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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
23/44

第23話 混乱

何とか第23話投稿。

第一章もそろそろ佳境に入っていきます。

 玲と別れた後、八代は交渉室に連絡するためできるだけ人目の着かない所に移動していた。

 「あそこなら見つかる事のないだろ……」

 そのためにが選んだのは八代が選んだ場所は地学部の部室だった。

 部員は4人しかいない上部室は目立たない所にあり、地学部に用の無い限り訪れる事のない場所である。少なくとも逃げようとする人間がたまたま入り込んでしまうような場所ではない。

 「やっぱ誰もいないか……」

 ひょっとしたらテロリストがいるかも……と思ったりもしたがさすがにテロリストもこんな場所までやって来てはいなかった。

 八代は誰もいないのを確認した上で交渉室に連絡した。交渉室に連絡して出る人間は一人しかいない。

 「はい、もしもし。どちらさまでしょうか?」

 この言葉だけ聞けば一般家庭に電話したのではないかと錯覚していまいかねないが、連絡が敵の偽装である可能性もあるためこちらが名乗らない限り話が進む事はない。

 「こちら水無月八代。固有コードは……」

 八代は交渉室から与えられた認証コードを言っていく。

 「固有コード、声紋認証完了。なんでしょうか水無月八代さん。」

 対応てくれたのは交渉室の情報管理を一手に担う才媛であり、また八代の実姉でもある水無月沙希であった。

 「たった今啓莱高校にテロリストの襲撃がありました。現在久桐玲は敵情視察中。計画通り啓莱高校の包囲をお願いします。」

 実の姉弟の会話とは思えないほど殺伐とした必要事項だけの飾り気のない会話。

 (やっぱ普通に会話できないか……)

 八代も姉の事が嫌いではない。事実昔は姉弟仲が良かったと思う。昔と言っても十年くらい前の話なのだが……

 (あの日から変わったんだよな……)

 いつ姉弟の仲が壊れてしまったのかを八代は知っている。全ては自分のせいであるという事も。

 「水無月八代、返答をお願いします。」

 「あっ、はい。こちらは久桐玲と合流次第任務をテロリストの殲滅を開始します。」

 彼女が何を言っていたかは聞いていなかったので八代は適当に答えて連絡を終わらせる事にした。だがこれ以上こんな会話をしているのが辛いというのが大部分を占める本音だった。

 「了解しました。 最後に橋頭堡(きょうとうほ)の確保をお願いします。」

 そう言って一方的に電話は切られてしまった。

 (キョウトウホって何?)

 漢字に疎い八代にとって橋頭堡という言葉は他国の言葉に等しいものだった。

 (まぁ、玲なら分かるだろ……)

 当たり前に使われた所を見ると専門用語という訳でもなさそうである。

 「とにかく連絡は済んだし、後は玲と合流するだけだな。」

 玲がテロリストと遭遇している可能性も考慮し、直接連絡したりはしない。

 「となれば、自分の足で探しますか。」

 そう言って八代は教室を後にした。

 

   * * * * * * * * * * * * * * *


 「おかしい……」

 敵の拠点を見つけた玲はそんな疑問を感じていた。

 見つけた敵の拠点は一年生の教室がある校舎の一教室だった。教室の広さから考えて二十一人もの人質と共に立て籠もれる場所ではなかった。

 (……拠点を二つに分けているのか?)

 二十一人も人質がいれば二つに分けても一ヵ所につき十人は人質のいる事になる。これだけいれば脅しには十分なのだろう。

 そこまで考えた所で玲は自分に近づいてくる気配に気付いた。

 (敵の見周りか?それにしてはずいぶん不用心だが……)

 この時点ですでに玲の思考は戦闘モードに移っていた……が、それは徒労に終わった。

 「俺だよ玲。連絡終わったから合流しに来たぜ。」

 玲の警戒の中現れた八代は散歩でもするかのように歩いてきた。

 「なんだお前か……連絡は終わったんだな。

 で、どうだった?」

 連絡に出た相手が八代の姉である事が分かっていただけに玲はその反応が気になっていた。

 「どう……って言われてもいつも通りの調子だよ。」

 「そうか。」

 水無月姉弟の間にどのような事情があるのかは知らないが八代の話によればある事件(・・・)が起きるまでは仲が良かったらしい。(ちなみにその事件については玲は何も知らない。)

