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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
14/44

第14話 入学式

第14話投稿~

やっぱり平日ともなりますと執筆は深夜になってしまいます・・・

大学もあるので必然的に睡眠時間が減っていきます・・・

 入学式当日。

 啓莱高校(けいらいこうこう)の体育館の前には入学式を待ちわびる新入生とその保護者達で溢れかえっていた。 

 その喧噪から離れた所に八代と玲がいた。

 両親のいない2人にとって入学式や卒業式など、親子で参加するのが当たり前という行事が苦手だった。

 それは両親がいない2人を気にして周りが遠慮してしまうのが嫌なだけで、騒がしいのが嫌いという訳ではない。

 それでも新入生達から離れた所にいたのは単に人のいない所がそこだけだったからである。

 「この学校のどこかにテロリストのお仲間がいるんだな?」

 「俺の予想が正しければだが……」

 テロリストがいるかもしれない場所で人混みにまぎれるような恐ろしい事は出来ない、という理由の方が大きい。

 クラス分けが発表されたらしく新入生達は次々と自分達の教室に向かっていく。

 「見えるか?」

 「ああ……」

 2人の視力は通常の測定法で約7.0。

 2.0あれば目がいい、と言われるこの国でこの数値は飛びぬけている。

 神楽流では感覚器官の強化も行っているため、2人は視覚に限らず聴覚、嗅覚に至っても常人を遥かに凌駕する。

 それほどの視力があれば2人が今いる所からでもクラス分け表の文字を視認できる。

 「どうやら同じクラスになれたみたいだな……」

 「とりあえずは安心だ」

 2人は同じ4組だった。

 クラスは三年間変わらないので八代と玲は三年間同じクラスということになる。

 「じゃ、早速教室に行くか!」

 「そうだな」

 2人はそう言って自分達の教室に向かって行った。

 


 当然の事ながら4組の教室はあまり騒がしいとは言えなかった。

 この啓莱高校には全国から象術士を目指す者が集まっているためほぼ全員が初対面なのである。

 八代と玲が教室に入って来た時も教室にいた全員が2人の方を見る始末である。

 「これが全員じゃないみたいだな……」

 「まだ時間はあるからこれから増えていくのだろうよ」

 そんな雰囲気の中でいつもと変わらず話していた2人はかなり注目を集めていた。


 ガラッ……


 またドア空き新入生が入って来た。

 「おっ! ミキじゃん!」

 「本当だ……」

 入って来たのは扶桑(ふそう)ミキだった。

 「よかった~。知ってる人がいると気が楽だよね~」

 みんな口数が少ない中でミキも加わりさらに(やかま)しくなってしまった3人は最早注目の的だった。

 「げっ……」

 不意に玲が嫌な物を見たような顔になった。

 「どうした玲?」

 「俺のルームメイトも同じクラスらしい……」

 玲はいきなり声のトーンを落とした。

 「かっこいい子だね~

 女のあたしでも惚れちゃいそう」

 (黙ってれば確かにそうなんだろうが……)

 玲の見た所、玲奈の容姿はこのクラスでも三本の指に入るだろう。


 ガラッ……


 「静かに~!

 そして自分の席に着け!」

 入ってきていきなりのこの言葉で入って来たのが担任教師であるというのが分かるのだが、問題はその担任教師だった。

 「よりによってあの女かよ……」

 あの女というのは入寮式で数多くのイカサマを見破ったあの女だった。

 (あの女教師だったのかよ……)

 (よく考えればありえない事じゃないんだけどな……)

 長年の付き合いである2人にとっては目線だけで意思疎通ができる。

 (あの女も象術士なのか?)

