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異常と正常の境界  作者: Rile
第2章 忙殺のゴールデンウィーク編
41/44

第41話 ひとまずの休息

こんなに長引かせて申し訳ありません。

 麻薬取引の妨害に乗じた不正献金の証拠の回収を終え任務にも一段落ついた八代と玲は誘拐犯の出方を見るという名目の下、一日中のんびりしておこうという予定を立てていた。

 「なあ、玲? 俺達は今日一日中のんびり過ごすんじゃなかったのか?」

 「それはあくまで予定であって決定ではなかった、という事だな。言うなれば不測の事態というやつだ」

 玲の言う通りのんびりするのはあくまで予定であって現実は玲奈、ミキ、篠、莉々の4人に連れられ外出している。

 「つーか何で俺まで外に引っ張り出されなきゃなんねーんだ!」

 「それは大勢いた方が楽しいからなんじゃないのか?」

 本来このお出かけは玲に宿題を見せてもらった玲奈とミキがお礼も兼ねて計画したものであり、そこへ予定の開いていた篠と莉々も加わり、逃げられないと悟った玲が八代を道連れにした、というのが真相であるのだがそれを八代に言ったところで不機嫌になった八代を宥めるという手間が増えるだけなので黙っておく。

 だが男女比2:4となれば自然と行き先の決定は女性陣に委ねられてしまい(元々こういった外出をしない八代と玲にはどこに行きたいというのは決められなかった)、当然のことながな女性が好みそうな場所が2人にとって楽しいはずも無くただはしゃいでいる4人を見ているだけという果てしなく無意味な時間を過ごす羽目になっている事は言うまでも無い。

 「なぁ……玲?」

 「正直悪かったと思ってる……」

 このような事態を考えずに八代を道連れにした事を玲は心の底から後悔していた。

 どの道八代以外のメンツが揃った時点で八代が誘われる事は明白だったのでそれほど罪悪感を感じている訳でもないのだが。

 相変わらず女性陣は2人にとっては何がいいのか分からない小物を見ては会話を弾ませており、このまま帰っても気付かないのでは、というほどの盛り上がりだった。

 「………………」

 「………………」

 それに引き換え男性陣(と言っても2人だけ)は一言も発する事無くそれぞれが自分の思考の世界に入り込んでいた。

 それはこのように出かける事がほとんどなくどう話していいのか分からない――――のではなく、ただ単に話す事が無いから話さないだけだった。

 長年というほどではないがそれなりの時間を一緒に過ごしてきた八代と玲にとって無理に話題を見つけてまで会話を保たせなければ気まずくなるような事はない。何年も同じ児童養護施設の同じ部屋で暮らしていれば互いが無言であろうと気にし無くなるものである。

 「ちょっと、2人共! さっきから何も話してないじゃん!」

 「見てるこっちが気まずくなるよ……」

 「お前らケンカでもしたのか?」

 「もしそうならちゃんと話し合わないと……」

 先程から何も話さない2人を不仲と誤解した女性陣が気を使ってなのか一気に騒ぎ出してきた。面倒とは思いつつも誤解を解かない訳にはいかないので玲が説明する事にした。それを察して八代も余計な口出しをしない。

 「別に何も話さなくても問題ないくらい一緒にいるから無理に話題を作る必要が無いだけだ」

 話すべき事が無い事もないがこのような人目につく場所で話せる事ではないし、元来2人共話好きな方でもなかった。

 「それよりメシにしようぜ……

 こっちは朝飯前に連れ出されて何も食ってねぇんだ」

 「分かった……この下の階にレストラン街があるからどこにするかはそこに行ってから決めようか」

 しっかり者の莉々が素早く予定を立て、全員がそれを承諾。見た目小学生の女の子に先導される見た目高校生くらいの男女という構図はかなり周囲の注目を集めていた。



 中華料理がいいとかファミレスがいいなどという要望があったにもかかわらず結局は無難にファーストフード店で昼食を済ませた一行は各々の目的が違う事もあり2つのグループに分かれる事になった。

