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異常と正常の境界  作者: Rile
序章 受験編
3/44

第3話 胎動

初めてサブタイトルに"受験"が付かなかった……

今まで狙っていた訳ではないんですが。

やっと女性キャラ登場!でもまだバトルシーンがない……いつになったらバトルシーンが書けるのやら。

 「「とりあえず身の潔白を主張しよう!」」

 警察署まで連れて来られる事でようやく自分達が今、どのような状態にあるのかを理解した上で2人の考えは一致していた。

 警視庁から来る象術(しょうじゅつ)犯罪の専門家が自分達の取り調べを行う。という事は聞かされていたため、ちゃんと話せば自分達が犯人でない事を分かってもらえるのではないか。八代には希望が見えている状態であったはずなのだが……

 

 「この2人が駅を破壊した犯人か~」


 取調室に入ってきたのは若い女性だった。

 女性にしてはやや高めの身長、肩甲骨あたりまで伸びている髪やスーツにタイトスカート、場所を変えればただのOLにしか見えないような女性だった。

 しかし、第一声で自分達を犯人扱いする以上、この女性こそが警視庁から来た象術犯罪の専門家なのだろうが、ちゃんと話しても取り合ってくれないような気がした。

 壊滅的な文系の成績を誇る八代では交渉しても100%負ける。という確信があったため、話し合いは頭の切れる玲に全面的に任せるのがこの2人の暗黙の了解となっていた。

  


 どうやら八代はこの女性との交渉は取り決め通り玲に丸投げらしい。確かに玲1人で交渉した方が勝率が上がるのは考えるまでもない。八代が交渉に参加すれば余計な事を言ってそこに付け込まれるのが目に見えている。何もしないならそれが一番なのだ。

 このOLにしか見えない女性も象術犯罪の専門家である以上、象術についてはかなりの知識と技術を持っていると考えていいだろう。何か1つでも間違えればたとえ玲でも一気に勝負を決められてしまうだろう。

 (とにかく今はこの女性との話し合いから情報を得る事が先決だ。)

 どんな優れた交渉人(ネゴシエーター)でもある程度の情報が無ければ何もできない。

 「まずはじめに、私の名前は河崎 碧(かわさきみどり)。聞いているでしょうけど、警視庁から来た象術犯罪の専門家よ」

 「久桐玲です」

 「…………」

 女性のいきなりの自己紹介に俺も自己紹介を返す。八代は自己紹介すらしない。どうやら今回は完全に沈黙を決め込んでいるらしい。2人の書類に目を通しているはずだから自己紹介などしなくても問題はないのだが、八代にとっては何も言わない事が最高の選択だと考えているようだった。それはあながち間違ってもいないが……

 「いきなり本題だけど、なんで駅を破壊なんてしたの?」

 どうやら彼女の頭の中では犯人は俺達で決定しているようだ。本当にそう思っているのか、それともこちらを挑発しているのか。どちらにせよ反論しなければ2人が犯人で確定してしまう。

 「俺達は駅を破壊なんてしていません」

 簡潔だが明確な否定。彼女に情報を与えず伝えたい事だけを伝える。ここから彼女がどのように返してくるかによってこちらも打つ手を変えていく必要がある。

 「あなたの隣にいる水無月八代君が駅を指さして象術を使うのを見た、という目撃証言があるのだけれどそれについては?」

 予想通りの返答。 彼女が目撃証言だけを根拠に攻めてくるのであれば、こちらは打つ手を変える必要はない。あらかじめ用意しておいたセリフを言うだけでいい。

 「その証言をした人は象術の才能があったのですか?象術の発動に必要なダークエネルギーやダークマターは専門の機材がない限り、一般人に知覚できるものではありません。現場となった駅の周辺にそんな機材はありませんでしたし、その人に象術の才能がない限り八代があの時象術を使ったという証言にはなりません」

 玲の言った事は本当だった。象術の才能とは、本来地球では存在できない――正確には地球の外でしか生まれなかったり、地球をすり抜けていったりするダークエネルギーやダークマターを知覚し、その身に取り込む事が出来るというものである。彼女の言った目撃証言が正しいと仮定すれば、八代が駅を破壊するために象術を使ったのではないと分かるはずだし、俺達を目撃した女性も容疑者の一人となってしまう。

 「確かに、目撃証言をした女性に象術の才能はなかったし、彼女は容疑者に挙げられていない。しかし現場の周辺にいた人達からは爆発音は無かったと証言しているし、駅も設計図で見る限り強度も問題なかった。これらの状況から事件発生当時駅の周辺にいた"象術を扱える者"であるあなた達があやしいという結論になりました」

 ……なるほど、目撃証言の次は状況証拠か。しかし俺達を"象術を扱える者"と言ったあたり、専門家っていうのは間違いないようだ……

 象術士とはただ象術を使える者を示すのではなく、国から一定以上の技量を認められた者を示す言葉であり、ある種の国家資格と言える。象術士でなく、象術を使える者の事を"象術を扱える者"と呼んでいる。世間一般では象術を使う事が出来る者をまとめて象術士と呼んでいるが、"象術士"と"象術を扱える者"を呼び分けている事が河崎碧という女性が象術にかかわる仕事をしているという証明なのである。