 (教師というからにはそうなのだろう。

 それにしてもあの女が担任ならば俺達の正体を隠すのも容易じゃないぞ……)

 彼女は普通の学生とは比較にならない程のプレッシャーを放っているため他の同級生達はすっかり委縮してしまっていた。

 「私はこの組の担任になった乱胴涼子(らんどうりょうこ)。この学校では象術戦闘の授業を担当している」

 彼女の名前はいろいろと悩んでいた八代と玲に追い打ちをかけるような情報だった。

 (テロリスト発見)

 八代は確信した。こいつが乱胴雅次の仲間だと。

 (決めつけるのはまだ早いが明らかに怪しいのは確かだ……

 だが乱胴雅次と関係しているとは限らない。

 単に同じ名字というだけかもしれないし……)

 玲も否定してはいるものの、同じ事を考えずにはいられない。

 「最初に言っておくがこのクラスも担任も三年間同じだ。

 というのも三年間クラスも担任も変えれば能力が伸び悩んでしまうという研究結果がでているからだ。

 これもこの啓莱高校での研究成果だと言えるな……」

 (もし彼女がテロリストだというのなら都合がいい……)

 (どうしてだよ?

 あの女結構できるぜ?)

 彼女の放つプレッシャーから2人は乱胴涼子という象術士の実力を測っていた。

 (たしかにかなりできるようだがそれだけでは脅威にならない。

 俺だけでも何とかなる)

 象術の強さだけで勝敗が決まる訳ではない。勝敗を決する大事な要因である事に変わりは無いのだが……

 「それと午後から行う予定だった象術審査だが新入生たちの負担も考え、今年から入学式の次の日に行う事になった」

 それを聞いた新入生達は安堵の息をついていた。

 「時間だ。

 体育館に向かうから廊下に並べ」

 とりあえず今のところ危険は無い。

 不安をぬぐい去ることはできなかったが……


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「特に変わった入学式じゃなかったな……」

 「入学式で突飛な事はできねぇだろ……」

 2人の言う通り、入学式はどの学校にもありがちな平凡な物だった。

 入学式も問題なく終わり、クラスに戻っての自己紹介も終わった今は各自寮に戻り明日の象術審査に備える生徒がほとんどの中、八代と玲はいまだに教室に残っていた。

 もちろん教室に2人以外のに人はいない。

 2人は今作戦会議の真っ最中だった。

 「分かっている思うがあの女についてだ」

 口火を切ったのは玲だった。

 「あの女絶対怪しい。

 というかあのプレシャーは絶対敵だって!」

 八代の中では乱胴涼子=テロリストの解が導き出されていた。

 「怪しいのは分かる。

 だがあの女が乱胴雅次と関係があるのかどうかは分からない以上、決めつけるのはよくない」

 ただ名字が同じだけという事も考えられるため名前だけで決めつけるのは早計すぎるのだが疑わしい事に変わりは無い。

 「どの道調べるのは俺達の仕事じゃないしな……

 調査は頼んだんだろ?」

 八代の言う通り調べるのは2人の仕事ではない。

 2人の仕事は戦う事がメインである。調査にはそれ専門のエージェントがいる。

 「頼んださ……

 調査結果はいつもの場所で渡すそうだ。

 俺は今夜行くが八代はどうする?」

 いつもの場所とは内閣府特殊案件交渉室のエージェント達が集う隠れ家みたいな場所であるのだ。

 「行くよ。

 たまには同僚との親交もしないとな」

 「了解……

 じゃあ、18時に寮の玄関に集合だ」

 それまでは自由行動、とばかりに玲は教室を去って行った。

 (相変わらず玲は要領いいな……)

 人は自分に無い物に憧れるというが今の八代はまさにそれだった。

 常に一手先を読んで行動する事もあらゆる状況に対応できる柔軟性も八代にはない。

 (でもなにがあったらあんな風に育つんだ?)

 八代は玲がなぜ強くなりたいのか知らないが興味はある。

 だが自分が話したくない事を玲に強要するつもりは無い。

 (待ち合わせは18時……

 それまで何しようか……)

 いつまでも一人で教室にいても楽しくは無い。

 (俺も部屋に戻ろう)

 制服で来てはいけないと言われているので着替えのために戻らないといけない。

 「俺の出番はまだ先か……」

 八代の本領は戦闘にある。

 その戦闘までは玲に任せる。

 (早く戦いたいな)

