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異常と正常の境界  作者: Rile
第2章 忙殺のゴールデンウィーク編
33/44

第33話 予想と予感

8月最初となる第33話投稿。

最近ホントに熱くなってきました。

クーラーが無い上にPCの排熱で部屋は灼熱地獄……

執筆作業が思う様に進まない……

 「わずか二日で慣れるとは……人間ってすごい生き物だな」

 昨日は警察署の前で緊張して足が動かなかった玲も二日目には最早何も感じる事無く警察署に入って行くようになっていた。

 「あっ、佐伯さん。おはようございます」

 意外にも早苗の方が早く来ていたらしい。どうやら昨日読んでおくようにと伝えておいた書類を今も熟読しているらしかった。

 しっかりしているかどうかは別にして努力家である事だけは確かなようだ。

 「おはようございます。

 書類にはちゃんと目を通しているみたいですね。

 さっそくですが調査に行きましょうか」

 「わっ、分かりました! 表に車回しておきます!」

 何を焦っているのか分からないが彼女は慌てて駆け出して行った。

 別に急かしたつもりは無かったのだが……

 「書類から大体の事は推測出来たから、後は確かめるだけか……」

 交渉室の方は警察とは別に捜査していて、その情報も玲に集まってきている。情報量という点においては早苗よりも数段上にいる事になる。

 そして交渉室の情報も加味した上で既に玲には事件の大まかな全体像が見えていた。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「麻薬……ですか?」

 いきなり告げられた言葉に早苗は運転中にも関わらず助手席に座っている玲に視線を移してしまった。

 「そうだ、麻薬だ。

 今回の事件、俺達の探してる象術(しょうじゅつ)が使えるようになる薬ってのは麻薬の事だ」

 あらゆる情報を照合した結果、この仮説が一番自然だという結論に達していた。

 「確かに麻薬なら納得もいきますけど、なんかこじつけてる感じがしません?」

 早苗の言いたい事も分かる。

 実際玲の仮説も早苗が目を通した資料だけでは判断できない。交渉室独自の調査の結果も含めての仮説なので立場が逆ならば玲でも素直には信じられないだろう。

 それも踏まえて玲は事前策を講じておいた。

 単に交渉室独自の情報を副所長――つまり睦月誠司――からの情報だという事にしておいた。もちろん誠司さんへの根回しもすでに済んでいる。

 とりあえずその事を早苗に説明すると、

 「もう副所長から信頼されてるなんて……やっぱり佐伯さんってすごい人なんですね!」

 不必要な尊敬を向けられる羽目になってしまった。

 つーか、なんでこいつの俺への好感度がウナギ登りなんだ?

 昨日は象術警官辞めろなんて言ってた奴だぞ?

 とにかく納得してくれたのだからそれで良しとしよう。

 「でも麻薬でそんな事できるんですか?」

 どうやら早苗が言いたいのは麻薬で象術が出来るように見せかける事が出来るのかどうかという疑問なのだろう。

 「幻覚性を高めた麻薬なら可能だろうな。

 しかもあらかじめ『象術が出来るようになる』という触れ込みで指向性も高めているから出来ない事は無いだろう。

 実際はもっと偽装工作してるだろうが出来るかどうかを聞かれれば出来ると答えられる」

 やってやれない事は無いがちゃんとした常識のある者ならばだます事は出来ない。そういう意味では出来ないと答えた方がいいのかもしれない。

 「象術の才能ってのは遺伝だから生まれた時に決まってるんだよ。

 つまり象術を使えるようにする薬は遺伝子を組み換える薬に他ならない。薬で血液型が変わらないのと同じだ」

 正しい知識を持っていれば特に騙される事も無い。騙されたという事は所詮その程度の知識しかない奴等なのだろう。

 「佐伯さんっていろんな事知ってるんですね~

 私なんて物理と化学以外はてんでダメなんですよ。

 やっぱり佐伯さんって子供の頃から天才とか言われてたタイプですか?」

 彼女からしたらただ尊敬から出た言葉なのだろうが玲にとっては地雷以外の何物でもないセリフだった。

 「少なくとも天才と呼ばれた事は無かったな……

 実際才能が無かったせいで親に捨てられた訳だし。

 知識なんて学べば誰でも会得できるんだから天才かどうかは関係ない」

 水無月八代という天才を目の前にして自分の才能の無さに絶望した事もあれば、努力が才能を凌駕するなどと自分に言い聞かせていた時期もあった。

 「それよりもあんたはなんで象術警官を目指したんだ?

