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異常と正常の境界  作者: Rile
第2章 忙殺のゴールデンウィーク編
40/44

第40話 一区切り

なんだかんだでもう40話にまでなってしまった・・・

 「操雷系配合か~。見るのは初めてだな」

 それが八代は九十九早苗が見張りの通りの4人を倒す瞬間を見ての感想だった。

 彼女と戦う役目がある以上、相手の手の内を把握しておくのは重要を通り越して必須である。操雷系配合を使うと分かっただけで十分な成果であった。

 「そろそろ俺の出番も近いな……」

 今回の八代の役目は九十九早苗の足止め。大艦巨砲主義の八代に適した役目とは言い難いが限られた人員で任務をこなさなければならないので文句を言う訳にもいかない。

 「これも仕事と割り切っていきましょうか!」

 失敗は許されない。だが八代にとってそんなものはプレッシャーにならない。それだけの実力を持っているという自負が八代にはある。

 作戦の時は近い……


   * * * * * * * * * * * * * * *


 玲と早苗が麻薬取引の場所となっている裏通りの廃ビルに辿り着いた時にはすでに別ルートから突入した警察官と正内組の争いが始まっていた。

 「状況は?」

 「象術警官か? ならとっとと奴等を無力化してこい!」

 玲は近くにいた警察官に現状を聞いただけなのだがその返答は最悪の一言だった。

 「私達はあなた方の奴隷じゃないんですから状況の説明くらいしてください!」

 玲は何も感じなかったが正義のヒーローに憧れる早苗には見過ごせない発言だったらしくいきなり食ってかかった。

 「象術が使えるだけで俺達の何倍も給料もらってんだからこういう時ぐらい役に立てってんだよ!」

 「そんな言い方ないでしょう!」

 「そこまでだ。 言い争いがしたいならこの後取調室で気のすむまでやってくれ」

 このままでは埒が明かないので玲は止めに入る事にした。

 「打ち合わせ通りあんたは正内組を、俺は麻薬カルテルを潰す。さっさと終わらすぞ!」

 「はい!」

 その言葉と共に早苗は正内組の方へ向かって行った。それと同時に玲も麻薬カルテルの方へ向かって行く。

 その途中で早苗の前にネックウォーマーとフードで顔を隠した八代が現れるのが確認できた。八代には足止めという比較的苦手な役目を押し付けてしまったので玲としては出来るだけ早く麻薬カルテルを無力化して八代の役目を終わらせたいという気持ちがあった。

 「ショーじゃないんですぐに始めてすぐに終わらせる!」

 その瞬間、敵の周囲に巨大な氷の壁が現れた。

 いきなり現れた氷壁に麻薬カルテルのメンバー達は慌てたように持っていた拳銃を乱射するが巨大な氷壁には焼け石に水であった。

 「物質変換強化派生、状態制御。本来物質が持つ三態、すなわち気体、液体、固体をも制御する技術だ。普通に象術で水を出せば常温での状態である液体なんだが、見ての通り固体で水を創りだしただけだが意外と便利な技術なんだよ……っと、早速で悪いが目的を果たさせてもらうよ」

 玲の目的はあくまで政治家の不正献金の証拠であって麻薬カルテルの無力化ではない。無論、象術警官という立場上無力化しないといけないのだがそれは二の次であった。

 多くの警察官の目もある状況で気付かれずに不正献金の証拠を抜き出すことはほぼ不可能なのだが、それを実行するために玲は分厚い氷壁で麻薬カルテルを閉じ込めるという手段を取った。分厚い氷壁で囲まれた中の様子は外からはほとんど見えないので警察官の目も誤魔化せるので中の敵を無力化したのちにゆっくりと証拠を回収すればいい。鉄ではなく氷にしたのは単に溶かしやすいだけであり他に理由はない。

 さっそく玲は氷壁で囲まれた麻薬カルテルの中へと飛び込んで行き敵を素手で次々と無力化していく。いきなりの氷壁の出現で戸惑っている者達を無力化するのは赤子の手をひねるより容易だった。

