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異常と正常の境界  作者: Rile
第1章 入学編
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第11話 入寮式

第11話投稿~

なんか久しぶり感が否めないのですが・・・

ともかくやっと本編に突入です。

ここまで意外と長かった・・・

 八代と玲は啓莱高校に入学が決定した後も東京に滞在していた。

 無論、内閣府特殊案件交渉室の仕事をこなすためであった。

 寮に入るまでは泊まる所のない八代と玲は内閣府特殊案件交渉室、素直に言えば政府が用意したホテルで寝泊まりしていた。

 「さすが国が用意しただけあって豪華なもんだね~」

 八代が感嘆の声を漏らすのも無理はない。2人が泊まっているのはこの国でも3本の指に数えられる高級ホテル、しかもそのスイートルームに連泊していた。

 「やっほー!2人共そろそろ入学式でしょ?

 はいこれどうぞ♪」

 いきなりやって来た女性の名前は河崎碧(かわさきみどり)、一時期は2人の上司であり、訓練を終えた現在では同僚となっている。

 彼女はこのスイートルームが気に入ったらしくほぼ毎日2人に会いに来ていた。

 「そんで何これ?」

 碧は2人に一枚のプリントを配っていた。

 「正体がばれないようにするためのルールみたいなものね。

 あなた達が内閣府特殊案件交渉室のメンバーである事は当然秘密。そもそも内閣府特殊案件交渉室なんて機関の存在すら秘密なんだから当然ね。

 人目がある所で交渉室の話は厳禁。MSTのデータを見せたりするのも絶対だめよ」

 「MSTのデータ見せたりなんてしないいよ」

 MSTとはマルチシステムターミナル(Multi System Terminal)の略で複数の機能を持った端末という意味である。一昔前では携帯電話なんて呼ばれていたらしいがMSTは電話機能も持っているがそれ以外の機能の方が重要視されている。

 例えば2人の場合は内閣府特殊案件交渉室のオフィスに入るにしても指紋認証や網膜審査の他にもMST認証がある。一般的には身分証の代わりにもなる。

現代では無くてはならないアイテムの一つである。

 「俺達のMSTには交渉室のデータが入ってるし、交渉室からの連絡もMST経由だしな」

 「そう、だからMSTは肌身離さず持っておきなさい。

 そんなことよりも明日の入寮式は大丈夫なの?」

 「部屋決めるだけなんだから問題ない」

 全寮制の啓莱高校では入学式よりも先に入寮式というものがある。

 入寮式と言ってもただ部屋決めを行うだけなのだが……

 「でも2人部屋なんだからあなた達が同じ部屋になってもらわないといけないのよ。

 交渉室と関係ない人間と一つ屋根の下にいるとばれる確率が飛躍的に上がるんだから!」

 当然と言えば当然の事なのだが碧は八代と玲が同じ部屋である事を希望しているらしい。

 2人共その気持ちはよく分かるし、施設でも同じ部屋だったのだからそうなればありがたいとも思っているのだが、

 「そもそも部屋はくじで決めるんですからどうにもならないと思いますが……」

 玲の言う通り啓莱高校の寮の部屋決めはくじで行う事になっている。こればかりは運を天に任せるしかない。

 「実を言うとそうでもないのよ。

 啓莱高校の一学年の定員は200人。だから箱に1~100まで書かれたカードを入れておいてそれを新入生に引かせるの。引いたカードに書かれたいる数字を記録する。一回引かれたカードは箱に戻して引かれたのが二回目ならばその玉カードは箱に戻さない。それを繰り返していくと最終的に箱に玉カードは無くなる。そして同じ数字のカードを引いた者同士が同室となるのよ」

 「つまりは男女のペアも考えられるという事か……

 今までよく苦情が出なかったもんだぜ。」

 碧の説明には男女別などという単語は出てこなかった以上男女混合で考えるしかない。

 「啓莱高校には象術の研究機関という側面もあるからあらゆる状況を作り出し、それが象術にどのような影響を及ぼすかのデータ収集が目的だろう。

 何かあっても学費タダで横車を押すのだろうさ。

 「それにしてもずいぶん杜撰(ずさん)なシステムだな。

 確実ではないにせよ、手が無い事もない」

 「楽しみにしてるわ」

 「玲に任せるよ……」

 完全に話から置いて行かれてしまった八代にはため息しか出なかった。


   * * * * * * * * * * * * * * *  


 入寮式当日

 2人はくじが行われる会場にいた。

 「それで作戦ってのは何だ?そろそろ教えてくれてもいいだろ?