 一つ目のグループは八代、莉々、ミキという構成。

 もう一方のグループは玲、玲奈、篠の3人。

 目的が近いメンバーでグループを作ったのもあるが、しっかりしている莉々と玲を別グループにして、男子は別グループがいいという理由で八代は莉々のグループへ、玲奈のお目付け役は荷が重いという莉々の要望があり玲奈は玲のグループへ、ミキと篠は目的が近い方のグループへ参加という目的よりも被害が出ないようにという配慮が最大であった。

 いくら高校生といっても象術士の卵であり、一般人と比べれば危険度は桁違いである彼等が何かの間違いで象術を使ってしまったら最悪警察沙汰になりかねない。なのでしっかりしたお目付け役の下、安全にも注意を払わなければならない。

 「じゃあ、17時にまたここに集合って事で!」

 かくしてグループごとに分かれる事となった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「2人は何買うんだ?」

 「あたしはアクセサリー」

 「僕も同じだね」

 「俺はアクセサリーとかあんま興味ないな」

 そんな会話をしているのは八代、莉々、ミキの三人。一緒にいるのが玲ではないので八代もそれなりに話題を振って会話を楽しんでいた。

 「玲もそうだけど八代も物欲とかないよね~」

 「ホントホント。服とかもシンプルな物ばっかりだし」

 「まあ、施設にいた頃は贅沢出来なかったし元々着飾ったりするのはあんまり好きじゃなかったからな。

 玲もそんな感じだったから別にいいかなって感じだな」

 会話と言っても莉々とミキが質問して八代が答えるというループが形勢されていた。

 「それにしても八代って結構玲君に依存してない? 困った時とか玲君の指示に従ってるし、それ以外の時でも玲君に任せてたりするけどどういう関係なの?」

 「ひょっとしてゲイとか?」

 「そんな訳ねぇだろ……

 頭脳的な面で玲に太刀打ち出来ねぇし、あいつに任せれば俺がやるよりははるかにいい結果を出すからな」

 基本的に戦闘以外で八代が玲に勝り得る部分は無いのでは? と思うほど玲は八代にとって完璧に近い存在なのである。

 もし世界完璧超人選手権なるものが存在すれば必ずや玲は表彰台に上る事だろう。

 「そうなんだ……」

 「………………」

 あからさまに残念そうな表情をするミキと無言になってしまう莉々。正直、莉々までそういう関係を期待していたというのは八代にとっては少なからず衝撃的な事実であり八代も言葉を失ってしまった。

 「そっ、それにしても八代って象術だけじゃなくて武術の心得もあったんだね! あたしだって剣道とかいろいろ武術習ってたけど審査会の時手も足も出なかったよ!」

 「そっ、そうなんだ! やっぱり男の子だから強くなれ、とか言われてたの?」

 強引な話題転換と無意味なオーバーリアクションを見せるミキと莉々に気を使うなと八代は言いたかったが必死ささえ感じさせる2人にのどまで出かかった言葉は発せられる事なくどこかへ消えてしまった。

 「いや、特にそんな事言われたりはしてないけど。強くなりたかったから強くなる努力をした、ただそれだけ」

 代わりに出たのは身も蓋も無い答えだった。

 「あたしも象術警官になりたくて小さい頃から剣道やってきたけど八代にも玲にも敵わなかったし……」

 「ミキちゃんって玲君戦った事もあるの!?」

 八代がミキと篠のペアと戦って勝った事は有名であり莉々も知っていたがミキと玲が手合わせした事があるというのは莉々も八代も初耳だった。

 「まぁ、ゴールデンウィークの始めにチョットね。象術無しで完敗しちゃったけど」

 「そりゃそうだろうな……」

 「そうなの?」

 ミキの言葉に莉々は驚いていたが八代はむしろ当たり前といった感じだった。

 「玲は俺と違って戦うのが好きなタイプじゃないが別に弱い訳じゃないしな」

 必要な時には容赦ないけど、という言葉は言わずに飲み込んでおく。不用意な事を言って玲の評価を不必要に下げる事のない。玲の勘気をこうむって困るのは八代なのである……宿題など勉強の面で。


