第24話 下準備
やっとこさで第24話投稿。
「とりあえず俺達は作戦が始まるまで真琴さん達を足止めする事。」
八代が玲から受けた指示はこれだけで肝心の作戦内容については教えてもらっていない。(玲曰く、その時になれば分かる、との事だった。)
「遅い!これからテロリストを対峙しようって時に何ゆっくりしてたの?」
トイレから戻った2人を待っていたのは真琴さんのお説教だった。
やれ心構えが足りないとかもう少し緊張感を持てなど、延々と繰り返される説教に飽きつつも時間稼ぎのため我慢するしかない。
それにしても退屈この上ない。
(……誰か近づいてくる?)
説教の途中でこちらに近づいてくる気配を感じた。しかも正確にこちらに向かってきている。
しかも気配がだんだん近づいてくるというのに玲は気にする様子はない。
という事はこの気配の正体は玲の差し向けたもの――おそらく交渉室のメンツなのだろう。
先を行く真琴さん達はそんな2人の事情を知る訳もなく意気揚々と目的地へと向かっている。
(そこの角を曲がれば遭遇する~)
何も聞かされていない俺は軽くパニックに陥ってしまうが玲はそんな俺の襟首を掴んで、
「危ない! 逃げてください!!」
後方へ一気に飛び退った。
……あれ? 警告遅くない!?
まさか本気で気付いていなかったと!?
もちろんそんな事は無かった。
玲の警告で振り向いた真琴さん達は自分達に接近していた気配の主――達樹さんと誠司さん――によって一網打尽にされ、仲良く気絶していた。
玲の遅すぎる警告は皆の注意を引きつけるためのものであったらしい。
まぁ、計画の内容とかいろいろと聞きたい事はあるのだがまずこれだけは聞いておきたかった。
「2人共その格好はどういう事ですか!?」
俺達の目の前に現れた2人の格好は迷彩服に目だし帽目だし帽だった。 兵隊にもテロリストにも見える中途半端な格好、というよりどちらにも属さないただの変質者の格好と言っても過言ではないだろう。
「いや、これは玲君がテロリストらしい格好で来てくれと言うかそうしたんだが……」
「確かにそう言いましたがその奇妙な格好までは指定していません。」
誠司さんの釈明を玲はばっさりと切り捨てた。
「それよりも早く作戦を進めましょう。 せめて晩御飯は食べさせてくれ……」
時間はもう昼を過ぎていた。 昼メシは諦めるしかなさそうだ……
「それよりもそろそろ話してくんないか? お前が考えた作戦について。」
悪いがこれ以上引っ張られるのはゴメンだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
玲が八代に作戦を教えなかったのは考えあっての事だがそれが八代に伝わっているはずもない。
作戦が上手くいった以上、八代に隠しておく事は何もない。
「もちろん話すさ……
まず第一に今回の作戦はの目的は俺達が真琴さん達から離れて独立行動できるようにする事だった。」
要は邪魔な奴を遠ざけるってだけなんだけどな……
「そこで考えたのはテロリストに真琴さん達を捕まえてもらって安全な所に隔離するという作戦だ。」
「だから2人はこんな奇妙な格好を……」
それについては否定できない。 テロリストみたいな格好としか言わなかった自分にも幾許かの責任があるのだがそれについては黙っておこう……
「ならなんで俺に黙ってたんだ?」
作戦を八代に教えなかったのは故意なのだがこいつは分かってないのか?
「お前入寮式での失態を忘れたのか?」
全てはこの一言に尽きる。
「……忘れてません……」
これで八代にも理由は分かったみたいだな。
もし八代に教えていれば必ず態度に出てしまう事だろう。 それでばれなければいいのだが、そんな危ない橋を渡るほど俺は冒険者じゃないという訳だ。
「それにこの作戦の利点はそれだけじゃない。
いざ隔離した後、真琴さん達を監視し続けないといけないがここには睦月誠司という専門家がいる。」
睦月誠司というエージェントは言うなれば守備のエキスパートである。 その反面、今回の殲滅作戦などには向かない。
なればその実力を発揮できるポジションを作ればいい。 テロリストの殲滅は俺と八代で十分なので誠司さんと達樹さんに彼女達の監視を任せておけば間違いは無い。
俺達が彼女達から離れ、さらにはテロリストから守れるという一石二鳥の作戦なのである。
「とにかくこれで当初計画していた通りの状態になった訳だ。」
いろんな邪魔が入ってしまったがこれで本腰入れて任務に取り組める。
「玲、あれはどうするんだ?」
あれ、ね……
八代の言う『あれ』が分からない訳ではない。 前日に知ったテロリストの意外な情報についての事である。
放置しておくには危険な因子である事に間違いは無い。
「そう、だな……テロリストの殲滅はそれを片づけてからにするか。」
どの道ずっと無関係ではいられない。 いつか目を向けなければならない問題ならば今片付けておいた方が殲滅に集中できる。
「とにかくこの子達を安全な所に運んでからにしないか?」
すっかり次に移ろうとしていた玲と八代に誠司が割って入ってきた。
誠司の視線の先には気絶して積み重なっている真琴達がいた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「……やっと起きた。」
今、この場には玲と八代と篠しかいなかった。 そしてたった今、篠が目を覚ましたばかりであった。
「玲君!? えっと……他のみんなは!?」
玲の姿を確認した篠は辺りを見回して他の友人達を探すがこの教室には3人しかいない。
「心配しなくても安全な所にいるよ。」
俺達を代表して八代が答える。 真琴さん達は誠司さんと達樹さんに任せてあるので彼女達が暴れようともテロリストが攻めて来ようとも問題ない。
「そう……よかった。 でもなんで私達だけこんな所にいるの?」
その言葉に篠は安堵したようだが同時に疑問にも思ったようだ。
「それは神楽篠がテロリストと関係があるって事をみんなに聞かれたくなかったからだよ。」
時間もないので八代はさらっと本題に入っていく。 上手くなったものだ。
それに対する篠の表情は――――無表情だった。
その無表情だけでも八代の言った事が事実だと判断できるが、目に見えてうろたえたりしないだけマシなのかもしれない。
「なんでそんな事言うの……?」
そう反論する篠は今にも泣きだしそうだったが泣き落としにやられるほど八代も甘くない。
「テロリストの中に篠の両親がいたから篠もテロリストだと判断しただけだよ。」
俺達が手に入れた情報で篠の両親がテロリストだという事は分かっていたが篠自身については情報が無かったため、この場で確認しているという訳である。
「……ふふふ、そこまでばれてた訳?
