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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
16/44

第16話 審査会(後編)

第16話投稿。

ゴールデンウィーク前にぎりぎり間に合いました。

後編と言いながら結局遅くなってしまいすいませんでした。

 玲から戦ってもいいという許可をもらった八代は一人会場に戻ってきていた。

 無論玲の許可が無くても戦う事はできるのだが、八代が独断で戦って良かった事などほとんどない。

 「でも対戦相手なんてそう簡単にいる訳ないけどな~」

 全員が全員戦闘能力をアピールしている訳ではない。実際のところ、全体の3割程度しかいない。

 しかも象術審査もほとんど終盤になっており、戦っている新入生達もそんなにいなかった。

 だがそんな終盤でも盛り上がっている所が無い事もなかった。

 とりあえずその盛り上がっている人だかりの1つに行く事にした。

 「どうなってんだ、これ……」

 八代が見たのは数多くの男子生徒が倒れている光景だったのだが、見事に全員気絶していた。

 しかも気絶している男子生徒は全員袋叩きにされたように全身を滅多打ちにされていた。

 「どうやったらこうなるんだ?」

 異様なのは気絶している男子生徒達よりもその周りの盛り上がりだった。

 (普通こんなに倒れてる奴がいて何で誰も助けてやらないんだ?)

 普通戦って負傷した生徒は救護テントに運んでいくのだが、ここにいるだれもがその事を忘れているらしい。

 (何がそこまで熱狂させるかってのは気になる所だよな……)

 八代は好奇心に任せて人混みの中に入っていく。

 「おー八代、いたんだ!」

 「お久しぶりです。水無月さん」

 そこにいたのはミキと篠のコンビだった。

 周りの状況から察するにこの2人でかかってくる男子生徒を蹴散らしているという事なのだろう。

 (2人共美少女って感じだし、挑戦する男子が後を絶たないのも分かるが……)

 2対2のタッグマッチをしている事も犠牲者を増やしている要因の1つだった。

 「玲もいるんだったらあたし達とタッグマッチしない?」

 予想通りというかなんというか八代はミキに勝負を申し込まれた。

 「いや、玲はもう帰ったから俺一人で相手になるよ」

 ただ戦うためだけに玲を呼んでくるのも気が引けたので一人で相手をすると伝えたのだがそれがいけなかった。

 「自惚(うぬぼ)れんのも大概にしろ!」

 「こんな奴ぼこぼこにしちゃえ!」

 八代はなんとなく言ったつもりだったのだがそんな態度が周囲の生徒達からの反感を買ってしまった。

 「いくら八代でも今の発言は見過ごせないね」

 「今ならまだ間に合いますよ」

 やる気を見せているミキと八代を気遣う篠。

 そんな2人の態度が八代の負けず嫌いに火をつけてしまった。

 「そういうのは俺に勝ってから言ってくれ!」

 こうなってしまえば完全に八代は悪役となってしまった。

 「後悔しても知りませんよ!」

 さっきまで八代を心配していた篠も八代の態度に反感を覚えてしまった。

 これで八代の味方はいなくなってしまった。

 (玲がいないとやっぱこうなってしまうのか……)

 当の本人は早速先程までの自分の言動に後悔していた。


  * * * * * * * * * * * * * * *


 結局の所、八代は2人と相対していた。

 ミキは木刀を大上段に構え、篠はミキの斜め後ろから八代の様子を見ていた。

 (おそらくはミキが前衛で篠が後衛だな。

 問題は2人が篠がどんな技を使ってくるという事だが……)

 おそらくミキは大上段の構えから突撃してくるのだろうが、何も構えたりしない篠がどう仕掛けてくるか分からない。

 とりあえず八代は後手に回り相手の出方を見る事にした。

 「八代は構えなくてもいいの?」

 何も武器を持たず、ただ突っ立ているだけの八代はとうてい構えているとは言えなかった。

 「俺はこういうやり方なんだよ」

 八代は相手の戦い方の応じて武器や戦い方を変えるため、今回は相手がどんな技を使うか見極めるまでは構えたりしない。

 無論実戦であれば自らの得意武器である二刀で構えるのだが、命のかかっていない戦いでそんな事はしない。

 本気になりすぎて相手を殺してしまうなんて事は何が何でも避けなければならない。

 「そうなんだ……じゃあ、遠慮なくいかせてもらうよ!」

 その言葉と共にミキは一気に八代に迫って来た。

 速さはかなりのものだが、あらかじめ予測できる攻撃でやられたりはしない。

 八代は右肩を引いて半身になりその一撃をかわそうとするが、

 「なっ……!?」

 かわした一撃が途中で軌道を変え八代に向かって来た。

 八代はそれを上体を仰け反らす事でかわす。さらに上体を反らした勢いで3回程バック転してミキから距離をとる。

 だがしかし、

 (何だこりゃ!?)

