第5話 邂逅
なんとか第5話投稿~
徹夜明けなのか体の節々が痛い・・・
なんか中途半端な区切りになってしまいました。
できるだけ早く続きを投稿したいと思います。
どうやら気付かれたみたいだ。限界ぎりぎりまで距離をとったというのに気付くとはなかなか勘がいい奴がいるらしい。どのみち一度彼らとは戦ってみるつもりだったのだが思ったよりも予定が早まりそうだ。
とりあえず今は人目が多すぎる……逃げた方がいいだろう。
さて、2人はどんな反応を見せてくれるかな?
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「挟み撃ちにして捕まえるぞ」
「逃げる相手を挟み撃ちにするには相手を狭い場所に誘い込まなければ無理だぞ」
八代と玲は自分達を尾行している相手をどう捕まえるかの作戦を練っていた。しかしこれといった妙案が出て来ないためかなり話し込んでいた。
象術監視によって象術が使えない2人が相手を捕まえるには走るという手段しかない。しかも相手が象術使える可能性が非常に高いため自身の体に運動エネルギーを与えての高速移動で逃走されれば走って追いかけるのは不可能である。
だからこそこうして作戦を練っているのであるが……
「無理だな。象術を使えない今の俺達じゃ不可能だ」
玲はすぐに諦めてしまった。
「でも犯人が目の前にいるんだぞ……」
無理だと分かってはいても諦めきれない八代だったがいい案が浮かばない以上、自分達にできるのは相手に情報を与えない、すなわち何もしゃべらず相手が去って行くのを待つという至極消極的な事だけだった。
「………………」
「………………」
取り調べの時もそうだったが八代は静かにしているという行動が苦手であった。考え事をしながらではあったが沈黙を守っていた玲とは対照的に八代は見るからに無理をしているのが見て取れた。。
がたっ!!
どうやら八代の我慢は限界を越えてしまったようだ。
八代はいきなり2人を尾行していた相手に向けて走りだした。
先手必勝。これが八代の考えた策だった。策というには些かではなく限りなく無謀と呼べる代物だったが、相手は虚を突かれたらしくしばらく硬直していたが八代がこちらに向かって走ってきているのを確認すると、いきなり傍にあったテーブルを投げた。
投げた。 と言ってもダークエネルギーを運動エネルギーに変換してテーブルに付与しただけなのだが。
実際の投げるモーションは別に格好付けた訳ではなく、運動エネルギーのベクトルをよりイメージしやすいようにしたのである。
象術は基本的にイメージによってその威力が変わる。特にエネルギー変換の場合はそれが顕著に現れる。運動エネルギーの変換にしても投げるモーションをするかしないかで威力に大きな差がでる事や物質変換の場合は変換する原子や分子の結合強度などによっても変換量に差が出るがイメージしやすい鉄などの方がより変換量が多くなるという統計結果がでている。象術を学び始めた段階ではよくモーションと一緒に象術を使うのがセオリーだがある程度熟練すればモーションをつけなくなる。
しかし2人に向けてテーブルを飛ばした犯人は初心者ではなかった。
象術の発動が異常なまでに速かったのだ。 通常、象術の発動には、ダークエネルギーやダークマターを体内に取り込む、射出ポイントやベクトルの設定、変換。という3つの手順を踏まなければならないため、どれだけ熟練した象術士であろうとも1秒以内にこの3つの手順をこなすのは困難なのだが、先程テーブルを飛ばすのにかかった時間は明らかに1秒を切っていた。それどころか2人が反応できない程の高速で発動していた。
「っ!」
八代は天性の反射神経でとっさに横に飛んでテーブルをかわしたが、とっさに飛んだためかちゃんと着地できずバランスを崩してしまった。
しかし、その隙にいつの間にか犯人に接近していた玲が手にしていた長めの木刀で攻撃を仕掛けていた。
狙いは手。頭や胴よりは比較的後遺症の残りにくい部分であり、それなりに痛みを与える事の出来る部位。
確かにテーブルを飛ばしたその象術は見事であったが、痛みのある状態では象術の使用にも影響がでるだろう。そうなれば2対1の今の状況ならば捕まえる事ができるのでは、と玲は考えていたが木刀が犯人の手に当たる事はなかった。
ただ前に出していた手を引っ込めるだけの動作で玲の一撃はかわされてしまった。かわされる事を予想していなかった玲はバランスを崩す事こそ無かったものの、思考に一瞬の空白ができてしまった。