 「それと玲。キョウトウホを確保しておくようにって指令が出てるんだが、意味分かるか?」

 ……なるほど、八代に連絡を取らせたのはベストな選択ではなかったらしい。 意味は分からずとも言葉を伝えられただけマシか……

 「橋頭堡ってのは分かりやすく言えば出入り口だ。

 交渉室のメンバーがここに入って来れるようにするための前線基地を作れっていうのが指示の内容だ。 気付かれずにやるのは面倒だがな。」

 通常の出入り口は当然だが封鎖されているので新たに作らなければならないのは確かだ。

 「橋頭堡は後回しにして敵の拠点探しだ。

 おそらく拠点は二つある。

 八代にはそれを探すのを手伝ってほしい。」

 「構わないがテロリスト殲滅のプランはできてるのか?」

 「全然。 敵の拠点も分からない内から考えても意味は無い。」

 そんなプランができていれば敵情視察なんてのんきな事言わんよ。

 「それよりも気付いてるか?この気配。」

 八代が確認するように聞いてくるがそんな事とっくに気付いていた。

 相手がテロリストであっても負けない自信はある。だがもし相手が生徒であった場合は正体がばれてしまう危険がある。正体を隠しておく事が最優先事項である以上、この場合は隠れたりせず相手が敵かそうでないかを確認してから対応するしかない。

 「誰かそこにいるの?」

 気配の主からこちらに話しかけてきた。 この声は確か……

 「いますよ。真琴さん。」

 気配の主は地学部の先輩である笹倉真琴と千賀原恵美であった。

 「よかった。相手がテロリストだったらどうしようかと思った~」

 そもそも一年校舎に三年生がいる理由が分からん。

 「なんでこんな所にいるんです? 今この校舎にはテロリストが潜んでるんですよ?

 真琴さんはともかく恵美さんまで何やってるんですか。」

 ノリだけで行動しそうな真琴さんはだけなら分からなくもないが思慮深そうな恵美さんまでこんな所にいるのが信じられない。

 「それを言うなら二人もなんでこんな所にいるのか気になる所だけど、私達に限って言えばテロリストを捕まえるためよ!」

 「「「…………」」」

 真琴さん以外全員が押し黙ってしまった。

 (マジか……任務でなけりゃ俺達でもしない事だぞ。)

 「無謀かと思っているでしょうが諦めてください。」

 恵美さんも諦めているらしく反対する素振りが無かった。

 「と言う訳で戦力も増えた事だし行くわよ!」

 「ちょっ、戦力が増えたって、俺達も一緒に行くんですか!?」

 八代の慌てようも分かる。 玲も内心では八代と同じくらい慌てているのだから……

 「もちろんよ。こんな時のために戦い慣れてそうな二人を部員に勧誘したんだから。」

 ……戦い慣れてるのは確かなんですが、まさかそれだけで勧誘したのか?

 「と言う訳で行きましょう。」

 なんだかんだで恵美さんもその気になってるし……

 (とりあえず着いていってどこか適当な所で逃げるぞ。)

 玲は八代にアイコンタクトでそう伝えた。

 (了解。それまではおとなしくしてます。)

 面倒だがそれしかない、というのは八代も理解してくれた。

 「分かりました。お供します。」

 「よろしい。」

 玲の返答に真琴さんは満足そうにうなずいた。

 「早速作戦についてですがテロリストは二階と三階の教室に戦力を分けて立て籠もっています。」

 ……もうひとつの拠点って三階だったんだ……

 意外な情報に玲も驚いた。自分で着きとめるはずだった情報を労せず手に入れられたのだからこの出会いも悪くは無いのかもしれない。 これから苦労させられるのだろうが……

 「テロリストの正体ですが一部の保護者です。

 おそらくテロリストは自分達の子供を啓莱高校に入学させ警備の手薄になってしまう授業参観日に堂々と侵入してきたという訳です。」

 それは事前に渡された資料に載っていた事である。

 「肝心の作戦ですが、拠点を一ヵ所づつ攻略していきます。」

 ふむふむ悪くない……が、この人数でやろうというのがすでに無謀だった。

 「この人数で攻めるのは自殺行為だって顔してるね。」

 玲の懸念は顔に出ていたらしく真琴に気付かれてしまった。

 「まぁ、そうですね。相手には人質がいるので奇襲するしかないのでしょうが4人では足りないと思います。」

 奇襲で何人かは倒せるだろうが残った敵に人質を攻撃されてしまえば被害は免れない。

 「そういうと思ってたけど、実は味方はこれだけじゃないのよ。」

 この質問を見越していたのか真琴さんは得意顔だった。

 そこへタイミングを見計らったように複数の気配が現れた。

 「よかった。二人とも捕まってなかったんだね。」

 気配の正体に気付いて愕然とした。

 現れたのはミキ、玲奈、莉々、篠の4人組だった。

 あまりの展開に玲も八代も何も言う事が出来なかった。

 よくよく考えれば有り得ない事ではない。

 正義感の強いミキ、自信家の玲奈、その2人に流されやすい莉々、頼まれれば嫌と言えない篠。

 この4人の性格を知っていたにも関わらずこんな事態を予測できなかったのは玲の責任に他ならない。

 (玲!これじゃ逃げらんねぇぞ……)

