第九章 第六話 実技テスト・個人編 4
大変なミスを犯してしまいました。
一年一組の出席番号なのですが、ジョー・カーラングルを苗字の「か」ではなく名前の「じ」としていたため、「第九章 第三話 実技テスト・個人編 1」の冒頭部分を少々修正いたします。
大変申し訳ございませんでした。
ほんまアホですわ……
次に、今城仁美、大広来未等のソロテストが開始された。
今城仁美は、チーム・LWⅤのリーダー「ラブリー・ルビー」であり、近接戦闘では千早には劣るものの、クラスで三番目の腕前(A)を持つ。
そして大広来未は、チーム・トゥインクルスターズ所属の「トゥインクル・レッド」であり、補助系魔法――特に攻撃補助に卓越した能力(A)を持っている。
ともに、ノーマル・スキンでの戦闘を選択し、そつの無い戦い方を見せたのだった。
特に、大広来未が得意とする補助魔法「倍率」は、一定時間(能力により異なるが、彼女の場合は約一分間)攻撃力を上昇させる効果があり(初期値で1.2倍)、彼女はこれを2倍まで強化させられる。
これにより、トゥインクルスターズの郡山音葉とのコンビネーションが上手くハマり、彼女達のチームを安定した勝利へと導いているのだ。
そして、二人が体育館へと帰還を果たし、いよいよカオルが最も注目している生徒――ジョーカーの出番となった。
「ジョーカーの戦いか。楽しみだな」
ジョー・カーラングルと、鴨神多恵との個人戦闘テスト。
鴨神多恵は、チーム・LWⅤ所属の防御系特化であり、彼女達が安心して思い切った戦いに臨める「二つの盾」の役目の片方を担っている。
方や、ジョーカーことジョー・カーラングルは、ソロでの戦闘をメインとし、その実力を他人に見せない秘密主義を通していた。
故に、彼女の戦闘成績は「B-」と低いが……カオルとのデモ・マガバトルで、その隠していた能力の一端を見せてしまい……実力の程は未知数ながら高評価であるというのが、生徒達の中での共通した見解である。
「ジョーカー、今回もテキトーでお茶を濁すのかな?」
ふと、音葉が言葉を漏らす。
それはやはり、カオルとの戦いを知ったが故の、「彼女の再評価への期待」があるからに他ならないだろう。
「だとしたら……一年一組の勢力図が書き換えられるかもね」
「でも当然、私が一番だけど。と言いたげだよね、千早」
「ち、違うよ。一番はカオルお姉さまだし」
「一番……か」
千早の言葉に、カオルは言いしれない不安を感じた。
クラスでの魔法戦闘能力の順番争い。それにどれ程の意味があるのか?
そして、それを争うが故に、何か大事なことを忘れてはいないか?
カオルの心中は、そんな疑問が波紋を広げていたのだった。
「では、時間は10分、実技テスト開始」
「ジョー・カーラングル、準備完了」
「鴨神多恵、おねがいします!」
ジョーカーが、静かに。そして鴨神多恵が力強く、対局的な開始の合図を送る。
途端、二つの戦場への扉が開き、二人の戦闘魔法少女をそれぞれが飲み込んだ。
『敵、確認』
『敵、目視確認!』
二人は、ほぼ同時に敵の存在を察知し、この場合の指揮官である綾乃先生へと状況を報告。
『フィナンシェ、ミッションA』
『ラジャ』
デフォルメ梟であるフィナンシェが、いきなりジョーカーの腕に二丁の拳銃を召喚させた。
そして少し遅れて、鴨神多恵も、使い魔であるジャック・オ・ランタンの「かぼ助」へと指示を飛ばすのだった。
『かぼ助、ハロウィンステッキ出して』
『ギギ……了解』
どうやら双方共に、ノーマルスキンのままでの戦闘を選択する様子。
そして先に敵へと動いたのは、多恵の方だった。
『ハロウィンカーニバル、発動!』
途端、彼女の周りに10ほどの、丸々とした大きなカボチャが現れ、周囲を回り始めた。
「かもっちはね、おうちがかぼちゃ農家なんだよ。だから魔法技にかぼちゃを選んだんだって」
「へぇ。アレで何すんだ?」
「あれは攻防一体の技で、ハロウィンカーニバル。近づくモノを、あのかぼちゃさん達が攻撃するんだよ」
「へぇ、そりゃおっかねぇや」
かぼちゃに襲われる……どことなく間抜けな攻撃のされ方だ。
「ははは。食べ物的にかぼちゃが得意じゃない私にとって、こいつは結構恐ろしい攻撃だな」
しかしながらその攻撃は、カオルが想像するより、現実的にもっと「恐ろしさ」を隠し持っていた。
『やあっ!』
悪魔獣へと素早く接近し、基本魔法攻撃により、敵の意識をこちらへと集中させる。
そして、敵・二式一号が右手による攻撃を仕掛けたその瞬間――彼女の周囲を回るかぼちゃの一つが、敵の攻撃を阻止。
と同時に、激しい爆発を起こし、見事グランドベイビーの右腕をもぎ取ってしまった!
『グオオオオンッ!!』
安定性を失い、突っ伏し崩れ落ちる二式一号へ、
『行け、私のカボチャ達!』
多恵はトドメとばかりに、残ったかぼちゃを全て突撃させたのだった。
――ドドドドォンッ!!
幾つもの爆発音が同時に響き渡り、地響きが、そして衝撃が、鴨神多恵の長い髪とスカートを揺らす。
それはまるで、彼女の勝利を高らかに祝福するファンファーレのよう。
だが、そんな華やかな勝利をかき消す新たな轟音が、隣のモニターから放たれ、皆の意識を奪った。
『バシュンッ!』
それは、ジョーカーと対峙していた悪魔獣が放った、高エネルギー砲の轟音だ。
その放たれた輝きの直線上には、ジョーカーが居る。
「なッ!? 避けない?」
カオルが驚きを隠せず、思わず口走る。
このままでは直撃し、テスト終了は免れない。
更には、テスト放棄とみなされ、今後の彼女の存在意義を疑われる結果にもなりかねない。
だが、そんなカルの――いや、誰もが思ったであろう考えを、次の瞬間、ジョーカーは意図もあっさりと払拭させたのだった。
『反射壁』
高エネルギー塊が彼女を襲う、その間際。
落ち着き払った声が、ソレを召還。
突如現れたその障壁は、敵の放ったエネルギーを一旦吸収。そして、「反射壁」の名に恥じぬ、見事な再放射を披露。
今来た通りの軌道で、それを放った主の元へと、スピード、威力、共に増大させて送り返したのだった!
『 ド ゴ オ オ オ オ ン ッ !! 』
激しいエネルギー光が、二式一号を飲み込んだ。
その輝きが通過後……軌道上に、一切の生命体、遮蔽物の類は存在しなかった。
「はい、鴨神さん。そしてカーラングルさん。テスト終了、おつかれさま」
『『ありがとうございました』』
全ての生徒が息をのむ中。
体育館へと帰還を果たしたジョーカーの視線は……ただ一人、カオルを見据えていた。
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!