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ありえないこと第一、肝試しでペアの人とはぐれる(これは中村が悪い)。
ありえないこと第二、肝試しの場所が本気で森の中(今すぐに助けを求めれない)。
ありえないこと第三、森の中なので携帯が繋がらない(圏外なんです、ここ)。
ありえないこと第四、雨とか降ってくる(お約束なんて大嫌いだ!!)。
やっぱり、今日の俺は神様から見放されているんだ。
「最低! なんでちぃを見失うの?」
「俺だって見失うなんて思ってなかったっての。でも三森が勝手に走っていったんだ」
「ちぃが悪いって言うの?」
「誰もンなこと言ってないだろ!」
「そう聞こえるのよ!」
「俺だって必死なんだ!!」
「はいはい、お前ら、落ち着けって」
目の前で喧嘩されているからか、俺は結構冷静だった。
他人が焦っているのを見て落ち着く自分というのもどうかとは思うけれど。
「橋本は引き返して担任に報告してくれ。地図はこれ。一人で大丈夫だな? 中村は委員長と一緒にいたところ周辺を探してみてくれ、いなかったら引き返せ。帰り、途中までは一緒だから喧嘩するなよ?」
「蓮はどうするんだ?」
「俺はいったん山頂まで行ってみて、違うルートで帰る。委員長、走っていくにしても道ない場所は歩かないだろうし、道があるならほら、行き着く場所は一箇所だろ?」
渡されている地図を見る限り、目的地に行くルートは二つ。
それらは必ず一箇所にたどり着く。
中村が委員長とはぐれたのが、ちょうど地図の中間地点。
「二人がはぐれたあたりで道が分岐してる。でも行き着く場所は一緒だから、俺はこのまま登って、帰り違うルートで帰ってくれば、もし委員長がいる場合、絶対に会う、とこんな感じ?」
はぐれた場所から引き返しているなら、皆のところに帰っているので問題ないし、もし先に行っていても、きっと俺と会うはずだ。
「ほら、急げよ。雨、強くなるぞ」
「蓮、お前、今ちょっとカッコいいぞ」
「馬鹿言うな。委員長いたらそのまま引き返してくれ。俺も上まで行って、違うルートで必ずいったんそっちまで帰るから」
持っていた懐中電灯を橋本に預ける。
「ちょ、あたしが持っていったら木島くんどうするの?」
「大丈夫。俺、自分のあるから」
と言ってポケットからミニの懐中電灯を出した。
委員長と、もし肝試しで一緒になって、なにかハプニングになったとき、かっこよく出せるようにと用意していたものだけど。
「準備、いいんだ」
感心したように橋本が呟く。それに苦笑いして、手を振った。
目的地まで着く。
ここは森の頂上らしい。
雨はやまず、それどころかなにやら雷雲を運んできている。
遠くの空で雲が青白く光るのが見えた。
「音は聞こえないから大丈夫、っと。委員長、どこ行ったんだ?」
そもそも、どうして委員長は中村とはぐれたりしたんだ?
中村の話によると、お化けにびっくりしたから走り出したというのだけれど……
一人になったらそのほうが怖いだろう……違うのかな?
「委員長ー、おーい」
無駄だとは思うけれど一応は声をかけてみる。
行く先々でお化け役の人に委員長を見なかったか訊いたけれど、誰も見ていないという。
というよりは、色んな生徒が通るので、正確に委員長が通ったかはわからないらしい。
ただ、女の子が一人で来たという情報はないので、こちらの道を委員長は来ていない。
「反対側かぁ」
下り道、もう一方の道を見てみる。
いかにもお化けが出そうな道だ。
舗装も、肝試しルートとして学校から指定された道より、だいぶされていない。
とりあえずは下ってみる。
滑りそうになりながら、委員長、と声をかけるが返事はない。
そうして数分程度下ったところで、いやなものを見かけてしまった。
「……地図にない道、はっけーん。嬉しくないなぁ」
心底、嬉しくない。
二手にわかれている道は、地理から考えて、右に行くとスタート地点に戻れる道だろう。
で、ここまで委員長に会わなかったということは。
「真っ直ぐ進んだってことか?」
左手にライトを向けると、ぬかるんだ道が見える。
委員長はライトもなしで、一人で、こんな道を歩いたのか?