 八代も事の重大さを感じ取ったらしくしきりにアイコンタクトで玲に対応を求めていた。

 「とりあえずトイレに行ってくる。

 単独行動は危険だから八代も連れて行くよ。」

 玲にできるのはそう言って考える時間を作る事だけだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「これじゃどうにもなんねぇじゃん!」

 トイレに入るなり八代はそんな不満を口にした。

 「分かってる。事の次第は交渉室に連絡した。

 後は交渉室がどのような決定をするかだ。」

 自分達が同級生に見つかり自由に行動できないという事はすでに交渉室に連絡しておいた。交渉室がどのような決定を下すか分からないが最悪ミキ達の抹殺命令が出ないとも限らない。

 (と言っても不自然な離脱はできない……)

 真琴さん達の作戦が成功してテロリストを倒す事が出来ればいいのかもしれないが、それは絵空事にすぎない。作戦遂行段階で必ず犠牲が出るに違いない。最悪自分達以外全滅というのも覚悟しておかないといけない。

 正直言って現状は手詰まりと言っていい状態だった。

 玲が半ば諦めかけた所で玲のMSTが着信のため振動した。

 ディスプレイには棚山達樹と出ていた。ひょっとして任務に関係する事なのかもしれない。

 「はいもしもし。」

 『もしもし、玲君? 話は聞いたよ。知り合いに捕まって身動き取れない状態だとか……』

 「だいたいそんな感じです。」

 言い返したいところなのだが全く外れている訳でもないのでとりあえず何も言わないでおく。

 『そう不機嫌にならないでくれ。

 こちらは朗報なんだから。

 内部に協力者ができてその人の手引きで僕と誠司さんも啓莱高校に侵入できるんだよ。』

 「本当ですか!?」

 確かにこれは朗報だ。

 確保できなかった橋頭堡を確保したというのは戦略的に大きいな意味を持つ。

 『でも僕はともかく誠司さんは拠点制圧は得意ではないから2人の力が必要な事に変わりはない。』

 そう言われればそうなのかも知れない。

 睦月誠司というエージェントは護衛や防衛において実力を発揮するのである。本来ならば殲滅戦は専門外であった。

 「それはそうと内部の協力者って誰なんです?」

 さっきからそれが一番気になっていた。 内閣府特殊案件交渉室という組織を知らなければ協力など頼めるはずが無い。

 『その人は乱胴涼子さんだよ。

 彼女は象術警官だった時、交渉室がエージェントとしてスカウトしていた人物で交渉室の存在も知っている。』

 そうだったのか……

 「あの人も怪我で引退しなければ俺達の同僚になってたかもしれないって事か……」

 『彼女の引退の理由は公式には怪我によるものだとあるが、実際彼女の怪我はそれほど深いものではなかったらしい。』

 えっ……!?

 「それってどういう事ですか?」

 『それは知らない。

 でも今は任務に集中して!

 現在の指揮官は君なんだから。』

 確かに任務に関係ない所が気になってしまったが今はそんな事考えている時間は無い。

 ……集中しろ久桐玲。

 俺達の正体を隠したまま俺と八代が自由になり、さらに真琴さん達の安全を確保する作戦。

 ……ある。

 「達樹さん。用意して欲しいものがあるんですが大丈夫ですか?」

 『その様子だと何かいい作戦が思いついたみたいだね。』

 玲の口調から玲の自信を察した達樹は嬉しそうだった。

 玲は一通り作戦を説明した後電話を切った。

 「玲、何か思いついたのか?」

 トイレの外でテロリストの警戒をしていた八代には電話の内容は聞こえなかったらしく何があったのか聞いてこようとする。

 「あぁ、思いついたよ。結構自信ありだよ。」

 そう言って八代に向かってニヤリと笑ってみせる。それほどまでに玲は余裕を取り戻していた。

 「一体何をするんだ?」

 玲が電話でどのような事を聞いたか知らないが少なくとも八代にこの状況を覆す策は思いつかない。

 「簡単だ。 邪魔なものを切り離すんだよ。」

 この時玲の言ったこの言葉の真意を八代は理解できなかった。

 八代に理解できたのはこれから自分達が攻勢に出るという事だけだった。

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