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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
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第15話 審査会(前編)

第15話投稿。

今回は前編後編に分ける事にしました。

 大概の人間はテストや試験前は緊張してしまうのだがそれは象術士であっても例外ではなかった。

 もちろんそれは八代と玲にも当てはまる事だった。

 「とにかく手加減してりゃいいんだな?」

 「そうしてるのが無難だな……」

 2人の場合はいかに目立たないようにするかで悩んでいたのだが……

 見に来ている上級生達も勧誘のために見に来ているので自分を売り込むため張り切っている生徒がほとんどだった。

 「ただいまより象術審査を始めます。

 新入生のみなさんはルールを守り、存分にアピールしてください!」

 上級生も集まってきたらしくいきなり象術審査開始のアナウンスがなされた。

 途端に新入生達が自分のアピールのために象術を使い始めた。

 より大きなエネルギーを生み出し変換量でアピールする生徒。

 より複雑な物質を創り変換技術でアピールする生徒。

 新入生は200名いるにもかかわらずこの2つのどちらかでアピールする生徒がほとんどだった。

 「今年は豊作だな」

 どこからかそんな声が聞こえてきた。

 「ふーん例年がどうか知らないけどこんなもんなの?」

 「俺も知らんから何とも言えん。

 少なくとも俺達と並ぶような奴は見当たらんが……」

 傲慢な発言かもしれないがもしそれ程の実力を持っているというのなら交渉室がスカウトしていてもおかしくはない。

 「こんな所にいたのか久桐!

 約束通り勝負するぞ!」

 「今からか?」

 話しかけてきたのは玲奈だった。

 (玲、勝負って何の事だ?

 確か俺に目立つ事は避けろとか言ってなかったけ?)

 (申し訳ない……

 だがこれは不可抗力だ)

 八代のお怒りももっともなのだが玲としてもこれだけは言っておかなければならなかった。

 (不可抗力ってなんだよ!

 そんな言葉しらねぇよ!)

 玲もこんな所で八代の漢字能力の低さが(あだ)になるとはさすがに思ってなかった。

 (仕方ないってことだよ……

 言いたい事は後で聞いてやる。

 適当に戦っとくから心配するな。)

 とは言っても勝負を受けてしまった事実は変えられない。

 となれば早々に負けて勝負を終わらすしかない。

 幸い玲は八代と違って勝負に熱くなりすぎる事はないため八代もあまり心配していない。

 していないのだが、

 (俺も戦いたいのに……)

 簡単に言えば八代は拗ねているだけだった。

 そんなやり取りが続いている間にも勝負の事を聞いた上級生達が彼等の周りに集まってくる。

 こうなればもはや目立たないようにするなどという当初の目的は果たせそうにない。

 「お前から仕掛けていいぞ!」

 余程自信があるのか玲奈は玲に先手を譲った。

 別に交互に攻撃を繰り返すというルールはないのだが先に攻撃ができるというのはかなり有利だと言える。

 それを知ってもなお先手を譲るのは余程腕に自信のある奴か、カウンターを得意としている奴ぐらいのものである。

 「ではお言葉に甘えて」

 わざと負けるのだから先手だろうが関係ない。

 とりあえず玲は鉄のナイフ(もちろん刃は付けていない)を創り、それに運動エネルギーを与えて飛ばした。

 最も基本的な攻撃法であり、威力も学生レベルまで落としておいた。

 「そんなんじゃ、かすり傷一つ付かねぇよ!」

 彼女に向かっていたナイフは全てかわされた。

 (戦闘に自信があるってのは間違いないみたいだな……)

 並の新入生であればそこまで余裕で防ぐ事はできないだろう。

 「今度はこっちから行くぞ!」

 今度は玲奈が攻撃する番だった。

 いつもの戦闘ならば相手にそんな余裕を与えたりはしないのだが今回は相手の実力を測るという側面もあるのであえて邪魔したりはしない。

 (さて、お手並み拝見といきますか……)

 玲奈の実力はおそらく新入生の中でもかなり上位に位置しているだろう。

 その彼女の実力を測る事で新入生全体のレベルを把握しようとしていたのだが、

 (まさか配合!?)

