第2話『ダーリンはやめろ』
教室についてほどなくして、キャシーことキャサリン・スコットがやって来た。
キャシーは瑠奈をひとしきりあやすと、そっと太陽に耳打ちする。
戸惑う太陽。そして彼をからかうキャシーのもとに、土方修平が歩み寄るのだった。
どうなる第2話!
教室に入ると、まだ他のクラスメイトは数人しか来ていなかった。
「おっはよーッス」
「おはよー」
約2名ほどから挨拶が帰ってくる。
席に着くなり、俺はカバンから数学のプリントを引っ張り出し、瑠奈に渡した。
「ありがと。HR終わったら返すね」
「うん」
瑠奈は俺のプリントを手に、自分の席へ移った。
程なくして、隣の教室から駆けてくる音が聞こえた。
「グッモーニン!タイヨー、ルナ!」
ウェーブがかったブロンドの髪を揺らして、キャサリン・スコットが元気よく入ってきた。
「うおっ!?」
「も、モーニン、キャシー」
机に突っ伏してキャシーのハグを躱す。
そのままキャシーは、勢いで瑠奈に抱きついた。
「ムー、ルナはこんなに素直なのニ、太陽っタラ」
「アメリカじゃねーんだぞここは。恥ずかしいわ」
ハグしながら瑠奈の頭を撫でるキャシーに、俺は呆れた口調でつっこんだ。
「ダーリンは?」
「修平なら朝練だよ。夏の大会近いし。何も言ってなかったのか?」
「Not at all.ダーリンったら冷たいんだモン。タイヨーは行かなくていいノ?」
「出場枠から外れました☆」
「顔とセリフ合ってないヨ」
キャシーはようやっと瑠奈から離れ、俺の席に寄ってきた。
瑠奈はホッとしたようだった。
「ところでサ…」
キャシーは俺の耳元で囁いた。
「ルナにはまだ告白しないノ?」
ブホッと吹き出した。
「なっ、おま、急になんだよ!!」
「ネー、どうナノ?」
「まだしてねーよ!」
キャシーが肘で小突く。
「できるかよ…瑠奈のこと思うとよ…」
「なーに怖がっちゃってんのヨ。チキン?」
「Shut up!」
「嫌デース」
キャシーはクスクス笑った。
「ワタシだってダーリンに毎日アタックしてのヨ?まあダーリンは構ってくれないケド」
「あんなクソ真面目な修平が-」
「すみませーん、バカが1人乱入してませんかー?」
噂をすれば、部活仲間の土方修平が引き戸の前に現れた。
ということは、朝練がもう終わったのだろう。
天然パーマの黒髪、銀縁のメガネに三白眼の修平は、日本刀のごとく鋭い視線でキャシーを捉えるなり、つかつか歩み寄った。
「Wow…ダーリン、あともうちょっとダケ」
「その呼び方はいい加減やめろ。ゴメンな皆、朝からコイツが迷惑掛けて」
「おーす、修平。そのまんまそっちのクラスで監禁しといてくれ」
「請け負った」
キャシーの抵抗むなしく、修平はキャシーの襟をむんずと掴むと、教室の外へ引きずり出した。
「お邪魔しました」
「あーん、ダーリィン。もうちょっと優しくシテ〜」
「やめろやめろ!誤解を招くだろうが!」
キャシーの声は、俺達のクラスから離れてもなお響き続けた。
修平曰く、キャシーとは『小4の頃からの腐れ縁』である。
キャシーは小4の夏休み明けに、アメリカから引っ越してきた。
キャシーは美人でスタイルが良く、それでいて過剰なほどに人懐っこい。
そして重度の歴史マニアで、戦国時代や幕末には人一倍詳しい。
一方修平は、文武両道を当然とした優等生で、超がつくほど生真面目。
しかし、いつもキャシーのフリーダムさに振り回されている。
キャシーが修平に絡むようになったのは、かの有名な新撰組の土方歳三と苗字が同じだから、らしい。
そりゃまあ、あの『鬼の副長』をキャシーが知らない訳がないしな。
ちなみに修平は、土方歳三の末裔ではなく赤の他人である。
そんな彼女も、中学生になってから修平を意識するようになったのだ。
修平を『ダーリン』と呼び、開けっぴろげなアプローチをするも、修平は最初こそ戸惑っていた。今は慣れてしまったのか、軽くあしらうようになったが。
こっちとしては、修平には心のゆとりを持ってほしいところだが、瑠奈との進展がない俺が言うのもな…ってな感じ。
そんなもどかしい2人に複雑な思いを持ちつつ、物語は第3話へ続く。