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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
17/44

第17話 露見

第17話投稿。

実家に帰っていたので更新が全くできませんでしたが、やっと更新する事が出来ました。

今回も前後編に近い状態になってしまいました。

次話もなるべく早く更新出来るよう頑張ります。

 啓莱高校は象術士育成を目的として作られた高校であり、授業も普通の高等学校とは異なるカリキュラムが組まれている。

 その一つが入学してから最初の授業である象術実習である。

 名前の通り実際に象術を使って威力なり精度を高めていくだけのものなのだが……

 「あれだけ言って結局遅刻するのかよ……」

 あと5分で授業が始まるというのに八代が現れる気配はない。玲も起こしに行くべきかどうか迷ったのだが八代のルームメイトである莉々を信じる事にした。

 「八代って朝弱いの?

 まぁ、あたしも興奮して寝れなかっただけで本当は朝起きるの苦手なんだよね~」

 そう言ったのは実習場に一番乗りしていたミキだった。

 「ミキって緊張とかそういうのしないと思ってたけど違うんだね……」

 そう言う篠はちゃんと授業開始10分前に実習場に来ていた。

 「でもよかった。

 クラス分けを見た時知ってる人誰もいなかったから不安になってたけど、実習が一緒にできて安心しました」

 玲達は4組という中、篠と莉々が5組という少し可哀そうなクラス分けになってしまっていたが、象術実習は一つの学年を二つに分けて行うため、各組を半分にしてそれらを組み合わせて分けたので象術実習だけは一緒に行う事になった。

 「別に隣のクラスなんだからそんな離れてないし、問題ないじゃん!」

 「でも知ってる人がいた方が何かと心強いし……」

 篠はミキほど社交的な性格でないので友人を作ったりするのも一苦労なのだろう。

 「明るく話しかければ誰とでも仲良くなれるって!

 それにしても玲って男子からかなり嫌われてない?

 さっきからすごい睨まれてるし……」

 「入学早々女子と仲良くしてりゃ嫌われもするだろうさ」

 睨まれているというのは言い過ぎだが八代と玲が男子達からいい様に思われていないのはたしかである。

 ミキも篠も世間一般の「美少女」に分類されであろう容姿をしている。そんな2人と仲良くしゃべっている男が同性から好感を持たれるはずがない。言ってしまえば玲に向けられている視線はほとんどが嫉妬ということになる。

 「でも気を付けてくださいね。

 今日は初回という事で生徒達のレベルを見るために実戦をするそうですよ」

 「昨日審査会したばかりなのにまた戦うのか?」

 正直こんなに好戦的な学校だとは思っていなかった。

 いくらなんでも戦闘ばかりする訳ではないだろうが面倒な事この上ない。

 「ぷはぁ~。ぎりぎり間に合った~」

 開始直前に八代が実習場にやって来た。

 「お疲れ様と言いたい所だが莉々はどうした?」

 玲の記憶が正しければ莉々も同じグループになっていたはずである。

 「あぁ、莉々は遅いから俺だけ先に来た」

 「このバカ!」

 あまりにも自然に答える八代にさすがの玲もキレた。

 「静まれ!!

 今から実習を始める!!」

 この瞬間に莉々の遅刻が決定してしまった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「玲~。一緒にやろうぜ」

 「却下だ。俺達が戦ったら厄介な事になるだろうがよ」

 篠の言った通り初回の実習は生徒のレベルを測るための実戦だったので八代は玲に実戦の相手にならないかという提案だったのだが、玲は間髪入れずに拒否した。八代と玲が戦えば止める者がいないというのが理由だった。

 「だったら俺達とやらねぇか? 久桐」

 2人の間に割りこんできたのは先程玲を睨めつけていたグループだった。

 「俺は構わないぞ。誰が相手なんだ?」

 相手が八代以外なら誰だっていいと思っていた玲にとっては特に断る理由のない提案だった。

 玲が承諾した瞬間グループのリーダーと思しき男子生徒はしてやったりとという表情(かお)をしていた。他の奴らも似たり寄ったりな感じだった。

 (これは明らかに俺を見下してるな……

 勝利を確信出来るほどの実力を持っているのか、それともなにか必勝の策でもあるのか……

 どちらにせよあまり気分のいいものではないな)

