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異常と正常の境界  作者: Rile
序章 受験編
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第8話 前哨戦

頑張って第8話投稿。

あと2話で序章は終了となる予定です。

学園物なのになかなか学園が出てこない・・・

 「2人共朝早くから御苦労様ね!」

 「全くだ……捜査協力者っていうのは働き者なんだな」

 八代と玲は碧が滞在しているホテルの一室にいたのだが部屋に備え付けの時計はAM06:30を表示していた。 玲が皮肉を言いたくなるのもうなずけるものだった。

 「そんな事より乱胴の居場所知ってるんですか?」

 「もちろん知ってるわ。でも今日はその事についてではないわ」

 「じゃあ、何で俺達を呼び出したのですか?」

 乱胴に関する理由でない以上、自分達が呼び出される理由が分からなかった。

 「そんな難しくないわ。これから一緒に戦う事になるのだから食事でもして親睦を深めようと思っただけよ」

 「はあ!?」

 親睦を深めるだけ、という戦闘とは無関係の理由に玲も呆れるしかなかった。

 「そんな事のためにこんな朝早くに呼び出したのかよ!?」

 「ええ、戦うにしても夜にするわ。

 こちらが少数である以上、真っ暗な夜に攻めた方が同士討ちを狙いやすいからね。

 それに乱胴がこの国を離れるのは明後日。だから私たちは明日の深夜に夜襲をかける。

 それまでは自由行動といった所ね」

 「なら呼び出すなよ……で、乱胴はどこにいるんだ?」

 朝早くから呼び出されて不機嫌な玲はいつもとは違い雑な言葉づかいだった。

 「それは作戦を実行する時に案内するわ。もし場所を教えて先走られても困るしね」

 (つまりはまだ信用されていないって事か……)

 八代も同じ事を考えていたらしく、ばつの悪そうな顔をしていた。

 「まあ、それはともかくはやく食事にしましょう」

 2人にとってはあまり幸先のよくない捜査協力のスタートだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「結局飯食っただけかよ……」

 「そう言うな八代。朝ごはんを食べていなかったんだからちょうどよかっただろ」

 結局2人は碧と一緒にホテルのレストランで食事をしただけで解散となってしまった。

 そして今はその帰りである。

 その時、

 「水無月八代君と久桐玲君だね」

 不意に後ろから声をかけられた。特に聞き覚えない声ではあったが振り向かない訳にもいかず、2人はほぼ同時に振り返った。 

 本来なら玲はともかく八代が後を取られるなんて事は無い。だが今は睡眠不足な上、食後ということもあり2人の注意力は散漫していた。だからこうして話しかけられるまで気付かなかった。

