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責任の所在が行方不明です(2)



 ジョックスのアジト、作戦会議室。

 禍々しい石造りの壁に囲まれた広い空間には、黒と赤を基調とした円卓が据えられている。

 その中央に、青白く揺れるホログラムが投影された。

 地獄元帥の姿だ。


「……それでは会議を始める」


 お決まりの台詞が部屋に響き、幹部たちが一斉に姿勢を正す。

 ホログラムの眼光がゆっくりと一人ひとりを見渡し、静かに言葉を続けた。


「リザリス、進行を頼む」


「はっ」


 リザリスが一礼し、端末を操作して会議記録を起動する。


 その横では、サディーダが椅子にふんぞり返るように座り、腕を組んだまま無言で前を睨んでいた。

 唇はきつく結ばれ、明らかに不機嫌な様子だったが、誰もそれに触れようとはしなかった。


「では、作戦司令・ダルフィ。まずはあなたから」


「かしこまりました」


 ダルフィが静かに立ち上がる。手元の端末を操作しながら、冷静に言葉を継ぐ。


「今回、私が長期に渡り陣頭指揮を執った“暗票計画 《ヴォート・イレイザー》 通称:選挙攪乱作戦”についてご報告します。

 目的は地方選挙に混乱をもたらし、地域の統治機構に不安定要素を生じさせることでした」


 全員の視線が集まる中、ダルフィは淡々と続けた。


「我々が候補者として擁立したのは怪人“モウゴウ”。立候補名は“牛田モウ”です。

 変身能力はありませんが、元より人間に近い顔立ちをしており、化粧とスーツで違和感なく活動可能でした。角は“コスプレ”と見なされたようです」


 ダルフィは一拍置き、淡々とした声色のまま告げた。


「……問題は、彼が当選してしまったことです」


「………………は?」


 ゴラリラの低い声が空気を震わせる。場が凍った。

 その隣では、ジルカメスが目を丸くし、思わず口元を手で覆った。


「……いや、ちょっと待って。それって、本物の議員になってしまったということ?」


 マリアが薄笑いを浮かべながらダルフィにツッコミを入れる。


「うむ。市議選において三位で当選。本人の誠実な物腰と、“ぶれない主張”が一部有権者に刺さったらしく、SNSでは“沈黙の信念”などと呼ばれていす」


「…………」


 リザリスが深くため息をついた。対面のサディーダがやや身を乗り出し、不機嫌そうに言い放つ。


「……くだらない。角を付けて真面目ぶっただけで人間どもが騙されるなんて、呆れるわ」


 誰もそれに反論することはしなかった。


「一応、スキャンダルによる辞任を狙ったのですが、本人が“政治もまた悪の手段”と使命感に目覚めてしまい……今では、議場で常に起立して敬礼したうえで発言するスタイルが“真面目すぎる”と話題になっています」


「処理は継続中か?」


「はい。引き続き手段を講じております」


「……次。第2作戦隊長・ジルカメス」


 呼ばれたジルカメスが席を立ち、姿勢を正す。声には滑らかな抑揚があるが、口調は丁寧だった。


「では僭越ながら、私から“審美独裁 《ディクタチュール・エステティック》 通称:特殊美容院建設計画”をご提案申し上げます」


「却下だ」


 リザリスが即断すると、会議室が一瞬静まり返る。


「……まだ中身を申しておりませんが」


「どうせ最近、考案した“ジルカメスカット”を市民に普及させたいだけなんだろう」


 ゴラリラがぼそっと呟く。ジルカメスは微妙な笑みで肩をすくめた。


「ただ……その、実は既に一号店は開業済みでして……オープン記念式典を開催中です」


 場の空気が止まる。サディーダが静かに呟いた。


「……くだらない」


「その件は後で別途報告を受ける。却下でよろしいでしょうか、首領」


「うむ、却下する。作戦名がよくない」


 リザリスが淡々と切り上げたところで、ゴラリラが控えめに手を挙げた。


「参謀、ひとつ私から、報告よろしいでしょうか」


「許可する」


 リザリスが頷くと、ゴラリラは姿勢を正し、落ち着いた声で続けた。


「訓練中に、戦闘員二名が“壁にめり込む”事故が発生いたしました」


「……原因は?」


「サディーダのコレクションしている限定スニーカーを――不注意で踏んでしまったとのことです」


 場が一瞬、微妙な沈黙に包まれた。

 リザリスが静かに言葉を紡いだ。


「……サディーダ。

 それほど大事なものなら、訓練区域に持ち込まず、しかるべき場所に保管しておけ。

 組織の秩序を乱す原因は、可能な限り排除すべきだ」


 サディーダは無言でそっぽを向いたままだったが、

 かすかに頬を膨らませた。


 その瞬間、会議室の床が――ごく僅かに、しかし確かに揺れた。

 誰かが椅子の肘掛けに手を添え、他の者たちも無言で身構える。


「……地震か?」


 メタルがぼそりと呟く。


 揺れはすぐに収まり、天井の照明がかすかにきしむ音を立てて止まった。


「最近、多いな」


 リザリスが、ぼんやりと呟いたその言葉が、会議の締めくくりとなった。

「警告波形の再現率92%。……人類は、今回もやはり“見なかったこと”にするつもりか」

 次回、『責任の所在が行方不明です(3)』

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