表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
21/44

第21話 真相

第21話投稿。

いろいろあったので予定よりかなり遅くなってしまいました。


 「俺が何を隠してるって?」

 玲が八代が任務について何か隠していると指摘しても八代はポーカーフェイスを保ったままだった。

 こういう所は訓練の賜物と言っていいだろう。

 「とぼけるのは自由だが無駄な時間だけは取らせないでくれよ?」

 八代はそんな事しないだろうが一応念を押しておく。

 さて……準備も整ったしそろそろ種明かしをするか。

 「まず最初に、この任務の不可解だった点は事前情報が不安定だった事だ。

 テロリスト達が啓莱高校を狙う事が分かっているのに肝心のテロリストの正体は不明なんて納得できなかった。」

 正体は分かるがどこを狙っているか分からないって言うのであればまだ納得出来るがその逆はさすがに不自然である。

 「その時点で考えられる可能性は2つ。

 1つはあらかじめテロリストから予告状が届いていたため襲撃場所だけは分かっていた。

 2つめはテロリストの正体は判明しているが交渉室側が意図的に情報を隠している。という事が考えられる。

 だが前者は有り得ない。

 予告状なり何なり届いていたなら俺達に教えているはずだからな。

 この時点で交渉室が何か企んでいる事は想像できる」

 何を企んでいるかまで分からんかったが……

 だがそれは言わなかった。

 余計な時間を使いたくなかったし何より自分の限界を見せる事になりそうなので止めておいた。

 「それに部活の後に違和感の話をした時、お前は何も感じなかったと答えたが、本来のお前なら考えられない反応だった。

 いつものお前なら仮に何も感じなかったとしても何かないかと思いだそうとするためあれほど速い返答はありえない。

 その時点で八代も何か隠しているのではないかという考えに至った」

 そこまで分かれば交渉室と八代がグルであるという事は簡単に導かれる。

 「そんで玲、結局違和感の正体は分かったのか?」

 ここにきて初めて八代が口を開いた。

 玲の言った違和感について八代も考えなかった訳ではないが結局答えは出る事はなかった。いわばこの質問は言い訳や反論の類では無く純粋な疑問だった。

 「ああ、あの後分かった事だが、違和感の正体はお前だ、八代」

 違和感の正体が自分にあるのだから八代が気付かないのも仕方が無い。

 「俺のどこに違和感が?

 分かってると思うけど他人が変装してる訳じゃないぞ?」

 冗談か本気かは分からないがそんなどこかの怪盗みたいなマネができる奴がいる訳がない。

 「そんな事は分かってる。

 俺が感じた違和感はお前の乱胴涼子への対応だよ」

 それに気付くのに相当時間かかったけど……

 「今までの八代ならば乱胴涼子がテロリストだと確信していれば必ず彼女の周辺を警戒するはずなんだよ。それも過剰なほどに」

 だが実際はそれほど警戒する事も無く、話す時もそれほど警戒している様子は無かった。

 つまり八代は乱胴涼子はテロリストでない事を知っていた、と考える事ができる。

 「さすが玲。お見事としか言えねぇな……

 多分分かってると思うけど乱胴涼子はテロリストじゃない。

 そして交渉室はテロリストの正体を掴んでいる。

 隠してたのは玲の試験のためだよ」

 試験、と聞いて玲は安心した。

 これまでの情報から玲の中では2つの可能性があった。

 1つ目は八代の言った、交渉室が玲を試しているという可能性。

 交渉室が玲を試すためにあえて情報の一部を隠し、八代にはその情報を教えておき玲がその情報を現場で導き出せるかどうかという、いわば訓練の一環として情報を隠していたという事。