 神楽流にいた頃、玲は似たような表情(かお)をした奴らを幾人も見てきた。そしてその全員が(ろく)な人間じゃなかった。

 「じゃあ、俺達全員と戦ってもらうぜ。

 一人一人じゃなく一度に全員とな!」

 玲の経験通り碌な人間じゃなかった。正直割って入って来た時点でこの展開は予想できていた。

 「分かったよ……」

 予想できていたが故にあまり驚きはしなかったのだが、それがかえって彼等の神経を逆なでしてしまった。

 「あまり調子のってんじゃねーぞ!!」

 相手グループの誰かが脅すように叫んでいたが玲にとっては小鳥の(さえず)り程度にしか感じない。

 (絵にかいたような不良だな……

 こういうの見てると捻り潰したくなってくる……)

 「えーと……それじゃ、また後で」

 玲から危険な気配を感じ取った八代が強引に話を打ち切った。

 八代は玲の背を押しながら不良グループから離れていく。

 「あ~危なかった。

 なんであんな殺意振り()いてんだよ……」

 正直八代は気が気でなかった。

 玲は思慮深いが慈悲深くない。神楽流の中でも屈指の冷酷さを持っていた玲は敵と認めれば決して容赦しない奴だった。

 「すまない……

 けど、奴らを見てるとイライラするんだよ。

 それよりも八代は相手決まったのか?」

 すでに玲からは殺意は消えている。切り替えの早いのも玲の長所である。

 玲としては話題を変えるために八代の相手を聞いたのだがそれにしては八代は嬉しそうなというより楽しそうな顔をしていた。

 「あぁ……俺の相手?

 別に気にしなくていいよ。玲は自分の事に集中してたら?」

 「……そこまで言うなら聞かないけど」

 楽しそうな八代を見て一抹の不安を拭いきれない玲だった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 実習場では個人戦集団戦問わず模擬戦が行われていた。

 ミキと篠は審査会の時と同じくペアで戦い見事勝利をおさめていた。

 だが、

 「あーあ、負けちゃった~」

 「でもいい戦いだったよ。

 私だったらあそこまで戦えなかったと思うし……」

 莉々は模擬戦に負け意気消沈していた。そんな莉々を先程仲良くなった篠が慰めていた。

 入学式の時は互いに知り合ってはいなかったのだが、玲達と一緒にいる事で出会い仲良くなっていた。 「うん、ありがとう。悔しがっても仕方ないからね!

 だから八代が僕の(かたき)をとってくれ~」

 「任せてくれ! 必ず勝ってやるよ!」

 「そうれはそうと、いい加減相手を教えてくれてもいいんじゃないか?」

 八代がその気になれば誰が相手でも問題ないのだろうが、できれば目立たずにいてくれた方が玲としてはありがたい。

 「次俺が()るんだしすぐに分かるさ!」

 そう言って八代はステージの上に行ってしまった。

 そしてステージにいたのは玲もよく知る人物だった。

 そこにいたのは明らかに機嫌を悪くしている十河玲奈だった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「誘いに乗ってくれてどうも~」

 「あそこまでバカにしてくれたんだ。死んでも文句言うなよ」

 勝負を持ちかけたのは八代だが、勝負を持ちかけたというより玲奈を挑発して怒らせたと言った方が正しいのかもしれない。

 (一度はこの女と戦ってみたかったんだよな~)

 現在第一学年では唯一の配合使いである彼女の実力は八代も気になっていた。

 それ以上に、

 (玲のルームメイトってのもそうだし、何よりこの女の玲を見る目が昨日までと違っていた……)

 八代は持ち前の勘の良さで玲奈の微妙な変化に気が付いていた。

 「なんでこんな奴があいつと一緒にいるんだ……」

 玲奈は独り言のつもりで言ったのだが八代は聞き逃さなかった。

 「ひょっとしてあんた玲の事好きなの?」

 「そっ、そんな訳ないだろ! 無駄口叩いてないでさっさと始めるぞ!」

 八代としてはからかうつもりだったのだが当の彼女は顔を赤くしていた。

 (とにかく玲の事が気になっているってのは確かみたいだね。

 何か玲が怖い事になってるしさっさと終わらせるか……)