 たぶん玲も同じ事を考えているに違いないという確信が八代にはある。

 どれだけ性格や得意分野が異なっていても根っこは同じ。

 戦闘狂。

 2人を言い表すならばこの一言に尽きる。

 根っこが同じだからこそ八代は玲に嫉妬したりしない。

 今までも。そしてこれからも……


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「考え事をして遅刻したという事か?」

 「はい……その通りです……」

 八代と玲は目的の場所まで歩いて向かっていたのだが八代の足取りは重い。

 結局あの後八代は待ち合わせに遅刻した。

 ちゃんと時間通りに来ていた玲も目をまともに見れない。

 「まぁ、特に急ぐ用事でもないんだしもう怒ってない」

 怒ったとしてもすぐに機嫌を直してくれるのが玲のいい所である。

 「やっと着いたか……

 歩くと結構かかるな……」


 Bar Escondite(エスコンディーテ)


 看板にはそう書かれていた。

 これが内閣府特殊案件交渉室のエージェント達のたまり場的な場所である。

 (隠れ家って……そのままの名前だな)

 Escondite(エスコンディーテ)とはスペイン語で「隠れ家」を意味する単語である。

 見た目は高校生が入ったり出来ないような大人の社交場という雰囲気を醸し出しているのだが2人は気にする事なく入っていく。

 「いらっしゃいませ」

 店に入った2人を出迎えたのは初老の男性でこの店の店長だった。

 彼は2人の姿を確認すると店の奥を指差す。

 これは他にも交渉室のエージェントが来ているという合図である。

 「俺達だけだと思ってたが……

 たぶん睦月さんだろうけど」

 そう言って2人は店の奥の方に入っていく。

 この店はカモフラージュのため普通のバーとしても営業しているので周りには一般客もいる。

 その一般客に見つからないように交渉室御用達のホールの前に着いた。

 ここに入るにもドアの所でMSTの認証と指紋認証が必要となる。セキュリティは無駄に高い。

 認証を終え、2人はホールに入っていく。


 「やぁ~、2人共久しぶりだね~」

 いきなり話しかけてきたのは酒の入ったグラスを持った中年男性だった。

 「睦月さんも相変わらずの大酒のみですね。」

 この中年男性が睦月誠司(むつきせいじ)。交渉室においては護衛任務など守りの任務を任される事が多い。

 2人の迎撃任務も本来ならば彼に任せたいというのが政府の本音なのだろうが教師として潜り込ませるにしても任務が終わった後すぐに辞めてしまえば疑われてしまうので現在は待機となっている。