 「ひとつ気になったんだけど、八代と玲君ってどっちが強いの?」

 

 色々考えている八代に莉々からとんでもない爆弾発言が飛び出した。

 「それはあたしも気になってたんだ! 今度ふたりで模擬戦してみない?」

 莉々の発言はミキの好奇心に大いに火を付ける結果となってしまった。

 この事態の進行に焦っているのは他でもない当事者である八代だった。

 (やべぇ……ここで間違えたら玲との一騎打ちになっちまう)

 正直なところ、八代は実力云々は別として玲とは戦いたくなかった。何というかトラウマに近いものが玲との戦いにはあった。

 今の(・・)玲はともかく、昔の玲と戦うくらいなら授業が全部国語になった方がまだマシだった。あの変人の集まりと言っても過言ではない(自分の事はこの際棚に上げておく)神楽流なかでさえ危険人物扱いされていた程であるという事から当時の玲の危険度は推して測るべし。

 「悪いがそれだけは勘弁してくれ。出来れば玲とはもう二度と戦いたくねぇな……」

 以上の事から八代がそう言うのは仕方の無い事だった。

 「ふーん。昔玲と戦った事があるんだ~。その時はどっちが勝ったの?」

 八代の気も知らずに興味津津で聞いてくるミキと表には出さないようにしているがミキと同じく興味津津の莉々。

 その時の事は語りたくない八代だったがこうなってしまっては話さない訳にもいかなくなってしまった。

 「結果だけ言えば玲の勝ちだ。途中で止められなきゃ俺はあの時玲に殺されてただろうな」

 「うそ……」

 「玲君が……?」

 信じられないといった様子の二人だがその気持ちは分からないでもない。この場に居合わせなければ八代とて信じられなかっただろう。

 「信じられんだろうが事実だ。それに今の俺達が全力で戦えば校舎が壊れるくらいじゃ済まないだろうな」

 正確な所は実際に戦ってみなければ分からないがそんな危険な事をわざわざ試そうとするほどミキと莉々は愚者ではなかった。

 世の中には知りたくても知らないままの方が幸せな事もあるという教訓を2人は得たのであった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 所変わってこちらは玲、玲奈、篠のグループ。

 彼らにこれといった目的は無く、ただデパート内をウロウロしてウィンドウショッピングを楽しむはずであったのだが……

 「玲奈ちゃん! これなんていいんじゃない?」

 「い、いや……こんなヒラヒラした服俺に似合わねぇよ」

 何故かブティックで玲奈の服を選ぶことになっていた。

 盛り上がっている篠と玲奈はいいとしても女性の服に興味のない玲としてはひたすら退屈との戦いになっていた。

 2人を放っておいて自分だけ単独行動、という選択肢もあったが目的の無い単独行動など迷子でしかなく、結局何もせずただ篠と玲奈のやり取りを見ているだけという不毛な時間を過ごす羽目になっていた。

 「なぁ玲、他にどっか行きたいとこないのか?」

 「他にも何も最初からどこに行きたいとか目的がある訳じゃないがとにかくここは男の俺がいるには辛すぎる……」

 ファッションに興味のない玲にとってブティックとは本来通り過ぎている場所であって決して立ち寄る場所ではない。恋人とデートするのであればこういう場所にも多少興味は湧くのかもしれないが、残念ながら今の玲に恋人はいないし作る気も無い。

 (作ろうと思えば出来るの、かねぇ……?)

