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異常と正常の境界  作者: Rile
第2章 忙殺のゴールデンウィーク編
39/44

第39話 作戦開始

新年最初の第39話投稿。

新年って言ってももう一ヶ月近くすぎちゃってるけど・・・

 玲には狭霧優香を誘拐した犯人が分かっていたがすぐに犯人を捕まえるつもりは無く、向こうが自分達の作戦を邪魔してこない限りは放っておく腹積もりでいた。

 「そんで結局作戦の方を優先するのは分かったが本当に大丈夫なのか?

 確かに中途半端に関わるくらいなら放っといた方がいいのかもしれんが作戦に影響が出るんなら話は別だぞ!」

 八代の懸念も分からないではないが玲には犯人の思惑が読めていたので特に気にしていなかった。

 「俺達の作戦にの邪魔をしてくるならば当然放ってはおけない……が、今回に限りそんな事は無いだろう。

 むしろ、俺達が邪魔してこないと分かったから向こうも誘拐を実行したんだろうさ」

 「どうしてそんな事が分かる?」

 犯人の正体しか知らされていない八代では犯人達の意図までは理解する事が出来なかった。

 「今ここで説明してもいいが今夜実行する作戦には必要の無い情報だ。必要になったら教えるからそれまで待ってろ。

 ただでさえ当初の作戦を大幅に詰めたのだからそれだけ難易度は上がっているんだ。

 その分、お前の負担も増えてしまったからな」

 当初の予定よりもかなり計画を前倒しにして今夜作戦を実行する八代には作戦以外のところで気を使わせたくなかった。

 本来ならば後日麻薬カルテルから回収するはずだった不正献金の証拠を麻薬の取引現場で正内組を倒すのと同時に回収するように変更していた。

 すでに取引日時は警察にもリーク済み。

 先に現場で張り込んでいる警官がいるので象術警官は夜まで出動する必要がなく、玲も夜までは何もする事は無い。

 「そんじゃ、俺は夜まで一眠りしとくよ」

 「寝坊するなよ……」

 八代の寝起きの悪さと時間のルーズさは長い付き合いで嫌というほど分かっているがここぞという時はきちんとしてくるので玲もそれほど心配はしていなかった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 八代は玲と分かれた後、一眠りするために自分の部屋に戻っていた。

 「おかえりー」

 ベッドの上で雑誌を読んでいた莉々が八代に気付き声をかけてくれた。

 見た目こそ――幼いという意味で――高校生離れしているがそれ以外は普通の高校生となんら変わらない、それどころかかなり優秀な部類に入る。

 学校の成績はもちろん炊事、洗濯、掃除のどれも完璧。

 施設にいたため、八代もそれなりに家事はこなせるつもりだったが莉々の腕前は八代の比ではなかった。

 それに意外と世話焼きな面もあり、部屋の掃除はほとんど莉々に任せっきりになっている状態だった。

 (成績優秀、家事も万能、世話焼きで面倒見がいい……これで容姿が大人びてたら一躍学校のアイドルになれんじゃねぇのか?)