 そして玲が恐れていたのは2つ目の可能性。

 それは交渉室の裏切りである。

 交渉室が何らかの理由で玲を排除、すなわち殺すために今回の任務を利用したのではないかと玲は考えていた。

 十分な情報が与えられなかったのは任務の難易度を上げ、より任務に集中させる事で玲を殺す意図を気付かれにくくするためだろう。

 その場合、玲を殺す役は八代が担っているはずである。

 なので玲が八代に話しているのはある意味賭けだった。

 もし交渉室が玲を裏切っていた場合、その場で八代と戦う事になる可能性が高い。

 そうなれば勝つ負けるの問題以前に周囲へ甚大な被害を撒き散らす事になるのは間違いない。

 結果としてはいい方に傾いてくれたがこういうやり方は今後しない方がいいのかもしれない。

 「今回の任務は迎撃任務で敵地に潜入って訳でもないから試験としてはうってつけだったって事なんだけどな。

 それに最優先事項は俺達の正体がばれないようにする事だし、人質を取られても人質ごと殺してもいいって言われてんだし、玲が試験不合格だった場合でも十分対応可能だしな。」

 八代はかなり残酷な事を言っているが自分達に与えられた任務をこなすためには仕方ない。

 「手駒を育てる事ができるのなら多少の犠牲はやむなし、という訳か……

 実利主義と言えば聞こえはいいがやり方が利己的過ぎるな……

 聞いてなかったが俺は何の試験を受けさせられてたんだ?」

 この任務を任されるまでに必要な訓練や試験は全て受けていたので今更玲を試験する理由が分からない。

 「さぁね……俺は何も聞いてない」

 ……マジか?

 本気でそれを言っているのだとしたら無警戒にも程がある。

 「分かった……碧さんに電話して聞いとくよ」

 これ以上八代に聞いても無駄みたいなので黒幕――多分、碧さんなのだろう――に電話して直接聞く事にした。

 「ちょっと待った玲!

 今回の事は碧さんじゃなくて達樹さんから指示された事だよ」

 「はっ!?」

 想像していなかった名前に玲はつい間抜けな声を上げてしまった。

 棚山達樹。

 内閣府特殊案件交渉室の同僚にして河崎碧の婚約者。

 それなりに付き合いもあるのである程度彼の性格などは理解しているつもりだが、面倒事はできるだけ自分で片付けようとするあの人がこんな困った事を計画するとは考え難い。

 「そんなに疑うなら達樹さんに直接電話してみれば俺が嘘言ってないって分かるだろ?」

 どうやら玲の不信は顔に出ていたらしい……八代の口調もどこかムキになっているように感じられた。

 「そうするのがベストだな」

 本人に連絡して確認するのが一番手っ取り早い。

 「……もしもし、達樹さん?

 八代に今回の任務の情報を一部隠す事を指示した理由を聞きたいんですが?」

 電話の相手が本人だと分かると玲は何の前置きもなくストレートに用件を切り出した。

 『ああ、その事かい?

 その様子だと試験は合格みたいだね』

 そう答える達樹の声は嬉しそうだった。

 「そうみたいなんですが一体俺は何の試験を受けさせられてたんですか?

 俺は交渉室の任務に必要な訓練や試験は全部終了したはずなんですが……

 それになんで試験の目的を八代にも秘密にしてたのでしょうか?」

 試験に合格というのは八代からも聞いた。玲が知りたいのは任務の最中に行う試験というものが気になったからである。しかも具体的な内容に至っては八代にも知らされていないとうのが余計に気になる。

