来なかった。
それは現実世界の戦闘にもよくある話で、現にカオルでさえ生前に三式初号のコア狙撃を、爆風というイレギュラー発生によりミスっている。
実力があっても無くても、運が味方しなかった場合に遭遇した場合……残念ながら諦める他無く、瞬時に気持ちを切り替える必要があるのだ。
(今回はたまたま……マグレで一撃必殺が叶っただけ。そう、偶然……私も、音葉も)
それを物語るかのように、千早の瞳の奥の思考の色は、既にもう次の機会へと切り替わっていた。
――だが幾人かは、そう考えない者もいた。
(実力……そう、これが、音葉の実力なんだろう)
その一人。
カオルには、偶然だとかマグレといった要素だけではないと思うに至る根拠があった。
「音葉から感じた、戦いの前のあの緊張感……アレは生前、戦闘前に仲間から感じられた――本気の心構えだ」
思わず、無意識に考えを言葉にしてしまっていた。
「何? なんか言った? かおりん」
「あ、いやなにも」
エリーの言葉に、カオルはすっとぼけで答える。
その訳は――赤坂千早という人物にあった。
千早は、負けず嫌いの中学生。
しかも、カオルのイメージでは、少々天狗になっている印象を持っていた。
それが意味するところ。
それは、目下と思っていた者が、自分と同等――もしくは実力が上だった時、その挫折感は半端ではないだろう。
(千早のヤツに、アレが音葉の本当の実力だと知らせない方がいいだろう。もし知れば、どう心に影響するかわかんねぇぞ)
カオルに、他人事とは思えない心配が芽吹くのだった。
「さぁて、お次は西大寺さんと敷島さんね。準備して」
意外な生徒の意外な結果に、綾乃先生もテンションが上がっている。
それほど教師の心を動かした、郡山音葉のテスト結果。その兆候は、生徒達にも伺う事が出来た。
「あの音葉が速攻決めれたんだもの。私だって!」
「うん! 私も郡山さんや鬼首ヶ原さんみたく、ズバシィ! って決めてやるわ」
次のテストに臨む生徒に、気負いが感じられる。
戦闘経験を積んだ兵士ならば、戦闘前、多少の高揚感は必要だ。
が、未だ未熟さ漂う「魔法少女」に、それは当てはまるのだろうか?
カオルの脳裏に、更なる不安の種が芽吹く。
西大寺喜美子。
音葉と同じく、トゥインクル・スターズに属する、トゥインクル・イエローだ。
彼女もまた、近接戦闘に特化した「槍」を扱うスタイルで、その必殺の一撃は、音葉のスワニーソード以上と称されてきた。
ただし……当たれば、であるため、成績はノーマルスキン状態で「B」止まりとなっている。
敷島法子。
ラブリー・ウィッチ・ファイブ所属のラブリー・サファイアである彼女もまた近接戦闘特化ではあるが、その攻撃手法は少々他とは違っていた。
彼女が右手で触れた場所。その触れた時間が長ければ長いほど、そこに強力な宝石爆弾が現れ、爆発する。
美しさと破壊力を兼ね備えるその攻撃もまた、「敵に触れていなければならない」というリスクを伴うため、現在の成績は、ノーマルスキンであっても「B-」である。
「では、時間は10分、実技テスト開始」
「「よろしくおねがいします!」」
二人同時に、揃った挨拶を送る。
気合十分な二人の前に、戦場への扉が開き――いざ、実技開始!。
『『敵、目視確認』』
ほぼ同時に、敵確認の報告を綾乃先生へと送る。
そして、これまたほぼ同時に、素早い間合い詰めで敵との距離を縮めたのだった。
『ピコナ! ロンギュヌス・スピアよ』
『了解んぬ!』
カワイイ熊のヌイグルミを思わせる使い魔・ピコナの瞳が輝き、西大寺喜美子の右手に身の丈よりも長い「二股の槍」が出現した。
『ミーナ、ジュエリー・ボムのスタンバイ』
『了解っちゃ!』
蝶々のような羽を持つ小さな妖精・ミーナが、敷島法子の声に答え、彼女の右手をまるでサファイアのように青く輝かせる。
双方共に、戦いの準備は整った。
だが!
『くらえっ! ロンギュヌス・クラッシュ!』
西大寺喜美子の槍捌きは、先に見た音葉のスワニーソードの一刀に影響を受け、大きな一撃を狙っている。
それ故、ワンテンポ遅く、敵に付け入るスキを与えてしまった。
彼女の放った大振りの槍は、グランド・ベイビーの右手による攻撃と重なり――威力の相互干渉を起こしてしまった!
『きゃっ!』
獲物から伝わる、破壊的な衝撃に、喜美子の身は吹き飛ばされる。
敵も、その身をよろけさせたとは言え、ほとんどダメージを受けていない様子だ。
『くっ!』
スタッ! と着地し、体制を整える。
『くっそ! 音葉みたくイケるとおもったのに』
つい、本音が出た。
今まで共に戦い、似たような成績だった友人が見せた、意外な活躍。
その変貌に、心が逸った……いや、焦ったが故の言葉なのかもしれない。
そして、ほぼ同じタイミングで――
『取った! ジュエリー・ボ……きゃッ!』
軽やかなジャンプから、二式一号の頭部へと着地した敷島法子は、その薄っすらと産毛の生えた頭頂部へと手をかざし……たのだが、強引に頭を振った敵の「イヤイヤ」により、落下を余儀なくされてしまった。
『やばっ!』
着地と共に、素早く体制を整え、距離を置く。
そして一言。
『なんで!? 郡山さんみたく、速攻決めらんないの?』
彼女もまた、音葉を引き合いに出し、愚痴を零すのだった。
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!