 学校のアイドルは言い過ぎにしても容姿がもう少し大人びてたら十分男子達の憧れの的になった事だろう。

 現在はその容姿からかなりマニアックな層の人気を集めており、内面の優秀さを知る生徒はほとんどいない。

 「莉々って何か色々ともったいないな……」

 心の中だけ思ったつもりだったが知らないうちに声に出ていたらしい。

 「どういう事?」

 当然聞いていた莉々からは真意を尋ねられる羽目になってしまった。特に隠しておきたい事ではないのでここは正直に話しておいた方がいいのかもしれない。

 「いや、莉々って成績もよくて家事も万能なのに子供っぽい見た目だけで判断されてもったいないな、と思っていただけ」

 容姿だけでその人の評価が決まる訳ではないが重要である事も確かである。

 莉々の場合、内面が優れている分、その幼い容姿で十分に評価されないという事もあるだろう。

 「確かにモデルみたいなスタイルまでは望まないけどせめて普通と言えるくらいには大きくなりたかったな……

 でも幼く見られる分、勉強や家事を出来るように努力したんだけどね。

 もう高校生だから身体的にはもう成長しないだろうし諦めてる。

 でも僕と一緒にいるだけで八代と玲がロリコンとか思われるのはちょっと心苦しいけどね……」

 見た目は幼く見えても中身は八代よりも明らかにしっかりしていた。ひょっとしたら玲と張り合えるのではないかというくらいである。

 「別に俺も玲もそういう事はあまり気にしない。だから莉々も気にしなくていい。

 それと変な事聞いて悪かった」

 「気にしてないから大丈夫だよ」

 笑顔でそう言ってくれたが八代にはその笑顔にわずかとはいえ異性としての魅力を不覚にも感じてしまった。

 「そっ、そういえば夜に用事があったから今の内に一眠りしておくよ」

 八代に出来たのはそう言ってベッドの中に逃げ込む事だけだった。

 「じゃ、おやすみー」

 莉々は律儀にあいさつしてくれていたが布団に(くる)まった八代の耳には届いていなかった。

 (いかんいかん、落ち着け。

 さっきは油断していただけだ。

 とりあえず寝れば大丈夫だ)

 自分では処理出来ない心理状態をなんとかするために、そしてその事を忘れるために一刻も早く眠ろうとする八代なのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 久桐玲にとって今回の任務もいくつか予想外の出来事があったものの概ね問題ないものとなっていた。

 直接会ったことのない狭霧優香がどうなろうと玲の心は痛まないし、八代も少しは気にするだろうが次の日には綺麗さっぱり忘れている事だろう。

 (一体誰が犠牲になれば俺の心は乱れるのだろうか……)

 八代が死んだとしても困りはするが悲しいと思う事はないだろう。

 実の両親に面と向かって『もう必要ない』と言われた時でさえ悲しいと思う事はなかった。

 自分が殺した者の家族や愛する者の悲しみを理解できないからこそ任務で人を殺す事に躊躇しないし、逆に味方が殺されたとしても心を乱す事はないだろう。それは日常生活においても変わらないはずだった。

 なのに……

 (玲奈の場合はただ振りまわされているだけ……か)

 今、目の前のドアの向こうにいるルームメイトが玲を振りまわし、そのせいで心を乱しているのは自覚している。

 操炎系配合を使う事が出来るにも関わらず、基本的なエネルギー変換も物質変換も出来ない生粋の天才肌。女性にしては高い身長にちょっときつめではあるが整った顔立ち、外見だけ見れば大企業の社長秘書にもなれそうなレベルではあり、男子のみならず女子からも支持を集めているがその反面、ペーパーテストの成績は最悪、寝起きも悪く起こしてもなかなかベッドから出て来ない。男が嫌いと言いつつも自分と八代には普通に接している(玲奈曰く、自分より強ければ認める、との事)。

