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第6話『俺はどうすればいい?』

修平との仲が険悪になり、悩む太陽。

修平も太陽達と、距離を置きたがるようになっていた。

キャシーはいつものハイテンションキャラではなくなり、不自然なほどに落ち着いていた。


そんな中、修平が部活を休むと聞き、心配になる太陽。

それを見かねた瑠奈は…。


どうなる第6話!

あれから修平は、俺達と口をきかなくなった。

廊下ですれ違う時も、部活で顔を合わせる時も、修平は俺の視線を避けてばかりいた。


一方でキャシーは、親しみやすさはそのままに、以前とは打って変わって落ち着いた雰囲気に変わっていた。

しかし、あまりにも唐突な変貌ぶりに、俺は戸惑いを隠せないでいた。


無理して繕ってるんだろうか。


それとも、修平に嫌われて溢れそうな悲しみを抑えようとしてるんだろうか。


俺はキャシーへの心配が、日に日に募っていた。




「…あれ?修平はどしたんスか?」


ある日の放課後、いつまで経っても修平が部活に来ないので、俺は部長に訊いた。


「土方ならしばらく休むってよ。部活に集中できるようなメンタルじゃないんだと」

「はぁ…」


あれだけ朝練や放課後練習に精を出していた、生真面目な修平が休むなんて、考えられなかった。

いや、思い当たる節はあるんだけども…。


あの時キャシーは泣いていて、瑠奈は修平に詰め寄った後、俺とキャシーを連れて去ったので、2人とも修平の顔を見ていなかった。


俺だけが、去り際の修平の顔を見ていた。


あのショックを受けた顔…俺には修平が、あの時自分の周りで起こっていた現実が、ようやく目に映ったようだった。


いよいよ精神的に追い詰められて来たのだろう。いや、自ら袋小路に追い込んだと言うべきか。


自業自得だけど、これを機に考え直してくれればいいが…。


そう思いながら部活に臨むが、俺もやっぱり集中できてなかったのか、


「おい!やる気あんのか藤原ァ!!」


と先輩から怒鳴られた。




「お疲れ」

「お待たせ〜」


いつものように正門に佇む瑠奈と落ち合う。


「キャシーは?」

「帰った」

「今日も?」


ここ数日、キャシーは部活後に姿を見かけることがなかった。

キャシーもよっぽど精神的に参ってるのだろうか…。


トボトボと歩いていると、瑠奈が口を開いた。


「気になる?」

「何が?」

「キャシーの事。それと…修平の事も」


俺は頷いた。

修平の名を呟くのに若干の間があったが、瑠奈は瑠奈で相当根に持っているようだ。


「あたしも気になってる。あんな大人しいキャシー、いつものキャシーじゃない。あたし達が知ってるキャシーは、明るくて元気いっぱいで、友達思いの優しい人なのに…」

「…うん」

「最近ウチのクラスに来ないし、ハグだってしてくれなくなった。正直、寂しい」

「…うん」


朝の恒例行事がなくなった事に、俺も寂しさや物足りなさを少なからず感じていた。

唯一無二の親友の変化に、瑠奈も思うところがあったんだと思うと、いたたまれない気持ちになる。


「でも」

「?」

「太陽がキャシーや修平の事でくよくよ悩んでるのも、あたしには違和感しかない」

「???どゆ事?」


急に話の矛先を向けられ、俺は面食らった。


「悩んでる太陽なんて、太陽じゃない。あたしの知ってる太陽は、悩むより即行動に移すタイプだと思ってる」

「ちょちょちょっ、待て待て瑠奈。さっきから何言ってんの。俺だって悩む事くらいあるでしょ」


ますます理解が追いつかない俺は待ったをかける。

それでも瑠奈は続けた。


「修平の事、気にしてるんでしょ?殴った事も、頑固で意地っ張りのままでいる事も、キャシーへの接し方についても、ほぼほぼ当事者でもないのに、心の中でくすぶったままなんでしょ?」

「そ、それはそうだけど…」

「『だけど』何?太陽はどうしたいの?このままの関係でいいの?キャシーがあんな風なままでいいの?修平を変えさせたいんじゃなかったの?キャシーと約束したんじゃなかったの?」