 『まず、なぜ試験の目的が八代君にも秘密だったのかという事だけど……これは八代君の試験でもあるからなんだよ。

 八代君への目的はいかに玲君から情報を隠し通せるかという隠密の試験。そして玲君には現場から正しい情報を導き出す指揮官適性の試験を受けてもらった。

 つまりこのまま玲君が八代君のが情報を隠している事に気付かなければ八代君の方が合格だったという訳なんだけど、今回は玲君の勝ちって事になったみたいだね』

 「…………」

 あまりの事に少しの間無言になってしまった。

 まさかそんな複雑な思惑があったとはさすがに考えていなかった。

 「ともかくテロリストの正体が判明しているのならはやく教えてください」

 試験云々はこの際忘れる事にしよう……それよりも今重要なのは任務である。

 事件が俺達の都合に合わせてくれるはずが無い。そうなればいつ事件が起きてもいいように出来るだけ早い段階で準備を済ませておく必要がある。

 『詳しい情報は後で送付するよう手配しておくからそれを見ておいてね。

 僕は他にやる事があるからこれで……』

 そう言うと達樹は一方的に電話を切った。

 結局テロリストの正体についてはお預けをくらう形となってしまったが、交渉室と敵対するという最悪の事態ではないという事が分かっただけでも良しとするか……

 「資料は後で受け取るとして……

 とりあえず今日は帰って寝る」

 八代の暴走やさっきまでの事もあり、玲の精神的な疲労は予想以上だったので今日は一刻も早く眠りにつきたかった。

 「メシはどうすんだ?」

 「自分で作って食べるよ。

 幸い材料はあるんだし……」

 食堂は夜の7時からしか空いていないので作れるのなら作った方が速い。

 「まぁ、テロリストが事件を起こすまでまだ日はあるんだしそれまでは気楽に過ごせばいいか……」

 テロリストの正体が分かっているのだから事件を起こす前に捕まえてしまえばいいとは思うが、事件のどさくさに紛れてテロリスト全員始末するのが交渉室の命令なので2人は待つ事しかできない。

 「言いたい事は言っただろうから今日はこれで解散!!」

 そうこうしている内に八代が勝手に帰ってしまった。

 結局八代からもなんら情報を得る事は出来なかったが実は八代も玲が知っている以上の情報を持っていないと判明するのだがそれはもう少し後の話だった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 八代と別れた後、玲は自分の部屋に戻り冷蔵庫の余り物で晩御飯を作りながら入学してからこれまでの自分の行動を振り返っていた。

 ……少なくとも考えていた通りにはいかなかったな……関わりにくい同級生というのが理想だったのだが蓋を開けてみればこの有様か……

 任務の事を考えればため息しか出ないが任務の事を考えなければ今の交友関係は悪くない。


 「なんだ、帰ってたのか。

 探したんだぞ……ってお前料理できたのか?」

 ルームメイトである十河玲奈が帰って来るなり玲に詰め寄って来た。

 それにしても玲奈が俺に用事とは珍しい。玲奈とは連絡先を交換していないので用があれば直接会うしかないのだがそもそもそんな用事が必要になるとは全く考えてなかった。

 初対面で関わるなと言われえばそう考えるのも仕方ないのだが……

 「別にできたっておかしくないだろ。

 それよりも俺を探していたのはなんでだ?」

 玲奈がなぜ俺を探していたのか全く分からない。学校からの通達ならば直接メールが来るのでおそらくは個人的な用事なのだろう。

 「えー、その……ミキや篠はお前達の事名前で呼んでる訳で、俺もいつまでもお前って呼ぶのも変だし……」

 要は呼び方を変えたいという事なのだろう。

 「じゃあ、俺の事は玲でいい。それに八代を名前で呼んでも怒りはしないさ」

 八代は呼び方とかにこだわるタイプじゃないからな……

 「そっ、そうか!?ならこれからはそう呼ばせてもらうよ、玲!!

 それと、俺の事も名前で呼んでいいぞ!!」

 今までの彼女からは想像できないような笑顔だった。

 男嫌いってのが無ければ間違いなく男子の憧れの的になれるんだけどな……

 いつもと違う玲奈の笑顔に不覚にも異性としての魅力を感じてしまった。

 

 ブルルルルルル……

 そこへ玲のMSTが振動し、メールが届いた事を知らせる。

 届いたメールは交渉室からであり、内容はテロリストの正体についてだった。

 「ほー、面白くなってきたな……」

 テロリスト達の名前と顔写真が掲載されていたが、そこには意外な人物の名前があった。

ご意見・ご感想お待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