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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
19/44

第19話 違和感

なんだかんだで第19話投稿出来ました。

これからは玲視点で物語を進めていきたいと考えております。

複数視点で進めるのは難しくなってしまったので……

 象術教育を目的とした啓莱高校においても普通科高校と変わらない授業が行われている。

 エネルギー変換や物質変換を行う象術士にとって物理や化学に精通している事は必須であり、実際に理系科目の授業は一流の進学校とさほど変わらないレベルである代わりに国語などの文系科目は出された課題を提出するだけであり授業は無い。しかし出される課題はそこそこのレベルの問題が出されており少なくとも八代に解ける問題ではない。

 おそらくは玲の解答を写す事態になる事は間違いない。

 「やっと終わった~」

 今まさに最後の授業の物理が終わった所であり、退屈な授業に耐えていた八代は授業が終わった事により気を抜いていた。

 文系科目の成績こそ悲惨であるが理系科目においてはハイレベルな啓莱高校の授業も退屈な物でしかない。

 「気ぃ抜いてないでさっさと部活に行くぞ!」

 2人は放課後に地学部の活動に参加する事になっている。

 「2人共何部に入ったの?」

 興味があるのかミキが2人がどの部に入ったのか聞いてくる。

 「地学部だ。」

 特に詳しい訳でもないので地学部と言う事だけを伝えるがミキは地学部の存在すら知らないらしい……当然といえば当然なのかもしれないが……

 「お前ほど強ければいろんな所からスカウトされてんじゃねーか?

 実際午前の模擬戦からお前に話しかけてくる奴多かっただろ?」

 話しかけてくる人数がスカウトされる事に関係あるのか分からないが確かに午前中に行われた模擬戦で1人で9人を倒した玲に話しかける生徒は格段に増えた。

 八代に話しかける生徒も多かったのだが玲に話しかける生徒の方が多い。両者に言える事だが話しかけてくるのは女子生徒の方が圧倒的に多かった。

 (そのせいで男子からまた一段と嫌われる事になったんだけどな……)

 玲としては好意であれ敵意であれ注目される事はあまり好ましくない。任務云々は関係なく玲は静かな方を好んでいる。

 「審査会の時は特に目立ってなかったからスカウトしてきたのは地学部だけだったんだよ」

 審査会の時は玲は玲奈の操炎系の配合の前に為す術なく敗北したというイメージしか与えていない。

 しかも八代に至っては戦った後すぐに姿をくらましている。

 「そう言えばお前審査会の時どんな象術を使ったんだ?

 少なくとも俺はお前があの時何をしたか分からない」

 「……えーと、あれは……」

 玲奈は審査会の時から抱いていた疑問をぶつけたのだが玲はあからさまに動揺していた。

 玲奈が分からないと言うのも無理はない。それは知る限り自分だけしか使う事ができないし、八代以外には教えていない技術だった。

 「もう教えたら?

 知られたくないなら使わなければよかったのにそうしなかったんだから自業自得なんだよ」

 審査会の時点では玲奈とここまで関わる事になるとは考えていなかったため油断していたというのは言い訳にしかならない。

 (自業自得と言われればそうなのかもしれんが……)

