第3章 奪われた炎剣
リリアーナと共に村を出て数日、クライヴは活気のある商業都市の門をくぐった。背には魂を込めて鍛えた『無銘ノ剣』。隣ではリリアーナが、珍しそうに目を輝かせている。「わあ、すごい人!クライヴ、見て!獣人さんの露店もあるわ!」。彼女の天真爛漫な声が、クライヴの心の重石をわずかに軽くした。
様々な人種が行き交い、香辛料の匂いや荷馬車の車輪の音が混じり合う。ここは最初の目的地。「ねえ、リリィ。何か感じるか?」。クライヴが尋ねると、リリアーナはすっと目を閉じた。「うん……感じる。街の北西の方角から、すごく淀んでて、熱い風が吹いてくる……。嫌な感じ」。彼女の『風を読む能力』が、早くも悪意の在処を捉えていた。
酒場は噂話の宝庫だ。リリアーナが指し示した方角にある店に入ると、案の定、目当ての話が聞こえてきた。「おい、聞いたか?また用心棒のボルグがやらかしたらしいぜ」「ああ、あの『炎剣』を振り回す乱暴者か」「商人相手に因縁つけて、商品を根こそぎ奪ったとか」。クライヴの眉間に、深い皺が刻まれる。まただ。また俺の剣が、誰かの涙を誘っている。
「ねえ、おじさん!そのボルグって人、どこに行けば会えるの?」。リリアーナが、持ち前の愛嬌を振りまきながら情報源の男に尋ねる。「嬢ちゃん、あんな奴に関わらない方がいい」「いいから教えて!ちょっと懲らしめてやりたいのよ」。彼女の勢いに気圧されたのか、男はしぶしぶボルグの根城だという裏路地の倉庫の場所を白状した。
倉庫街の奥、問題の場所にはすでに人だかりができていた。その中心で、大柄な傭兵が赤い輝きを放つ剣を肩に担いでいる。「ケチな真似しやがって!この街の用心棒代だ、ありがたく払え!」。まさしく、クライヴが作った『炎剣』そのものだった。剣の魔力が、持ち主の悪意に呼応するように禍々しいオーラを放ち、周囲の空気を歪ませている。
「その剣を返してもらう」。クライヴは人垣をかき分け、静かにボルグの前に立った。「あぁ?なんだテメェは。この『炎剣』が欲しいのか?」「それはお前には過ぎた代物だ」。クライヴの言葉に、ボルグは顔を真っ赤にして怒鳴った。「面白い!欲しけりゃ力尽くで奪ってみやがれ!」。次の瞬間、炎剣が唸りを上げてクライヴに襲いかかった。
ゴウッ、と灼熱の炎がクライヴの頬を焼き、石畳を溶かす。ボルグの剣技は粗雑だが、炎剣の破壊力がそれを補って余りある。クライヴは『無銘ノ剣』で攻撃を受け流すが、その度に衝撃と熱波が腕を痺れさせた。(これが、俺の作った武器の力……!)。自分の罪と対峙しているかのような感覚に、クライヴは奥歯を強く噛みしめた。
「そこっ!」。リリアーナの鋭い声と共に、一陣の突風が巻き起こった。風はボルグの体勢をぐらつかせ、彼が放った炎を渦を巻いて天へと逸らす。「小娘が、邪魔をするな!」。ボルグがリリアーナに気を取られた、その一瞬。クライヴにとって、それは永遠にも等しい好機だった。彼は一気に間合いを詰め、『無銘ノ剣』の柄でボルグの腕を打ち据えた。
「ぐあっ!」。炎剣が、ボルグの手から滑り落ちる。クライヴは即座にそれを拾い上げ、柄に刻まれた微かな紋様に指を触れた。そして、静かに呟く。「――眠れ」。すると、あれほど燃え盛っていた炎の輝きが嘘のように消え失せ、ただの鉄の剣に戻った。「な……なぜだ!?なぜ炎が……」「言ったはずだ。それはお前には過ぎた武器だと」。
こうして、クライヴは自らが世に放った罪の欠片を、初めてその手に取り戻した。ずしりと重い剣の感触が、彼の決意を新たにさせる。「やったわね、クライヴ!」「……ああ。だが、まだ始まったばかりだ」。彼の視線は、すでに次の目的地を見据えていた。世界に散らばった己の業を回収する旅は、まだその一歩を踏み出したに過ぎない。
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