 「「なっ……」」

 そこにはつい昨日苦杯をなめさせられたばかりの相手である乱胴雅次がいた。

 「まあ今日は戦いに来た訳ではない。君達に話があって来たんだ」

 「俺達を仲間にしようって話か?」

 あらかじめ碧から聞いていたとはいえ玲には乱胴が来た理由を見抜いていた。

 「なら話ははやい。どうだ、俺達の仲間にならないか?」

 「やだ」

 即答だった。八代にとって一度負けた相手の仲間になるという相手に従う様な真似は嫌いだった。

 「そうか、では久桐君の方はどうかな?」

 「当然却下だ。組織から逃げ出すような奴と一緒にいたくはないな。いつ裏切られるか怯えながら戦うなんてまっぴら御免だ」

 玲もいつ裏切られるか分からない状態で背中にも気を配りながら戦いたいとは思えなかった。

 2人の返答を聞いても乱胴は落ち着いていた。むしろこうなるのを予測ていたかのようでさえあった。

 「2人共かつて神楽流にいたんだろう? 俺達の仲間になればいくらでも人を殺させてやる。どうだ、これなら仲間になるだろう?」

 どうやら乱胴は本気で言っているらしい。2人はため息をつくしかなかった。

 「どうやらあんたは俺達を根本的に勘違いしてるらしいな」

 「俺達は人殺しがしたくて神楽流にいた訳じゃない。そんな条件を出されても仲間になりたいとはこれっぽっちも思わないね」

 2人が神楽流に所属していたのは弱さを捨てるためであって決して殺しがしたいからではない。

 神楽流イコール大量虐殺者というのが世間の風評ではあったが神楽流の全員が全員そんな異常者ではない。神楽流全体から見ればそんな奴はごく少数だった。

 「そうか……なら力づくで連れていくとしよう!」

 説得は無理と知るや乱胴はいきなり実力行使に出た。それと同時に2人は象術で乱胴から一気に距離をとる。はじめて戦った時は相手の素性すら知らなかったが、乱胴の得意不得意を知った今では2人に負ける要素はない。

 相手が発動距離が短いというはっきりとした弱点がある以上、相手の発動距離より遠くから象術を使えば相手の手段は限られてくる。そう考えればまず乱胴から距離をとるのがベストだ。

 「なに……?」

 2人の行動、正確には八代の行動に乱胴は驚きを隠せなかった。距離をとって戦われるのは初めてではない。乱胴の分析では冷静沈着な玲と猪突猛進の八代というイメージだった。玲が自分と距離をとるのは予想できたが、八代も同じ行動をとるのは完全に予想外だった。

 その一瞬の動揺の間に2人は乱胴と十分な距離をとっていただけでなく攻撃態勢に入っていた。

 乱胴の周りで鉄のナイフが作られていく。それも1本や2本ではない。それらは全て玲が一人で作り出したものである。無論作っただけでは何の意味も無い。八代がナイフの1本1本に運動エネルギーを与え一斉に乱胴へ()った。

 鉄で作ったナイフを運動エネルギーで飛ばす。象術を用いた攻撃としてはごく初歩的な方法だったが物量とエネルギー量が人並み外れていた。

 「くっ……」

 流石に乱胴も黙ってやらている訳ではなかった。自分の姿を隠すほど大きな鉄板を創り出し、それに運動得エネルギーを与え前方に飛ばす。そして自らも象術で前方へと移動する。乱胴が先程までいた場所にナイフが突き刺さる。そして前方に飛ばした鉄板にも数多くのナイフが刺さっていた。そして乱胴は自らに運動エネルギーを加え八代との距離を詰めようとする。八代には鉄板で隠れて自分の姿は見えないはず……

 そう考えていた乱胴であったがその考えが甘かった事を思い知らされる。

 彼の計算では八代との距離はほとんどゼロになっているはずだった。だったのだが……

 (どうなってるんだ!?)

 八代との距離が全く縮まっていない。

 それだけでない。本来なら開いているはずの玲との距離が変わっていない。

 (読まれている!?)

 2人は乱胴が自分が鉄板を飛ばした方向に移動する事を読んでいた。そして八代に接近しようとしている事も……

 その時点で乱胴は自分の不利を自覚した。そして次に考えたのは逃げる事だった。

 次々と襲いかかってくるナイフを捌きながら乱胴は逃げる隙を窺った。そして何度目かの攻撃の際にそれは訪れた。

 一カ所だけ攻撃の薄いポイントがあったのだ。

 (ここしかない!)

 襲い来るナイフに運動エネルギーを与え、方向を()らす。そしてできた隙間から一気に戦場を離脱する。

 逃げる乱胴を2人は追わなかった。これでおあいこだと言わんばかりに……


   * * * * * * * * * * * * * * *


 くそっ! なんだあの2人は。最初に戦った時とはまるで別人だ。

 最後だって見逃された感が否めなかった。

 2人を格下と見ていたのがそもそもの間違いだった。2人は俺よりも遥かに格上だったのだ。

 あんな初歩的な戦い方で圧倒されたのは初めてだ。それに2人はまだ神楽流の技を出していない。神楽流の技がどのようなものかは知らないが神楽流以外で神楽流の技を知っている者はこの世にいないだろう。その秘匿性も神楽流の魅力だと言う奴もいるが戦う側からすれば恐ろしい事この上ない。