そう言われ、俺はハッと我に返った。


『俺からアイツに話してみるわ。そんで作ってやるよ、キャシーが修平にとって、本当の自分でいられる居場所になれるきっかけをさ』


いつの間にか、俺は忘れかけていた。

キャシーになかなか心を開かない修平の為に、俺がひと肌脱ごうと決心したあの日を。


バシッ!と俺は、自分の両頬を叩いた。


「…太陽?」

「ん、大丈夫。目が覚めたよ、瑠奈のお陰ででな」


俺は大きくニヤッと笑ってみせた。


「このまんまじゃ(らち)があかねぇ。まずは修平に、もう一度話しに行かねーとな!」


ちょっと行ってくる!と俺は(きびす)を返し、走り出そうとした。


直後、瑠奈にズボンのベルトを掴まれ、危うくコケそうになった。


「日を改めて。今日はもう遅いから」

「…はい」




土曜日の昼過ぎに、俺は修平の家に向かう事にした。

葉月家をチラッと見ると、瑠奈が麦わら帽子を被り、庭に咲いたヒマワリに水やりをしているのが見えた。

俺は自転車にまたがると、瑠奈のところへ寄った。


「よっ、瑠奈」

「行くの?」

「ああ」


俺は背筋を伸ばして言った。


「あたしもコレ終わったら、キャシーの家に行くから」

「修平ん家の後で、俺が行ってくるぞ?」


しかし、瑠奈は首を横に振った。


「一度に太陽が出向く必要ない。それに、キャシーはあたしの方が話しやすいと思うから、任せてくれると助かる」


俺は『うーん』と頭を捻ったが、他に代案も思い浮かばず、


「わかった。じゃあ…悪いけど頼んだ」


と言った。


「元々そのつもり。それと」


瑠奈がピッと人差し指を立てた。


「もし話がいい方向にまとまったら、キャシーの家まで連れて来て。そこで終わらせよう、2人のわだかまりを」

「合点承知」


俺は親指を立てて応えると、ペダルを踏み込んで漕ぎ出した。




「しゅーへー」


修平の家に着くと、俺はインターホンを鳴らして呼んだ。


2、3分後、ゆっくりドアが開いたと思うと、修平がゆらりと現れた。

いつもの刀のような鋭さを微塵も感じられない、果てしないトンネルのような、暗く虚ろな目つきだった。


「太陽…」

「どっか公園とかねーか?男同士でしたい話があっからさ、悪ぃけど案内してくんね?」

「…うん」


修平はサンダル履きのまま俺のそばまで来ると、


「こっち」


と言って指差す方へ案内した。


ものの数分で着いたのは、割と大きな公園だった。

幸い木陰になる場所にベンチがあったので、俺と修平はそこに腰掛けた。


「…話って何だい?」

「そーだなぁ…まずは言わなきゃならん事がある」


俺は大きく息を吸い込み、両ひざに手を当てて頭を下げた。


「こないだは殴って悪かった。ごめん」


修平は目を見開いて戸惑った。


「なんで…なんで君が謝るんだ?」

「キャシーがキレるならともかく、いくら仲がいいからって、当の本人じゃねー俺がキレるのは間違いだった。だから、ごめん」

「やめてくれよ…君が謝る必要ないよ…」


修平がゆるゆると頭を振った。


「悪いのは僕なんだ…僕がキャシーの気遣いを踏みにじった上に罵倒したんだ…瑠奈や太陽も怒って当然なのに…なのに、そんな僕をキャシーは…」


いつの間にか修平は涙を流していた。

この数日間、よほど後悔していたのだろう。

思いの丈を口にする度に、涙がポロポロと流れ落ちた。


「僕は…僕は自分しか見ちゃいなかった…応援してくれる唯一の存在であるキャシーさえも傷つけて…キャシーの一番の友達である瑠奈まで怒らせて…僕を気遣って話しかけてくれた君にも酷い事を言って…本当に申し訳ない…」


