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異常と正常の境界  作者: Rile
序章 受験編
7/44

第7話 前夜

結構早めですが第7話投稿。

なんかはやく序章終わらせたい。という気持ちになってきました。

序章は後2~3話ぐらいで終わらせようと思います。

  東鷹園(とうようえん)

 それは八代と玲が現在お世話になっている児童養護施設の名前である。2人は7歳の時からこの施設に世話になっていた。

 「なんだかんだでもう8年……人生の半分以上をここで過ごした訳か」

 「啓莱高校は全寮制だから合格したらここを出ていく事になるのか……」

 「その前に厄介事を片付けないとな」

 2人は慣れ親しんだ我が家の前で話していたのだが、

 「2人共そんな所で話してるぐらいなら中で話しなさい」

 そう2人に言ったのは初老の女性だった。

 彼女こそが東鷹園の園長であり、2人の育ての親でもある小鳥遊弥生(たかなしやよい)

 「分かりました」

 「ほーい」

 2人共彼女だけには反抗したりしない。

 「2人共もう高校に進学するのですね……」

 先程の2人の会話を聞いていたのかは分からないが、彼女は2人にとって答えにくい話題を振って来た。

 「言いにくいのですが俺達は普通科高校ではなく啓莱高校を受験しようと思っています」

 彼女が2人に普通科高校への進学を希望している事を知っているためか玲は申し訳なさそうだったが当の本人は全然気にしている様子は無かった。

 「じゃあ俺は先に帰っとくよ……」

 そう言って施設の中に入っていこうとした八代だったが、

 「そうですね。続きは中でしましょうか」

 説教を回避しようとした八代の考えはお見通しだったらしい。

 「はい……」

 八代も彼女にだけは逆らえない。親代わりとして育ててくれた事もだが、2人に限っては他の理由もあるため基本的には言う事を聞くようにしている。

 「弥生さん……後で話したい事があるのですがいいですか?」

 「分かりました。子供たちもお腹をすかせて待っていますからはやく中に入りましょう。

 玲、話は子供たちが眠った後にしましょう」

 玲としては隠していたつもりだったのだが彼女には玲の話したい事の見当がついていた。その上で子供たちには聞かれないようにと時間を深夜に設定した。

 (どうやらバレてるみたいだな……)

 気を利かせたつもりだったのだが逆に彼女の方に気を使わせてしまったらしい。

 

   * * * * * * * * * * * * * * *


 「玲。後で話す事ってやっぱり捜査の事?」

 「ああ。隠したまま捜査に協力する訳にはいかない。あの時だって隠していたからこそ事態がややこしくなってしまったんだからな」

 「内緒にするよりちゃんと話して納得してもらってからの方がいいしな」

 2人はかつて弥生に内緒で神楽流に所属していた。神楽流が国に戦争を仕掛けようとした時に裏切ったのも彼女には秘密だった。彼女が全てを知ったのは2人が司法取引をした時に保護者として呼び出された時だった。彼女にはその時点で2人の保護責任を全うする義務は無くなってしまったにもかかわらず彼女は、

 「私は2人の母親です。母親は途中で辞めたりできるものではありません。2人がやった事には私が責任を持ちます」

 その時に自分達がした事の重大さに気が付いたし、自分のために必死になってくれる人がいる事を知った。それ以来2人は彼女に対して恩義にも似たものを感じている。

 「でも弥生さんが許可してくれるか?」

 「分からないけど頭ごなしに否定するような人ではないから話し合いの余地はあると思う」

 前科があるから難しいだろうが……と付け加えたが八代は聞いていなかった。

 「とにかくまだ晩飯前なんだし難しく考えるな。話し合いと言ってもただ俺達の気持ちを素直に言うだけだ」

 

   * * * * * * * * * * * *


 PM11:00 

 俺達は弥生と向き合う形で座っていた。

 これで玲が女だったら結婚の許可を得ようと親の元を訪れているように見えなくもないのだが今の俺達にはそんな事を考える余裕はなかった。

 「ではあなた達の話を聞きましょうか。」

 口火を切ったのは弥生だったがその口調には緊張を隠し切れていないようだった。

 「はい。今俺達は象術犯罪に巻き込まれてしまい、現在その捜査の協力を求められ、俺達はそれに応じるつもりです。

 簡単に言いますとまた戦いをする事になるという事です」

 玲は現状をありのままに話す間彼女は口を挟まず最後まで聞いていたが、

 「あなた達には神楽流に所属していた事を隠していたという過去があります。今回についてもあなた達が全てを話してくれているという確信がありません。捜査への協力を決めた訳を聞かせてください」