 二十年にも満たない人生の中で玲が接した同世代の異性は数えるほどしかいない。小学校、中学校ではテスト以外で教室に入った事はほとんどない上、学校行事などはほぼ100%サボっていた。なので性格云々よりも経験という面で玲は子供であると言えなくもない。

 (まぁ、過ぎたことをどうこう言っても仕方がない。それに今はそれどころじゃないしな……)

 恋人作りなどという必要のない未来よりも今は任務を無事に終える事に尽力すべきである。

 今は相手のアクションを待つ事になっているがあらゆる事態を想定し備えておく事は決して無駄なことではない。

 備えると言ってもデパート内にあるディスプレイに映るニュースを確認する、という程度のことしか出来ない。

 MSTの普及によりテレビは一回に一台などと言われていた時代は過去のものとなり、チャンネル争いという言葉を死語にしていた。しかしデパートなどでは未だに大勢の人が同時に見れるように大型のディスプレイによる高画質の液晶テレビを使用していた。

 玲は一方的に流される情報を機械的に聞いて記憶していく。記憶する情報が役に立つかどうかは関係ない。

 例の傍らでは玲奈が何か聞きたそうな顔をしていたが玲は無視することにした。聞かれれば答えるが自分からアクションは起こさない、というのが私生活における玲の基本スタンスだった。

 「そういえば玲って見聞きしたことを全部覚えてるってのは本当か?」

 意を決して尋ねた玲奈だったがその質問は玲にとってそれほど隠したい事ではなかった。

 「そんな事聞いてどんな意味があるか分からんんが全部覚えてるかどうかという質問に対しての答えはイエスだ。

 世間では瞬間記憶とか完全記憶なんて言われてるが俺のはちょっと違ってて、先天性忘却不全症候群という歴とした病気だ。忘れる、という機能が存在しないから何でも覚えられるってだけだ。だから見聞きした事だけじゃなくて一度出来た身体操作も忘れない」

 そのことを知った周りの人間は決まって「ずるい」とか「羨ましい」という反応しかしてこなかった。実際この体質でマイナスになったのは人間関係くらいなものであり、幼くして研究員としてやっていけたのも体質によるところがほとんどであった。

 「でも便利なだけじゃないんだけどね」

 「きゃっ!?」

 「ん?」

 「…………」

 いきなり会話に割って入ってきた八代に三人は三者三様の反応を示す。

 「いつのまに近づいて来たの?」

 「ただ後ろから追いついてきただけだ。それなりに気配は消していたみたいだがな……

 俺の場合は先にミキと莉々の気配がしたから八代もいるもいるのが分かっただけなんだが」

 思わぬところで八代達と合流してしまったためニュースを見て情報収集どころではなくなってしまったがそもそもこのような所ですることでもないからいいとしよう。

 それに八代は気づいているかもしれないが先程から自分たちを見る高校生ぐらいの少年たちのグループがいた。



 「あそこの奴等カワイイ娘多くね?」

 「うぉ、マジ! こりゃ今夜が楽しみになってきた」

 「じゃああのジャマな男二人をさっさとフルボッコにしてあの娘達はお持ち帰りってことで」



 人間離れした聴覚のおかげで聞きたくない会話を耳にしてしまった。当然八代にも聞こえている。

 (面倒なことになったな……)

 経験からしてこういう場合は対話で切り抜けることはほぼ不可能であり、必ず暴力にものを言わせる事になる。

 面倒と感じているのは八代も同じである。

 好戦的な性格をしている八代ではあるがそれはあくまで「強者」に対してである。今こちらに向かってきている少年たちのような「弱者」など歯牙にもかけないのが八代のスタイルだった。


 「ねぇねぇ、キミ達今からお茶しない?」

 いろいろ考えているうちに少年たちは玲奈たちに話しかけていた。

 (ダメだ……こりゃどうにもならん)

 この時点で暴力が不可避となってしまったことに対し玲は頭を抱えたくなった。

 少年たちのナンパに玲奈たちが応じれば暴力も回避できるかもしれないが警察官志望のミキがそのようなナンパに引っかかるはずがない。とそこまで状況を理解した上で玲は諦め、ほぼ直感的で八代は諦めた。