 「よー、帰ったか」

 変える度に睨みつけられていた最初の頃よりは明らかに態度も軟化したが、今回は何やら不自然さを感じた。

 どのような理由かは分からないがどうも自分の帰りを待っていたかのような、それでいて何か緊張したような感じだった。

 玲も八代程ではないが多少は気配というものには敏感であると自負している。だがそんな玲でも玲奈の心境までは察する事が出来なかった。

 「何か俺に言いたい事でもあるのか?」

 察する事が出来ないのなら直接聞けばいい。何を言われてもダメージにならないし、都合の悪い事を聞かれたとしても答えなければいいだけの話である。

 「えっ!? 何で分かった?」

 「いつもより緊張した感じだったからな……こちらから話を振っただけだ」

 どうやら玲奈はいつも通りに振舞っていたつもりらしいが正直に言ってバレバレだった。

 玲奈は少し迷うような仕草をしてから意を決したかのように玲の方を向いた。

 「八代にお前の両親の事を聞いたんだがそういう事は本人から直接聞け、と言われてしまったからお前に直接聞く事にした。

 お前の両親は一体どんな人だったんだ?」

 そう言う玲奈の目は真剣そのものだった。だがその話題は玲にとって『都合の悪い事』であった。

 「それを聞いて何の意味がある? 両親の事は俺自身もうどうでもいい事だし誰かに語って聞かせるような思い出話も無い。

 興味本位で聞かれても答えるつもりは無い」

 何故玲奈がその様な事を知りたがるのか興味が無い訳でもなかったがここは一刻も早くこの話題を終わらせた方がいいだろう。

 自分を利用して捨てただけの両親がどんな人物だったかなど玲には分からなかった。

 しいて言うなれば玲は彼らの希望通りの子供では無かったから捨てた、という使い捨ての道具でしかなかったのだろう。

 そんな両親の話を玲奈に聞かせた所で何か意味があるとは思えない上、聞かせて変に同情されたくはなかった。

 「興味本位じゃない。初めてお前と戦ったあの模擬戦の時、お前から全く敵意を感じなかった。まるで俺との模擬戦の勝敗なんてどうでもいいって感じだった。それなのに俺の攻撃を簡単に止めちまった。それほどまでに象術の練習をしたお前が勝負にこだわらないお前の事をもっと知りたいと思ったんだ。

 お前の事は今じゃ友達だと思ってるし、友達の悩みなら少しでも力になりたいって思うのはおかしい事か?」

 彼女は彼女なりに真剣に玲の事を考えての事なのだろうが、玲にしてみればそれは余計なお世話というものだった。

 「あんたの言いたい事はよく分かった。その上で答えさせてもらう。

 話すつもりは無い」

 いきなり拒絶を示したが玲奈は玲を見たまま視線を逸らさなかった。おそらく理由を聞くまではその視線を外す事は無いだろう。

 「まず最初にあんたは俺が両親に捨てられたと思い込んでるようだがそれは違う。あの人達(・・・・)は俺の親であると考えた事は一度も無いだろう。ただ俺を産んだだけという認識だ。

 最初から育てるつもりは無くただ成長させようとしただけ。要するに俺は最初から捨てられた存在だったって事だ。

 それにあの人達の事は俺にとってはまだ過去の事ではない。これから解決すべき将来の課題だ。だから下手に話して巻き込みたくはない」

 玲奈が真剣に聞いてくるからこそ玲も嘘偽らずに本当の事を話した。それほどまでに玲奈の真剣さは玲に伝わっていた。

 「分かった。もうこれ以上聞かないから安心しろ。

 それと俺に協力して欲しかったらいつでも言ってくれ。喜んで協力する」

 「そうしてくれると助かる。

 だがなんでそんな協力的になるなんてどういう風の吹きまわしだ?」

 今までの彼女の性格からして有り得ない程の従順さ。正直鳥肌が立ったと言っても過言ではない。

 客観的に見れば玲奈が自分に好意を持っているのだろう、という推論が出来るのだがそれを直接相手に言う程自意識過剰な奴は絶滅危惧種レベルの珍しさだろう(入学早々そんな奴に会った気もするが)。

 とにかく玲奈はどう誤魔化してくるのだろうか。

 「ストレートに言うとお前の事が好きだからだ」

 「はい?」

 言葉通りのストレートな告白に変化球待ちだった玲の予想は見事に空振り……いや、バットを振る事すら出来なかった。

 告白した当の本人は全く普通にしているのに対し、告白された玲の方は表にこそ出していないがこれまでの人生で体験した事のない緊張に見舞われていた。

 神楽流にいた頃は恋愛など微塵も考えた事は無いし、さらには小学校、中学校と八代と共に授業をサボり同級生との交流もなかった、施設ではみんな家族という感じだったので特に異性として認識していなかった。結果的にこれまでの人生で異性と接する事など全くと言っていいほど無かった。

 つまり玲は同世代の異性とちゃんとした交流を持ったのは高校生になってからという事になる。

 「別に返事しなくてもいいさ。

 そのうちお前の方から俺に告白させてみせるからな!」

 ただ棒立ちになってるだけの玲とは対照的に玲奈には余裕が生まれていた。

 「そ、そうか……楽しみにしてるよ」

 ほとんど機能停止状態に近かった玲にはこの返答が精一杯だった。

 (とにかくこの事は後回しにして任務の事を考えよう……)

 玲は任務の事を確認するという名目で目の前の問題から目を背け時間に解決を委ねるという実に日本人的な選択をしたが、いずれまた取り組まねばならないという事を分かっていつつも逃げずにはいられないのであった。