 1分もしないうちに立っている麻薬カルテルのメンバーはいなくなってしまった。

 玲はリーダーと思しき人物が抱えていたアタッシュケースの中から不正献金の証拠を取り出し懐にしまう。身体検査でもされなければ見つかることはないだろう。

 当初の目的を終えた玲は自らを囲う氷壁の一つに熱エネルギーを与えて溶かした。別に全部溶かさなくても動かせるぐらいに軽くなったところで玲は溶かすのを止めた。

 「それじゃ後はよろしくお願いします」

 気を失っている者の逮捕など誰でも出来るのでわざわざ玲がやる必要もない。それよりも問題なのは早苗の足止めをしている八代の方だった。

 幸い早苗と八代の戦闘の影響で正内組の連中は外に逃げることが出来ないでいるようだった。警察側も戦闘の影響で踏み込めないでいるようなので良くも悪くも八代と早苗の一騎打ちの様相を呈していた。

 (つまり俺が八代と戦うフリをしているうちに早苗に正内組みを倒してもらうか……)

 正内組に面の割れている玲が正内組を倒そうとすると面倒な事になるのでここは2人の戦いに適当に割って入って事が済むまで八代と遊んでおくことにした。

 どの道この薄暗い場所で高速で動く人間の顔を識別出来るはずがないので玲が正内組を倒しに行っても問題無いのだがこの時の玲がその事に気付く事はなかった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 (ヤバイ…………この女、思ったよりも断然強い)

 倒してはならないという制約付きとはいえ八代は早苗に押されていた。

 本来ならば自分に有利な位置取りをして余裕をもって足止めしたかったが正内組が逮捕されないようにするためには早苗以外にも後ろに控えている警察官にもにらみを利かせないといけないので下手に移動して警察官達に突撃されるという事態も避けなければならなかった。

 (急げよ、玲! これ以上はキツイぜ……)

 表には出さないが八代は内心では苦悶の表情を浮かべていた。

 「いいかげんそこをどいてください!」

 辛いのは早苗も同じらしく、決定打を打てない現状に焦りを感じているように見受けられる。そのおかげで今の膠着状態が続いており、足止めという八代の役割を果たしている。

 その膠着状態を破ったのは八代でも早苗でもなく、突如2人の間に割って入った玲であった。

 玲は八代が気付きやすいように大きなモーションで掌底を放ち、ガードした八代をそのまま押し出した。

 「こいつの相手は俺がやる。あんたは正内組を倒せ」

 「は、はい!」

 いきなり現れた玲の指示に早苗は素直に従った。このやり取りだけで玲と早苗のパワーバランスが見て取れる。

 (遅いぞ、玲! 正直危なかったぜ)

 (悪いな。こっちも急いだつもりだったんだがな。

 それはそうとこれから戦うフリをしながら外へ出るぞ。後は期を見て逃げりゃいい。後始末は付けとく……それとこれも頼んだぞ)

 そう言うと玲は八代の懐に何やら紙束を押しこんだ。八代のすぐにそれが先程玲が回収した不正献金の証拠だと分かったので無言で頷いた。

 いつの間にか押されるフリをしながらビルの外にまで出て行き、そのまま八代は玲に吹っ飛ばされた。どうやら距離が開いた今の内に逃げろという玲のサインを感じ取った八代はビルに背を向けて全力で逃げった。一応玲も追うフリはしているようだが全くと言っていいほど全力ではなくみるみるうちに玲を引き離す事が出来た。



 「ここまで来れば追ってくる事もないか……」

 追手がいない事を確認した八代はMSTを取り出し自分達が所属する内閣府特殊案件交渉室に『任務完了』のメールを入れておく。するとすぐに『受領いたしました。速やかに詳細報告を行ってください』というメールが返ってきた。詳細報告とあるが要は『戻って不正献金の証拠を渡しなさい』という事である。

