余韻に浸る暇もない(1)
画面が乱れ、やがて安定する。
災害特別報道番組のテロップが画面下部を流れていた。
『浜松市中心部に巨大生物が到達 自衛隊が出動』
『静岡県北部より進行 広域にわたる被害』
『未明の戦闘により市街地壊滅 通信障害続く』
男性キャスターの声が落ち着いた調子で続く。
「昨日午後、静岡県北部に出現した巨大生物は、国道を南下しながら進行。複数の市街地を通過後、夜間に浜松市中心部へ到達しました」
「自衛隊が出動し対応に当たったものの、巨大生物は原因不明の爆発的崩壊を起こし、現在、市中心部には深さ・直径ともに百数十メートルに及ぶ巨大クレーターが出現しています」
「現地では現在も通信障害が続いており、詳細な戦闘記録の確認や原因の特定には時間を要すると見られています」
「政府の発表によりますと、当該事件は“局地的自然災害”として処理され、巨大生物の出現およびその消滅については“調査中”とのことです」
*
ジョックス本部、医療区画。
幹部たちは、それぞれのベッドやソファにぐったりと倒れ込んでいた。
筋繊維の悲鳴。脈拍の乱れ。神経の震え。
戦闘の傷だけではない。
それを遥かに上回る、肉体の根幹を揺るがす“反動”が全身を苛んでいた。
「……体が、鉛みたいだ……」
サディーダが呻く。
「呼吸も……心拍も……おかしい……」
ジルカメスが額に滲む汗を拭う。
ダルフィは無言で自らの脈を測り、異常な高頻度に眉をひそめた。
ゴラリラは全身に湿布を貼りながら、動くたびに小さく唸っている。
彼らが負ったのは、肉体の損傷ではない。
――ドクター・マリアの薬による副作用だった。
「あははっ。効き目は最高でも、反動も最高……ってワケね」
白衣を翻して現れたドクター・マリアが、満面の笑みで言った。
「ま、生きて帰れたんだから、感謝しなさい」
誰も、すぐには反論できなかった。
重力に縛られたかのように体が動かず、声すら出なかったからだ。
マリアが施した薬剤は、本来なら即死級の生理負荷をもたらす禁断の配合。
耐えられたのは、彼らが――人間ではなく、怪人だったからだ。
「……クソッ……普通の生き物だったら、絶対死んでるぞ……」
ゴラリラが唸るように吐き捨て、湿布を貼った腕をそっと曲げる。
「筋繊維が……まだ燃えてるみたいだ……」
ジルカメスは虚ろな目で天井を見上げたまま、かろうじて微笑んだ。
「……逆に言えば、これで鍛錬の成果が試された、ということですね」
「ま、まぁ……なんとか、耐えたからいいけどさ……」
サディーダが重たい呼吸を繰り返しながら、横目でマリアを睨む。
だが彼女も、戦士としての矜持を捨てることはなかった。
「……早く回復して、次の訓練もしなきゃ。こんなんでサボったら、絶対後悔する」
その言葉に、ゴラリラがわずかに笑みを漏らした。
「……それでこそ、ジョックスの作戦隊長だ」
メタルは静かに言った。
「この副作用に耐え、なお再起できる生命体は、地上におそらく十もいない」
マリアはくすくすと笑った。
「ね? 私、ちゃんと計算してるのよ。……死なない程度には」
一同は微妙な沈黙で応えた。
だがその空気には、確かな充足感があった。
――彼らは、帰ってきたのだ。
怪獣を打ち倒し、地獄元帥を中心に、勝利を持ち帰った。
それだけで、十分だった。