 なおも悩む玲だがみんなの好奇心を前に中途半端にはぐらかす事はできないと観念した。

 「あれは厳密に言えば象術ではない。

 あれはダークエネルギーやダークマターを媒体にして発動している訳じゃないから象術に分類されるものじゃない」

 「でも象術以外にあんな事を可能にする方法は思い浮かばないぞ!?」

 玲奈が言っている事もある意味では正しい。

 自分達が理解できない現象は全て象術の仕業であると考える者も多いが象術にだって出来ない事もある。象術は絵本に出てくるような魔法のように何でも出来たりはしない。

 「象術と違うのはダークエネルギーやダークマターを媒体にして発動させてないってだけ。

 あえて言うなら象術の逆をしてるという事だよ。なっ、玲!」

 「ああ、その通りだ。

 ダークエネルギーは象術で既存のどのエネルギーにも変換可能なのは良く知られている。

 だからその逆、すなわち全てのエネルギーをダークエネルギーに変換する事も可能なのではないかという考えからできた技なんだよ。

 俺はこの技術をconvert(コンバート)と読んでる」

 あっさりと八代が種明かしをしてしまったので言う事がなくなってしまった。

 「そんな事可能なんですか!?」

 そういう当たり前の疑問をしてくれる篠だが不思議に思うのも無理は無い。

 常識で理解できない事を簡単に受け入れられる人間はそういないものである。

 「他の奴ができるかどうかは分からないが俺に限って言えば可能だ。

 ただ、この技術を習得するためには変換対象のエネルギーを正確に把握する必要がある。

 要は攻撃を受ける寸前まで冷静に計算しなくてはならないからほとんどの奴には精神が持たない。

 それに熱エネルギーを変換する時は自分の体温まで変換してしまうからカロリー消費が激し過ぎて長期戦に向かないって弱点もあるし、あまり長所のある技じゃない。

 せいぜい強行突破に使える程度って所か……」

 俺からすればあまり使える技じゃないんだが、珍しい技というものはそれだけで人を惹きつける効果があるらしい。

 その証拠にミキからは羨ましそうな視線が向けられていた。

 「と、とにかく俺達は部室に行かないといけないからこれで!!」

 そう言って教室から出ていく。

 「じゃ俺も行くわ!」

 八代も玲に続く。

 「詳しい事は後で聞くからな!!」

 ミキは誤魔化せても同室の玲奈にはどうせ後いろいろ聞かれるのは目に見えている。

 結局逃げるという行動は問題の先延ばしにしかならないのだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「2人とも遅いじゃない!逃げ出したかと思ったわよ!!」

 地学部の部室に入るや否やいきなり部長の笹倉真琴に声をかけられた。

 「すいません。ちょっと同級生と話しこんでました」

 反抗する理由もないので素直に謝っておく。

 「てか部長ってそんなキャラでしたっけ?」

 どうやら八代も同じ疑問を抱いていたらしい。

 「部長じゃなくて真琴さんでいいわ。

 キャラが違うのは当たり前よ。なぜなら最初に会った時はちょっと猫被ってただけなのよ。

 初対面の相手にこのキャラで行くと入部してくれないかもしれないからそれなりに先輩らしくしてみました~

 でも入部させたらもうこっちのものよ!猫被る必要なんて無くなるからね♪」

 部長がこれではひょっとしたら地学部というのはまともな部ではないのかもしれない。

 「という事は副部長も実は猫被ってたりとか……?」

 そう言って八代は副部長である千賀原恵美を見る。

 もしそうだとすればもう女性を信用できなくなるかもしれない。

 あのメガネをかけたいかにも優等生という感じの副部長なのでできれば想像通りの性格であって欲しい。

 「私にどのようなキャラクターを期待しているか分かりませんが少なくとも想像通りだと思いますよ。

 それと私の事も恵美さんで結構です」

 どうやら猫を被っていたのは真琴さんだけらしい。おかげで女性不審にならずに済んだ。

 「ともかく2人共MST出して!

 これからいろいろと連絡したりする事があるからアドレス交換しときましょ!」

 そう言われたので八代と玲は自分のMSTを取り出すが……

 「ひょっとしてそれレンブルテクニクス社の最新モデル!?

 体温発電機付きでしかもプログラムのコンパイルも出来るからカスタマイズの自由度も桁違いに高くてマニアの間では圧倒的人気の製品じゃない!!」

 2人がMSTを取り出した瞬間の真琴の豹変ぶりはさすがに引いてしまった。

 「見ての通り、真琴はMSTマニアです。

 これは一種の病気だと割り切ってもらって結構ですよ」

 二の句が継げない2人に恵美はそう説明した。

 いろいろあったが4人は連絡先の交換を済ませ、本題に入る事にした。

 「ここからが本題ですが、この地学部では象術の未解明の部分について研究していくというのが主な活動内容ですのでまずはお二人には自分が研究する内容を決めてもらいます」

 真琴が説明するとややこしくなるからという理由で説明は恵美が担当していた。

 「ちなみに私の研究内容はエネルギー変換におけるダークエネルギーの普遍性と一意性です」

 なるほど……そういう事か。

 「分かるんですか?」

 八代と玲が理解を示している事に恵美は戸惑いを覚えた。恵美からしてみれば質問を受ける前提で研究を紹介したので2人の反応は予想外のものであった。

 「要はエネルギー変換する時どのようにダークエネルギーをコントロールしているのかって研究でしょ?」

 頭の悪い言い方ではあるが八代は理解しているというのが恵美には分かった。

 「ちなみに私は象術の可逆変換性についての研究をしてるの!

 だから玲君を地学部に勧誘したのよ!」

 真琴が言っている研究テーマとはまさに玲が審査会で使ったコンバートの理論そのものであり、それを技として再現した玲に目を付け地学部に勧誘したという事である。

 (結局あの時コンバートを使わなければ事態がややこしくなる事はなかったって訳か……)

 そのせいで八代も一緒に目を付けられる事になってしまったのだから申し訳ない事この上ない。

 「で、早速なんだけどあの技について教えてくれるかな?」

 と真琴さんが詰め寄ってくる。

 玲自身教えると言う事はあまり得意ではないので説明に窮していると、

 「止めなさい、真琴!