 「任務前にこれじゃ幸先が悪すぎる……

 寝たら悪い夢見そうだし散歩してくるか」

 特に運などを信じている訳でもない玲だが自分に都合が悪い時は運のせいにしたくなってしまう。

 それに今眠ってしまえば夢見が悪い上、起きられないような気がしてしまうし、それに今は問題の中心である玲奈から離れたいという気持ちがあった。

 どの道これから三年間ほぼ毎日顔を合わす相手なのだから少しの間離れたからと言って問題解決からは程遠い事を今の玲はすっかり忘れているのであった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 太陽も沈みかけ辺りも暗くなってきた中、八代と玲はとあるビルの屋上からある場所を眺めていた。

 「麻薬の取引ってどっかの港みたいな所でやるんじゃないの? なんでこんな街中でやるのかねぇ……」

 まだ取引には時間があったが2人は取引場所、ひいては戦場の様子を先に見に来ていた。

 八代は街中と言ったが取引場所は大通りから外れた人気のない廃ビルである。

 「ドラマみたいにそんな逃げ場も人質ない所で取引するほど連中も馬鹿じゃ無かったって事だ。時間帯も真夜中にしていないからまだ大通りには人も多い」

 実際に取引場所に選んだのは玲ではない。だがその廃ビルは公にできない取引には向いている。

 人目につきにくい上、警察が張り込むにしても大通りの人達から見つからずに張り込むのは難しい。その結果大人数を配置出来ず完全な包囲網を敷く事が出来ない。仮に大人数を配置して万全を期したとしても大通りにいる正内組の見張りに見つかり取引そのものが中止になる。

 警察側としても捕まえる為(・・・・・)に大量の人員を投入しているので『取引は止める事が出来ましたが一人も捕まえる事が出来ませんでした』では話にならない。

 よって警察側も結果を出すために多少逃げられる事は承知で不完全な包囲網を敷かざるを得ない。

 「ほー、あの場所にそんな意味があった訳ね……

 結果を出さなきゃいけない警察のプレッシャーを逆手に取ったいい考えじゃんか」

 「それだけじゃない。

 不完全な包囲網で全員を捕まえる事は出来ない。必ず何人かは大通りに逃げる事が出来る。

 そうなれば何も知らない一般人を人質にとって身動きできなくなった警察から逃走くらい朝飯前だ。

 全てが終わった後に下っ端を自首させれば警察もそれ以上追及出来ない」

 規則で雁字搦めになった今の警察にとってルール無用のヤクザには相性が悪い。

 規則と言えば聞こえはいいかもしれないが悪く言えば規則とは自分達の行動を縛る枷とも言える。大半の人間は規則という枷を身につける事により法律という盾を得る事で身を守る。

 だが枷を身に付けず盾も持たない人間も少なからず存在する。そのほとんどはヤクザや犯罪者の類である。

 枷をした者が枷をしていない者を捕えるのは至難の業である事は言うまでも無い。余程の実力差が無い限り捕まえるのは不可能である。

 残念ながら今の警察にそこまでの実力は無い。

 警察の切り札とも言える象術警官も絶対数が少なすぎるため犯罪数の多い主要都市に配置するので手一杯の有様。

 結果として過剰な労働を強いられる象術警官は毎年何人か過労死しているため象術警官の志願者数もここ数年ほとんど増加していない。

 この悪循環により警察の戦力という意味での力は衰退していると言ってもいい。

 「だからこそ俺たちみたいな犯罪者でも実力次第では重宝される時代なんだけどな……

 でか、何でそんなイラついてんだ?」

 「何でも無い!

 じゃあ、俺はこれから警察と合流する。

 お前はビルの近くに身を潜め、警察が入って来たら全力で麻薬カルテルの連中から証拠を奪って逃走する。

 後は警察が事後処理してくれるさ……」

 玲はそのまま姿を消した。

 「あの様子だと玲奈と何かあったみたいだね……

 まぁ、それについてはまた日を改めてって事に致しますか。

 まだ時間はあるしもう少しここに居てもいいんだけど、念には念を入れて配置に付いとこう」

 すでに太陽は沈み辺りは闇が支配する路地裏へ八代も消えていった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「佐伯さん! 遅いですよ!」

