視線が合ってしまった日
(あぁ・・・私の命もここまでか)
座敷わらしは思った。視線の先には一人の男性。彼の名前は磯崎 隼斗といい、次の春から大学生になるらしい。
さらさらとした金色の髪をもつ彼は、大学からここが近いという理由で、亡くなった祖父の家に今日から住むためにやってきた。
でも、私はしっている。
彼はあの有名な陰陽師の末裔で、きっと私を祓いに来たに違いない。だってー・・
(だって、こんなにも動悸が激しくて、緊張して、震えてしまうことなんて初めてだもの)
1時間前、彼は引越しの荷物をいくつか持ってこの家にやってきた。少し気だるそうに荷物を抱え、部屋に入る隼斗の様子を座敷わらしの彼女・・美桜は柱の後ろに隠れて見ていた。
そこで、目が合ってしまったのだ。
美桜の心臓が跳ねた。それは今までに持ったことがない感覚で、すぐに目を逸らしてしまった。
(・・・彼も見えている)
ここに住んでいたおじいちゃんとは、よく話をしていた。おじいちゃんは座敷わらしである私のことが見えていて、会話をする事もできた。
その会話の中で、よく出てきたのが隼斗の名前だった。
おじいちゃんの孫だから、彼があやかしである私の事が見えていても不思議ではない。
けれども、おじいちゃんと目が合っても、心臓が跳ねたり、押しつぶされそうになったりしたことは一度もなかった。
(・・・あれ?)
目が合ったはずなのに、隼斗は何も見えていないかのように普通に居間に入っていった。
(私の気のせい・・・?)
少し冷静になった美桜は、居間の襖を少し開けて再び彼を覗く。しかし、彼を見た瞬間に先程の感覚がまた戻ってきて彼女の体を熱くさせた。
(やっぱりおかしい・・っ)
火照り始めた顔をぎゅっと両手で抑え、なだめようとしていると・・・
「・・・なにしてんの?」
「ひえっ・・・!?」
少し目を逸らしたすきに、隼斗が美桜の目の前にいた。
「やややっぱり、見えて」
動揺のあまり、美桜の目線はふらっと宙を向く。
(あ、やばい、意識が)
「お、おい!ちょっと」
これが陰陽師の力かぁ・・と半ば感心しながら美桜は意識を遠くに飛ばしてしまった。
これは、恋をしらない座敷わらしと、霊感の強い無気力系大学生が、恋に落ちるまでの話。