「おーい、委員長!」
叫ぶが、雨に消されてしまう俺の声。
けれどふと、小さな声が返ってきたような気がした。
雨音に、木々のざわめきに消えそうだけれど、確かに聞こえた。
走る。危ないことなんてわかってた、けど、走る。
「委員長!!」
「……くん」
「どこだ、委員長!」
「こっち!」
声は近づいているのに姿が見えない。
どこから声が聞こえるのか、わからない。
「委員長!」
苛立ちのせいで乱暴に扱ったライトの光が、一瞬、森の色ではないものを掠めた。
そちらに光を向ける。
草木が生えていたけれど気にならなかった。
邪魔になるものを無造作にどけて、手が木で切れたけど、どうでもいい。
ばきりと茎を踏み割り、踏み込んだ先で泣きそうな顔が見えた。
手を伸ばすと握り返そうとする小さな手が、俺の手を掴んで飛び込んでくる。
それを倒れないように、冷たくなった身体を雨から守るように、俺は委員長を抱きしめていた。
「ごめんね。降りるよ」
「その足で歩ける自信あるのか?」
「う」
委員長は迷っているときに足を滑らしたのか、左太ももに擦り傷をこさえていた。
体操着の短パンが破けて、いったいどんなこけ方をしたんだと、目を疑うほどだ。
そんな委員長を無理やりに近い形で背中に背負った。
重いから嫌だといわれたけれど、ここから下まではあまり遠くないはず。
雨脚は弱まらないので今のうちに下山したほうがいい。
「きちんと俺の上着、羽織ってる? 落としたらだめだぞ」
「大丈夫。ちゃんと着てるから」
「それならよし」
「ご――」
「ごめんはなし」
「……はい」
しゅん、となって委員長は俺の背中にほほをくっつけた。
疲れているのか、それとも傷の所為か、俺の背にもたれる体温が若干熱い気がする。
「でも、なんでいきなり走ったりしたんだ? 一人になるほうが怖いだろ」
「だって、中村くんがどこにいるかわからなかったんだもん」
「わからないって。中村がライト持ってたんじゃないのか?」
光源を持っている人がわからないだなんて、それはないだろう。
遠くに離れているならいざ知らず、
「あ、じゃあ、あの明かりって中村くんだったのかな。お化けに驚いて、で、なんだか光がこっちに来るから怖くなって」
「逃げたと」
中村、お前はお化けと同じだったそうだ。
少し首を回して振り返ると、いやに至近距離にあった委員長の顔。
それにびっくりするものの、俺は首をかしげる。
「委員長、ジョン2号どこかで落とした?」
「あ、今日はジョン、家なの」
「コンタクトに変えた?」
「そう、しようかなって思ったんだけど、コンタクトレンズがうまく目に入らなくて。朝もお昼もそれで時間つぶれちゃって……夜は入ったんだけど、驚いたときに落として」
「で、余計見えなくなって、あちこちさ迷って怪我したと」
「うん」
なんだか複雑な気分だ。コンタクトごときに委員長を奪われるだなんて。
……まてよ、橋本は確か委員長がどうこうと、そしてメガネがどうこうと。
つまり、委員長がメガネをしていないことに気づかなかったから怒っていた、と推測できる。
けれど、どうしてメガネがないと気づかないだけで怒られなきゃいけないんだ? ファッションの変化にはいち早く気づけと、そういうことか?
「木島くんは、髪切ったの?」
「えっ、あー、暑かったから……似合わない、かな?」
「そんなことない! 似合ってるよ」
「……うん。ありがと」
嬉しいと、素直に思える。
ここまで手放しでほめられると照れる。
それが好きな人からだとなおさらだ。
短くしてよかったと、感無量。
たとえ男として意識してもらえていなくても、これから少しずつそうなればいい。
「委員長も、似合ってるよ」
「……え?」
「メガネないの。なんだか新鮮だし、得した気分」
「そっ、かなぁ」
「似合うって。メガネもかわいいけど」
世辞なんかじゃない。本心だ。
背中にいる委員長が息を呑む音が聞こえた。
寒いのか、ぎゅっと腕を回される。
「委員長?」
呼びかけても返事は返ってこなかった。
ただ息遣いだけが聞こえている。
「寝たふりですか?」
呼んでみてもはやり返事は返ってこない。
道の先に合宿所の明かり。
もうすぐ二人っきりの時間が終わる。
俺は委員長をもう一度きちんと背負いなおし、
「委員長」
呼びかけて、
「好きだよ」
告白をした。




