陽キャの悩みと炎上
宇佐見 陽菜、高校二年生。彼女の朝は、いつも眩しいほどの太陽の光と共に始まった。
窓を開ければ、どこまでも突き抜けた青空。陽菜は大きく伸びをし、満面の笑顔で「おっはよー!」と叫んだ。今日も最高の朝だ。
(今日も最高!ねぇ、同じ一日なら、笑って過ごした方が絶対得じゃん!)
登校すれば、クラスの誰もが彼女に手を振った。容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群。
クラス委員長も務める彼女は、非の打ち所がない、正真正銘の「陽キャ」だった。彼女の周りには、いつも自然と人が集まり、その明るいオーラが教室の空気を暖める。
しかし、その光の裏側で、いつも冷ややかな視線を感じていた。
教室の隅。スマホをいじっていた友人グループが、陽菜の明るさを目障りだとばかりに呟く。
「まーた宇佐見じゃん。あんな明るいの、見てるだけで疲れるわ」
「わかる。どうせ中身ないリア充なんでしょ。闇を知らないんだよ」
陽菜は聞こえないふりをして通り過ぎたが、心の中はいつもモヤモヤしていた。
(どうして?明るいことが、そんなに罪なの?明るい私じゃ、誰かに寄り添う資格もないっていうの?)
昼休み、そのモヤモヤは確信へと変わった。
陽菜はスマホでニュースサイトを開いた。トップニュースは、彼女が憧れていたカリスマ女性シンガーのインタビュー記事。
『人気歌手〇〇、衝撃の告白。「私の根は、誰にも言えない暗闇を抱えた“陰キャ”なんです」』
記事のコメント欄は、同情と熱狂的な称賛の嵐。
「共感しかない」「闇があるから深みがある」「やっぱり陽キャなんて薄っぺらい」という言葉が並ぶ。
陽菜は思わず教室で立ち上がってしまった。
「……はぁ!?」
陽菜はスマホを握りしめ、記事を睨みつける。その歌手の顔は、どこか悲劇のヒロインを演じているように見えた。
「なんでみんな、暗い方が価値があるって言うの?自分の感情に嘘ついてまで、暗く見せる方がよっぽど“薄っぺらい”でしょ!」
周囲は突然の叫びに静まり返る。一人の男子生徒が口を開いた。
「宇佐見は陽キャだから、俺たちの気持ちなんてわかんないよ。光は眩しすぎて、俺たちは逃げたいんだ。みんな、諦める理由を探してるんだよ」
「逃げてどうするの!?同じ生きるなら、胸張って、笑って生きる方がいいに決まってるじゃん!私は、明るく生きて何が悪いの!?」
陽菜の言葉は誰にも届かず、空回りした。
その日、彼女の心は初めて激しい孤独に襲われた。
家に帰った陽菜は、いてもたってもいられず、個人アカウントでSNSに想いを投稿した。
宇佐見陽菜
「明るいって、そんなに悪いこと?偽善に見えるなら、私は世界一の偽善者でいい!みんな諦める理由を探してるだけだ。私は、この『陰キャブランド』全部ぶっ壊してやる!」
投稿からわずか1時間で、コメントは数千件に達した。
もちろん、その大半は罵詈雑言だった。
「陽キャは黙ってろ」
「リア充爆発しろ。お前の光は迷惑なんだよ」
「どうせ中身ないブス。歌なんか歌えるわけねーだろ」
「闇を知らない奴に、人の心は救えない」
心臓が締め付けられるような感覚。指が震え、スマホを落としそうになる。
(チッ、またかよ……童貞が童貞のために作っているアニメばかり見てるから、こういう世界になっちゃうんだわ!)
陽菜は激しい苛立ちと共に、自分の無力さを感じた。
言葉で何を言っても、彼らは聞く耳を持たない。
彼らは、自分の殻に閉じこもって、安心できる「闇」の言葉しか求めていないのだ。
(言葉じゃ、ダメだ。口で言ったって、彼らはシャットアウトする。じゃあ、私は…)
その時、ふと、幼い頃から歌うことが大好きだった自分を思い出した。
人前で歌う時だけは、心の底から満たされ、聴いている人たちも笑顔になっていたこと。
陽菜は震える手で、ベッドの下に隠していたアコースティックギターを取り出した。
「よし。私がこの風潮を変える!私の歌で、明るく生きる楽しさを証明してやる!」