 しかしこの調子ならば無罪放免も時間の問題かもしれない。この状況証拠を論破すれば、彼女に打つ手は残っていないはずだ。

 ここで玲は攻勢に転じる事にした。

 「もし仮に俺達が象術を使って駅を破壊したとしても俺達がいた場所からでは駅の外側から攻撃しなければなりません。そうなれば大質量の物体を膨大な運動エネルギーで飛ばす、という方法が考えられますが、その場合飛ばした物体は現場に残ったままになります。それに駅を破壊した際の破片などが俺達の反対側の方に散っているはずです。それがなかった以上、俺達が犯人とは言い切れないのではないのでしょうか?」

 「確かにそうね……」

 彼女の様子を見る限り、これ以上の証拠は無いようだ。 この時点で玲は無罪放免を確信していた。  そんな玲の様子を見て、さっきまで一言もしゃべらなかった八代もほっとしたように席を立った。

 互いの様子から大体何を考えてるか分かるほどには2人は以心伝心なのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「もう遅いので帰ってもいいですか?」

 さっきまで沈黙を守っていた八代も無罪放免を確信し、上機嫌になっていた。

 「そうね、なんなら送って行きましょうか?」

 「いえ、近いので歩いて帰れます」

 彼女の提案を玲はやんわりと断った。実際彼らの家は近くはなかったが、玲としては一刻も早く彼女と警察から解放されたいためその提案には乗れなかった。

 「そう……でも2人共あんな所で何をしていたの?」

 彼女の疑問に答えたのは何もしゃべる事のできなかった反動からいつになく饒舌(じょうぜつ)になっていた八代だった。

 「俺達は受験対策をしてたんですよ。啓莱高校受けるんで、実技試験対策のために過去の課題を練習してい……「おいっ!このバカ!!」むぐっ!?」

 いきなり玲が八代の口をふさいだ。 だが時すでに遅し、

 「そう……啓莱高校を受けるの……」

 碧はそう言うと嬉しそうに、

 「なら2人共……象術監視にしておきましょうか!」

 玲が最も恐れていた決断を下した。


   * * * * * * * * * * * * * * *

 

 「最悪だ……」

 この上なく沈んだ様子でブランコに乗っている玲と、

 「俺がなんかやばい事言ったみたいだけど……象術監視って何?」

 自分達の身に起きている事態を全く理解できず、公園のベンチに腰掛けている八代。

 少なくとも自分のせいでこのような事態になってしまった事だけは認識していた。

 「象術監視っていうのは象術犯罪の現場近くで象術を使っていて事件の容疑者になった者に対する処罰の1つだ。象術監視を宣告された者は自身の容疑が晴れるまで象術の使用を禁止する。それを破ればそれだけで犯罪者の仲間入りって訳。いわば執行猶予みたいなものだ。当然人命救助の為など例外もあるにはあるが、事実上象術の使用を完全に禁止されたと言っていいだろう。つまり、俺達は啓莱高校の実技試験を受けられない……」

 事実上の受験失敗の宣告をされた八代は、

 「あの時、俺が啓莱受けるなんて言わなければ象術監視にならなかったのか?」

 自分の失言に気付いたが、玲は違うとばかりに首を横に振り、

 「いや、俺達の情報はすでに彼女の手元にあった。象術を使える中学3年生――俺達が啓莱高校を受験する事は容易に推測できたはずだ。彼女と対峙していた時点で俺達の負けは確定していたんだよ」

 自分の失策にうなだれていた。

 「じゃあ、あの議論は……」

 「ただ彼女に遊ばれていただけだな……もしくは油断させるための囮だったのかもな」

 八代は自分の我慢の無意味さを、玲は彼女の真意を見抜けなかった事にそれぞれ落ち込んでいた。だがそれも長くはなく、

 「こうなったら俺達で犯人探しするしかないな!」

 八代よりはやく立ち直った玲がこれからの指針を示したが、

 「なんで俺達が探すんだ?警察がやってくれるだろ?」

 八代の理解は得られなかった。

 「俺達は受験日までに象術監視を解かなければならない。今は1月、受験まで1カ月しかない以上、警察の捜査ではおそらく間に合わない!!」

 「なるほど。確かに俺達でやらないと駄目みたいだな!!」

 玲の説明に八代も納得し、

 「そうと決まれば早速明日から捜査開始だ!」

 ここに2人だけの試験科目、事件捜査が追加されたのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「あの2人は事件捜査の決意でもしてるのかな~♪」

 2人の書類に目を通した際に彼達が啓莱高校を受験するのは予想が付いてた。象術監視にすれば独自に事件の捜査を行うであろう事も予測できた。

 「私も少しは楽したいしね~♪」

 彼女は元々あの2人が犯人だとは思っていなかった。ここに来る前に少しだけ現場を見てきたが、おそらく駅の中から象術が使われたというだけは分かったので彼等の犯行は有り得ないという事だけは分かっていた。

 「ひょっとしたら掘り出し物かもしれないし♪」

 この書類によれば2人とも象術の才能は目を見張るものがあるし、まだまだ甘いが駆け引きの才能も十分だろう。うまく育てれば、凄腕の象術士になるかも知れない。

 「まずは、身に降りかかる火の粉を払ってみなさいな!」

 これは入学試験。私から2人へ、私達()の所へ来るための入学試験……

 「2人の事、意外と気に入ってるんだから合格してね!」

 2人共十分イケメンだし……っといけない、いけない。ダーリンに怒られちゃう♪っとそれよりも万が一の時は強引に引き入れる事になるかもしれないし、明日からは事件の捜査とは別に彼等の身辺調査もしなくちゃいけないんだからもう寝ましょう……

 こうして首謀者の夜は更けていった。

週末を利用して第3話投稿~

これからは平日という事もありかなりの亀更新になってしまうかと思います・・・

期待しないで待っていてください。

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