 「我が姉ながら何とまぁ、そっけないメールだこと」

 おそらくメールを受け取ったのはエージェントのサポート役である実姉の水無月沙希であるはずなのだが、仕事に私情は挟まないのかそれとも本当に冷たいだけなのか、おそらく後者であろうと八代は推測した。

 「俺のせいで父さんも母さんも死んだんだから恨むなって方が無理な話か…………っとまぁ、今はこれを届ける事に専念しますか」

 この証拠を届けても任務は終わりではない。

 狭霧優香の誘拐を解決するまで八代の任務は終わらない。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 八代を無事逃がした後、ほどなくして正内組全員逮捕の知らせを受けた。

 正内組に象術士はいないのだから当然と言えば当然の結果なのだろう。

 戦闘を終えた今、象術警官のやる事は無いと言っても過言ではない。元々麻薬関係の事件は象術警官の担当ではなく、象術士が関わっているという情報があったからこその参加なので関係者逮捕後の事は関係ない。

 「お疲れさまでした。これは私のおごりです」

 そう言って玲に缶コーヒーを差し出してきたのは同じくやる事の無くなっていた早苗だった。

 「結局あの人には逃げられちゃったんですね……」

 「気にする必要は無い。逃げられたのは俺も一緒だ。

 それよりも正内組を一人も逃さなかったのは見事だった」

 八代に逃げられるのはそうなるように仕組んだからなので話題を変えるために早苗の手柄を褒める事にした。

 「いえ、そんな事ないです。佐伯さんだって麻薬カルテルを全員捕まえたじゃないですか……

 その上、私の方に加勢までしてもらって……本当にありがとうございました」

 「あ、ああ……」

 (何で今日に限って落ち着いてんだよ……こっちの任務(しごと)はまだ終わってないってのに!)

 不正献金の証拠回収という目的は達成したものの、玲と八代にはまだ狭霧優香誘拐事件解決という課題が残されている。はっきり言って既に解決した問題に興味はなかった。

 不正献金の証拠について麻薬カルテル側は全く知らず、知っている正内組の連中が警察にしゃべったとしても証拠が無いのでただの妄言としか取られないだろう。

 それよりも気になるのは狭霧優香を誘拐した犯人である。

 より正確には犯人の目的。

 身代金目当てであればもっと狙いやすい人間だっていたはずであり、正内組からの依頼だったとしても今回の麻薬取引失敗で正内組に警察の捜査が及ぶのは間違いないのでご破算になってしまう。そうなった場合、おとなしく解放するか口封じをするかのどちらかである。

 どの道目的を探るには相手の出方を窺うしかない。

 「表通りのマスコミもいなくなったみたいだし俺はもう帰るよ」

 「じゃあ、私送りますよ」

 早苗の言葉は善意からなのかもしれないがその申し出に乗って啓莱高校の学生寮まで送ってもらうなど言語道断である。高校生だとバレたらスキャンダルどころでは済まない事態に発展してしまう。

 今度からダミーの住居も用意しておくことにしよう。

 「申し出はありがたいけどいろいろと用事を済ませてから帰るから遠慮しておきます」

 「そうですか……じゃあ、私は先に帰りますね。明日と明後日は非番なので明々後日にまた会いましょう」

 はっきり断ったので彼女もさすがに食い下がってくる事はなくすんなり帰ってくれた。これでひとまず安心という事だろう。

 (そういや俺も明日、明後日と非番だったな……)

 麻薬取引を阻止したボーナスとして2人には2日間の休暇が与えられていた。大きな事件がない内に休暇を消費させておこうという上層部の判断は玲の知る所では無い。

 だがせっかく貰った休暇なので無駄にする事はないだろう。ということで誘拐犯の出方を窺うという意味も込めてゆっくり休んで過ごそうと玲は考えていた。

 これによて玲の任務はひとまずの解決となったのだった。

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