第9章 取り戻すべき誇り
夜が明けても、クライヴは宿屋の椅子から一歩も動かなかった。窓から差し込む光が、彼の虚ろな瞳を照らすが、その光は彼の心には届かない。「おい、クライヴ!いつまでそうしてるつもりだ!いい加減にしろ!」。ガルドの怒声が部屋に響く。だが、クライヴの耳には、まるで遠い世界の音のようにしか聞こえなかった。
「そんなに自分の殻に閉じこもって、何になるってんだ!」。ガルドはクライヴの胸ぐらを掴み、無理やり立たせた。「悔しいなら、奪い返しに行け!情けねえ顔してんじゃねえ!」。その言葉に、リリアーナが割って入る。「やめて、ガルド!今のクライヴにそんなこと言っても……!」「うるせえ!殴ってでも分からせるしかねえだろ!」
ガルドの拳が、クライヴの頬を殴り飛ばした。床に倒れ込んだクライヴに、リリアーナが駆け寄る。「クライヴ……お願い、私たちの声を聞いて」。彼女は涙を浮かべ、彼の冷たい手を握りしめた。「一人で背負い込まないで。仲間って、そういうものでしょ?」。その温もりが、ガルドの拳の痛みが、厚い氷に閉ざされたクライヴの心に、ようやく小さな亀裂を入れた。
「……すまない」。掠れた声で、クライヴは呟いた。彼はゆっくりと顔を上げる。その瞳には、まだ迷いの色があったが、虚無ではなかった。「俺は、また逃げるところだった。俺一人の問題だって、勝手に思い込んでいた」。彼は仲間たちの顔をまっすぐに見つめた。「力を、貸してくれ。あいつを、俺の剣を、取り戻したい」
「ハッ!ようやくその気になったか!」。ガルドは満足げに笑った。「当たり前だ、任せとけ!」。リリアーナも涙を拭い、力強く頷く。「うん!絶対に取り戻そう!」。彼女は目を閉じ、風に意識を集中させる。「見つけたわ……!街の西、森の方角に、あの男の禍々しい魔力の残滓がある!」。三人の心が、再び一つになった。
森の奥、刺客の男は待ち構えていた。「おや、心の整理はつきましたか。ですが、その剣がなければ、貴方に何ができるというのです?」。男は嘲るように『無銘ノ剣』を構えた。「クライヴ、お前は下がってろ!こいつの相手は俺がする!」。ガルドが前に出て、地砕きのガントレットを構えた。壮絶な戦いの火蓋が、切って落とされた。
ガルドの猛攻を、刺客は『無銘ノ剣』で軽々と受け流していく。「素晴らしい剣だ!だが、使い手が違えばこうも輝きが変わるとは!」。刺客はクライヴを挑発するように、剣の力を引き出してみせる。クライヴはただ、己の魂の半身が悪用される光景を、唇を噛みしめて見つめることしかできなかった。
「クライヴを侮辱するのは、私が許さない!」。リリアーナの風の矢が、刺客の死角から襲いかかる。敵がそれに気を取られた一瞬、ガルドの拳が刺客の脇腹を捉えた。「ぐっ……!」。初めてダメージを受けた刺客は、忌々しげに二人を睨む。クライヴを守るように立つ、リリアーナとガルド。その背中は、あまりにも大きく、頼もしかった。
(そうだ……俺は一人じゃなかった)。クライヴは、仲間たちが自分のために傷つき、戦う姿を見て、ようやく己の過ちに気づいた。本当の強さとは、武器の力ではない。共に立ち、支え合える仲間との絆こそが、真の力なのだと。「ガルド、リリィ!奴は剣を振るう瞬間、防御が疎かになる!俺が合図する!」。彼の魂の叫びに、二人は力強く頷いた。
「今だ!」。クライヴの声に合わせ、ガルドが雄叫びを上げて突進し、刺客の体勢を崩す。その隙に、リリアーナが放った突風が、『無銘ノ剣』を宙へと弾き飛ばした。「しまっ……!」。刺客が手を伸ばすより早く、クライヴはその剣を、自らの魂の半身を、その手に取り戻していた。「――終わりだ」。光を取り戻した剣士の前には、もはや敵はいなかった。それは、彼が本当の意味で強くなるための、大きな一歩だった。
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