 八代が見たのは数えきれないほどのナイフだった。

 篠が創ったというのは考えるまでもない。だがその数は新入生達の平均を遥かに上回っていた。

 そのナイフが一斉に八代目掛けて飛んできた。

 (なるほど……だから倒れてた男子は滅多打ちにされてた様に見えたって訳か)

 感心してる場合ではない。

 このままでは八代も他の男子生徒と同じ末路を辿る事になってしまう。

 (玲には悪いが、ちょっと本気を出させてもらうか!)

 その瞬間、八代目掛けて飛んでいたナイフが八代の体に当たる前にはじかれてた。

 「今何したんですか?」

 勝利を確信していたためか篠も驚きを隠せないでいた。

 「簡単な事だよ……

 運動エネルギーを全方向へ一気に放出しただけだよ」

 ダークエネルギーを運動エネルギーに変換し、自分の周囲へ放出する。やっている変換は基礎中の基礎であるのだが問題はその量だった。

 いくら座標指定をする必要がないとはいえ、これだけの量の変換は常識外である。

 少なくとも変換量の評価では最高ランクの(きのえ)に位置づけられる事は間違いない。

 「今度はこっちから攻めさせてもらうぜ!」

 今度は八代が仕掛けてきた。

 自らの身体に運動エネルギーを与えてミキに向かっていった。

 ミキも驚きはしたものの一瞬で思考を切り替え八代を迎え撃つ。

 「うそっ……!?」

 驚きの声を上げたのはミキだった。

 八代がミキの間合いに入る直前に目の前が真っ白になってしまった。

 それはダークエネルギーを光エネルギーに変換した閃光だった。

 閃光をまともに見てしまったミキは視力が回復する前に八代に木刀を取られその木刀で軽く頭を叩かれた。おそらくは倒したという意味を込めたものなのだろう。

 閃光で視力を奪われたのはミキだけではなかった。

 八代はミキの目の前にだけでなく、篠や周囲の観客の視力も奪う様に複数の閃光を配置していた。

 それによって八代がミキを倒すのを見た者は皆無だった。

 そしてミキを倒した後に八代は篠の背後に回り込み、手にしていた木刀でこれまた軽く篠の頭をたたく。

 それなりに面識のある相手でありこれからも付き合いがありそうな2人だったのであまり乱暴にはしなかった。

 「くそっ……何も見えなかった!」

 「勝負はどうなったの!?」

 どうやら観客達の視力が回復してきたらしく、だんだん騒がしくなってきた。

 勝負の結果についてはミキと篠がうまく伝えてくれるだろう。

 勝つ事に興味はあるが勝ちを周囲に認めさせようとは思わない。八代にとっての勝利とはただの自己満足なのだ。

 「そう言う訳で俺も帰りますか!」

 そう言って八代は一気に会場から離脱した。

 結局その勝負は観客達が確認できなかったという事や、八代が消えていたという事もあり引き分けとなってしまったという……


  * * * * * * * * * * * * * * *


 その日の夜、食堂では思う存分戦いご満悦の八代と戦いはしたものの、結局ほとんどなにもできずに不機嫌な玲が一緒に夕食をとっていた。

 「そんな怒んないでくれよ」

 「怒ってはいない。不快に思っているだけだ」

 どっちも同じような物なのだが、ご機嫌な八代はそんな事気にしていなかった。

 「どの道戦わないつもりだったんだからそんな気にしてない。

 それよりも俺が言いたいのはなんであんな目立つような事したかって事だ」

 玲が言っている『あの事』とはミキと篠のコンビと戦った時の事である。

 最後に八代がいなくなってしまった事で大変な騒ぎになっていたという。

 その証拠に今も八代にを見ては驚いている生徒がいた。

 (行方不明になってたはずの奴がいたらそりゃ驚くだろうさ……)

 「明日からは授業も始まるんだからはやく寝ろよ」

 「分かってるって……いつまでも寝坊したりしねぇよ」

 (八代のルームメイトはああ見えて意外としっかりしてしてそうだから心配ないか……)

