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第二話:【最適化(オプティマイズ)】インストール完了

視界の端で、不自然な光の軌跡を捉えた。

(……計算が合わない)

深夜の住宅街、この時間帯の交通量は極めて少ないはずだ。しかし、左方から接近する大型トラックの速度ベクトルは、明らかに法定速度を逸脱し、減速の兆候すら見せていない。

アスファルトを噛む激しいブレーキ音。

網膜に焼き付く、暴力的なまでのヘッドライトの白光。

(ブレーキの故障、あるいは居眠り運転。回避行動をとるためのマージンは……ゼロ。生存確率は……限りなく、零に近い)

衝撃は、痛みすら追い越した。

体がふわりと浮き、スマートフォンの画面が夜空に舞う。

宙を舞うデバイスに表示されていたデバッグコードが、火花を散らす街灯の光を反射して、まるで星屑のように見えた。

(せっかく、クロサキさんが……明日、戦ってくれるって……言ったのに……)

脳が強制終了シャットダウンを開始する。

全ての思考プロセスが熱を失い、深い暗闇へと溶けていく。

最後に意識の底に残ったのは、SEとしての染み付いた習性だった。

「……致命的な、エラー……だ……」

「――いいえ、それは仕様(仕様)外の事象、つまり『お詫び』の対象です」

声が聞こえた。

電子音のように明晰で、しかし聖歌のように慈悲深い響き。

ケンゴが目を開けると、そこは無機質な白一色の空間だった。

目の前には、幾何学的な光の輪を背負った、透き通るような銀髪の女性が立っている。

「私はアイリス。高次生命体であり、この世界の多層的な理を管理する存在です。ウエダ・ケンゴ。あなたの死は、我々の管轄する運命システムのラグによって引き起こされた、あってはならないエラーでした」

ケンゴは状況を瞬時に把握しようと試みた。

(死後の世界? 幽霊? いや、この質感は仮想現実(VR)に近い。だが、情報の解像度が現実を超えている。これが……死の先にある『次階層』か)

「不慮の事態で人生を中断させてしまったお詫びとして、あなたに再起動リブートの機会を与えます。別の世界での、新たな生を」

「異世界転生……というやつか」

ケンゴの声は驚くほど冷静だった。

「なら、交渉ネゴシエーションをさせてくれ。次の世界でも、俺はまた理不尽なエラーで死ぬのは御免だ。生き残るための『力』を要求できるのか?」

アイリスは微笑んだ。

「もちろんです。最強の剣技、一撃必殺の魔導、不老不死の肉体。何をお望みですか?」

ケンゴは思考した。

最強の剣があっても、振るうタイミングを間違えれば死ぬ。

巨大な魔力があっても、燃費が悪ければ詰む。

彼が求めたのは、力そのものではなかった。

「……『最適化オプティマイズ』」

「……はい?」

アイリスが首をかしげる。

「俺に、この世のあらゆる非効率を可視化し、最短・最速・最善の解決策を導き出す権限をくれ。バグを見抜き、リソースを再配分し、システムを正常化する力。それが、俺が最も信頼する武器だ」

アイリスは、興味深そうに目を細めた。

パワーではなく、論理ロジックを望むのですね。……承知しました。その要望、受理コミットします」

光が溢れた。

ケンゴの意識が、膨大な情報の激流に飲み込まれていく。

「いってらっしゃい、ウエダ・ケンゴ。あなたの手で、バグだらけのあの世界を……美しく書き換えてください」

【システム:ブートアップを開始します】

【リソース:初期化完了】

【ユニークスキル:『最適化』をインストールしました】

次の瞬間。

ケンゴの鼓動は、冷たい藁の上で、力強く再開した。

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