第4話 調査開始
かなり遅れて第4話投稿~
分かったいたとはいえやっぱり平日になると執筆速度が格段に落ちてしまいますね。この調子では5話投稿はいつになるのやら。
「とりあえずこれ持っておけ」
それだけ言うと玲は八代に2本の木刀を渡した。
「サンキュー……っと、玲はやっぱり長いヤツか?」
玲が持っていた木刀は八代に渡した物に比べかなり長めではあったが、玲はそれで慣れた様に素振りをしながら、
「使い慣れてるからな……いざという時使い慣れてない得物で戦うなんてのはいくらなんでも無謀すぎる。そんな理由でやられたら目も当てられないぞ」
実際、玲が野太刀の扱いが得意なのは八代も知っていたし、玲も八代が二刀流を得意としているの知っていたからこそ木刀を2本用意したのだろう。
「俺達が探すのは犯罪者だ。見つけて警察に突き出して終わり、という訳にはいかない。おそらく犯人も抵抗してくるだろう。そうなれば戦わざるを得ない。自己防衛のためならば象術監視中であっても象術の使用はある程度許可されているが、それでも過剰防衛のためには使用できない。いざという時のために象術以外の戦力を確保しておくのは当然だ。」
当然の事といえば当然の事である。2人が追うのが犯罪者である以上、見つけたとしてもおとなしく捕まってくれる訳がない。場合によっては力ずく、という事になるだろう。手元に慣れた武器があるのは精神的にもプラスになる。
「とにかく現場の調査をしないとな!」
八代の言う事ももっともである。武器云々以前にまず犯人を探さなければならない。いまだにどのようにして駅を崩壊させたのか分からない以上、現場の調査が2人にとっての最優先なのだった。
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「っとまぁ、駅に来てみた訳だが……どこを調査する?」
2人は現場の駅に来ていたのだが、調査の方法など知らない以上、どこをどのように調べればいいのか見当もつかない。八代の疑問は2人のそんな現実を表わしていた。
「そんな事は知らないが、冷静に考えれば俺達は犯人を見つける必要はないんだよ」
「え? なんで?」
玲の真意が全く理解できない八代にとって先程の発言は諦め宣言ともとれた。
「勘違いするな。 別に諦めた訳じゃない。 犯人を見つける事だけが俺達の目的達成の手段ではないい。 俺達は象術監視を解ければそれでいいんだ」
「あ~、なるほど」
ここまで言って八代も納得したようである。象術監視を解くには犯人を見つけるだけではなく、ただ自分達の無実が証明されるだけでもいい。
「駅の中から象術が使用されていたという事が証明する事ができれば俺達の無実が証明され、象術監視も解かれる」
他にも象術監視を解く条件はいくつかある。例えば女性でなければ犯行が行えないと証明されたとき、駅の崩壊が人為的なものでなかった場合などである。だが駅の強度は十分だったと聞いているし、犯人の性別は捕まえてみなければ分からない。象術監視を解くには犯行が駅の内部で行われたと証明する事が一番効率的なのである。
「証拠が見つけやすい、という点でもこれが一番いい」
「ならとっとと証拠見つけて象術監視を解くぞ!」
希望の見え始めた2人のモチベーションは上がっていく一方だった。
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「玲……あの柱どう思う?」
「どう……って、見た通り何かで溶かされた跡だな」
玲の言う通り駅を支えていたであろう鉄骨には何か酸性の液体で溶かした様な跡が残っていた。この柱を見る限り、溶かされて強度の落ちた柱が駅を支えられずに倒壊してしまったと考えるのが普通だろう。
「これをあの女に言えば俺達の象術監視を解く事が出来る!」
「……そう簡単にいけばいいが……」
上機嫌な八代とは対照的に玲の表情は良くなかった。
「これが決定的な証拠だろ?いくらなんでも認めないなんてことはない」
「それもそうだな」
どこか納得がいかないという感じではあったが考えても仕方ない。玲はそんな自分に言い聞かせるような口調で言った。
「明日また警察に行ってこれを証拠として出せば問題ないんだし、今日はもう帰ろうぜ!」
そう言って八代は駅に背を向けて歩いて行った。
「………………」
玲も何か引っかかる所もあるものの、玲について歩き出した。
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やはり何かおかしい。
一度あの女、河崎碧に手玉に取られてしまった経験からかどうしても上手くいく、という事が素直に信じられなかった。
鉄骨の溶かされた跡は確かに証拠として申し分ないが俺達でも簡単に見つけられたのだから、彼女も見つけている事だろう。事件が起きてまだ1日しかたっていないというのに駅の崩壊の現場で彼女の姿を確認できない事そのものがおかしい。おそらく彼女にとってこの現場から得られる情報はもう無いと考えて間違いない。だとすれば、俺達が犯人でない事は分かるはず……
それだけではない。事件が発生してから彼女が俺達の取り調べを行うまで、2時間も待たされなかった。 俺達が住むこの街は全国的にも下から数えた方が速いような田舎町である。彼女は警視庁の象術犯罪の専門家というからには首都である東京から来たのであろう。だとすれば2時間で来れる訳がない。それに象術犯罪は珍しいが滅多にない、というほど希少でもない。わざわざ首都から捜査員をよこすほどこの事件が珍しい訳でも無い。
