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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
20/44

第20話 波乱

とうとう第20話まできました。

なんだかんだで結構長引いてしまって申し訳ありません。

これからもこのペースで更新出来ればいいのですが。

 何度も授業や部活もこなして学校には慣れ、いい加減平和な高校生活が送りたくなってきたにもかかわらずテロリスト達は未だに行動する気配すら見せない。

 テロリストの仲間と思われる乱胴涼子もまるで怪しい行動がない。

 結果的に膠着状態となってしまいなかなか前に進まない。

 いつ行動を起こすか分からないので常に警戒しなければならない状況というのはなかなかつらい。

 しかしこの日のホームルームの時間にそれは一変する事になった。

 「今年の授業参観は4月26日だ。

 本来は休日なんだが家族に来てもらうのでこの日になった。

 ゲストIDの申請についてはプリントにある通りだ」

 担任である乱胴涼子が授業参観について説明していく。

 (なるほど……この日なら啓莱高校の警備も多少甘くなるからテロリストにとっては狙い目だな)

 啓莱高校は国の施設であるため警備も普通の高校と比べるまでもない。それにもかかわらず啓莱高校を標的にしたという事はテロリスト側にもそれなりの勝算あっての事なのだろう。

 だからこそ外部からの来訪の多い授業参観をテロリストが狙わない理由はない。

 (問題は違和感の正体なんだよな……)

 違和感の正体については分かっている。任務に関係あるかどうかは分からないが……

 「お前は授業参観に誰呼ぶんだ?」

 いつの間にかホームルームは終わっており、玲奈が話しかけてきていた。

 最近玲奈が俺に話しかけてくる頻度が高くなってきている気がする。

 おかげで2人は付き合っているという噂まで流れる羽目になってしまった。

 「誰も呼ばない。

 そもそも俺は施設育ちで親類もいないし施設の園長さんは忙しい人だから東京まで呼ぶ訳に行かないし……」

 そう言うものの実際はテロリスト達の襲撃があるかもしれない日に人質を増やしたくないというのが本音だった。

 「そういえばお前って出身どこなんだ?」

 初日の自己紹介でも名前くらいしか教えなかったので2人の出身地を知ってる生徒はいないのかもしれない。

 「あたしも知りたい!

 そういえば八代も玲も意外と謎が多いんだよね~」

 そこへミキも会話に加わって来る。

 玲、八代、玲奈、ミキの4人が1つのグループとして定着しつつあった。

 「俺達の出身は京都ってなってるけど別に京都に生まれた訳じゃなくて入った施設が京都にあったってだけの事」

 確かに八代の言った通り俺達のいた施設は京都にあったが玲自身が生まれたのは福井県である。

 「2人共なんか不幸な人生送ってるんだね……」

 ミキはそう言って同情してくれるが施設で育てられたというだけならそんなに珍しい事ではない。

 「そんな事無いよ。俺に限って言えば捨てられた時点で死んでたはずなのに施設に入って今まで生きてこれた。そういう意味では幸運だったと言えなくもない。

 確かに今まで順風満帆とは言えないが今は普通に学生やってられるんだし平和なのは間違いない」

 少なくとも玲は今のこの状況に満足している。

 だが八代は違うらしくいきなり玲の胸倉を掴んで突き飛ばした。

 いきなりの出来事に玲奈とミキは声を上げる事すらできなかった。

 「玲は満足してるかもしれないけど俺は満足してない!!

 玲は最初から不幸だったかもしれないが俺は違う。あの日までは幸せだったんだよ!!」

 そのまま八代は教室から出て行ってしまった。

 「だ、大丈夫? 玲」

 八代が教室を出て行った後もしばらくは誰も言葉を発する事はできなかったが、最初にミキが玲に声をかけてきた。

 「大丈夫だよ。昔は同じような事が何回もあったから慣れてるよ」

 施設に入ったばかりの頃はよく喧嘩していたので生傷が絶えなかったものである。

 (明日になればあいつの方から謝ってくるだろう……)

 喧嘩した数だけ仲直りしてきたのだから八代の行動は手に取るように分かる。

 だが分かっていない周りの生徒達はいきなりの事態に静まりかえっていた。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 勢いで教室を飛び出したものの、八代は玲を突き飛ばした事を後悔していた。

 (明日玲に謝ろう……)