 なんでテーブルの裏に風船なんて仕込んだんだ?」

 (いくらなんでも玲一人でできる作戦なのか?)

 「俺一人でできる訳ないだろう」

 「読まれた!?」

 どうやら八代の考えは玲に読まれていたらしい。

 「いいよ。教えてやる。

 普通にカードを隠し持っておくだけだ」

 「それだけ!? もっとないの?」

 玲が考える作戦にしてはお粗末すぎる代物である。

 「それしかないからな。凝ったのはどうやって気付かれないようにするかという所だけだ。

 まず最初に俺がカードを引くになる。その時にカードを戻すのではなく袖に隠す。そしてテーブルに着いた時に八代に渡す。そして八代の番になったら壇上でくしゃみでもして注目を集めてくれ。その隙に俺はテーブルの裏に仕掛けた風船を一斉に割る。そうすれば全員の注目はテーブルに向くだろう。後は袖に隠し持っておいたカードを引いたかのように見せればいい。

 あまりスマートな方法とは言い難いが……」

 「でも玲が引いたカードがすでに二回目だったら隠すなんてできないぞ?」

 八代の言う通り、引いたカードが二回目であった場合その玉は回収されてしまい袖に隠す事はできない。

 「だから一番最初に受付を済ませたんだ。カードを引く順番は受け付け順だからな。

 だから最初にカードを引くのは俺だ。

 まぁ最初でなくとも八代より先に受付を済ませれば良かっただけなんだが……

 それなりに人も入って来た事だしそろそろ受付してきても大丈夫だぞ」

 「おう……分かった。並んでくる」

 そう言って八代は受付を待つ列に並びに行った。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 (計画が上手くいきますように……)

 玲としては珍しく神頼みをしていた。それほどまでに作戦に自信が無い事の証明だった。

 「このテーブルに一緒していいですか?」

 「はい?」

 神頼みに集中していたせいか自分に近づいてくる気配に気付けなかった。

 話しかけてきたのは女子だった。

 「いっ、いいですけど……」

 (こういう()を美少女って言うのかね……)

 「私の顔に何か着いてますか?」

 どうやら見つめる形になってしまっていたらしく彼女に疑問に思われてしまったようだ。

 「いや、ただ可愛いな、と思って見てただけ」

 特に隠す必要もないため正直に白状する。

 「えっ!?あっ、ありがとうございます」

 面と向かって褒められたのが恥ずかしいのか彼女は顔を赤くしていた。

 「俺は久桐玲です。よろしくお願いします」

 とにかく黙っていてはどうにもならないのでとりあえず自己紹介をしておく。

 「私の名前は神楽篠(かぐら しの)って言います」

 (かっ、神楽ってまたややこしい事になりそうだ……)

 神楽流とは無関係なのだろうがどうしても関連付けてしまう。そんな玲に気付いたのか彼女は、

 「神楽って名字のせいで誤解されがちなんですけど私自身は神楽流に全く関係無いんです。気になるんでしたら名前の方で読んでいただいて結構です」

 「どうも……」

 顔に出ていたらしく彼女に気を使わせてしまう事になってしまった。

 (はぁ……これからが思いやられるな……)

 決して幸運とは言えない出会いに玲は心の中でため息をついた。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 さっきから受付で並んでいるのにちっとも進んでいる気がしない。

 (もっと後にしとくんだった……)

 今が受付のピークでもっと後に受付に行けばスムーズに受付が出来たのかもしれない。

 (こんなに列が進んだんじゃ、抜けるのはもったいないか……)

 「なんか並ぶタイミング間違っちゃったみたいだね~」

 いきなり話しかけられた。それも見ず知らずの女子に。

 (えっと……ひょっとして知り合い?)