 「ごちそうさまでした」

 いつの間にか八代は食べ終えている。

 「俺はいいからお前はもう部屋に帰ってろ。

 俺に付き合う必要はない」

 「分かった。じゃあ、また明日な!」

 そう言って八代は食器を片づけて部屋に戻っていった。

 思えば施設にいた頃はまた明日、などというあいさつはしなかった。八代とは同じ部屋だったのでそんな必要が無かったというのもあるがやはり新鮮である。

 思えばこっちに来てから新しい事づくめである。

 内閣府特殊案件交渉室に所属させられた事、

 八代以外の人間と同室になった事、

 そして、当たり前の様に象術を使っている事……

 今までは八代と一緒にいる事が当たり前だったのに今では別にそれほどではない。

 (これからはもっと離れていくのだろうか……)

 「まぁ、考えても仕方ない。

 食べ終えた事だし俺も寝るとするか。」

 いつの間にか食堂には人が(まば)らになっていた。


  * * * * * * * * * * * * * * *


 玲奈は早々に食事を終え、部屋のベッドで横になっていた。

 (あの時俺は確かにあいつ目掛けて攻撃していた。

 にもかかわらず無傷だった。

 あいつは一体何をしたんだ?)

 玲は絶対逃げると考えていたからこそ手加減しなかったのだ。

 そもそもあの久桐玲という男は玲奈が出会って来たどの男とも違うタイプだった。

 (なんというか……空気みたいな奴だな)

 同じ空間にいるのにその存在を感じる事ができない。

 今まで出会って来た男のほとんどは自分の胸元や顔に視線を向けていた。だからこそその視線を感じてしまう事でその男の存在を感じてしまう。

 だからこそ玲奈が男嫌いになってしまったとも言えるが……

 だが久桐玲にはそれがない。

 だから調子が狂ってしまう。


 ガチャ…………


 そう考えている内に玲が部屋に戻って来た。

 「ちょっ、おまえが何でここにいる!?」

 いきなり現れた玲に玲奈は動揺してしまう。

 「何でって……ここは一応俺の部屋でもあるんだが?」

 玲の言っている事は間違ってないのだがあまりにも自然すぎる。

 自然、というよりは決められた行動をしている機械のようだ。

 (だから分からないのか……)

 ここにきて玲奈は確信した。

 久桐玲は自分を見ていない。正確に言えば自分を十河玲奈としてではなく、ただのルームメイトという記号としてしか見ていない。

 (審査会の時もそうだが、こいつには不可解な部分が多すぎる。

 本気だった俺の炎を防いだ象術だって見た事もないものだった)

 玲奈が配合で生みだした炎は酸素を遮断しても燃え続けるため、熱エネルギーを相殺するために冷気を生み出すしかない。

 だが冷気を生み出すのは操炎系よりも遥かに難易度が高い。

 「そういえばお前、どうやって俺の炎を防いだんだ?」

 (分からないならば本人に聞けばいい)

 理屈の上では間違ってないのだが、

 「なんて言ったら納得してくれるんだ?」

 玲からしてみれば本当の事を話す義理も義務も無い。

 「本当の事を話してくれたら信じてやる」

 そんな上から目線で言われて答える男子はほとんどいないのだが玲奈にそんな気配りは出来なかった。

 「あの時のは超能力だ」

 「…………そうか」

 玲の言った超能力というのは微妙な回答だった。

 この世の人間全員に象術の才能がある訳ではない以上、象術を超能力と考えている人も多い。

 そういう意味では超能力を使ったというのは嘘ではない事になる。

 「悪いが俺はもう寝る。

 初日から遅刻というのは出来るだけ避けたい」

 なぜか玲はこの話題を強引に打ち切ろうとしている。

 「ひょっとしてお前秘密結社のスパイか?」

 玲奈はからかうようつもりで言ったのだが言われた玲はなぜか少し焦っているように見えた。

 「悪いがそんな冗談に付き合っている暇は無い」

 焦って見えたのは一瞬ですぐに元に戻ってしまった。

 「あんたも早く寝た方がいい。

 明日は1限目から象術実習だぞ」

 そう言って玲は寝てしまった。

 (俺の周りには今までこんなタイプの奴いなかったな……)

 だからこそ気になってしまうし、知りたいとも思ってしまう。

 (多少仲良くなりゃ、あの時の象術のカラクリも教えてくれるだろ!

 早速明日話しかけてやるか……

 そうと決まれば明日に備えて寝よ)

 結局ルームメイトと無関係でいる、という玲の計画は脆くも崩れ去ってしまった……

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