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第四話:【最適化】山積みの課題と、森の精霊使い

「――環境構築、完了。……いや、劣悪だな」


目を開けた瞬間、肺に飛び込んできたのは、カビ臭い空気と獣の排泄物が混じったような不快な臭気だった。


ケンゴは身を起こし、手元の感触を確かめる。 敷かれているのは乾燥した藁。それも、長い間交換されていないのか、湿り気を帯びて硬い。 視線を巡らせれば、石造りの壁にはひびが入り、天井からは心許ない光が差し込んでいる。


(中世ヨーロッパ風、あるいはファンタジーの定番……といったところか。だが、あまりに非効率な造りだ)


家屋の構造を分析しようとした、その時だった。 脳内に、無機質な音声が響く。


『――視界情報のスキャンを開始します』


直後、ケンゴの視界が変質した。 視界の端に、半透明のコンソールウィンドウが展開される。 壁のひび割れには【構造的脆弱性:中】、埃の舞う空気には【浮遊菌密度:高】というタグが浮き上がった。


「……これが『最適化オプティマイズ』の力か」


ケンゴは唇を歪めた。 感情に左右されず、事実だけを突きつけてくるこのインターフェースは、彼にとって何よりも信頼できるものだった。


ギィ……と、建付けの悪い扉が開く。 入ってきたのは、麻の服を着た少女、ミーナだった。


「あら、気が付いたの? 運がいいわね。あんな森の入り口で倒れているなんて」


ミーナが差し出したのは、濁ったスープの入った木皿だった。


【名称:薄めた野菜クズの煮込み】 【毒性:細菌増殖による軽度の腹痛リスク(8%)】


ケンゴは眉をひそめながらも、生きるためにそれを流し込む。 ひどい味だったが、それ以上に、この村の「管理の杜撰さ」が気になって仕方がなかった。


「……ミーナ。この村の連中は、全員この程度の食事で満足しているのか?」


「何よ、せっかく助けてあげたのに。満足なんてしてるわけないでしょ。数ヶ月前から水路が使い物にならなくて、畑が干上がってるのよ」


「水路だと?」


その言葉に、ケンゴの「職業病」が反応した。


ミーナに案内されて村の外れに出ると、そこには無惨な光景が広がっていた。 石造りの立派な水路は、途中でいくつもの「継ぎ接ぎ」がなされ、いたるところから水が漏れ出している。


「これよ。数年前の地震で地盤が歪んでから、いくら石を積み直しても水が届かないの。村の男たちが毎日泥を詰めてるけど、すぐまた漏れ出して……」


ケンゴは水路のそばにしゃがみ込み、視界を「最適化」モードへと切り替えた。 青いグリッド線が水路全体をスキャンし、情報の濁流が脳内を駆け巡る。


(なるほど。根本的な設計ミスだ。地盤が沈んだ箇所で水圧が異常に高まり、そこに無理やりパッチ(泥)を当てて塞ごうとするから、別の弱い部分が『決壊』している)


それは、バグだらけの古いシステムに、場当たり的な修正コードを書き加えてさらに動作を重くしている状況そのものだった。


「ミーナ、スコップを貸せ」 「えっ、何するのよ?」 「デバッグだ。……無駄な作業を終わらせる」


ケンゴはスコップを受け取ると、水が最も激しく漏れている箇所ではなく、そこから五メートルほど手前の、一見何ともない地面を掘り始めた。


「そこを掘っても意味ないわよ! 水が漏れてるのはあっち……」 「黙って見ていろ。そこを塞ぐから水圧が逃げ場を失うんだ」


ケンゴは地面の下に埋まっていた、水路の「支え」となっている石を一つ、力任せに抉り出した。 すると、水路がわずかに傾き、ゴゴッという鈍い音を立てて全体が数センチ沈み込む。


「ああっ! 壊しちゃったじゃない!」


「いいや、これで『同期』が取れた」


次の瞬間。 今まで激しく噴き出していた漏水が、ピタリと止まった。 意図的に地盤を一段下げたことで、水圧のボトルネックが解消され、水は自然な勾配に従って、本来進むべき方向へと勢いよく流れ出したのだ。


【ログ:水流フローの最適化を確認】 【リソース損失率:68% → 4%】


「うそ……水が、流れてる……?」


「場当たり的な修正は、システムの寿命を縮めるだけだ。全体を俯瞰して、原因となっているコード……いや、石を取り除けば、勝手に正解へ収束する」


ケンゴは汚れを払うように手を叩き、乾ききっていた下流の畑へと流れていく水を見つめた。


「だが、これはまだローカルな修正に過ぎない。水そのものが濁っているのは、ソースコード……つまり源流に問題がある」


ケンゴの視線は、森の奥、山の上流にある古い遺跡へと向けられた。 彼の「デバッグ」という名の冒険が、本格的に動き始めた瞬間だった。

お読みいただきありがとうございます!


ようやく一人目の仲間候補、アリアが登場しました。 ファンタジー的には「精霊への祈り」は尊い儀式なのですが、ケンゴの目を通すと「冗長なコード」に見えてしまうようです。


助けてもらったのに「効率が悪い」とダメ出しされるアリア……。 彼女がこれからケンゴという「劇薬」によって、どう最強の精霊使い(高効率モジュール)に書き換えられていくのか、楽しみにしていただければ幸いです。


村の水路の問題も、まだ「表面的なデバッグ」が終わったに過ぎません。 次回、いよいよ原因の根源である「遺跡」の内部へと足を踏み入れます。


もし「ケンゴの理屈っぽさが面白い!」「アリア頑張れ!」と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、執筆のモチベーションが爆速で最適化されます!


よろしくお願いいたします。

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