敵はそんな隙を見逃してくれなかった。
犯人の体にダークエネルギーが取り込まれるのは見えた。しかし玲に見えたのはそこまでだった。 至近距離からテーブルが飛んで来て玲はかわす事もできずまともにぶつかっってしまった。
「玲!……なっ!?」
八代の意識が玲に向いている間に相手は八代の眼前にまで迫っていた。意識を向けていたのは一瞬とはいえ八代にとっては相手が自分の目の前に瞬間移動してきたかのように感じた。
勢いで飛び出したため八代は渡されていた木刀を持っていなかった。素手でも全く戦えない事は無いのだが、迫ってくる相手に混乱してしまっている八代は何もできずに投げ飛ばされてしまった。無論、象術を併用した投げのため、人の力だけではありえない程飛ばされてしまった。本来なら自分に付与されたダークエネルギーに干渉して象術の発動を防ぐ事が出来るのだが、動転していた八代にはそこまで頭が回らなかった。
八代にできたのは象術で運動エネルギーを生成し落下の勢いを相殺する事だけであった。その間に相手は悠々とその場を後にしていった。
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いきなり突撃してくるとはなかなか威勢がいいじゃないか……しかしただ一直線に向かってくるのは方法としては最悪だな。意表を突く事はできたかもしれんが距離が開いていたから余裕を持って対処できたがな。
木刀を持った少年の方は私が投げたテーブルが死角になるように接近してきた。限りなく満点に近い対処だったと褒めておこう。ただ木刀で手を狙ったのは間違いだな。できるだけ後遺症を残さないようにという配慮からだったのだろうが、おそらくこちらが体術の心得が無いと決めつけていたからなのだろうが甘い。 彼が手ではなく頭や胴を狙っていればかわす事は困難だっただろう。もしかわせたとしても大きくバランスを崩され、結果二撃目のチャンスを与えてしまう事になっただろう。
結局、相手側の自爆で勝利を得たという事になるだろう。しかしあの2人は象術を使って来なかった。
おかげであちらの手札は分からないままの上、さらにこちらの手の内を見せてしまった。
2度目があればおそらく厄介な事になるだろう。できれば戦う事無くこちら側に引き込めれば最上なのだがはたして上手くいくであろうか……
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「完全にしてやられたな……」
「ああ……」
2人は昨日と同じ取調室にいた。あんな大騒ぎを起こしてしまったからには誰かが警察に通報していてもおかしくない。言ってみれば当然の結果だった。
相手には逃げられてしまったため2人だけが警察に連行されてしまったという訳である。
「またあの女か……」
「100%そうだろうな……」
八代のうんざりしたようなつぶやきに玲は心ここにあらず、という感じだった。
「まだ痛むのか?」
「そうじゃない。 ただ引っかかる事があるだけだ」
かなりのスピードでテーブルがぶつかったので八代は玲の怪我を心配していたのがどうやら問題ないらしい。
「2人共一日ぶりね~♪」
2人の予感通り取り調べにやって来たのは昨日と同じく河崎碧だった。
「回りくどい事はやめて本題に入りましょう」
いきなりそう切り出したのは玲だった。
「あなたは初めから駅を破壊した犯人を知っていたんじゃないんですか?」
「あらあら、本当に遠慮がない質問ね。何でそう思ったの?」
玲の質問に碧は質問で返した。
「まずおかしいと思ったのはあなたが俺達の取り調べをした時、おかしいと気付くべきでした。
あなたが警視庁から来た、というのは聞いていたのですがだとしたらあなたはいつ出発したのですか? 東京から来たというならここに着くまでに最低でも5時間はかかります。駅の倒壊が起きたと同時に出発しても俺達の取り調べには間に合わないはずです。しかしあなたは俺達の取り調べの時間にはすでにこの街に着いていた。事件が起きる前に出発していた証拠です。つまりあなたはこの事件について何かの情報をすでに得ていたと考えられます。」
そうなれば犯人について何か知っていてもおかしくはない。というのが玲の見解だった。