 「こんな時間から飲むくらいなら家に帰って家族サービスでもしたらどうです?」

 まだ夜の7時だというのにバーで酒を飲むというのは妻子ある男性としては褒められた事ではない。

 「妻は今頃不倫相手と仲良くやってる頃だよ」

 「仮面夫婦とはいえ一応夫婦なんだからそれらしい事しとけよ」

 八代の言う事ももっともなのだが政府が用意した女性と結婚させられたのだ。

 恋愛でもなければ見合いでもない。初対面の女性相手に愛情も何もない。

 交渉室のエージェントにとっては結婚も任務の一つであると言える。

 「それにしても君達がここに来るなんて珍しい……

 まずは啓莱高校入学おめでとう。

 これで2人は僕の後輩という事になるんだな……

 これはお祝いだよ」

 そう言ってご祝儀袋を渡してきたのは棚山達樹(たなやまたつき)。二十歳を少しばかし過ぎた男性で碧の婚約者でもある。

 彼は対テロリストの責任者でどのような任務もこなすオールラウンダーである。

 年も近いので交渉室のエージェントの中では2人と一番仲がいい。

 「碧さんは一緒じゃないんですか?」

 玲はホールを見回してみても彼女の姿を確認する事はできない。

 任務でもなければいつも達樹の近くにいるはずなのだが今日はいない。

 「碧は実家に帰省してるんだよ」

 「何で一緒に行かないんですか?」

 碧の性格なら絶対達樹も一緒に来るよう言うはずである。

 「婚約はしていてもまだ正式に結婚してないから彼女の実家はまだ敷居が高いよ」

 要は気遅れしてるだけだった。

 「そうか2人今日入学式だったんだな。

 これは祝わないとな!」

 いきなり誠司が割りこんできた。この人は酒が飲めればなんでもいいらしい……

 「それもいいですけど先に仕事をしてからにします」

 そもそも同僚と親交を深めるために来たのではない。

 2人はホールのカウンターの席に着いた。

 「やっと来られましたか。

 これが頼まれていた資料です」

 そこに現れたのはバーテンダーではなく秘書だった。

 彼女は水無月沙希(みなづきさき)。名字から分かるように八代の実姉である。

 彼女自身は任務を遂行せず、エージェント達のサポートをするのが彼女の主な仕事である。

 「…………」

 「…………」

 沙希と八代の間に気まずい沈黙が流れていた。

 以前からこうなのだがこの姉弟はあまり仲が良くないらしい。元々仲が悪いのかそれとも何か原因があるのか……

 「どうだった玲?」

 漢字の読めない八代では渡された書類の内容を理解する事はできないだろう。

 だから玲が書類を読んでその内容を八代に伝えるというのが2人の当たり前になっている。

 「結果から言うとあの女……乱胴涼子は乱胴雅次の実妹だ。

 啓莱高校の教師になる前は優れた象術警官として活躍していたと書いてある」

 「じゃあなんで象術警官が教師なんてしてんだ?」

 啓莱高校の教師よりは象術警官の方が明らかに報酬も多いし名誉もある。

 逆はあるかもしれないが象術警官が家来高校の教師になる理由がない。

 あるとすれば……

 「スパイとして潜り込むため……そう考えるのが妥当かもしれない。

 それに彼女が象術警官を辞職した理由が、神楽流術者との交戦中に重症を負い象術警官としての仕事をこなせなくなったため、と書いてある」

 「ありえない……そんな甘い奴は神楽流にいない」

 神楽流ではその技術を秘匿するために神楽流以外の者と戦った時は相手を確実に殺しておく習慣があった。

 にもかかわらず生存していたという事は彼女が余程の使い手でほとんど相討ち状態まで持ち込んだためトドメを刺されなかったのか、もしくは嘘かのどちらかである。

 「確率的にいって後者の方が高い」

 玲はそう断言する。

 「これで決まり……

 あの女は黒だ!」

 「そうだな」

 八代の確信を玲も否定しない。

 「そうと決まれば明日の象術審査はあの女に気をつけておくか……」

 「八代、勘違いしてるようだから言っておくが……

 スパイが一人だなんて誰が言った?

 他にもスパイがいたとしてもおかしくは無い」

 確かにスパイが一人しかいないというのは考えにくい。

 「だがあまり多くてもばれやすくなるだけだからせいぜい2~3人といった所だろう。

 それにあの女を調べていけば案外簡単に見つかるかもしれん」

 「それを象術審査で探すってことか……」

 八代も玲の意図に気付いた。

 「俺としてもこんな性に合わん任務は早く終わらせて少しでもまともな高校生活が送りたいんだよ」

 「性に合わんとはなんだ!

 迎撃任務も重要な任務の一つだぞ!」

 そこへ割りこんできた声の主は睦月誠司だった。

 護衛や迎撃を専門とする彼にとって今の玲の発言は見逃せないものだったらしい。

 「つーか、この人完全に酔ってんじゃんか!」

 任務の重要性を説く姿はエージェントの鑑と言える……酔ってさえいなければ。

 「誠司さんは僕がなんとかしておくから2人はもう帰った方がいいよ。

 遅くなって面倒な事になったら大変だしね」

 そう言って達樹は誠司の背中を押していく。

 「お願いします。」

 「お手数おかけします……」

 2人も達樹には頭が上がらない。

 「達樹さんが抑えているうちに出るぞ」

 「そうだな」

 そのまま2人はホールを出て行った。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「ただいま~」

 「おかえり~」

 独り言のつもりで言った八代のただいまに莉々はちゃんとあいさつを返す。

 「八代から酒のにおいがするぞ。

 まさか酒飲んできたのか?」

 そう言えばそんなにおいかしなくもない。

 (あんだけ酒臭い誠司さんに絡まれてたんだから酒のにおいがしてもおかしくないか……)

