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第5話『ふざけんなよ』

キャシーと同様に修平を心配し、部活終わりに声を掛ける太陽。

「あんまり気負うなよ」と忠告するも、修平は頑として聞き入れない。

しまいには修平の意地っ張り発言がエスカレートしていき、太陽も我慢の限界を迎えようとしていた…。


どうなる第5話!

「修平!ちょっと待てよ!」

「…何だい?」


キャシーとの話から数日経った、ある日の放課後。

部活を終えて体育館から出る直前、俺は修平を呼び止めた。


瑠奈やキャシーと正門で会うまでの間、俺は少しでも修平と話したかった。


「もう少しで地方大会だけど、今のところ調子はどーよ?」

「?…別に、君が知る必要無いだろ」

「まぁそんな事言うなって。つかプレッシャーかかってんの、丸見えだぞ?」

「当たり前だろ。ようやくここまで上り詰めてきたんだ。相応の成果を残さなければ」

「にしては今日の剣筋、ブレブレだったぞ?」

「ッ!?…う、うるさい!!」


図星を刺されて頭に来たのか、修平は声を荒らげた。

しまった、と俺は舌を巻いた。


「君に僕の何が分かるんだ!のらりくらりとしか部活をしてこなかった君に、僕が今抱えてるプレッシャーなんて理解できないくせに!!」

「ごめんごめん!悪かった!謝るから落ち着けって!」


慌てて俺は修平をなだめた。


「…というか、さっきから何が言いたいんだ君は?」

「さすがにバレちゃうかぁ」

「いいからもったいぶらないで話せよ」


やれやれ、と俺は肩を落とすと、声のトーンを落として言った。


「試合控えてるからって、あんま気負うなよ。いつか壊れんぞ?」

「どういう事だ?」

「そのまんまだよ。一人で悩み過ぎなんだよ修平は。ホントに苦しい時は、誰かに打ち明けろよ。いくら修平が人一倍頑張ってるからって、一人で抱え込むには限界があるだろ」

「打ち明けたところで、その相手が理解してくれるのか?僕にとっての最適解となるアドバイスをくれるのか?そんな都合のいい相手なんて、いる訳ないだろ」


予想通りだった。

修平は真面目かつ合理主義なので、実力が大きく劣る俺や、帰宅部のキャシーには相談したところで無意味だと判断するだろうと察していた。

でも…。


「そうかもしんねーけどさ、でもアドバイスなんて期待しなくても、話すだけで少しは気が紛れるんじゃねーの?たとえ具体的な悩みを理解されなくても、自分が今辛かったり、苦しかったりしてんのを伝えるだけで、全然違うぞ?」

「………」


修平は黙り込んだ。

頑固頭を必死にグルグル回して、悩んでいるようだ。


「そういう相手、普段からそばにいると思うけどな、俺は」

「…キャシーの事か?」

「ああ。知らないのか?アイツ、明るさと素直さ以外に、気遣い見せる優しさだってあんだぞ?キャシーならきっと受け止めてくれるだろ。修平の事好きなんだしさ」

「それは知ってる。嫌というほどにな」


修平はウンザリしたように言った。

日頃からベタベタしてくるキャシーを、相当鬱陶しく思っていたのだろう。


「そう言ってやるなよ。ああ見えて結構心配してんだぞ?俺や瑠奈より付き合い長いんだし、少しは甘えてやれよ」

「…甘えなんて、僕には必要ないッ」


絞り出すような声で、修平は歯噛みした。


「自分の事ぐらい、自分でどうにかできなくちゃ意味がないんだ。僕達はこれから大人になっていくんだ。小学生だったあの頃のように、誰かに頼らなきゃどうしようもできないままでいる訳にはいかないんだ!だからこそ今、誰かに甘える訳にはいかないんだよ!」


