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プロローグ:森に流れる香り

にぎやかな物語が多い中で、少し静かな話を書いてみました。

戦いを終えた老賢者が、森の奥で小さな喫茶店を営む物語です。

温かい紅茶の香りと、誰かの心がほどけていくような時間を、どうぞゆっくりお楽しみください。

風の音。

木々がそよぎ、鳥の声が遠くでこだまする。


かつて、王都の学舎で「叡智の塔」と呼ばれた賢者アルノルトは、

今日、自らの弟子たちに席を譲り、塔を去ることになった。


「先生の時代は、もう終わりです」

そう言ったのは、もっとも優秀だった弟子――今や塔の新たな長。


怒りも、悲しみもなかった。

ただ、胸の奥で何かが静かに崩れていく音だけがした。


彼らは正しい。

古い魔法より、新しい術式のほうが効率も高い。

彼自身がその礎を築いたのだ。

だから、彼を責める者はいない。

……それでも、必要とされないという事実は、心に影を落とす。


馬車を降りたのは、王都から三日離れた辺境の森の入口だった。

道の終わりに小さな湖があり、そのほとりに、朽ちかけた小屋が一つ。


「ここでいい」

アルノルトは荷を降ろし、杖を掲げる。

光の環が広がり、蔦がほどけ、瓦礫がふわりと宙に浮いた。

魔法の力で再生されていく木材が、やがて穏やかな佇まいの家を形作る。


扉を開けると、まだ埃の匂いがする。

だが、空気は悪くない。

棚の上に置いた古びたティーポットが、光を反射して淡く輝いた。


「……また、淹れてみるか」


焚き火に手をかざし、魔法で湯を沸かす。

茶葉をポットに入れた瞬間、ほのかな甘い香りが部屋を満たした。

香りは風に乗り、森の奥へと溶けていく。


その匂いを追って、一匹の白い狐が現れた。

金の瞳でこちらを見上げ、尻尾を揺らす。


「おや、客一号かな」

アルノルトは微笑み、もう一つのカップを並べた。


――こうして、森の喫茶店は静かに始まった。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

この物語は、「誰かを癒すこと」と「自分を許すこと」をテーマにしています。

次回は、森に迷い込む“涙を忘れた少女”のお話。

彼女と老賢者、そして小さな喫茶店の出会いが、少しだけ世界を変えていきます。


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