第2話 受験は計画的に
国立啓莱高校
象術の研究と象術士の育成を目的とした象術の専門機関であり、多くの優秀な象術士を排出した名門校としても有名。学費が無料ということもあり、毎年定員をはるかに超える入学希望者を誇る。 啓莱高校に合格出来なかった者でも全国には少数だが象術の私設教育機関が存在し、金銭的に余裕のある者はそこに入学する。
「なんで啓莱って学費タダなんだ?」
「学生も象術の研究対象としているんだから優秀な学生には金払ってでも来て欲しいのだろうさ。流石に解剖されたりはしないだろうが採血ぐらいはされるだろう」
何も知らない八代に玲は逐一答えていく。信じられない事に八代は「象術 高校」とインターネットで調べただけで受験を決めてしまったらしい。試験内容すら調べていない有様だ。
「とにかく八代は筆記試験対策をメインに行う」
まともに漢字も読めない八代にとって筆記試験は鬼門だった。
しかし、筆記試験といっても象術のメカニズムが解明されていない以上、そんな複雑な問題は出題されない。事実、過去の入試問題を見ても象術の歴史であったり象術とはどのようなものか等の象術士を目指す者でなくてもある程度答えられるものであった。
「象術がどのようなものかなんて知らん!」
何にでも例外はあり、玲は今まさにその例外を見ていた。
八代は象術がどのようなものか全く知らずに象術を使っていたらしい。せめて自分がどのようなものを使っているのかぐらいは知っているものではないのだろうか? 理論を知らずに実践できるのはそれはそれで天才と言えるのかもしれないが……
とにかく知らなければ話にならない。面倒くさいが説明することにした。
「象術っていうのはかつて宇宙に存在していると考えられながらも観測さえままならなかったダークエネルギーやダークマターをこの地球にある様々なエネルギーや物質に変換する技術のことだ。この2つは変換に制限がないためダークエネルギーは熱や光、さらには運動エネルギーにも変換可能で、ダークマターは鉄や鉛なと、あらゆる物質に変換できる。ただし、変換するには、変換するエネルギーや物質の性質や構造などに精通していないといけない。しかし、地球に存在している物にしか変換できないため、象術士には世界の理を変えることはできない。といったところか」
「今言った事をそのまま書けばいいんだな」
「合格点はもらえるだろう」
八代の手抜き発言にあきれつつも、玲はそれを禁止しなかった。
「この調子でいけば筆記試験は大丈夫だとしても、実技試験は大丈夫なのか? 筆記試験をクリアしても実技試験で失敗すればしれまでだぞ?」
玲にとって残る懸案事項はそれだけだった。八代の象術の腕前は知っていたが、どこまでできれば合格なのか分からない以上、油断はできなかった。
「大丈夫だ!なんなら今から試してみるか?」
玲の心配を知ってか知らずか、八代は自信満々だった。
「そうだな、実技試験対策の方も重要だしな。どこにする?」
実技試験対策は玲にとっても重要な事であった為、その提案に乗った。
「駅裏の広場でどうだ?あそこなら広さも問題ない」
「じゃあ、今から行って練習するか?」
近い将来2人はこの行動を激しく後悔する事になるのだが、今の2人には知る由もなかった。
* * * * * * * * * * * * * * *
「物質変換については一通り終わった……次はエネルギー変換をするか」
2人は実技試験の過去の課題を見ながら1つ1つこなしていった。
「まずは運動エネルギーだな」
運動エネルギーの課題は、20メートル離れた所にある対象を運動エネルギーをぶつけて飛ばす。というものであり、飛んだ距離で点数をつけるらしい。対象の重さは500gで、かなりのエネルギーをぶつけないといけない。
「俺が先にやるよ。的は空き缶でいいか。」
筆記試験対策の時とはうって変わり、八代にはかなりやる気が見て取れる。
まず、運動エネルギーに変換するためのダークエネルギーを取り込む。次に、運動エネルギーの射出ポイントとエネルギー放出のベクトルを設定。あとは変換したエネルギーを射出するのみ。
「駅の向こうまで飛んでいけ~!」
駅の方を指さすポーズ付きで八代は的である空き缶にエネルギーをぶつけた。
ドオオオオオオオオオオオオン!!!!
その音は空き缶を飛ばしただけでは絶対に発生しない音だった。
それは八代が指さしていた駅の一部が崩れ落ちる音だった。
「「………………」」
2人は何も言えなかった。八代にいたっては駅を指さしたポーズのまま固まっていた。
「あの2人です!」
現場にいたと思われる女性が駆け付けた警官に2人を指さして叫んでいた。
目の前の光景に絶句していた2人は抵抗することもなく連行されていった。
短いけど第2話投稿~
なんか受験関係なくなってきた・・・