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あたしと彼の5日間  作者: 紺野碧
あたしと彼の5日間
5/7

5日目

昨日より憂鬱な気分なのは、昨日の昼になかなかひどい態度で千香子たちと別れてきたせいか。

戸田くんは友達に説明してくれるような話をしていたけど、あんまり期待できないし。夏期講習は今日までだけど、夏休み中に噂が収まるかな。

視線を落としたまま校門をくぐって、生徒玄関まで行く。ふと、目の前に人の気配がして顔をあげたら、意外な人がいた。


「筒見さん、おはよう」

「戸田くん。……おはよ」

「あの、やっぱりもう一回謝らせて」

「なにを?」

「オレが勝手に早とちりして、筒見さんにふられたと思い込んで、迷惑かけた。本当にごめん」


ガバッと頭を下げられて、あたしは盛大に焦った。また注目を浴びてしまう。しかも、戸田くんを朝の生徒玄関で謝らせているのだ。こんなとこ戸田くんの友達に見られたら、またなんなのあの女、みたいになるのは目に見えてる。


「も、もういいよ。そこ、通してくれる?」

「うん、ありがとう。あの、教室まで、一緒に行ってもいい?」

「いいけど、どうして」


そして一体なにがありがとうなんだ。もしかして、謝ったことにもういいよ、とか言ったから? 別にもう気にしてないとかそういうつもりで言ったんじゃないんだけど。


「ちゃんと説明しろって、言われたんだ」

「千香子に? それとも井澤くん?」

「二人に」

「そう」


靴を履いて、あたしが歩き出すと戸田くんもそれに続く。うーん、なんか二人で仲良く登校してる風に見えてちょっと嫌だ。


「友達にも、ちゃんと言っといたから」

「そう……」


うん、戸田くんがそういう事を伝えるのが上手な人であることを祈るよ。早く戸田くんと離れたくて、つい早足になってしまう。でも、戸田くんは気にする様子がないのは、思っているほど早くないからか、やっぱり鈍感だからか。


「筒見さんは今日も午後の講習出る?」

「今日は午前までの予定だけど」

「じゃあ、今日の昼に時間を下さい」

「え、どうして」

「だって、もう教室に着いちゃったから」


確かに、今あたしたちは1組の前にいる。戸田くんは5組なのに、わざわざあたしのクラスの前まで来てくれちゃったわけだ。


「ダメかな?」

「……うーん、わかったよ」


こんなとこでそんなすがるような声出さないで。教室に入っていくクラスメートたちが、チラチラこっちを見ていくのに、気づかないのかこいつは! 情けないような困ったような表情でこっちを見るから、あたしが戸田くんをいじめてるみたいじゃない。


そんな状況で断れるか!


「ありがとうっ! 筒見さんて、やっぱり優しいよね」

「は……?」

「じゃ、昼にまた来るね!」


渋々承諾したあたしに、戸田くんは例のかわいいと評判の笑顔を向けて去っていった。

なんかもう、朝から疲れた。帰りたい。



****



「筒見さん」

「ごめんね、待たせて」


しかしあたしはしっかり講習を受けました。だって、お金払ってるもん、もったいないじゃん。夏休み明けのテスト範囲もやるんだよ? それは受けるでしょ。

そんなわけで、帰りのホームルームを終えて廊下に出ると、やっぱりというかなんというか、素敵笑顔な戸田くんが待ち構えていた。


「平気。筒見さんは今日ご飯を食べて帰っても大丈夫?」

「うん、まあ。どっか寄る?」

「いいかな」

「かまわないよ」


本当は超かまうけどね! でも、こうなったら仕方ない。約束してしまったし、昨日の自分の態度も反省してるし。でも、うっかりうちの生徒が大勢いるファーストフードとかは勘弁してよね。あ、でもカラオケとかの密室系も無理。


「じゃあ、行こっか」


にこにこ笑いながら言う戸田くんに、あたしは黙って頷いた。


二人で入ったのは、ほとんどの人が向かう駅方面とは反対の大通りに面したファミレスだった。平日とはいえお昼時だからまあまあ混んでいて、席に座るまでちょっと待たされたけど、同じ制服は見当たらない。選択肢としては大正解だよ、やるな戸田くん。


「それで、初めから説明したいんだけど」

「うん、いいけど」


注文を終えて、ドリンクバーの飲み物をそれぞれ取ってくると、改まった感じで戸田くんが話始めた。

えーと、ところで始めってどこからかな。いつから気になってました、とかここでやられたら、恥ずかしすぎてあたしは逃げますよ。


「告白、聞こえてなかったと思うけど」

「ああ、終業式の日だよね」

「うん。ちょっとこっちを振り向いたから、聞こえたと思ったんだ。結構大声出したし」

「大声……」

「正門前の大通りで」

「あ、もしかして、道路の向こう側で叫んでた、あれ?!」

「うん……」


そういえば、校門の前でこっちに向かって大声でなにやら叫んでいた人がいた。あいにく、あたしはヘッドホンをしていたからなにを言っているのか聞き取れなかったけど、何事かと思って振り返ってみたら、周りに野次馬が大勢いたから、なんかの罰ゲームかと思ったんだった。


