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ハンカチが欲しかったので  作者: 黒崎吏人


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思わぬ絶望

 休日、母に連れられやってきたショッピングモール。


 一緒に服や食器なんかを見てぐるりと回っていた。退屈というほどではないが特にこれといった盛り上がりがあるわけでもなく、でも心休まる平穏。


 そんな平穏は程なくして跡形もなく崩れ去った。


 母とはぐれてしまったのだ。


 辺りを見渡しても母の姿は全く見えない。

 焦ってその場を離れ、早歩きで急いで動きながら探すも全く気配すら感じない。


「ま、まずいぞ...」


 冷たい汗が額を流れ、心拍数が少しずつ上がっていく。


 はぐれた、いや、迷子になった。

 この年で迷子...


 しかし、文明の進化というものは人を幾度となく救う。


「スマホで連絡すりゃいいじゃん!!」


 なぜ忘れていたのだろう。

 頭から綺麗にスマホの存在が抜け落ちていた。普段はひたすら使っているのにこういう時忘れちゃうんだよな(わかるわかる、と脳内で自分に相槌を打つ)。


 そんな希望は一瞬で絶望へと生まれ変わった。


 充電が、切れている。


 ただの合金の板と化したものを握りしめたまま俺は空虚に陥った。


 と、その時


 近くにある地図が目に入った。駆け寄って真っ先に見つけたのは"迷子センター"の六文字。

 とんでもなく大きく見えた。


 ここへ行けば全てが解決する、それと同時に...


 俺は想像する


「〇〇市からお越しの...くんのお母様ー」



 脳内再生と同時に身震いがする。こんなのクラスのお調子者たちにもしも聞かれてたらどうなる?


 休み明けの学校でどんなことを言われるだろうか。


 イジりを上手く昇華できればいいが、あいにく俺はプライドが高い。


 どうすればいいんだ...

 最悪歩いて帰ればいいか?


 恐らく3時間くらい歩けば自宅へは帰れる。

 3時間か...映画2本くらい見れるな... などと少し関係ないことを考えて気を紛らわせていたその時だった。


「ごめんごめん」


 背後から聞き覚えしかない声が聞こえてきた。母だった。正真正銘、紛れもなく自分の母親だった。実に20分ぶりの再会。


「いや、全然...俺も一人で行きたい店とかあったし...」


 そんな強がりとは裏腹に視界が潤んでくる...


「新しいハンカチ欲しいな...」

 母にひっそりと声にならない声で告げた。


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