ひょっとしたら彼女には犯人が誰だかすでに知っていたのかもしれない。だとすればこれらの状況に納得がいく。俺達を象術監視にすれば勝手に犯人探しをするであろう事も予測されたいたのかもしれない。
どうやら俺達は彼女の掌の上で踊らされていただけなのかもしれない。 見かけによらず彼女はかなりの策士のようだ。話し合いのテーブルについた時点で俺と彼女には情報という点でかなりの戦力差があった。実際俺は自己紹介されるまで彼女の名前すら知らなかった。だからと言って負けて当然などとは思わない。どれだけ戦力差があろうと負けは負け。
だが今は違う。情報という点では戦力差は縮まっている。前回みたいに出来レースの勝負はしない。いやさせない。
しかし懸案事項もある。俺達には自覚している一撃必殺の弱点もある。彼女がそこに付け込めば俺達はたちまち負けてしまうであろう。
だがそれでいい。勝ちと負けが混在しているからこそ勝負なのだ。だからこそ気を抜く事ができない。
「玲!置いてくぞ!」
考え事をしてる間にかなり離されてしまったらしい。
「今行く!」
考えるのは帰ってからにしよう。
どうせまだ勝負まで時はあるのだから……
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思っていたよりも速く調査が終わってしまったため、俺達は残った時間をデパートで潰そうとデパートへ向かっているところだった。デパートと言ってもこんな片田舎に大型のデパートがあるわけでもなく、小さな店や飲食店が集まっている建物であり、デパートと呼べるかどうかは微妙なものだが地元ではデパートと呼ばれ多くの人に親しまれている場所だった。
「しかし、いい経験になったな」
もはや過去の事の様に事件を振り返る八代に対し、
「無理だな」
俺はきっぱりと宣言する。
「なんでだ? 玲がそう言い切るからには何か理由があるんだろ?」
八代とは長い付き合いであるが俺がはっきりと否定の言葉を言うという事は必ず何かの根拠がある時だけだ。
「根拠は?」
八代もその事を知っているためかいきなり根拠を尋ねてくる。
「あの現場だな。あれは素人の俺達でも分かるほどの証拠――柱が溶かされた跡があった。それを専門家であるあの女が見落とすとは思えない。万が一、見落としたとしても警察が見落とす、なんて事はありえない。つまりあの女には俺達が犯人でない事は初めから知っていたんだ。その上で象術監視の処罰をした。つまりこの象術監視には別の目的があると考えるのが普通だ」
俺は現場を見たときからの違和感について説明していく。
「でも証拠を見落としたんじゃなく、俺達が象術監視にされた時点であの女がまだ現場を見てないだけなんじゃないのか?」
確かにその可能性もあるが八代は大事な事を見落としている。
「この事件の調査はあの女だけが事件の調査をしている訳じゃない。然警察も現場検証をしているし、あの女が俺達の取り調べを行う前にその検証結果に目を通していない訳がない」
論戦をした時点で、彼女が事前に事件の情報を揃えていたのは疑いようがない。そうでなければあのような質問はできない。
「となると、あの女が俺達を象術監視にしたのは別の理由がある」
「別の理由ってなんだ?」
俺達を仲間にするため、とは流石に言えなかった。確信がある訳ではなかったし、そんな事を言って八代を煽りたくはなかった。最悪自惚れだと馬鹿にされるのがオチだろう。
「それは分からない。ただいい予感がしないのは確かだ」
はぐらかすように玲は言ったが、
「……しっ!」
いきなり八代が口の前で人差し指を立てて静かにするよう指示した。
八代は論理的な思考は苦手であるが、その代わりに直感が異常に優れている。八代によればどうやら俺達の話が盗み聞きされていたらしい。だがそんな事をして得をする人間というとかなり限られてくる。 例えば事件の犯人とか。
これは運がいい。このままいけば一気に犯人を捕まえる事ができるかもしれない。そうすればあの女の思惑なんて考える必要なんてなくなる。
そんな事よりも目の前の問題を片付けないといけない。全てはそれからだ。
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この事件は俺にとってはもう解決したようなものだと思っていたが、玲は違っていたようだ。
だがそこで何か変な気配を感じた。玲が俺に何か説明しているようだったが、そんな事よりも俺にはさっきから感じる気配が気になって仕方がなかった。
感じる気配だけを頼りに相手を探していく。
どうやら尾行の専門的な訓練を受けているらしく、気配の主を見つけるのに時間がかかってしまった。
俺達から少し離れた所にいるが聞き耳を立てれば俺達の会話を聞く事ができる距離だった。
「……しっ!」
玲がいまだに何か言っていたがとにかく玲には黙ってもらう事にした。
しかしこれは棚から……何だっけ? とにかく思いがけない幸運だ。聞き耳を立てているのはおそらく事件の犯人で間違いないだろう。
ここで犯人を捕まえればもう玲だって何も疑問に思ったりしないだろう。このまま一気にけりを付けてやる。 犯人には悪いがここで捕まってもらおう。
俺達はアイコンタクトで互いの意思を確認する犯人確保のためにタイミングをとっていく。
どうやら俺達には現場で考えるよりこういったアクションで犯人を捕まえる方が性に合っている。今日は充実した1日になりそうだ。