「えーと、あたしヘッドホン……」

「うん。井澤と高坂に聞いた。筒見さん、一人で登下校するときはヘッドホンしてるって。でも、そのときは知らなくてさ。ちゃんと呼び出したりすればよかった」


はは、と苦笑しながら戸田くんは頭をかいた。ちょっと顔が赤い。


「なんで、そんなやり方で……?」


素直な疑問をぶつけたら、戸田くんは一瞬で真っ赤になった。いやいや、恥ずかしいのはこっちなんだけどさ。


「ちょっと、憧れっていうか……」

「憧れ……?」

「マンガで、ちょっと」

「なるほどね」


確かに二人の間に線路とか大きい道路とか挟んで告白って、そういうシーンていかにもありそうだけど。でもね、それはお互いにほとんど気持ちが通じあってる人たち限定で成り立つと思うんだよね。戸田くんて思ったよりロマンチストなんだ。


「えーと、それで、仕切り直させてもらえない?」

「え、ええー……」


もしかしなくても、告白のことだよね。あたしとしては、仕切り直してもらっても困るんだけど。


「聞いて、返事をくれるだけでいいんだ」

「んんん、でも……」


だって、振ってくださいって言われてるようなもんだと思うんですけど。ていうか、告白予告ってなんなの。


「オレにけじめをつけさせてください」

「ちょ、ちょっと、そういうのやめてよー」


テーブルに手をついて、頭を下げられてしまった。はっ、周りのテーブルの人に修羅場? 別れ話? とか言われてるんだけど! そもそも付き合ってもないから! いやー、恥ずかしい。それなのに、戸田くんが頭を上げる気配はない。

今朝も思ったけど、戸田くんて結構引かない人なのね。


「わかった、わかったよう」

「ありがとう。じゃあ……」

「え、今、ここ、で……っ!」


ちょっと待って、と静止しようとして出した手を、パッと捕まれてしまってなんにも言えなくなってしまった。

ちょっと微笑んでまっすぐこっちを見る戸田くんから、どうしてか目がはなせない。


「筒見沙代さん」

「は、はひ」

「オレ、筒見さんが好きです。付き合ってください」


ああ、予告されててもこういうのってなんか気恥ずかしいものなんだね。いや、むずむずするのはむしろ予告されたから? でも、嫌いじゃない人に好きって言われると、やっぱり嬉しいし、ちょっときゅんとしてしまう。


「ええと、その……」

「うん。いいよ、気とかつかわなくて」


そういいつつ、あたしの手をつかむ戸田くんの手は、さっきよりも力が入っている。


「あたし、その、戸田くんのこと、よく知らないし」

「うん、そうだよね」

「だから、その、ごめんなさい」


あああああ! 言った! 言ったよついに! 大丈夫だよね、戸田くん泣いてないよね? つーか、なんなのこの精神的ダメージ! 超心が痛いんですけど。そして妙に気恥ずかしいんですけど。顔があっついわ! そりゃうつむきがちにもなりますよね。

ちらりと戸田くんの方を見ると、なぜかにこにこしてこっちを見ていた。


「じゃあ、友達からならいい?」

「え。ええ?」

「オレのこと、知らないなら、知ってもらいたいんだ」

「ええと、あたし今、断ったと、思うんだけど」


あたしの話、聞いてた? と思って戸田くんを見返すと、ずいぶんと明るい笑顔でこっちを見ていた。えーと、ごめん、なぜそんなに嬉しそうなの?


「だって、オレと付き合えない理由って、オレのこと知らないからなんでしょ?」

「そう、だけど」

「だったら、ちゃんと知ってもらってからもう一回告白する」

「そ、それは、ちょっと」

「オレのこと嫌い? それとも、好きな人とかいるの?」

「き、嫌いではないし、好きな人もいませんが」

「じゃあ、別にいいよね? 友達として、一緒にいるのは」

「う、うん?」


そう言われてみたら、なんの問題もないような、そうでもないような。曖昧に返事をしたあたしの手を、戸田くんはしっかり握り直した。


「じゃあ、これからよろしく!」

「あ、うん……」


今日一番の素敵な笑顔で笑う戸田くんに、いまいち状況を飲み込めないあたしは愛想笑いを返すことしかできない。

どうやら、この人気者は今日からあたしの友達らしい。

運ばれてきた料理を食べて話しながら、今年の夏休みは、今までとちょっと違う夏休みになりそうだな、と思った。



もちろん、その時のあたしの予想がいい意味でも悪い意味でも当たったのは、また別の話だ。



ここまでお付きあいありがとうございました!


ひとまず、これにて完結です。

が、ちょっといろいろ書き足りない感じなので、少しずつ後日談の形で続きをかいていけたらと思います。


よろしければ、もう少しこの二人にお付きあい下さいませ!

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