 今日は2人に研究する事を決めてもらうために来てもらったんだから質問はまた後日にしなさい!!」

 恵美さんが助けてくれた。

 どうやら力関係は恵美さんの方が上らしく、真琴さんは素直に引き下がってくれた。

 「まぁ、研究テーマを今すぐ決めろって言っても無理だから来週ぐらいまでに決めてくれればいいわ。 地学部は毎週月曜日と木曜日に活動してるからその日以外の放課後は自由にして構いませんよ」

 週2回しか活動していないのもどうかと思うが任務と並行しなければならない身としてはありがたいとしか言えない。

 「分かりました。でも研究テーマはもう決まってます」

 「同じく俺も決まってます」

 最初に研究の事を聞かされた時から研究テーマについてはほとんど決めていたが、まさか八代まで決めていたとは驚きだった。

 「俺は象術士の無人拘束装置の開発について研究します」

 もし象術士の無人拘束装置が完成すれば今までほとんど死刑となっていた象術犯罪者の死刑率を大幅に減らす事が出来るだろう。

 「じゃあ、俺は象術の威力の個体差について研究します」

 八代の研究は象術の威力は生まれた時から上限が決まっているのか、それとも努力によっていくらでも伸ばす事が可能なのかどうかというものだ。

 八代の人間離れした出力が天性の物なのかどうかというのは本人が一番気にしている事だからな。

 「なかなかいいじゃない! 研究テーマはそれでいいわよ!!」

 真琴さんの鶴の一声によって俺達の研究テーマは決定した。

 「じゃあ、今日はこれで解散!!

 私はもう帰るわね!」

 そう言って真琴さんは脱兎の如く去っていった。

 そうまでして急ぎたい理由でもあるのかね……

 「真琴はテレビっ子だから夜はほとんどテレビ見て過ごしてるのよ。

 特に今日はお気に入りのアイドルグループが出るから急いでるの。

 あの子かなりの面食いだからね。あなた達を勧誘したのも見た目による所が大きいんじゃない?」

 別に好き好んでこの外見になった訳ではないので何とも言えない。

 そもそも見た目は戦いに影響しない以上、今まで見た目にこだわった事など一度もない。

 「今日はもう解散なんだから帰っても大丈夫よ。

 それではまた今度会いましょう」

 そのまま恵美さんも部室から出て行った。

 こうして部室には八代と玲だけになったのだが……

 「どうする玲?俺達も帰るか?」

 「……そうだな、今日はもういいだろう……

 八代、今日一日何か違和感を感じなかったか?」

 今日一日で玲はこの学校に違和感を感じていた。それが何かと聞かれれば答える事はできないのだが、その違和感が任務に関係しているのかもしれない。

 「いや、特に何も感じなかったけど?」

 八代は違和感を感じなかったと言うが当たり前なのかもしれない。

 (そういえばこいつ、中学の時はほとんど授業に出てなかったし同級生とほとんど話したりもしてなかったっけ……)

 そんな中学生活を送っていた八代に違和感を感じろと言う方が無理だった。

 「分かった。じゃあ俺は帰るよ」

 「俺はちょっと寄る所かあるの思い出したから先に帰ってていいぜ」

 八代にしては珍しく一人で帰るという事だった。

 (まぁ四六時中一緒にいる必要は無いんだし先に帰るか?)

 玲は八代の言葉通り、先に帰る事にした。

 玲が教室を出てしばらくたった後、八代は玲がいなくなったのを確認してからMSTをとりだしある人物に電話をかけた。

 「もしもし、水無月です。

 玲の奴かなり真相に近づいてきてます。これ以上誤魔化すのは限界ですよ……

 できれば計画を前倒ししてもらえませんか……って、やっぱダメですよね。

 分かりました。玲は出来るだけ抑えるようにしますからそっちもお願いしますね」

 電話を切ると八代は玲がいるであろう寮の方を見ていた。

 「久桐玲はいつになったら真相に気付いてくれるんでしょうかね……

 それとも気付く事無くゲームオーバーって事になったらそれはそれで面白くなりそうだけど」

 そんな事は無いと八代は自分自身に言い聞かせる。相手はあの(・・)久桐玲だ。初めて会った時から知略で勝てた(ためし)が無い相手に油断するほど八代も馬鹿ではない。

 「これ以上ここに居る意味も無いしそろそろ帰るとしますか……」

 そう言って部室を後にする八代はどこか楽しそうでもあった。

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