 自慢ではないが人の顔を覚えるのはあまり得意ではない。

 「以前会った事ありましたっけ?」

 「いや、はじめましてだよ」

 どうやら八代が忘れていたのではなく本当に初対面だった。

 「ごめん、ごめん。あたしって人見知りしないから誰にでも話しかけちゃうんだよ~」

 「いや、ちょうど退屈してた所だしありがたいよ」

 退屈してたのは紛れもない事実だったし、本来は八代も彼女と似たような性格だからあまり気にならない。

 「あたしは扶桑ミキ。扶養家族の扶に、植物の桑って書いて扶桑。ミキはそのままカタカナだよ」

 「そうなんだ。俺は水無月八代。水の無い月と書いて水無月、漢数字の八に代表の代で八代だ」

 (ふそうってどう書くか後で玲に聞いとこう……)

 漢字の苦手な八代では「扶桑」という漢字は思い浮かばない。

 「ところでなんで啓莱高校を受けたの?」

 「…………」

 いきなり聞かれたくない質問だった。

 まさか一般高校を受けられるほど成績が良くない、とは言いたくない。

 (えっと……どう誤魔化せばいいんだ……)

 「あ~ごめん。言いにくいなら無理に言わなくていいよ。どうしても聞きたかったわけじゃないし……」

 八代が言いにくそうにしているのを感じ取ったのかミキはそう取り繕った。

 「いや、啓莱って学費がタダだから親いない俺達には好都合だった訳で・・・」

 (よし!これなら大丈夫だ。)

 我ながら結構な誤魔化しだと思ったのだが……

 「そうなんだ……なんか変な事聞いちゃってごめんね」

 彼女にとっては十分暗い理由だった。

 「じゃあそっちの理由は?」

 「ミキでいいよ。あたしも八代って呼ぶし。

 あたしが啓莱高校に来た理由は象術警官になるためよ」

 象術警官とは文字通り象術を使う警察官である。象術犯罪をメインに捜査したりするが、普通の警官としての職務もこなす。

 さらに能力を認められれば単独での捜査など数多くの権限を与えられる。

 象術の能力と警察官としての適性。この二つが揃っていなければ務まらない上に、一定以上の戦力として認められなければなる事のできない狭き門であり、象術士としては最高峰の職業の一つだ。

 「なんでそんなのになりたいんだ?」

 象術警官がそんな憧れを抱くような職業とは知らない八代には何でなりたいかがまるで分らなかった。

 「あたしは神楽流が許せないんだ。

 象術を使って人を殺したい放題……力を授かって生まれたんだからそれの力を人のために使うのは当然の事。それができない神楽流なんて最低だよ。

 それに神楽流は壊滅したとはいえ全滅した訳じゃない。

 だからあたしが象術警官になって神楽流の奴ら全員捕まえてやる!」

 口調から彼女の強い決意が痛いほど伝わってくる。

 (お、俺達が神楽流にいたなんて事がバレたらとんでもない事になっちまうな……)

 彼女の決意は八代の心にも痛かった。

 「そっ、そろそろ俺達の番だからはやく受け付け済まそう!」

 今八代にできるのは一刻も早く受け付けを済ませ彼女から離れる事だけだった。


   * * * * * * * * * * * * * * *


 「どうした八代。なんか疲れる事でもあったか?」

 「ああ、ちょっとな……」

 「そうか……」

 やっとミキから離れる事ができた八代は精神的にかなり参っている状態だった。

 「そちらの方はどなたですか?」

 「そっちこそだれ?」

 八代と篠は初対面であったにもかかわらず八代と玲だけで話していたため、篠の事はほったらかしになっていた。

 「俺は水無月八代。玲とはまぁ、幼馴染ってとこだ」

 「そうなんですか……私は神楽篠っていいます。久桐さんにも言ったのですが神楽流とは無関係ですよ」

 「そう……よろしく」

 神楽と聞いて玲と同じ反応をしてしまった八代に篠は笑顔で答えた。

 「ただいまより入寮式を始めます。新入生のみなさんは席に着いてください」

 入寮式の始まりのアナウンスがされ話し込んでいた新入生達は続々と空いている席に座っていく。

 「八代も座れ。俺達はあまり目立つ訳にはいかないんだぞ」

 「へいへい……」

 衆人環視の中でカードのすり替えを行わなければならない以上、目立ってもいい事など何一つない。

 「それよりもこの作戦何かうまくいく気がしないんだが……」

 「やめてくれ八代。お前の勘は良く当たるんだ。

 嘘でもいいから成功すると言っといてくれ……」

 不安の渦巻く中で2人の運命を変えるかもしれない入寮式が始まった。

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