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あたしと彼の5日間  作者: 紺野碧
あたしと彼の5日間
4/7

4日目

なんだか体がだるい。今日ほど学校に行きたくない、と思ったのは初めてで、今までの自分の学校生活がいかに平和だったのか思い知った。


「沙代、おはよう」

「おはよ、千香子。朝からごめんね?」

「いいの! でも、ホントに休まなくて大丈夫だった?」

「うん。どこも調子悪くないし。講習のお金もったいないもん」


学校に着くと、校門前で千香子が待っていてくれた。昨日の帰り、何があったのかと聞かれて結局全部しゃべってしまったのだ。


「戸田くんには、謝ってもらわないとね」

「んー、でもやっぱりいいよ。本人はなんにも知らなさそうだし」


昨日は戸田くんも学校に来ていたらしい。井澤くんによると、結構元気そうにしていたらしく、腹が立つやら、安心するやら、なんともいえない不思議な気分になった。


「ダメだよ。あいつ、自覚が足りないんだよね」

「自分がもてるっていう?」

「もてるというより、過保護にされている、かな。実はね、中学の時にも似たようなことがあったの」

「そうなの?」


教室に向こう道すがら、千香子に聞いた話では、戸田くんは中学の時に好きになった子に、それはもう熱烈にアプローチしていたらしい。けれど、全然相手にしてくれなくて、結局友達に愚痴ったら、その友達がその女の子を冷たい、とか言い始め、最終的に学年全部を巻き込む騒動に発展したそうな。


恐ろしいったらありゃしない。

あたしもそうなるかもしれないってこと? いや、でも昨日のあれでもう気がすんでくれたらいいなあ。


「まあ、悪いやつではないんだけど、鈍感過ぎるんだよね」

「あー、なるほど」

「嫌いになった? 戸田くんのこと」

「うーん、印象はよくないかな。もともとあんまり話さないけど」

「そっか」


教室に入る直前、千香子の苦笑が妙に記憶に残った。



今日の夏期講習は全部で4コマ。午前に3コマと午後に1コマ。午後の講習は特別講習だから、午前で帰ってしまう人も多い。


「食堂空いててよかったね」

「うん。お弁当あるのに付き合わせてごめんね」

「んーん。千香子こそ、午後ないのによかったの?」

「今日うち母さんいないの。それに、ちょっと沙代に、相談が」

「なあに?」


午後の講習も受けるあたしと、午前だけだけどお昼を食べて帰る千香子は、揃って食堂にいた。


「戸田くんの、ことなんだけど」

「ああ。ありがとうね、今朝待っててくれて」

「ううん! それはいいの。けど、沙代は怒ってない?」

「戸田くんのこと?」

「そう」

「怒ってはいないよ。でも、よくわからない人だとは思う」

「あの、実はね」

「どうしたの? らしくないけど」


なんだか歯切れの悪い千香子に、嫌な予感がした。これは、なんか頼みにくいことを頼もうとしている感じだ。千香子のそういうのって、本当に面倒だからなあ。まあ、たいてい聞くけど。


「戸田くんが、話したいって」

「あたしと?」

「うん」


なんだって急にそんなことを言うんだろう。今までの感じだと、千香子は戸田くんの味方というわけではなかったと思う。だから、こんな風に間を取り持つようなことを言うなんて、正直思ってもみなかった。

別に、話すのは構わないけど変に言い訳とかされてもいい気分はしない。どうしたものかと返事を困っていたら、後ろから声をかけられた。


「筒見さん」

「はい?」


振り返らなきゃよかった。きっとそれが盛大に顔に出てるんだと思う。あたしに呼びかけたであろう相手は、振り返ったあたしを見て表情をこわばらせたから。


後ろに立っていたのは、戸田くんと井澤くんだった。


「あの、なんかオレ、筒見さんにスゲー迷惑かけたみたいで」

「……はあ」


我ながら、よくここまで嫌そうな声がでるものだ。正面に座る千香子がやっちゃったって顔しているのが視界の端に見える。


「こないだ、うちのクラスまで来てくれたんでしょ?」

「戸田くんはいなかったけどね。でも、あたしはもう話すことないし」


本当に本当のことをいうと、もうあたしに関わらないでほしいけど。ただ、戸田くんって打たれ弱そうだから、そんなこと言ったら泣いちゃいそうだし。そして、万が一泣かせたら、今度こそあたし悪者決定だもん。


「……ごめん。あの、謝っても無駄かもしれないけど、ごめん」

「戸田くんは、あたしに謝らなきゃいけないようなこと、したの?」

「えっ、いや、その」

「謝るってそういうことじゃん?」


もしくは、とりあえず謝って全部水に流してもらおうって考えてるかだ。今まではそれですんでたのかもしれないけど、あたしはそういうの嫌いなんだ、ごめんよ。


「昨日、オレの友達が……」

「ああ。あれ、戸田くんがけしかけたの?」

「っちがうよ!」

「じゃあ、謝る必要なくない?」

「でも、きっかけはオレのせいで。オレが筒見さんに、……振られた、って、言ったから」

「あたしは、戸田くんに好きだとか言われた覚えがないので振った覚えもありません」

「……うん、井澤に聞いた」


決まり悪そうに言う戸田くんに、なんだかイライラしてきた。だんだん周りの注目も集まりつつあるし、話したいって言ってたわりに、ハッキリしないんだもん。


「じゃあ、ちゃんと友達に訂正しておいて」

「はい」


素直な返事だけど、それであの人たちが納得するとも思えないのはあたしだけか。だって、彼らにしたら戸田くんが傷ついた事実は変わらないわけだし、戸田くんを好きな女子から見たらあたしが邪魔なことに変わりはないんだから。


「というわけで、以上でいいかな」

「えっ?」

「あたし、午後も講習なんだよね」


まだお弁当が3分の1くらい残ってるけど仕方がない。パタパタとお弁当を片付けて、あたしは席をたつ。


後ろからかけられた千香子のごめんねという声に、ちょっとだけ頷いた。



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