 「悪いですけど男子なら間に合ってますので結構です」

 案の定ミキは玲達を出して断った。当然少年たちもそれくらいのことは織り込み済みのようで、

 「なあ、あんたらの女ちょっと貸してくれね? ついでにこの子達と遊ぶ軍資金もね」

 完全に上から目線の要求だがここまで噛ませ犬みたいな行動を取られると哀れみすら感じてくる。

 「あいつらは俺の女では決してないし、ナンパするなら軍資金くらいは自力で調達しろ。俺達から調達するってんなら抵抗させてもらうけど?」

 玲が何か言う前に八代が勝手に少年たちを挑発していた。どの道玲が言おうとしていたことと大して変わらなかったので結果的には問題ない。それに少年たちの向こうで今にもキレそうな玲奈を鎮めるためにもここは実力行使しかなかった。そうしなければ玲奈が暴れかねないので同じ暴力でも制御の利く(・・・・・)暴力を選択する事にした。

 「上等だ! やんのかコッ!?」

 残念ながらその啖呵は最後まで切られることはなかった。

 八代が啖呵を切ろうとした少年の喉を鷲掴みにして持ち上げていた。

 八代はそのまま少年をドッジボールのように投げ飛ばし別の少年へぶつけた。

 「テンメェ! この野郎!!」

 ほとんど絶叫に近い雄たけびを上げながらまた別の少年二人が玲に殴りかかってきた。

 半狂乱の状態で繰り出される拳ほどかわしやすいものは無い。玲は一人目の拳をかわし、その少年の腕を右手だけで掴んで自分の体を軸に回転させもう一人の少年に激突させた。走って正面衝突した二人は仲良く気を失っていた。

 結果からして気絶した四人の少年が出来上がっただけであった。それを片腕で成した二人はなぜか拍手を受けていた。どうやらテレビの撮影と勘違いされているようだった。

 拍手を受けながら玲はどうせならこのまま勘違いされたまま終わって欲しいと願うのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 結論から述べると勘違いされたまま終わる事はなかった。

 周囲の人の証言もあり八代と玲はお咎めなしで解放されたのだがすでに空は真っ暗になっていた。

 幸い玲奈達はすぐに解放されたのだが事情の説明などもしなければならなかった二人はすぐには解放されなかった。

 「そもそも玲が道連れにしなきゃこんな事にならなかったのによ!」

 「だからその事についてはもう何回も謝っているだろ」

 確かにこのような事になる事が予測されていれば玲も八代を道連れにする事はなかっただろう。さらに言えば自分が参加する事も無かっただろう。

 「あと二日でけりがつくのか?」

 ゴールデンウィークも残りあと二日。出来る事なら授業が始まってしまう前に任務を終わらせたいところである。

 「分からん。それは相手の出方次第だ」

 「こっちから仕掛ける事は出来んのか?」

 「目的がある程度絞れているとはいえ確定でない以上、迂闊に動きたくはない。それに麻薬取引を全て潰し不正献金の証拠も回収した今、アイドル一人がどうなろうが知った事じゃない」

 それでも任務として継続させている理由は狭霧優香がヤクザと繋がっている可能性があるからに過ぎず、決して彼女のためではない。


 『速報です。先日誘拐され行方不明となっていた人気アイドルのYU-KAさん、本名、狭霧優香さんが先程都内で発見されました……』


 不意に二人の耳に入ってきたのは街頭のディスプレイで放送されているニュースの音声だった。

 「あの子が見つかったってどういう事だ? 逃げられるなんてヘマはしないだろうに」

 何の訓練も受けていない個人がヤクザであれ何であれ組織から逃げる事など実質的に不可能である。しかも情報を持ったまま殺されずに生還するなどまず100%不可能と言っていい。

 「なるほど、こうきたか……」

 混乱する八代とは対照的に玲はこの事態を予測していたかのような口ぶりだった。

 「こうなる事は読んでたのか、玲?」

 「可能性がある、とは考えていた」

 玲のこの一言で八代には玲がこの事件の全体図が見えているいる事がうかがい知れた。

 「八代、急な話だがこれから任務だ。

 明日の朝日が昇る前に決着を着けるぞ!」

 「了解!」

 こうして受け身に回るしかなかった今回の任務の急転直下の解決劇が始まるのだった。

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