 確かに世間的に認められている職業ではあるが死亡率の高い職業だから目指さない人も多いと聞くが?」

 なんとなく暗い雰囲気になってしまったので玲は話題を変える事にした。

 まぁ、この話題も地雷になりそうな予感がしないでもなかったのだが、

 「私は昔から正義の味方に憧れてたんです! だから悪を倒す象術警官はずっと夢だったんです!」

 思った以上に単純な理由だった。

 これまでのやり取りから察するに彼女はただのただ精神的に子供なだけなのだと考えられる。そうでもなければ正義の味方に憧れたりはしないだろう。とは思ったが口に出さないのが(玲の方が年下なのだが)大人というものだ。

 「何にせよなれて良かったな」

 「はい! あとは素敵な旦那様のお嫁さんになる事だけです!」

 ……もう考えるのはよそう。この話題も聞けば聞くほどドツボにはまっていくような感じがする。

 今のところやる事成す事全てが裏目に出ているような気がしてならない。

 「そっ、そうか……夢とかそういうのは置いといて、今直面してる事件の事について話そうか」

 結局は玲が話題から逃げる結果となってしまった。勝てない戦からは早目に撤退するのも戦略の一つだ。

 「とりあえずこの事件に象術が関係ないと証明した時点で俺達の仕事は終わりだ。後は別の奴等に任せるしかないだろう」

 事件の詳細はまだ分からないが象術警官である以上、象術に関係の無い事件には現行犯でない限り関与する事は出来ない。

 早苗も象術警官なのでそこら辺は納得してくれるだろう。

 「折角初手柄になると思ったのに~」

 全然納得していなかった。

 「手柄だけ求めるならただの悪党でも出来る。

 正義の味方になりたいんだったらそういう所は直した方がいい」

 象術警官は成功報酬制では無いので与えられた仕事だけしていれば普通に給料が貰える。さすがに正義感ゼロという訳にもいかないが基本的にお役所仕事で十分なのだ。

 「分かりました~

 っと、緊急連絡? って銀行強盗!?」

 2人の会話に割り込んできたのは近くで銀行強盗が発生したという緊急連絡だった。

 「どどど、どうしましょう!? 私銀行強盗なんて初めてで……」

 早苗はこれ以上無いぐらい分かりやすく取り乱していた。玲の方は取り乱してはいなかったが、ほぼ成功の見込みの無い犯罪をやろうとする連中がいる事に軽く驚愕していた。

 「俺も初めてだから安心しろ。

 とりあえずパトランプ点けて銀行まで向かえばいい。他にも連絡を受けた警官が駆けつけてるだろうからそれに合流すればいい」

 ここで早苗に慌てられると現場に着く事が出来なくなる。ならばせめて銀行まで送り届けて欲しかった。銀行まで着けば玲は自由に動けるので早苗が使い物にならなくても何とかなる。と考えていたが口に出すとそれはそれで災いの種になるので黙っておくのがベストだろう。

 「分かりました! しっかり摑まっていてください!」

 そう言うや否や早苗は一気にアクセルを踏み込んだ。

 その後の車内はジェットコースター並に揺れた事は言うまでも無かった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 早苗の快走(爆走?)のかいあって2人は最初に現場に到着したのだが、

 「すいません……」

 「もう気にしないから事件に集中してくれ……」

 あんな乱暴な運転をして無事故というのはある種の才能と言えるのかもしれないが、玲もまさか車酔いをしてしまうとは思わなかった……早苗が。

 「大丈夫でぷっ……うっ……本当に大丈夫ですから佐伯さんは事件に……」

 事件に集中してください、と言いたかったのだろうが最後まで続かなかった。それほどまでに酷い車酔いなのだろうが野次馬にまで心配されると最早憐れみすら感じてくる。

 「分かったから休んどけ。

 他の警官達が来るまでまだ少し時間があるから少しは回復出来るだろ……!?」

 玲のセリフは突如飛んできた銃弾に遮られてしまった。しかもその銃弾は早苗直撃コースだった。

 玲は右腕で早苗を庇ったが当然右腕だけで銃弾を防げる訳が無い。

 だが玲はコンバートで銃弾の運動エネルギーをダークエネルギーに変換する事で銃弾の威力を格段に減らしていた。

 「ぐっ……」

 咄嗟の判断でコンバートを使ったため銃弾の威力を完全に殺す事は出来なかったが腕に突き刺さるほどの威力は残っていなかった。

 だが発砲の際火薬で焼かれ空気摩擦で熱された銃弾は玲の肌を焼くのに十分な熱量を持っていた。しかも玲がコンバートで変換したのは運動エネルギーだけ。つまり熱エネルギーについては何もしていない通常の熱量を持っている。