 学生から象術警官へとジョブチェンジした玲を迎えたのは張り込んでいるのを忘れているとしか思えない大声での叱責だった。

 「すいません。思ったよりも仕事が長引いてしまって……」

 ちなみに警官の制服で張り込みなど論外である上に飲食店や娯楽施設の多いこの大通りなので九十九早苗と佐伯景は恋人同士に偽装してこの大通りに張り込む事になっていた。

 そのため玲も早苗も私服であった。

 「佐伯さん、これ似合ってますか?」

 「ああ、似合っているし動きやすそうだ」

 濃紺のスラックスに白のブラウス。デートに行く格好としてはどうか分からないが動きやすさという点では合格だ。

 さすがの早苗もこれから戦闘がある事を分かっていながらハイヒールなんぞ履いてくるほど愚かではなかったらしい。

 「分かっていると思うがあんたには正内組の相手をしてもらう。

 当然相手を殺すのは厳禁。あくまで捕縛および無力化する事。

 以上があんたの役割だ。

 何か気になる事は?」

 「何で正内組の相手は私だけなんですか?

 暴力団を確実に壊滅させたいのなら二人で取りかかった方がいいと思うんですけど……」

 早苗の言っている事は正しいのだが、今回の麻薬取引妨害は彼女のうかがい知らぬ事情により玲が仕組んだと言っても過言ではない。なので適当な理由を付けて誤魔化す事にした。

 「正内組に比べて麻薬カルテルについては情報が少なすぎるからあんたには荷が重いと上の連中が判断したらしい。

 本当ならあんたの言う通り俺達二人で正内組にかかればいいんだが、警察としては両方捕まえたいらしい」

 取引交渉の時点で正内組に顔の知られた玲が制圧側にいる事が分かると色々と厄介な事になる……というのが正直な本音なのだが当然言う訳にもいかないのでもっともらしい事を言って誤魔化しておいた。

 「分かりました。

 ところで大通りにいる見張りなんですが私が倒しましょうか?」

 それは暗に自分一人で全員倒せるという自負故か、それとも甘い自己評価故か。

 前者であって欲しいが別に見張りを倒すのは警察側からの指示であり、別に失敗した所で玲の計画に支障をきたす事はない。

 「じゃあ見張りは任せた。

 突入の合図と共に大通りの見張りを無力化してくれ」

 「はい!」

 大役を任されたのか早苗は嬉しそうだったが玲には理解出来なかった。

 倒した数に応じて特別給が出る訳でもないのに自ら仕事を増やすなど愚行以外の何物でもないが自分の仕事が減るなら歓迎すべき事なのだろう。

 『あと1分後に突入だ』

 装着しておいた小型イヤホンから現場指揮官の指示が2人に伝わった。

 2人はカウントダウンに合わせて突入しやすい位置へ移動していく。


 『3・・・2・・・1・・・突入ーーー!!!』


 (こっちはイヤホンなんだから叫ぶなっての……)

 極至近距離からの怒声のおかげで少し頭が痛くなってきた。常人よりも感覚が鋭敏であるが故にこの怒声はきつかった。

 そのせいで早苗にだいぶ離されてしまったが彼女が見張りを倒している間に追い付く事が出来るだろう。

 だがそんな予想は脆くも崩れ去ってしまった。目の前で起きた稲光によって……

 玲が見たのは一瞬で大通りにいた4人の見張りが倒れている光景だった。

 (今のはまさか操雷系配合か?)

 指揮官の怒声に気を取られていてよく見る事が出来なかったが間違いないだろう。

 操雷系配合とは文字通り雷、すなわち電気エネルギーを操る象術である。だが実際は配合によって得られたダークエネルギーとダークマターの混合体で電気エネルギーの通り道である回路を作るだけの技術であり、電気エネルギーそのものはエネルギー変換によって創りださなければならないので、実戦で使うには操雷系配合とエネルギー変換を同時に使わなければならない。

 そのため会得しようとする者すら稀な象術。

 だが会得すれば文字通り雷を操る事のできるスキル。

 「佐伯さん! 行きますよ!」

 一瞬で4人を倒した張本人は特に誇る事なく先に進んでいった。

 「こりゃ俺も見せ場作んないとな!」

 この先の廃ビルには八代もいる。下手な戦いは見せられない。

 任務とは無関係の感情を抱えたまま廃ビルへと玲は進んでいく。

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