 そんな玲の余裕は吹き飛んでしまった。

 玲奈がダークエネルギーとダークマターを同時に取り込んでいた。

 同時に取り込むのは不自然な事ではない。事実玲も先程やっていた事である。

 だが問題はその場所だった。

 本来ならば同時に取り込むにしてもダークエネルギーは右手、ダークマターは左手、といったように別々の場所に取り込むのだが彼女はダークエネルギーとダークマターの両方を右手に取り込んでいた。

 それは配合を行うというサインでもあった。

 配合とはダークエネルギーとダークマターを一定比率で同じ場所に取り込み混ぜ合わせる技術の事である。

 それによって本来はエネルギー変換や物質変換以外の事象を生み出す事ができるようになった。

 だが配合は象術の中でも高等技術であり、才能と努力の2つがあってはじめてできる事なのである。

 正直、新入生の中に出来る奴がいるとは思ってもみなかった。

 「あの子、配合が使えるのか!?」

 驚いているのは玲だけでなかった。

 玲奈が配合を使おうとしているのが分かった上級生達にも驚きが広がっていった。

 (あの女が使おうとしてるのは配合の中でも一番基本的な操炎系配合か……

 本来なら玲の敵じゃないんだが……)

 そんな中八代は相手の技を冷静に分析していた。

 操炎系配合というのは文字通り炎を操るものであり、戦闘以外には料理か大道芸にしか使えないと言われているような技術だが配合の中では最も基本的なものな上、戦闘においてもかなりの戦力になる。

 そうこうしている間にも玲奈が生み出した炎が玲に迫っていく。

 にもかかわらず玲はかわそうとしない。

 そのまま玲は炎に飲み込まれてしまった。

 「お、おいっ!!何でかわさない!?」

 ここにきて流石に玲奈の動揺を隠せなくなってしまったらしく声を荒げていた。

 炎が消え、玲の姿が確認できるようになりその場にいた誰も声を出す事ができなかった。

 姿を現した玲は無傷、それも制服にも(すす)一つ付いていなかった。

 「すいません。俺の負けみたいです。

 俺を避けるように攻撃してくれてありがとう」

 玲はその場で負けを認めた。

 「あ、あぁ……」

 玲奈も呆気にとられて何も言えなかった。

 だがその沈黙も長くは続かなかった。

 玲が無傷だった事は玲奈が手加減した事だという認識がされると注目は一年生ながら配合を使う事のできる玲奈に向いた。

 部活勧誘のために玲奈は上級生に囲まれてしまい、そのおかげで八代と玲が会場から出ていくのに気付いた者はいなかった。


  * * * * * * * * * * * * * * *


 「このままじゃ正体ばれちまうぞ!」

 「悪い……

 配合が使えるなんて思ってもみなかったからつい力を出し過ぎちまった」

 体育館の中ではいまだに玲奈が配合を使った事で盛り上がっていて2人を見ている者はいなかった。

 「でも配合にあんな時間使ってたら実践じゃ使い物にならんぞ……」

 玲奈が配合を使うまでに費やした時間は約5秒。

 一対一に実践ならばその間に間合いを詰められて終わりである。

 「でも彼女が新入生の中では上の方にいるのは間違いないんじゃないか……っと玲、誰かこっちに向かってきてるぞ」

 2人が居る場所へ2人の女子生徒が近づいてきた。

 長い髪をポニーテールにした明らかに活発そうな女子生徒とメガネをかけたいかにも優等生そうな女子生徒のコンビだった。

 「先程はお疲れさまでした」

 近づいてきた女子生徒の一人が話しかけてきた。

 お疲れ様と言うからには玲に話しかけているのだろう。

 「ありがとうございます。

 ところでお二人は?

 出来ればご用件もお願いします」

 話しかけてきたのはいいが相手が誰か分からない上に話しかけてきた意図も分からない以上、スパイかという可能性も捨てきれない。

 「これは失礼しました。

 私は地学部(ちがくぶ)部長の笹倉真琴(ささくらまこと)。こっちが副部長の千賀原恵美(ちがはらえみ)。

 用件はあなた達を地学部に勧誘する事よ」

 どうやらポニーテールの女子生徒……笹倉真琴が部長のようだった。

 「俺は水無月八代です」

 「俺は久桐玲です。

 それはそうとなんで俺達を勧誘するんですか?

 俺はさっきの戦闘で何もできませんでしたし、そもそもこいつは何もしていません」

 先程の戦闘において玲は玲奈の攻撃に何もできなかった、というのが周囲の認識のはずだった。

 「ほとんどの人はそうかもしれませんが私達の認識は違います。

 十河さんが生み出した炎が迫って来ても久桐君は全く動揺していませんでした。

 それに久桐君が炎に飲み込まれても水無月君にも動揺はありませんでした。それは久桐君が無事だと確信していたからだと考えられます。

 そして実際に久桐君は無事でした。

 十河さんの表情を見れば彼女が手加減してなかったのは分かりました。

 となれば久桐君が何らかの方法で炎を防いだ、と考えるのが自然です」

 真琴の代わりに恵美が玲の疑問に答えた。

 彼女の推測は間違っていないのだが玲も立場上認める訳にはいかない。

 「仮に恵美の推測が間違っててもあの状況で平然としてられるような胆力の持ち主なら地学部に来て欲しいわ!」

 ここまで持ち上げられれば断りづらいものである。

 (まぁ、どの道どこかのクラブに所属しないといけないんだしこのクラブでいいんじゃない?)