 やっぱり俺達は信用されていないみたいだった。

 「俺達は事件の犯人と偶然遭遇して戦う事になりました」

 実際は俺の方から仕掛けていったのだがそれを言うと話がややこしくなりそうなので黙っておこう。

 「俺達はその時象術監視の状態でしたから象術を使わずに戦う事になりました。でも2人がかりでも完敗しました。

 確かに相手は強かったけど俺達はあの男より弱いと思いたくない。だからもう一回戦って勝たないといけないんです」

 弱いと思いたくない……

 それは俺だけでなく玲にも共通する事だ。俺達が神楽流に所属していたのも弱い自分が嫌いだったからである。

 俺も玲も自らの弱さによって幸せを失った。

 だからこそ負ける事に対して異常なまでに過敏になってしまっている。その事は彼女も知っているはずだ。

 もし許可が出なければ俺は施設を出ていくつもりでいる。

 後は彼女次第だ……


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「分かりました。 危険を承知という事ならば私は何も言いません」

 「「……えっ?」」

 あっさりと出てしまった許可に2人はしばし呆然としていたが、

 「えー……許可してくれたのはいいんですけど、なんでまたそんな簡単に?」

 許可を出してくれたんですか、と言おうとした八代だったが玲に止められた。変に質問して許可を取り下げられたら元も子もない。

 「どうせ許可を出さなければここを出て行ってでも捜査に協力しようとするでしょう? だったら気持ちよく送り出すのが母親の務めです。

 ですが2人共。 戦うからにはちゃんと勝ってここに戻ってきなさい。そしてちゃんと啓莱高校に合格して大手を振ってここから出て行きなさい」

 「「ありがとうございます!」」

 ついでに啓莱高校受験の許可もくれた彼女に2人はそれしか言う事が出来なかった。

 「明日から捜査協力をするのでしたら今日はもう休みなさい」

 

   * * * * * * * * * * * * * * *


 2人が戦う事は正直賛成できない。それが私の考えだった。

 でも2人はちゃんと自らで考えそして結論を出し、私に教えてくれた。それは何もかも隠し自分達だけで決めていたあの時からの成長している事を感じさせた。

 あの2人には人並み外れた象術の才能がある。今まではそれが彼等を不幸にしてきた。

 だからこそ私は2人に象術について関わらせないようにしてきた。でも象術を使わないからといって2人に象術の才能がある事に変わりはない。

 私も一生2人の面倒を見続ける事などできはしない。

 2人が自ら象術と向かい合おうとしている今、私には彼等の背中を押してあげる事が一番だと思えてしまった。

 「今なら我が子が独り立ちして自分の元から去っていく気持ちが分かるような気がしますね……」

 だからこそちゃんとここを巣立って行ってくださいね。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 その頃、八代と玲は明日からの捜査協力に向けての準備の真っ最中であった。

 準備といっても木刀の手入れぐらいしかしていなかったのだが……

 「そう言えば玲、河崎さんって乱胴の居場所知ってんのか?」

 八代と玲が戦った時は向こうが2人を尾行しているのに八代が気付いただけで、2人は別に乱胴の居場所を知っている訳ではなかった。

 「多分知っているだろう。相手は乱胴一人ではないと彼女は言っていたし、おそらく場所の特定はできているが勝算は低い、といったあたりだろう。それで戦力補強のため俺達が選ばれた、と考えるのが妥当だ。 スカウト云々は俺達を乗せるための方便だろうな」

 「……ってことは乱胴以外にも象術士がいるって事?」

 「そう考えるのが無難だ」

 「どの道明日になれば分かるって事か?」

 「そうだな。今日はもう寝た方がいい。寝不足で負けたなんて洒落にならん」

 今考える事に意味はない。2人共その事をよく知っているためかこれ以上は何も言わなかった。

 勝てば全てが終わる。少なくとも今の2人はそう考えていた。

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