 八代が店を出るときには誠司はすでに泥酔状態だった。

 そんな酔っ払いに絡まれていれば酒のにおいが移っていても不思議ではない。

 「今日俺と玲の入学祝いをしてくれててそこで酔っ払いに絡まれちゃってね。

 それでにおいが移ったんじゃない?」

 入学祝をしようとしてくれた酔っ払いの誠司に絡まれてにおいが移ったのだから事実である。

 「そうか~

 僕はここに来るまでにお祝いしてきちゃったからな~」

 莉々も納得してくれた。

 「俺疲れたからもう着替えて寝るよ……

 明日象術審査もあるし」

 そう言って八代はシャワールームに入っていく。

 着替えを終えた八代はそのままベッドに潜り込み寝てしまった。

 「ありゃりゃ……

 ほんとにすぐ寝ちゃった……

 僕もする事無いしもう寝よっと」

 見かけとは異なり大人な気配りの出来る莉々だった。



 「ノックぐらいしろ!」

 「自分の部屋に入るのにノックする必要がどこにある?」

 こちらはこちらで喧嘩になっていた。

 「男女が同じ部屋なら男が気を使うのは当然だろ!」

 「俺は関わるなというあんたの言葉を忠実に守っているだけなんだが……」

 「ちっ……」

 口喧嘩は玲の完全勝利だった。

 (口喧嘩じゃ勝てねぇな……)

 玲奈は口喧嘩では勝てないと悟り別の勝負で戦う事にした。

 「じゃあ明日の象術審査で白黒つけるぞ!」

 「却下!」

 即答だった。

 (八代を抑えるので手一杯になりそうだってのに、余計な面倒を見てる暇無いっての……)

 さすがに玲もそこまでお人よしではない。

 (つーかこいつ男嫌いじゃなかったのかよ……

 そーいえば初対面の男子を嫌うって言ってたな……

 という事は俺の事はそれなりに慣れたって事か。それは困るが……)

 「聞いてんのか!?」

 考え事をしてる間にも彼女はしゃべりつつけていたらしい。全く聞いていなかったが……

 「聞いてないけど。

 なんか言ってた?」

 たぶんどうでもいい事を言ってたのだろうがその内容が気にならないでもない。

 「お前、あまり象術戦闘得意じゃないんだろって聞いてんだよ」

 どうやら勝負を断った事により玲は象術戦闘が苦手だと認識されてしまったらしい。

 「得意かどうかってのは分からんが……」

 実際得意不得意は自己判断である。

 どんな強くても本人が苦手だと言えばそれまでである。

 「別に俺は象術戦闘以外での象術勝負でも負けないけどな!

 お前の得意分野でいいぞ!」

 (よっぽど象術に自信があんだな……)

 しかしこのままでは勝負を受けるまで言われ続けるのだろう。

 「象術戦闘でいいよ」

 仕方ないので勝負を受ける事にした。どうせ勝負が回避できないのならすぐに決着のつく象術戦闘の方が楽だった。

 意味のない意地を張るほど玲は子供ではない。

 「オーケー!

 もしいい勝負ができたらお前の事認めてやるよ」

 「努力する」

 (こいつ俺が負ける事前提で話を進めてやがる)

 もちろん本気で戦う訳にはいかないし、かなり力をセーブしなければならないだろう。

 負けるのは嫌だがこの際仕方ない。正体がばれるよりははるかにマシだ。

 (俺も八代の事とやかく言えた義理じゃないな……)

 普段八代に口うるさく注意してた自分がこれじゃ話にならない。

 そんな玲の悩みを知らない玲奈は上機嫌でベッドに入り寝てしまった。

 「はぁ……

 とんでもないジョーカーを引いてしまったもんだな……」

 ため息をつくと運が逃げていくと言われているが、運が逃げるだけで済むのならばいくらでもため息をつきたい気分だった。

 すでに逃げるほどの運が残っているとは思えなかったが……

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