 とにかく今はアジトに戻るのが先決だ。あの2人の対策を講じるのはそれからだ。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「結局逃がしてよかったのか?」

 「追ったら奴はアジトには戻らないさ。それに今ここで奴を捕まえればその仲間は警戒して逃げる計画を早めてしまうか分散するかのどちらかだ。どっちに転んでも俺達には都合が悪い。

 それよりも碧さんへの言い訳を考えておいた方がいいな」

 2人はさっきまで歩いていた道を逆戻りしていた。先程の事を碧へ報告するためなのだが……

 「碧さん怒るだろうな……」

 「乱胴との戦闘の現場についてはやって来た警察に任せてあるし、碧さんには連絡を入れておいたがそんなに怒っている様子でもなかったぞ」

 そんな会話をしている内に2人は今朝いたホテルに戻って来ていた。碧はロビーで2人を待っていたらしく、

 「いろいろと厄介な事になってしまったけどまずは御苦労様」

 「「…………」」

 いきなりの(ねぎら)いの言葉に怒られると思っていた2人は思わず身構えてしまった。

 「ひょっとして怒ってない?」

 恐る恐るといった八代の問いかけに、

 「向こうが仕掛けてきたっていうんだから仕方ないじゃない。それよりもよく追わなかったわね、感心感心」

 「まあ、追わなければいいってのは分かってたからね」

 (俺が止めなきゃ追ってただろうに……)

 調子よく答える八代に玲はもはや呆れるしかなかった。

 「でもこの戦闘で向こうが警戒を強めてしまったのは事実よ。

 だからこちらも計画を早める事にしたわ」

 「つまり攻めるのは今夜か……」

 玲の推測に碧は無言で肯定する。

 「逃げられたら元も子もないからね。多少強引でもやるしかないのよ。分かってると思うけど敵だからって無闇に殺しちゃダメよ。少なくとも乱胴は絶対に生け捕りにしなさい。」

 「なぜそこまで生け捕りにこだわるんですか? テロリストなら最悪殺しても仕方がないとは思うのですが?」

 玲の疑問ももっともである。現在ではテロリストは死刑と決まっている。つまり死刑になるような犯罪者を総称してテロリストと呼んでいるがこれは象術が世に現れてからこの世界では凶悪犯罪の件数が上がってしまったためである。

 「乱胴はただのテロリストではないわ。彼はある大物政治家お抱えの象術士だったのよ」

 「なるほど。その大物政治家とやらは野党の人間なんだな?」

 「さすがよく分かってるわね。 お察しの通りよ。」

 「何で分かるんだ?」

 玲と碧の会話を聞いていた八代だったが我慢できずに答えを玲に聞いた。玲も八代が何を知りたいのか分かっていた。

 「碧さんの所属は内閣府特殊案件交渉室。この場合は内閣府ってのが重要だな。内閣府の長は内閣総理大臣。さらに分かりやすく言えば与党の長だ。」

 「あ~そういう事……」

 碧の上司を辿っていけば内閣総理大臣に行きつく。野党の大物議員お抱えの象術士がテロリストだったというのはこの上ないスキャンダルだ。与党はその象術士をのどから手が出るほど欲しがる事だろう。 しかも生きたまま。死んでしまっては相手に否定されるだけである。だからこそ乱胴を生け捕りにして情報を引き出す必要がある。なんてことはない、ただの政治家達の権力争いというだけの事だった。

 「だからこんな田舎町までで出張(では)って来たって訳か」

 「この街は港町だから船で国外逃亡しようとしていたのでしょうね」

 「迷惑この上ないな……」

 乱胴がこの町に来たせいで2人は象術監視になったり捜査協力したりする羽目になったのだ。恨み言の一つも言いたくなるものである。

 「とにかくさっさと乱胴を捕まえて元の生活に戻るぞ」

 「やれやれ、とんだ週末になってしまったな」

 「用意ができたみたいだからそろそろ行きましょうか」

 三者三様の思いとともに襲撃の時は迫っていく。

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