パートナーのなっちん
私にパートナーができたのは去年の春だ。
祖父の十三回忌で実家に集まった。
うちの実家は過疎化が急激に進む田舎だ。実家がある町内は、昔ながらの立派な家が多いが、住んでいる人はほぼ八十歳を超えている。
中には住人が亡くなったものの家だけが、でん! と残っている場所もちらほらある。物騒といえば物騒だ。
私は実家がある地元が好きではない。偏見だとわかっているが、あの町に住んでいる人は、品がないように見える。きっと幼い頃、お山の大将で威張っていた幼なじみのイタイ姿や、人の噂話が回覧より早く回るのを見てきたからだと思う。
だから、私は滅多に帰らない。
しかし、祖父の十三回忌は帰らない訳にはいかなかった。両親から「おじいちゃんの法事は、今回で最後にするから」と言われたから。
渋々、帰省した。
読経が終わり、親戚だけの食事会のため日本料理店に移動した。私の向いに伯母が座った。面倒なことになりそうだ、と思った。案の定、伯母は挨拶のように訊いてきた。
「さっちゃん、結婚は?」
「うっせー」と言いたいのをぐっと堪える。次の瞬間、思ってもみなかった嘘が出た。
「パートナーがいる」
伯母はパートナーが何を意味するのか、正しく理解してはいないだろけれど、私が男と繋がりがあるということは理解したのだろう。続けて質問をしてきた。
「何をしている人なの?」
瞬殺で返す。
「塾の講師で三十五歳。ぱっとしないおじさんだよ」
おまけの情報も伝えておいた。
少し離れた所に座っていた母が、私と伯母の会話を聞いて、目を丸くしていた。
あ、なんか面倒なことになったかも、と思った。
≡ ≡ ≡
「せっかく帰ってきたんだから、夕飯も食べていきなさい」
と両親に言われた。ここは娘の役割を果たすしかない。
とはいえ、法事後で母も疲れているのだろう、夕飯は味噌汁、納豆、だし巻き卵という朝食のようなメニューだった。
「法事の時にアンタ、伯母さんに言っていたけど、パートナーがいるの?」
ほら、きた。
私は真顔で納豆をかき混ぜながら「うん」と言う。
「その人の名前は?」
「高本夏都。なっちんって言うの」
アドリブにしては、イケメンのような名前が言えた。とはいえ、手に持っている〝高本食品の納豆〟をもじっただけだ。
「塾の講師って何の科目教えてるの?」
恐るべし母。そんなことも覚えていたか!
しかし、私だって負けていない。昔習っていた英会話スクールの先生の経歴を頭の中で思い起こす。
「英語。英検一級なんだ」
しかし、母の尋問はまだ続く。
「出身は?」
山陰地方の県名を上げる。挨拶に行くと言われたら困るので。田舎の人は、やたらと挨拶に力を入れる。中学の風紀委員みたいだ。
さらに念のため、なっちんは八人兄弟の末っ子で、両親は高齢のため施設に入っていると言っておく。
兄弟がそれほど多いとわかれば、さすがの母も積極的に接触したいと思わないだろう。
「そうなのね」
それを機に母の尋問は終了した。
≡ ≡ ≡
そう言う訳で、私には架空パートナーのなっちんができたのだった。
法事の日以降、母は連絡してくる度になっちんのことを聞く。だから、情報をいろいろアップデートしなければいけない。
「こないだ餃子作ってくれた。なっちん器用なんだよね」
「塾で生徒が言うこと聞かないらしい」
「なっちんが動物飼いたいって言うんだけど、私、アレルギーあるしさぁ」
もちろん私の部屋になっちんはいない。一人で妄想しているイタイ奴である。
でも、なっちんを話題に出すとそれが現実のものとなって、本当になっちんがいるような気がしているのだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