でも私の両親がテロリストなんてよく分かったわね。 やっぱりあんた達ただの学生じゃないみたい。」
突然、篠の口調が180°変わった。
「それが本性って訳か。
DID、解離性同一性障害。 分かりやすく言えば二重人格だっけか? 先に玲から聞いてなきゃ信じられねぇ事だな。」
確かにそれは八代に教えていた事である。 八代に教えたのには考えあっての事なのだが願わくばその考えが的中しないで欲しいものなのだが……
「あはははははっ!! 何その的外れな妄想!
別に私は二重人格でも何でもないわよ!!」
何がおかしいのか篠は笑いっぱなしだった。
「やっぱりそうだったのか。 不自然な点が無い訳でもなかったが本当に演技だったとはな……
その演技力、少しは八代に分けて欲しいものだな。」
俺の考える悪い方向へ事態は進行してしまっているみたいなのでこれからは俺が話すとしよう。
「玲君が一番厄介だと思ってたけどその通りだったみたいね。
その次は莉々だけどそれ以外は問題外ね。」
どういたしまして。
「あんたも大したモノだよ。 実際、八代を先にけしかけなきゃならない程だったんだからな。」
ぎりぎりまで演技かどうか分からなかった。 だから八代に二重人格の話をして篠にけしかけた。
篠が二重人格という推測が当たっていればそれで良し、もし違っていても俺が後からその間違いを訂正するだけである。
二択問題で二回の解答権が与えられていれば100パーセント正解できる。
卑怯と言われるかもしれないがそれが久桐玲のやり方だ。
「それで私がテロリストだったらどうするつもりだったの?
疑っているからには当然その事についてもかんかえてるんでしょ?」
「もちろん……「味方にする。」……って玲!?」
想定外の単語が飛び出したので八代は困惑してしまった。 まぁ、八代には言ってなかった事だけどな。
「篠は象術の才能も十分だし、何よりその演技力は潜入には申し分ない。
八代と組んでもらえれば面白いペアができると思うんだが……」
もし八代と篠がペアとしてやっていけるのであれば俺も楽が出来る。
「味方になるのはいいけどそっちはいいの?
敵かもしれない人間を仲間にしようだなんて正気の沙汰とは思えないけど?」
「そうだ! 大体篠がテロリストじゃない証拠ってあるのかよ?」
篠は満更でもなさそうだが八代は反対らしい。
「あるよ。
篠の両親はテロリストだが、これまで篠がテロ活動に参加してたという報告は無い。 つまりまだ篠は人を殺した事がないって事だ。
これで十分だろ?」
「そう……だな。」
これには八代も納得してくれた。
「そのとおり私はまだテロ活動をした事が無いのよ。 両親ともあまり上手くいってないからなんだけどさ。
おかげで今回の作戦からも外されたって訳。 アーユーオーケイ?」
さっきからずっと思ってたが、こいつ意外とバカっぽい?
それはともかく両者の合意も取れた事だしとりあえずペア成立という事でいいか。
「オーケイ。 とにかく俺達は引きこもりのテロリスト達を潰してくるからその間に俺達の組織について聞いといてくれ。」
おそらくは達樹さんが交渉室の説明をする事になるのだろうが彼なら万が一篠が裏切っても対処してくれるだろう。
「分かったわ……それよりもこの拘束具なんとかしてくれない?」
象術士を拘束するのは容易ではないので拘束具も仰々しいものになっていた。
目隠しに五指の動きを制限する手袋型の手錠などなど……
「達樹さんが来るまでそのままで待っておいてくれ。」
そのまま玲は教室を出て行ってしまった。
「そういう訳で我慢しといてね~」
八代も玲に続いて教室を出ていく。
「ちょっ!? 待って!! この人でなし~!!」
そんな篠の叫びを聞く者はいなかった。
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篠のいる教室から離れた玲と八代はテロリスト殲滅の作戦を確認し合っていた。
「八代は三階の拠点を、俺は二階の拠点をそれぞれ落とす。
外から目立ちすぎない事と人質に正体がばれないようにする事。 この二点を守ってくれればやり方は特に指定しない。」
「了解。 そんでもってこれで顔を隠せって事?」
八代が取り出したのは誠司達がやって来る時に持ってきてもらった仮面とローブだった。
この二つがあれば全身を隠す事ができるが正直怪しい事この上ない。
「後は……武器だな。」
そう言って玲は交渉室から支給された柄を取り出す。 こだわっただけあってこの上なく手にフィットするのだが相手のレベルを考えれば必要ないのかもしれない。
「必要無いかもしれんが慣れるという意味でも使っておいて損は無い。」
そんなやり取りがあったものの、概ね問題なく確認は終わった。
「下準備はすべて済んだ。
さっさと敵を片づけて晩メシにするぞ。」
その言葉を合図に玲た八代はそれぞれの持ち場へと向かって行った。
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