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王子さまと委員長   作者: 塚原 蒔絵
6/15

Side ―委員長―


 ジョンがジョン二号になってから、木島くんと話をすることがなくなった。

 一緒にいれた間、少しは仲良くなれたと思ったけど、それでもなにも話題がないまま話しかける勇気はなくて。

 校門を過ぎると同じ制服を着た生徒が足早に歩いている。少し前にいた亜子ちゃんがわたしに気づいて駆け寄ってきた。

「ちぃ、メガネ直ったの」

「うん、この子はジョン二号」

「……ちぃのメガネって、全部ジョンになるの?」

「うん」

 あ、木島くんだ。友達かな? 男の子と話してて、嬉しそうに笑って。

 髪の毛、寝坊でもしたのかな、少しだけ外はねになってる。

 わたしのは……よし、大丈夫はねてない。

 と、木島くんが相手の人を小突いた。小突き返されて……仲よさそう。

「ちぃ? おーい」

 亜子ちゃんが目の前で手を振る。

 けど、その先に木島くんがいるから、つい視線がそっちに向いちゃって。

「いいなぁ、男の子」

 言葉がこぼれた。

「はい?」

「な、んでもないよ」

 平然を……装えてないかもしれないけど笑顔で手を振ってみる。

 もう話をする機会もないんだし、いつまでも見ているのは失礼。

 そんな理由をこじつけて木島くんから視線を外した。



 話す機会がないのなら、いつかは忘れる。

 そう思っていたのに、神さまは急展開が好きなようです。

 劇の台本にある、大どんでん返しっていう展開は好きだけど、それはお話の中だからで、現実の世界でそんなことが起こると対処に困る。

 今だって、大どんでん返し! なんて大げさなものじゃないけど、

「見てるこっちの気が気じゃないから。どこまで?」

「……教室まで」

「ん」

 うなずいて軽々と、木島くんはわたしが持っていたダンボールを持ち上げてしまう。

 見上げると、綺麗な顔が見えた。男の人に言うのもどうかとは思うけど、美人さんだ。

 どうでもいい会話をしていると、すぐに教室に着いてしまう。

 とたん、待ってましたと言わんばかりに雨がザーザーと降りだす。

(傘持ってきてないのに……走るしかないかなぁ)

 雨音はその強さを増すだけで、弱まる気配を見せず、わたしはただぼんやりと窓の外を眺めていた。

 お姫さまがピンチなときは王子さまが現れて、カッコよく助けてくれるけど。

(雨の中、向かえにきてくれるのはお母さんくらいかなぁ。あでも今日はバーゲンの日だし。大丈夫かなお母さん、濡れてないといいんだけど)

「委員長、今日の用事はこれで終わり?」

「うん」

 どうやって帰ろうかな。なんて考えてたらいきなり木島くんに腕を取られて、

「一緒に帰ろう」

 微笑まれてしまった。

 ……まずいよ、顔が赤くなる。

 どうしてそんなこと言ってくれるのかとか、やさしいのが嬉しいとか、でも恥ずかしいとか、全部顔に出そうでうつむく。

「ほら、鞄とって来る。おいてくぞ」

「あ、ま、まって」

 急ぐふりをして鞄を取りに走るとき、喜びで緩んでいる顔を見られていないかだけが、それだけが心配だった。



 一緒の傘に入って帰る。

 外靴に履き替える前によったトイレの鏡では、変な箇所なかったはず。

 臭いとかも、くさくない。髪、はねてない。リボン、歪んでない。よし!

「委員長、ちぃって呼ばれたいのか?」 

「え!?」

「……え?」

「え、や、えっと、な、なんでも、ないです」

 名前、呼んでもらっちゃった。

 本当にまずいよ、顔が尋常じゃないくらいに赤いし熱い。

 反撃と称して木島くんを蓮くんって呼んでみると、木島くんも照れた。

 そんな些細なことに、木島くんのほうを向いちゃう視線を外すのが大変で。

 わたしのことを見てくれるはずないって分かってるけど、それでも溢れてくる嬉しさはとまらなくて。

 目の前にある幸せ。

 掴めそうな彼の手。

 もしわたしがもっと綺麗で、なんでもできて、自分に自信があれば、その手を掴もうと腕を伸ばしたんだろう。

 けどそんな勇気はなくて、見上げるのが精一杯で。



 相変わらず雨はやまない。

 二人で入っている傘は二人で入ると小さくて、見上げると木島くんが見える。

 他の人にも同じように笑ってやさしいんだろうなって、そんなことを考えたら少しだけ胸が痛んだ。


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