修平はメガネが濡れるのも構わず泣き続けた。

俺は胸を撫で下ろしたい気分だったが、泣いている修平を見て胸が苦しくなってきた。

修平なりに今までの自分を見つめ直して、反省してきたのだろう。

その苦悩たるや、自他ともに認めるバカで単純な俺では計り知れないほどだろう。


俺は修平の肩に手を置いた。


「修平なりに、ガムシャラに頑張ってきたんだよな」


修平は頷いた。


「上に行けば行くほど、プレッシャーつーか何つーか、のしかかって来たんだろ?」


また、頷き。


「キャシーは知ってたよ、きっと。そんな修平を応援したかったんだろーよ。好きだからこそ、な」

「でも…でも僕は…あんな酷い事言ってキャシーを傷つけたんだ…今更キャシーに『応援してくれ』だなんて言えないよ…」

「なーに言ってんだよ」


俺は修平の両肩をバシッと叩いた。


「まだ間に合うよ。キャシーは今までもこれからも、お前のことを好きでいてくれるし、応援だってしてくれるさ。修平がキャシーを信じる限りな」

「そう…かな…」

「ああ。だから修平、キャシーを信頼してやれよ。キャシーはいつもガムシャラなお前を支えてくれる、唯一の存在なんだからよ」

「………」


俺は立ち上がり、修平に手を差し伸べた。


「行くか?」

「…何処へ?」

「決まってんだろ」


俺はニヤリと笑って言った。


「キャシーんとこだよ」


修平はしばし躊躇ったが、涙を拭ってキッと顔を上げると、


「もちろん!」


俺の手を取り、いつもの毅然とした口調で言い放った。

どうやら覚悟を決めたようだ。




スコット邸に着くと、俺は修平に促した。


「ホラ呼べよ」

「わ、分かってるよ」


修平は震える指でインターホンを鳴らした。


『Hello.Who are you?』

「…修平だ。キャシー、君に会いたい」

『Wow!』


声の主だろうか、家の中でドタバタ音がしたと思うと、


「ダーリン!!」


キャシーが玄関から勢いよく現れ、修平に抱きついた。


「ちょっ、キャシー!いきなりそんな─」

「ダーリン…本当にゴメンナサイ…」


修平が抵抗しかけていた動きを止めた。


「ワタシ、ダーリンの事気遣ってあげられなかッタ…ダーリンがあんなに悩んでたのに、ワタシの気持ちばっかりぶつけてタ…本当にゴメンナサイ…」

「やめてくれよ…太陽といい君といい…なんで先に謝るんだよ…」


修平はゆっくりキャシーの背中に手を回し、抱き返した。


「謝るのは僕の方だ、キャシー。君を傷つけてごめん。自分勝手な僕を許してくれ」

「No.ダーリンは自分勝手じゃないワ。いつも頑張ってるところ、ワタシはずっとみてたモン」


キャシーは修平の背中を撫でると、修平から少し離れて向き直った。


「ねぇダーリン」

「…何かな?」

「これからもダーリンの事、応援してイイ?ダーリンの事、好きでいていいカナ?」

「今更何言うんだよ」

「Wow!」


今度は珍しく、修平から抱き寄せた。


「むしろ応援してほしい。出会った時から明るくて、素直で優しい君が、僕は好きだ。こんな僕でいいなら、ずっと支えてほしい」

「ダーリン…」

「恥ずかしいけど、これからも僕のこと、そう呼んでくれて構わないからさ」

「…I love you too(わたしも愛してる)!!」


キャシーが修平の唇にキスするや否や、俺は慌てて目を逸らした。


「っぶねぇ…」

「何照れてんの?」

「うわっ!」


背後で声がした。

振り返ると、瑠奈が腰に手を当てて立っていた。


「ずいぶん早かったね」

「ま、まぁな…」


俺はまだ動悸が治まらなかった。


「おアツいところ悪いけど、修平」


と瑠奈が声を掛けたが、あろう事かキャシーの熱烈なキスで修平は動けなかった。


瑠奈は呆れたようにため息をつくと、どこからか取り出したハリセンで2人の後頭部を、


スパァン!スパァン!


と小気味いい音で叩いた。


いや、ホントにどっから出したよソレ。


「What!?」

「え、瑠奈…?」

「修平」


瑠奈が改めて呼んだ。


「今度こそ大切にしてね、キャシーの事。泣かせたら許さないから」

「…わかった」


修平は重く受け止めたように、ゆっくり頷いた。

瑠奈は微かに笑った。


「キャシーの好意は素直に受け止めること。もう頑固にならないでいいから」

「…うん、そうするよ」

「ま、それは誰かさんもだけどね」

「そうだね」

「ネ〜」


すると、いつの間にか3人が俺を見ていた。


「えっ?なんでこっち見てんの?」

「なんでだと思う?」

「言われてみれば太陽、君も相当頑固だよな」

「意気地ナシ〜」


ジト目で睨む3人を前に、俺はたじろぐしかなかった。


「ちょっ、なんでみんなして睨んでんの!?つーか仲直りからの連携良すぎじゃね!?なんで俺今、そんな風に言われてんの!?教えてェェェェェ!!」


さっきまでの感動的な空気はどこへやら、澄み切った夏の空に俺の悲鳴が高らかに響いた。




続く

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