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第九章 第三話 実技テスト・個人編 1

 アカデミー一年生期末試験、個人実技(デモ・マガバトル)試験当日の早朝。

 生徒は皆、それぞれのクラスの専用体育館へと招集され、整列。静かにその時を待っていた。


 一年一組の、とある面子を覗いて。


「カオルお姉さまのソロ・バトル! 超楽しみ」

「うん。カオルさまの順番、早くこないかな?」

「出席番号順だから、結構早めだよね」

「一人あたり十分間の実技時間でしょ? それが二組同時。赤坂さん、池ノ内さん、今城さん、大広さん、ジョーカー(カーラングル)、鴨神さんときて、鬼首ヶ原さんは7番目。試験者交代のインターバルを含めて考えると、一時間弱かな」

「えぇ~! 私、カオルお姉さまと同時試験だから、闘う雄姿がみれないよ~」

「音葉残念! 後でどんな戦いぶりだったか教えたげるね」

「う~。カオルお姉さまの出席番号って、なんで7番なのぉ?」

「でも同時に戦えるんだからさ、一緒に戦ってると思えばいいんじゃないかな?」

「ふぇ~ん、隣でお姉さまがカッコよく悪魔獣を倒していると思うと、ダブルで緊張しちゃうよ~。どうしたらいいの~!?」

「し、知らないよ。つーか音葉、困るフリして抱き付くなって」


 それは、チーム・トゥインクルスターズを中心とした、お喋りと鬼首ヶ原カオルが大好きな面々だ。

 普段から、テスト前であろうがなんだろうが、寄ると触ると「興味」に向かって「かしましい議論トーク」に花を咲かせているお喋り少女達。

 が、今回は主にカオルの遠距離攻撃の評価がどのくらいになるか? という点に集中していた。


「絶対、遠距離攻撃魔法のランク、A+だよね」

「このクラスでの遠距離攻撃の成績トップは、ベイキンズさんとこのホーリーワルキューレに属しているグレイス・ハーレイさんが持ってる『A』が最高だっけ?」

「そだね。おそらく……いや絶対超えちゃうと思う!」

「一年生初のA+出ちゃうかも」

「ねぇねぇ、鬼首ヶ原さん! 自信の程は!?」

「あ、あ~……んと……あはは、どうだろうな?」


 次から次へと、無責任に前評判を語る少女達を前に、カオルは苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。


「皆、静かに!」


 千早が、一年生筆頭たらんと、かしましい少女達へ一喝を見舞った。

 が、これで本日四度目の注意喚起。

 その効果は一瞬だけのもの。という、半ば諦めムードを漂わせつつの叱咤であった。


「まぁ、毎度の事だ。諦めろ、赤坂」


 他人事。という感じながら、千早に一応慰めの言葉をかけたのはカーリーだった。


「確かにそうかもね、カーリー」


 千早は、カーリーの言葉に素直に耳を傾けつつ、「やれやれ」と肩をすくめる。

 そんな彼女を見て、エリーは「にこにこ」を表情に溢れさせながら言う。


「えへへ、ちーちゃん。なんだかちょっと変わったね」 

「え、何? エリー。私、変わった?」

「うん、変わった。以前だったら、キレて怒鳴ってたよ?」

「う。そ、そうかな? そうかも……」

「おそらくこれは、鬼首ヶ原効果だな」

「何だよそれ、私が原因か?」

「そうだ。鬼首ヶ原が原因で、皆変わって……いや、変えられてしまったというべき」

「あのな、カーリー。人を新種のウイルスみたいに言うな」

「カーリーも、かおりんウイルスに侵された一人だね」

「うぐ……否定できない」


 そう。彼女もまた、カオルが来る前に行われた前回までの個人テストの時とは、随分と様子が変わっている。

 一人、誰とも関わらず、テストまでの時間を孤独に過ごしていた。


「プッ……クスクス」


 そんな孤独仲間だった彩香が、小さく噴き出し、笑顔を咲かせた。


「ん、何がおかしい? 樋野本」

「ああ、いえ。ごめんなさい……お互い、他人に気を使えるようになったものだと、ふと思いましてね。カーリーさん」

「……ふん」


 カーリーは、気恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 けれど、彼女の言葉の内にある「お互い」という意味に、カーリーも自然と笑みを浮かべてしまう。


 仲間という「安心」を、再び手に入れた者同士の――心の疎通。

 お互い、もう二度と手放したくないという「たいせつなも」という気持ちが、無意識に表情へ微笑ほほえみを浮かばせたのだった。


「ところで、エリー。それにお嬢とカーリー。お前らの成績はどうなんだ?」


 カオルが、そんな仲間達の笑顔に触れ、新たな話題へと道筋を作る。

 まぁ、半分は自分への質問攻めへの回避のためではあるが……。


「私は知っての通り、剣技A+よ。お姉さま」


 千早が、自慢げに胸を張って言う。


「ああ。それはもう、嫌ってホド知ってるよ。で、エリーは?」

「私はね、かおりん。補助系A-だよ」


 笑顔で、元気よく答えるエリー。それはクラスでトップの成績である自信の表れでもあった。

 彼女が物怖じせず、進んで自分を出せるようになった。それもまた、カオルウイルスの賜物なのだろう。


「私は召喚A+。一人でやっていくために、結果、自然とそうなった」


 成り行きでそうなった。という言葉を前置きし、カーリーはシヴァと自分の強さを語った。

 そう、それは建前。

 本当は、誰よりも強くなり、もう誰も悲しませたくないと願う一心の、たゆまぬ努力の賜物に他ならない。


「皆さん優秀ですわね。私も防御A-ではありますが……まだまだ修行が足りませんわ」


 と、彩香が控えめに答える。

 しかしながら、カオルにはなんとなくわかっていた。


(お嬢の実力は、A+……いや、それ以上)


 周囲に目立たぬよう、実力を偽る。

 なんのため? おそらくは、彼女の身を縛、なにがしかの「使命」に準ずるため。


 カオルには、そう感じられたのだ。


「みなさん、おっはよー!」


 と、このクラスに良く似合った登場の仕方を見せる担任、綾乃先生が姿を現した。


「「「「おはようございます!」」」

「さぁさぁ、今日から実技テストが始まるわよ~。準備は良いかしら?」


「「「はい!」」」

「うんうん、よろしい。大声でお喋りはしていても、気構えだけはきちんと整えているのね」

「「「……は、はい」」」

「お喋りは、リラックスの表れ。それもまた良し! ってね。だけど、度が過ぎれば緊張感と統率を失うわ。一年の内だけよ? 大目に見るのは」


 楽し気に、そして優しく、厳しい注意喚起。それが綾乃先生のやり方だ。

 

「返事は!?」

「「「はい!」」」

「ん、よろしい。では、早速始めましょ……出席番号1番、そして2番。前へ」

「「はい!」」


 千早と、出席番号2番の池ノ内千奈いけのうちちなが、綾乃先生の作り出した、2つの戦場バトルフィールドへのゲート前へ立つ。


「では――時間は10分、実技テスト開始」

「「おねがいします!」」


 二人の生徒の、気合に満ちた声が飛ぶ。

 途端、ゲートが開かれ、二人を飲み込み、閉じる。


 同時に、空間投影式のモニターが2つ、その姿を現し、一画面に一人、少女を映し出した。


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

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