魔王を勇者は救えるか 外伝〜彼の負けられぬ理由〜
ええと、今回は親子愛…というか親バカ……にしたかったorz
私は魔王だ。
とはいえ、何回も代替わりしていて、今が何代目かわかったもんじゃないが。
私は魔王としてこの暗黒に満ちた世界を操り、支配してきた。
我ながらここまで良くやったものだと思う。
人々は混乱に陥り、誰もが恐怖した。
そう、"魔王として"よくやったものだと今も思う。
私が、魔王の座についてから、どうしようもなく歪んでしまっているのは否定できない。
確かそれまでは感受性溢れるただの元気な子だったと思う。だが、「魔王」を継いだ途端、どうしようもなく歪んで、歪になってしまった。心優しい子供は泣く子も黙る、嗜虐心溢れる魔王となってしまったのだ。
経緯は覚えていない。
確か魔王の座を継いだあたりからだろうか。
そこから私は変わってしまった。
そんな私には、今娘がいる。
愛しの娘だ。
そして、後継者だ。
そう、後継者なのだ。
そう、彼女は私の愛し子だ。
目にいれても痛くないくらい娘を愛している。
正直、自分でも不思議だった。
どうしてこの子のことがそんなに愛しいのだろうか。こんな感情、一体どこから出てきたものなのだろうか。
私は魔王だ。嗜虐心溢れる残虐で悪烈非道な魔王だ。そのはずだ。うむ。⑨
終いには私は諦めた。実のところ私は物事を諦めぬことを信条としている。
これは、その数少ない例外だ。
そう、自身を納得させた。
そして、私はそんな愛しい娘をこんな道に陥らせたくない。
なぜだ?彼女は後継ぎだろう?
なぜそんな…
…このことを認めるのにずいぶんかかった。
そう、私は認めた。娘に後を継がせたくない、と。
これは魔王というこの存在の意義に真っ向から反すること。
それは重々承知していた。
でも、私は決めた。
彼女を救い出す。このどうしようもないスパイラルから抜け出させよう。。
何か不思議に心が軽くなった。
ふと自分の中の残酷な心が消えているのを感じた。
これなら何も怖くなどない。どんな障害にも負けやしない、そう思えた。
決意から幾年月経っただろうか。
娘も立派な少女となった。
だが、私は彼女のことをよく知らない。
なるべく"外"にいさせるようにしているからだ。
出会うのは、勇者を倒す時くらい。
そう。私は彼女を勇者につきしたがわせ、裏切らせているのだ。
残酷なことかもしれない。
勇者にとっても、彼女にとっても。
だが、必要なことなのだ。
正直、いつ私は歪んでしまったのか覚えていない。
だが、確実に先代魔王が引退したあとだった。
それまでは普通の"こころ"を持ち合わせていた。
そして記憶は時系列を曖昧にし次にきちんと覚えているのは魔王として村を滅ぼしたことだ。
人間の繁殖欲も独占欲も素晴らしいものだ、すぐに取り返そうとしてくる。
そう、皮肉げに考えていた。
その間に何があったのか。
"魔王"としてやっていた頃は考えもしなかった"それ"は、なんだったのだろうか…
曖昧ながらも覚えているのは、ただひたすらの苦痛。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
ただひたすらの激痛。下手をすると意識を失うほどの。
そして何か暗黒よりもっと暗い、闇という言葉でさえこの黒さ言い表すことのできない、そんなナニカが、私の中に入って。
そう。それしか覚えていないのだ。
「先代魔王が消えてから、私は変わってしまった。」
それだけしか。
それ故私は負けられない。
負けたらそれが最後、ゲームオーバーなのだ。
だから私は、負けられない。
娘は戦闘経験を積ませるだけでなく、勇者と仲良くするために、外に出した。
そうしたら、もし私が負けるようなことがあったとしても、勇者が救ってくれるかもしれないからだ。
…いささか分の悪い賭けだということはわかっている。だが、いつか強者が現れた時の保険だ。
ほら、また勇者がやってきた…
そうしてまた何年経っただろうか。
私は、
負けた。
勇者に負けた。
魔王は勇者に倒されたのだ。
嗚呼、我が娘に幸あらんことを…