 ステージ上のやり取りは他の生徒には聞こえていなかったが超人的な聴覚を持つ玲には聞こえているため、余計な事はするなという警告の意味で先程から玲に睨まれていた。

 「それじゃ、さっさと始めてさっさと終わらせますか!」

 その言葉と共に八代の頭上には巨大な鉄塊が現れた。

 もちろん八代が創りだした物だが、その大きさに周りで見物していた生徒達からどよめきが起こった。

 だが玲奈も慌てず配合を始めていた。

 彼女の配合が完了する前に攻めても良かったのだが八代はあえて待った。

 「待っていたのは余裕のつもりか?だとしたらそれは間違いだぞ!」

 その瞬間、彼女の周囲に炎が生まれた。

 生徒達からは歓声が上がるが反対に八代は無言になっていた。

 「今更謝っても遅いぞ」

 彼女の炎が八代に襲いかかる。

 (威力はそこそこだが精度にやや難あり、っと……)

 炎が迫ってきているにもかかわらず八代は悠長に分析していた。

 「悪いけどそんなんじゃ俺は倒せないぜ!」

 頭上の鉄塊を彼女に向けて飛ばすが玲奈も炎の熱で鉄塊と部分的に溶かしてかわした。

 (これだけの熱量を持ってるなら交渉室に入れるかも……) 

 八代としては玲奈を観察できただけでほとんど目的達成なのだが負けるのはあまり気持ちのいいものではない。

 (という訳でちょっと真面目にやりますか……)

 その瞬間に八代に迫り来る炎の進軍が止まった。

 それだけではない。炎が玲奈へと襲いかかって行った。

 「なんで炎が言う事聞かないんだ!?」

 訳が分からない玲奈の前にある炎がモーゼの十戒の様に割れた。

 八代はその中を悠然と歩いて玲奈の目の前にやって来た。

 自慢の切り札を封じられた彼女は反撃する事はなくそのまま勝敗は決した。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「勝者、水無月八代」

 教師の勝ち名乗りは控えめなものだったのだが見物していた生徒達は興奮冷めやらぬ様子だった。

 「八代何やったの!?

 全然分からなかった!」

 戻って来た八代に開口一番ミキが興奮気味に話しかけた。

 「さっき八代がやったのは彼女の象術の制御を奪ったんだよ」

 八代が返答に窮していると横から玲がネタばらしを始めた。

 「俺の象術の制御を奪ったってどういう事だ?」

 玲の声が聞こえていたのか玲奈が会話に割って入って来た。

 「あたしもそれ気になる!」

 ミキも同じ事を疑問に思ったらしく、玲奈に便乗した。

 「正確には配合の制御を奪った、と言う方が正しいな。

 そもそも配合とはダークエネルギーとダークマターを特定の比率で混ぜ合わせる技術だと言われているが正確には混ぜ合わせて生まれた媒体を制御して特定事象を起こすっていうのが厳密な定義だ。

 だから媒体の制御を奪ってしまえばその事象そのものの制御を奪われてしまう事と同義だ。

 実際に配合が使えるというのが前提条件になるがな……」

 玲はさりげなく八代が配合を使えるという事をばらした。

 「なんで今まで黙ってたの!?

 そんな高等技術が使えるんだったら言ってくれればよかったのに!」

 ミキの気持ちも分からないでもないのだが立場もあるため隠さざるを得なかったのだが、八代がここまで目立ってしまったので事実を話すしかなかった。

 「八代がそんな強かったって事はひょっとして玲も強いの?」

 「いや、俺はそんなに……「玲も強いぜ!!」……」

 莉々の疑問に答えようとした玲だったのだが八代が先に答えてしまった。

 どうやら八代は実力を隠し続ける事に飽きたため実力を明かす事にしたらしい。

 しかも自分だけ実力を明かすのではなく玲の実力も明かしてしまおうと計画していた。

 そこまで理解した時点で玲は抵抗する気が無くなっていった。

 「じゃあ、その強さ見せてもらうぜ」

 玲奈までも八代の言葉を信じてしまった以上、もはや玲に選択の余地は無い。

 「仕方ない……ちょっとばかし本気でやるか……」

 その言葉に八代がほくそ笑んだのを見た者はいなかった。

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