 (俺も異存はない)

 相談の結果、地学部に入部する事に決めた。

 「じゃ、俺達は地学部に入部って事で!」

 「ありがとう!

 これで地学部消滅は回避できたわね!

 これで勧誘は終わり、っと」

 八代が2人の入部を伝えた事で真琴は上機嫌になってくれたのはいいのだが、

 「いや、勧誘終わりって、まだ勧誘しないんですか?」

 当然のごとく部員は多いに越した事はないのだから勧誘を続けるのが普通である。

 にもかかわらず彼女は勧誘が終わったと言った。

 「2人入ったんだし今年は大丈夫よ」

 どうやら地学部というのは熱血とは無縁らしい。もう少しやる気を出してもいい気がするのだが……

 「とにかく地学部は何をする所なんですか?」

 地学部というくらいなのだから地層の事とかひょっとしたら恐竜発掘なんかをやるのかもしれない。

 「簡単に説明すると地学部は象術についての研究がメインですね。

 2人はなんでダークエネルギーやダークマターが地球に存在できないと言われています。

 ですが象術を使う際に象術士はダークエネルギーやダークマターを体内に取り込みます。この時ダークエネルギーやダークマターは地球に存在しているといえます。

 つまり先程いった事と矛盾してるわけですよね?

 これについて考えた事はありますか?」

 存在できない物が存在するという矛盾。

 ほとんどの者がその矛盾を指摘されれば答えることはできない。

 だが玲は少数派に属している。

 「そもそも地球上にダークエネルギーやダークマターが存在できないってのが間違ってます。

 正確に言えば地球に留まる事ができない、というのが正解です。

 まずダークエネルギーの正体から説明しましょう。

 ダークエネルギーとは真空のエネルギーと言われています。

 そしてそれは宇宙空間の膨張に伴って真空にできるエネルギーという訳です」

 要はダークエネルギーは真空で生まれるから真空じゃない地球には生まれないという理屈である。

 「しかも既存のエネルギーと異なりベクトルと持っていないためどこかに移動したりという事もない。 つまりは生まれた場所に留まり続けるエネルギーですので地球上で生まれる事のないダークエネルギーが地球に存在する事は無いという事です」

 小難しい理論であるため啓莱高校の入試問題として出る事は無い。

 「ダークエネルギーについては正解です。

 ですがダークマターについての説明がまだです」

 (ここまで知っているならダークマターについても知っているのでしょうね)

 ここまで答える事が出来た時点で玲の知識は十分分かったのだが出題した以上最後まで答えてもらう事にした。

 「ダークマターについてはもっと簡単です。

 ダークマターの正体は原子核よりも遥かに小さい極小の微粒子です。

 ダークマターは今も絶え間なく地球に降り注いでいるのですが極小の微粒子故、人体や地球を透過していってしまうのです。

 だからダークマターは地球に留まる事が出来ないんです。それにダークマターは超新星からしか生みだされないので惑星である地球から生みだされる事は絶対ない」

 ちなみに超新星とは太陽の様に自ら光を発する恒星がその一生を終える時に起こす大爆発の事である。

 地球は恒星ではないので超新星となる事はない。

 「完璧ですね……」

 恵美にとっては地学部の紹介のつもりで出した例題だったのだがこうも完璧に解かれてしまっては模範解答の示しようがない。

 「地学部は象術の原理とかを研究する部なんだよ!」

 「そう言えば天体の事も地学に分類されてたっけ……」

 八代の言うとおり天文学は高校では地学に分類されている。

 「そう言う事だから詳しい事は放課後に部活棟三階にきてね!」

 「お待ちしてます」

 そう言い残して真琴と恵美は会場から出て行ってしまった……本当にこれ以上の勧誘はしないらしい。

 「なんというか……独特な人だったな。

 つーか、俺達もここにいる必要ないんじゃない?」

 所属する部も決まったのでこれ以上のアピールは無意味である。

 「八代はそれでいいのか?

 お前まだ何もしてないだろ?」

 玲が言っているのは八代は戦ってないがいいのか?という意味である。

 「別にいいよ。俺は玲と違うから。」

 玲だけが戦った事をいまだに根に持っているらしい。

 「分かったよ……一回だけだぞ」

 そう言い終える前に八代の姿は消えていた。

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