第25話 解決
やっと第25話投稿。
次話投稿までの期間が過去最長となってしまいました。
八代は自分が担当する三階の拠点のテロリストを殲滅するため単身三階へと向かっていた。
だが、
「どうやって攻めよう……」
八代は拠点の近くまで接近していたがそれ以上近づけないでいた。
人質がいなければ拠点ごと操炎系で一気に殲滅する所なのだがなかなかそういう訳にもいかない。
(結局はテロリストの拠点に突撃するしかないって事か。)
玲のような器用さを持ち合わせていない八代にとって不格好ではあるがそれぐらいしか方法が思いつかなかった。
(まずは見周りの奴らを片付けるか……)
すでに八代はテロリストの警戒ゾーンの中にいるため、ここに居続ければいつかは見つかってしまうだろう。
それならばその見周りだけでも倒して敵の戦力を削いでから拠点に攻め込んだ方が都合がいい、という結論に八代は至っていた。
ちょうどいいタイミングで自分に接近する気配を感じた。
八代は懐から武器を取り出し(武器と言っても柄だけなのだが……)、物質変換で脇差位の長さの刃を付ける。これで八代には脇差二振りを手に入れた。
(やっぱし、持ち心地は最高だな……)
柄まで象術で作ろうとすればそれだけ時間がかかってしまう上、出来上がりも今持っている物に遠く及ばない。
そんな面倒な事をするぐらいなら柄だけはあらかじめ用意して置いた方が効率がいい、というのが玲の言葉なのだが全くもってその通りだった。
近づいて来るのは2人……足音からしておそらくは男女のペア……どうやらテロリストは二人組で行動する事になっているらしい。
交渉室の情報によればテロリストの正体は人質に紛れた生徒9人の保護者プラス篠の両親である。
その生徒達もテロリストの仲間と考えると二階と三階合わせてテロリスト29人、人質12人という事になる。単純に二階と三階で半分づつ配置したとすればテロリストは14か15人、人質は6人である。しかも二人組で行動しているとなると敵は7組という事になる。
つまりは今からやろうとしている事を7回繰り返せばテロリストはほぼ殲滅できる計算なのだが何回も同じ罠にかかるほどテロリストもバカじゃないだろう。
そろそろ敵が角を曲がり八代に視界に入る。
八代は敵から死角になる場所に移り敵が通り過ぎるのを待つ。
(今だっ!!)
敵が通り過ぎた所で背後に忍び寄り左右の手に持った脇差で後頭部――正確には延髄がある部分――を刺した。
「……っ!?」
いきなり後頭部を刺されたテロリストは何の抵抗できずにそのまま息絶えた。正面から見ると突き刺した脇差が額を貫通して角が生えたみたいになっている……正直あまり気持ちの良い光景ではなかった。
『応答しろ!! 何があった!?』
どうやら倒れる音が無線を通じて敵の方に伝わってしまったらしい。これでテロリストも侵入者の存在に気付くだろう。
(どうせ気付かれるなら派手にいくか!)
玲には申し訳ないが宣戦布告させてもらいますか。
「何があったかというご質問ですが、ご本人に代わりに私が答えさせていただきます。」
『てめぇ……政府の奴か!?』
まぁ、正解なんだがそこまで教えてあげる義理は無い。
「残念ですが解答は最初の質問のみとなっております。したがってその疑問にはお答えできません。
まぁ、私がここにいる時点で何があったかはご想像できると思います。ですのでその想像をもって私の解答とさせていただきます。
それではまたごきげんよう!」
がしゃん!!