修平は俺を睨んだ。

かつてないほど、その視線はギラギラと鋭く、切れ味を増していた。


「君のように、困ったら瑠奈に甘えるような、そんな軟弱な人間に僕はなりたくない。苦境をバネにして立ち上がってこそ、人は強くなれるんだ、身も心も」

「でも今、修平の心はブレている。違うか?」

「そんな事は百も承知だ!!」


修平は怒りに任せて、バッサリ切り捨てた。


「相談相手?いつもそばにいる?ふざけるな!僕の気も知らないで、『好きだから』とベタベタしてくるあんなヤツに頼れと?知った事か!」

「おい!それ以上言うな!!」


さすがの俺も、キャシーを悪く言われた途端に我慢の限界が来た。

間もなく俺達は、瑠奈とキャシーが待っている正門はすぐそばまで迫っていた。


「あんな能天気女、僕は嫌いだね。ましてや甘えるなど言語道断だ。僕のそばにいていいなんて、認めたくもない」

「てンめェ!!」


ついに堪忍袋の緒が切れた。

俺は修平の胸ぐらを掴み、頬を思い切り殴りつけた。

修平がメガネもろとも吹っ飛ぶ。


「い、いきなり何するんだ!」


立ち上がった修平が叫ぶ。

周りが『なんだなんだ?』とざわめく中、俺は修平の前で仁王立ちになって吠えた。


「これ以上キャシーを悪く言うな!自分の事しか見てねーお前が、キャシーをバカにすんな!」

「なんだと?…そうか、君もアイツとグルなのか。そうして僕の邪魔をしようと言うのか!」

「ちげーよバカ!!あーもう!!なんで分かんねーんだお前は!!このバカ!!大バカ野郎!!」


俺がもう一度拳を振りかぶったその時だった。


「タイヨー、ヤメテ!!」

「それ以上はダメ、太陽!」


騒ぎを聞きつけて現れたキャシーと瑠奈が、背後から俺にしがみついた。


「離せ!!俺は我慢なんねーんだ!!ここまで友達をバカにしやがったコイツが!!」

「ワタシに構わないデ!!ワタシが悪いノ!!ワタシが、ワタシがダーリンが悩んでるのに、話を聞いてあげなかったのガ!!」

「違う!!キャシーの気遣いを踏みにじった、コイツが─」

「太陽!」


瑠奈が突然、俺の前に現れたと思うと、あらん限りの力を込めて頬に平手打ちした。


頬がジンジン痛む。

それよりも俺は、予想外の出来事に呆然となった。


力が抜けて、拳をだらりと下ろす。

キャシーはゆっくりと、俺から離れた。


瑠奈が肩で息をしながら、いつものトーンで訊く。


「…落ち着いた?」

「…ああ」

「やり過ぎ」

「…ごめん」


瑠奈は無表情のまま、修平を振り返った。


「修平、キャシーの顔見た?」

「…ああ」

「キャシーの事悪く言ったの、聞こえてた。それでさっきからずっと、キャシーはあたしのそばで泣いてたのに、今こうやって修平をかばってくれてる。そこに何も思わないの?『余計なお世話』って切り捨てるの?」

「………」


修平は何か言いたそうにモゴモゴしていたが、結局言えないままでいた。


瑠奈は口調を緩めなかった。


「あたし、言ったよね?『キャシーを傷つける事言わないで』って。修平がキャシーをどう思ってるかなんて、微塵も興味無い。でも、大切な友達が泣かされたなら、話は別。キャシーはこんなに、純粋に修平を想っていたのに、修平はそれを真っ向から否定し、踏みにじり、傷つけた。キャシーの友達として、あたしはあんたを許さない」


瑠奈は腕を組み、挑戦的な目で修平を睨みつけた。その仕草はまるで、『何か反論でもある?』と言わんばかりだった。


一方で修平は、瑠奈の静かな怒りに気圧されていた。

何も言い返せず、ただ震えているだけだった。


修平の口から、謝罪の言葉か何かを俺はうっすら期待していた。しかし…。


「何も言わないなんて、卑怯者や臆病者もいい所だわ。ううん、頭でっかち?いや、もうどうでもいいわ」


「二人とも、行こ」と瑠奈は踵を返し、俺とキャシーの手を引いた。


「せいぜい一人で苦しんだら?あんたが変わらない限り、誰も助けたりしないから」


修平に目もくれず、瑠奈はそう言った。


俺はチラッと修平を振り返った。


修平はただうつむいて、その場に立ち尽くしたままだった。




続く

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