 気が進まないが自分が悪いのは疑いようがない。

 でも玲には満足してるなんて言って欲しくなかった。言った奴が玲じゃなければ平和ボケした生徒の戯言で済んだ。

 だが玲が言うと自分達が神楽流にいた事そのものを否定されたように感じてしまう。

 「おい、水無月! 止まれ!!」

 そう考えている内に何者かに呼び止められた。

 「何だ?」

 面倒だと思わなくもないが呼ばれた以上振り返らない訳にもいかない。

 そこにいたのは一人の男子生徒で偉ぶった所以外は特徴の無い外見をしていた。

 「何で俺の名前を知っているんだ?」

 八代は話しかけてきた男子生徒とは初対面であるが男子生徒の方は八代を知っている事が気になった。

 「有名だよ。多くの美少女を侍らす女ったらしって意味でね」

 明らかに見下した話し方に八代の怒りは高まっていった。いつもなら止めに入るであろう玲も今はいない。

 「そんで何が望みだ?」

 「象術で優劣を決めようじゃないか」

 どうやら八代を象術で倒す事によって自分の方が優れているという事は見せつけたいらしい。

 「いいぜ。一瞬で決めてやる!」

 本来は象術による無断戦闘は停学になるような校則違反であるのだが八代にはそんな事を考えてはいない。

 「ちょっと何してるの八代!!」

 騒ぎを聞きつけてやって来たミキと玲奈は八代を止めようとしたが八代の殺気に当てられ身動きが取れなくなってしまった。

 「ちょうど良かった、玲奈。

 これから僕がこいつを倒して君の目を覚ましてあげるよ!」

 この男は玲奈にちょっかい出していたらしい。

 「うるさい!!

 お前に呼び捨てされる覚えは無い!!」

 玲奈は男嫌いと玲から聞いていたがそれは事実だったらしい。

 「どうでもいいからさっさとやるぞ」

 だが今の八代には戦い以外の事は雑念として思考から排除されている。

 「戦うのはいいが、やるならちゃんとした場所にしてくれ!」

 今にも戦いが始まりそうな雰囲気だったがいつの間にか現れた玲が八代の前に立ち塞がっていた。

 戦うのを止めはしないが場所は選べ、という事らしい。

 「僕はここで戦ってもいいんだけど?

 なんなら久桐と2人がかりでかかってきても構わないよ」

 どこからそんな自信が湧いてくるのか気になる所だがそんな誘いに玲が乗るはずがない。

 「折角のお誘いだが遠慮させてもらう。

 俺にもいろいろ事情があって、今回見学に回らせてもらうよ」

 そのまま玲は実習場の手配に向かって行った。

 「なら俺は先に実習場に行ってるか」

 後はこいつを倒すだけなのだからこれ以上おしゃべりに付き合う意味はない。

 (本音を言えば、これ以上関わってらんねぇ……)

 単に面倒臭くなっただけなのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 ここ数日で見慣れた実習場のステージには現在八代と八代に戦いを申し込んだ男子生徒が対峙していた。

 「そう言えば相手の名前聞いてなかったな……」

 興味は無いが知らないというのも何故か変な感じがする。

 「あいつの名前は四方氷室(しかたひむろ)

 初対面でも遠慮しない嫌な奴だよ……」

 玲も疑問には先程からご機嫌斜め、というか最早怨嗟(えんさ)すら感じられる玲奈が答えてくれた。

 「あいつ、前にあたしに声かけてきたよ!」

 「私も声かけられました……」

 「僕も!!」

 ……まさか女子全員に話しかけてんじゃないだろうな?

 さすがに全員ではないだろうがかなりの女子に声をかけている事は確からしい。

 「そう言えばあいつ、俺の名前も知ってたな……」

 あんな奴はクラスが同じでもなければ実習でも見た事がない。本来なら四方氷室という生徒とは初対面であるはずなのだが……

 「知ってるかどうか分かんないけど八代と玲は学年第一の女ったらしとして有名なんだよ?

 現に僕達みたいな美少女と一緒にいたら妬みやっかみは仕方ないよ~」

 ……ちょっと待て。俺が女ったらし?

 あの出会う女子全員に声をかけてそうな四方氷室を差し置いて?

 「ひょっとして俺達も周りからはあんな風に見えてる訳?」

 嘘だっと言ってください!

 玲は心の底から祈った。

 もし玲これまで周りからその様に見られていたというのならば玲のこれからの高校生活に悪影響を及ぼす事は間違いない。

 最悪引きこもりになってしまうかも……

 「男子はほとんど嫉妬だし、女子も2人の事を女ったらしって思っている子はいないと思うよ。むしろ憧れに近いんじゃないのかな?