 幸い軽度の火傷で済んだ上に周りの野次馬にも玲が何をしたのかはばれていないみたいだった。

 (あれは……八代?)

 周囲の状況を確認して初めて銀行強盗達を倒しているのは八代であるという事に気付いた。

 玲が気付いた頃には銀行強盗達は全員八代によって無力化されていた。

 この時点で玲の優先事項は八代から身を隠す事になった。もし八代に見つかれば2人が知り合いである事がばれてしまう。現在は年齢詐称して象術警官の身分にいるため玲の実年齢がばれる事は任務失敗を意味していた。

 なれば自分が銀行に足を踏み入れて現場検証、っていうのはもっての外。都合よく早苗も回復したようだし銀行での現場検証は彼女に任せよう。

 「気分が良くなったようなら銀行強盗で人質となっていた人達から聞き取り調査を頼む。俺は警察官と事務的な作業を進めておく」

 「分かりました! 早速行ってきます!」

 相変わらずレスポンスの速い女だな……

 とりあえずこれで八代と会わずに済むだろう。

 警察官との事務的な作業と言っても現場の引き継ぎくらいのものだ。正直ほとんど時間はかからない。

 実際後からやって来た警察官も玲とあまり話すことなく現場の引き継ぎは終了した。

 早速ヒマになった玲に早苗から電話がかかって来た。彼女は今現場で聞き取り調査中なので何か分からない事でもあったのだろう。

 「もしもし? 何か分からない事でも?」

 『はい……えっと、聞き取り調査が終わったら何するんですか?』

 「さっき現場の引き継ぎが終了した。そいつらが来るまで関係者には現場の外に出ないように伝えておいてくれ。担当の警察官が来たらあんたも戻って来ていい」

 『分かりました……それと、象術を使って銀行強盗達を倒した少年がいるんですけどその子の身柄も拘束しておいた方がいいでしょうか?』

 「いや、とりあえずその少年にも外に出ないように伝えておくだけでいい。身柄の拘束については俺が担当の警察官と話してくる」

 そう言って電話を切ったはいいが少々面倒な事になってしまった。

 "象術を使って銀行強盗を倒した少年"というのは間違いなく八代の事だ。八代にはこの後任務が控えているので長時間の拘束は避けたい。

 八代はあまりのも格下の相手に象術を使うのを好まないのでてっきり象術を使っていないものだと玲は思い込んでいた。

 この場合では完全に過剰防衛になってしまう。

 気は進まないがさっきの警察官のもう一度話をしに行く事にした。

 「お疲れ様です。この事件の担当者にお話があるのですが……」

 「担当者は私ですが象術警官と話す事なんてありません」

 取り付く島もないとはこの事だが、そんな事は百も承知だ。

 警察官の中にも象術を使える者はいる。が、そう言った者は大抵、象術警官になれずに普通の警察官になったという者である。どうやらこの担当者もそのクチらしい。この冷たい反応もただの嫉妬故なのだろう。

 「でもそうもいかないんですよ。

 銀行強盗達を倒したという少年なんですが、目撃者の証言によると象術を使ったらしいんですよ。

 なのでその少年の身柄は象術警官である私達が預かります。よろしいですね?」

 「好きにしろ……」

 象術関連であれば象出警官の権力は絶大だ。それを分かっているからこそ玲も象術を強調して強引に首を縦に振らせた。それにしても好きにしろ、って最後完全に捨て台詞になってたな……

 ともあれこれで八代の身の安全は保証した。これ以上ここにいても何もいい事は無いので八代から身を隠す意味も込めて早苗が戻るまで車の助手席で休んでいた方がいいだろう。

 今回も関係ない事件に巻き込まれた感は否めない。だが玲はこの事件が自分達の任務に関わって来る事を薄々ながら感じ取っていた。

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