言いたい事は言ったのでうるさくなる前に無線機を床に叩きつけて壊しておいた。結構響いたので俺の居場所はばれていると考えた方がいい。変に引きこもられるよりは出てきてくれた方が何かと都合がいい。
玲がどのようにして拠点に攻めようと考えてるのかは知らないが後で小言の一つ位は言われる事だろう。
「という訳で敵さんがやって来るまでゆるりと待ちますか♪」
敵地に潜入している人間とは思えない気楽さで八代はその場に座って敵が来るのを待つ事にした。
数分と待たずに多数の気配が八代に近づいて来ていた。
「やっとか……こっちはいつでも準備オーケーだってのにな。」
準備と言っても心の準備だけなので時間はほとんどかからない。
「こっちだ!!」
「遠路はるばる疲れ様で~す。」
姿を見せたテロリストにとりあえず労いの言葉をかけておく。どうせすぐやられちゃうんだしね……
「お前は、水無月八代?」
現れたテロリストの一人が俺の名前を呼んだ。どうやらテロリストの子は人質ではなく共犯者ってのは正しかったらしい。
「まぁ、見ての通りという事で……こっちの都合を押しつけて申し訳ないんですがさっさとやられて下さい。」
無意味な問答するつもりはなかったので用件だけを伝える事にしたが、
「ざけんじゃねぇ!! てめぇがやられろよ!!」
まぁ、予想通りではあるが相手は激昂して手にしていたサブマシンガンをこちらに向けてくる。
「何っ!?」
だが八代に向けられたサブマシンガンは一発も弾を放つ事なく彼等の手を離れ天井に張り付いてしまった。
「俺も人間なんで撃たれりゃ死んじゃうからそんな物は向けないでくれ。」
不敵に笑う八代だったがいきなり武器を取り上げられた方は青ざめていた。
「何が起きてるんだ……?」
重力に反した現象を前に何もできないでいた。
「ただの配合……象術使っただけなんだけどな。」
正確に言えば磁力系配合。
ただ磁力を生み出すだけなのだが金属や精密機械に囲まれた現代では絶大な効果を発揮する。だが磁石に反応しない材質の武器を使われれば意味は無いのだが。
まぁ、象術が使えるにも関わらず銃など持ち出してくるあたり象術に自信があるという訳ではなさそうだ。
「そろそろ幕引きとしますか。」
その言葉を合図にテロリストの周囲に大量の炎が現れた。
操炎系配合の遠隔変換により逃げ場を失ったテロリスト達は何一つ抵抗できずに倒された。
常識的に考えて拠点に何人か残しただろうがそれほど多くないだろう。後は力押しで何とかなる。
そこまで考えた所で八代は玲から貰った仮面を付けた。不本意だが正体がばれる事を思えば仕方ない。
「三階はあらかた片付けた。二階は頼んだぞ。」
二階は頼れる相棒に任せ、八代は残りの敵を駆逐すべく拠点に向かう事にした。
* * * * * * * * * * * * * * *
八代が宣戦布告した頃、玲は八代の暴挙にあきれ果てていた。
宣戦布告した事自体については呆れていない。むしろ敵を拠点から誘い出す策としては有効だと言える。ダメだったとしても状況があまり変わる事もない。
だが問題はその方法だった。
ボイスチェンジャーも無しに無線機から宣戦布告するという事は自分の声を、つまりは自分の正体を教えていると言っても過言ではない。
今回の任務の最優先事項を無視した暴挙である。
しかも動き出したのは三階の敵だけ。つまり玲が担当する二階の敵は閉じこもったままということになる。
(ホント余計な事してくれたよ……おかげで少し考えないといけなくなった。)
できる事なら付けたくなかったこの仮面とローブも付けなくてはいけなくなるかもしれない。
そうこう考えている内に敵の拠点の近くまで来てしまった。
どうやら八代の宣戦布告によって敵は拠点に引きこもってしまったらしい。
もしそうなら八代の宣戦布告も案外悪いものでもない。
「さて、見学ツアーに来た訳でもないんでさっさと用件済ませてくるか……」
玲は懐から武器|(柄だけで刃はない)を取り出す。 いい加減この武器にも名前を付けた方がいいだろう。
そう考えつつ玲は物資変換柄に付ける武器を創った。だが柄に付けたのは刃でなくハンマーだった。
接合部さえ合わせれば刀だけでなくあらゆる武器を装着する事ができる。
「そうだな……こいつの名前はナユタにしよう。」
柄だけだが俺次第であらゆる種類の武器になるこいつにふさわしい名前と言えるだろう。
ナユタの語源は那由他という数の単位である。億や兆よりも遥かに大きな単位でありそれほど多くの武器になれるという意味を込めて名付けたのだが些か見栄を張り過ぎた感も否めない。
「さて、これが俺達のデビュー戦だ!」
そう言ってドアに向かってハンマーを打ちつけた。
特に補強されていないドアは教室の中に吹っ飛んでいった。
「誰だ!!」
中にいたテロリスト達が一斉にこちらを向いてくるがわざわざ名乗ってやるほど俺は親切じゃない。
敵が冷静さを取り戻す前に勝負を決めるためには何よりもまずスピードが大事になってくる。
(敵は14人……5秒で片付ける。)
まずナユタに付けていたハンマーを外し右の敵に向けて飛ばす。敵の注意が逸れている隙に左側の敵に接近すると同時にナユタを刀にして切りつける。目の前まで接近してしまえば銃よりも刀の方が強い。
そして敵の死体を残りの敵に向けて飛ばして注意を逸らす。
後は操炎系配合で燃やせば万事解決。
常に先手を取り続けた玲の圧勝だった。
最後の一人を倒した所で玲は教室を出ていった。外に連絡するにしても人質となっている生徒達に声を聞かれる訳にはいかない。
幸い八代の方も片付いたみたいだし、後は俺達が担当する事ではない。
何と言えばいいのか分からないがいざ戦いになるまでが面倒な任務だった。
でもこうして敵を全滅させた以上、俺達がする事は何も残っていない。
「4月26日16時37分、敵勢力壊滅により任務完了。」
これで俺達の任務はめでたく完了ということになった。
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