 それに女ったらしっていうのは四方の奴が言ってるだけであんまり気にしない方がいいよ」

 ミキは当たり前の様に話してくれたがその言葉は女神のそれに等しかった。

 ともかく変な誤解をされている訳ではないと分かってから玲は落ち着きを見せていた。

 問題は八代である。

 当然さっきミキが言っていた事は八代にも聞こえていた事だろう。

 比較的直情径行にある八代の事である。下手をすれば相手を殺しかねない。

 (最悪俺が止めに入る羽目になんのか……)

 気が進まないが八代を殺人犯にする訳にはいかない。

 「できれば倒すだけにしてくれよ……」

 そうつぶやいた玲の真意に近くにいた玲奈はもちろん他の誰も気付く事は無かった。

 

 ステージ上では水無月八代と四方氷室の模擬戦が始まろうとしていたが……

 「やばい!!

 あいつ本気で()る気だ!!」

 玲が目にしたのはステージから溢れんばかりの炎で埋め尽くされた光景だった。

 八代が操炎系配合で生みだした炎なのだがその威力は玲奈の比ではない。

 その熱気に反応して天井の火災報知機が大音量の警報を鳴らしていた。

 すでにステージの周りからは誰もいなくなっていた。この炎の熱気に当てられた上に火災報知機も鳴っていれば避難するのは当然の行動と言える。

 いくら象術が使えると言っても一月前は中学生だった者達にとってこの炎はまさに未知の出来事だった。

 「ちょっと!? 何が起きてるの!?」

 「僕こんなの見た事無いよ!?」

 ミキも莉々も今まで体験した事のない事態に混乱してその場を動く事が出来ない。

 (やる事は被害者の救助と八代の無力化って所か……

 これはいよいよ洒落になんねぇな)

 八代の常識外れの大出力の前に小技は通用しない。

 とりあえずいまだにステージから降りていない四方の救助のためステージに上がり、腰を抜かしている四方を引っ掴んでそのままステージの外へ投げ飛ばす。

 ボキッ、という痛そうな音が聞こえてきたが多少の打撲や骨折は救助代という事にしておこう。

 「何勝手に割り込んで来てんだ玲!」

 案の定、八代は頭に血が上って周りの事が見えなくなっていた。

 「勝負になんねぇから割り込んだんじゃねぇか。

 殺人まではさすがに隠しきれんぞ。

 それとも不完全燃焼ってんなら少しばかり相手になってやってもいいけど?」

 これだけ派手に燃やしといて不完全燃焼も何もあったものではないが、こういう時の八代は少しばかり相手になってやればすぐに落ち着くので今回もそうする事にしたのだが……

 「分かったよ……俺が悪かった」

 意外にも八代はすぐに落ち着いてくれた。

 高校生になり八代も精神的に成長しているのかもしれない。

 それにしても人的被害はないのは不幸中の幸いにしてもステージがほぼ全焼という建物の被害は相当のものになってしまった。

 しかも八代が炎を消してからスプリンクラーの散水で制服はびしょ濡れ。踏んだり蹴ったりとはまさにこの事だった。

 「後でみんなに謝っとくんだな」

 「分かってるよ……」

 この事で八代は何らかの処罰を受ける事になるだろう……任務に影響が出ない程度の処罰であるのを祈る事しかできない。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 謹慎5日。

 実習場一つ壊した事に対する処罰としては軽い。

 しかも八代が配合で生みだした炎については物質変換による爆発物の生成、という事になっている。

 故意か偶然かは分からないが俺達にしてみれば最上の結果になった訳である。

 「これに懲りてこれからは己を律する修行も怠るなよ」

 玲個人としてはもう少し重い処罰の方が八代にも教訓になると思っているのだが今更決まった処罰に口出しするつもりは無い。

 「はいはい……」

 八代のためを思っての忠告にも関わらず八代にとっては馬の耳に念仏だった。

 これ以上言っても無駄みたいなので玲はこの話題についてはここまでにしておく事にした。

 問題はここから。

 むしろ玲にとってはこちらの方が本命だった。

 「八代、お前は俺にかくしている事がある。

 しかも今回の任務の事に関してだ」

 疑問でも詰問でもない。ただ事実として八代に突き付ける。

 無意味な問答は時間の無駄でしかない。

 違和感だらけのこの任務にもいいかげん終止符を打つべき時が来た。

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