「確かに東京からじゃ間に合わないけど別に警視庁に所属しているからといって年中東京にいる訳ではないわ。事件が起きた時現場から比較的近い場所にいた私が担当になっただけよ」
碧は全く動揺を見せずに答えた。
彼女の言った事は矛盾していない。むしろ納得いくものであった。だからといってここで言いくるめられては話にならない。玲は次の手を繰り出す事にした。
「それに現場の状態……特に駅の柱が何かの酸で溶かされた跡を見れば俺達が犯人でない事は分かったはずです」
「まだ現場を見ていなかった……という言い訳はできないみたいね」
碧はごまかす事なくそう答えた。諦めたようにも見えるのだがこの時点で玲は彼女には何か別の狙いがある事に気付いていた。
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お見事。
私は内心でそう評価した。この久桐玲という少年の論理的思考能力はかなり高い。それだけなら大した脅威ではないのだが議論のテーブルに着いた時の恐ろしいまでの胆力。
この2つを併せ持つ人間は希少だ。
しかも彼の様子を見る限り私の真の狙いにも気付いているようね。何も読み取れないポーカーフェイスよりも自信や余裕を見せる事で相手の思考を誘導し、真意を悟らせない一流の交渉術である。
私達の仲間となるには十分な才能を示した。
それに水無月八代という少年もあの男の尾行に気付くほどの直感の持ち主。この2人をペアにすれば即戦力となるかもしれない。
それにこちらにも切り札があ。少なくとも久桐君がそれを忘れている訳がない。ひょっとしたら私の真意を知らないのかもしれない。だとすればあの余裕の表情はブラフという事になる。
末恐ろしい……何の訓練も受けずここまでできるなら、訓練をすれば私なんて足元にも及ばなくなる。
ここまでは合格。そろそろ種明かししてあげますか……
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彼女の諦めのはやさから狙いが別の所にあるのは明白だった。ただ狙いが何なのかの確信はなく、想像の域を出ないものだった。
相手の出方が分からない以上これからは受けに回る事になるだろう……
だが負けるつもりはない。同じ相手に2度も負ける訳にはいかない。それがどんな不利な状況も……
それに彼女は勘違いしているはずだ。俺達は自身の象術監視を解く事が目的である。そのためならば多少の条件は受け入れる覚悟はしている。彼女がどのような条件を出してくるかが不安材料。
そして彼女が俺達のあの弱点をどのように利用してくるか。
この交渉には自分だけでなく八代の命運もかかってくる。迂闊に仕掛ける訳にはいかず相手の出方をうかがいながらの議論になる。
八代が交渉を俺に任せてくれる以上俺のそれ相応の結果で応える義務がある。
河崎碧……今度こそあなたに勝利させていただく。
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「その通り。私はあなた達が犯人でない事ははじめから知っていました」
彼女の正直な告白に玲も八代も面食らっていたが彼女は気にする訳でもなく続けた。
「私は駅を破壊した犯人を捕まえるためにここに来たのではなく、この街に逃げ呼んだ象術士を捕まえるために来たの。私は犯人はその逃げた象術士だと私は考えています」
「じゃあ何で俺達を象術監視にしたんだ?」
それまで沈黙を守っていた八代が真っ先に疑問に思った事を聞いた。
2人が犯人でない事が分かっているなら象術監視にする必要はなく、そのまま釈放すればいいだけである。
「この事件に関わる理由とあなた達のこれからに関わる理由、どちらから聞きたい?」
「事件に関わる理由の方から」
碧の提示した二択に即答したのは玲だった。彼にとって今ここで事件の事以外の話をするつもりなどなかったからだ。
それだけではない。「あなた達のこれからに関わる理由」が何であれ、自分達にとって都合のいい理由だとはとても思えなかったからである。
「じゃあ、事件に関わる理由から……
単刀直入に言うと犯人はテロリストだからよ」
その発言は2人のこれからを変えてしまう出来事の序章に過ぎないのだが、2人にはそんな事は知る由も無かった。
やっと戦闘シーンを書く事ができたのですがかなり短くなってしまいました。しかも主人公達負けてるし・・・
そんな訳で第5話な訳ですが、4月からは大学も本格的に始まりますます更新速度が落ちてしまう・・・