第15章 悲しき決闘
アレンが構えた魔剣から、禍々しい紫色のオーラが立ち上る。「さあ、始めようか、クライヴ」。その声は、かつての優しさを微塵も感じさせない。次の瞬間、アレンの姿が消えたかと思うと、凄まじい衝撃がクライヴを襲った。『無銘ノ剣』でかろうじて受け止めるが、その一撃はあまりにも重く、鋭かった。
キィン、と甲高い金属音が、静まり返った城塞に響き渡る。クライヴは防戦一方だった。剣を合わせるたびに、脳裏にかつてのアレンの笑顔が浮かんでしまう。「なぜだ、アレン!目を覚ませ!」。彼の叫びは、悲痛な願いとなって虚しく消える。だが、アレンの攻撃は一切の容赦がなく、クライヴを少しずつ追い詰めていった。
「クライヴ、しっかりしろ!そいつはもうお前の知ってる奴じゃねえぞ!」。ガルドの怒声が飛ぶ。その通りだった。目の前にいるのは、親友の姿をした別の何かだ。分かっている。だが、それでも、この手で彼を斬ることなど、できるはずもなかった。「その甘さが君の弱さだ、クライヴ!その女も、獣人も、君のせいで死ぬことになる!」
アレンの言葉と共に、魔剣の切っ先がリリアーナに向けられた。その瞬間、クライヴの中で何かが焼き切れた。仲間を傷つけることだけは、絶対に許さない。彼は『無銘ノ剣』を強く握りしめ、アレンの前に立ちはだかった。「……お前は、もうアレンじゃない」。彼の瞳から迷いの色が消え、鋼のような冷たい光が宿った。
(……終わらせる)。クライヴは、覚悟を決めた。己の弱さも、過去の思い出も、全て断ち切る。(俺のこの手で、俺たちが作った、この過ちを)。彼は深く息を吸い込むと、守りの構えを解き、アレンを真正面から見据えた。その背後で、リリアーナとガルドが、決闘の邪魔が入らぬよう周囲への警戒を強める。
「ほう、ようやく戦う気になったようだね」。アレンが嘲るように笑う。クライヴは答えない。ただ、静かに剣を構え直し、一気に間合いを詰めた。先ほどまでとは別人のような、鋭い踏み込み。驚愕するアレンの頬を、『無銘ノ剣』の切っ先が掠める。ここからが、本当の戦いだった。
激しい剣戟が繰り広げられる。互いの剣が火花を散らし、魔力と闘気が広間を満たした。だが、クライヴは冷静だった。アレンが振るう魔剣は、紛れもなく自分が作ったものだ。その特性、癖、そして弱点を、誰よりも知り尽くしている。(あの剣は、力を溜める瞬間に一瞬、防御が疎かになる……!)。彼が待っていたのは、その一瞬の隙だった。
「これで終わりだ、クライヴ!」。アレンは勝利を確信したのか、これまでで最大の魔力を剣に込めた。紫色のオーラが激しく渦を巻き、城塞全体が揺れる。クライヴはその瞬間を、ただ静かに待っていた。彼が魔剣を振り下ろそうと、大きく振りかぶった、まさにその時だった。
クライヴは剣を合わせず、アレンの魔剣の刀身に、そっと手を触れた。「――眠れ、相棒」。彼がそう囁くと、アレンの魔剣から紫色の光が急速に失われていく。クライヴの『制御』能力が、魔剣の力を完全に無効化したのだ。「なっ……!?」。力を失い、ただの鉄塊となった剣の重さに、アレンの体勢が大きく崩れた。
「すまない……アレン」。崩れ落ちる親友の体を、クライヴは強く抱きしめた。その腕の中で、アレンの瞳にかすかな光が戻る。「……ああ、クライヴ……。君は、やっぱり……強いな……」。それが、彼の最後の言葉だった。勝利の代償は、あまりにも大きすぎた。だが、悲しみに暮れている時間はない。この悲劇を生んだ、全ての元凶を討つまでは。
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