ハルカ 『営み』再開? 5
その日はアレクサンダーとは顔を合わせることなくルイスとの『営み』の後気がついたら昨日のようにどでかいベットの上に寝かされていた。
目覚めるとレオンハルトが隣に寝ていた。
長くふっさふっさの銀色のまつ毛。整った鼻筋。綺麗だなあと見惚れていると瞼がパチリと開き、宇宙から見た地球のようなアースブルーが私を見ると相貌がふにゃりと崩れる。
「おはよう、ハルカ」
ぎゅっと抱きしめられて額にキス。
うっく、反則技のようなキスにちょっとフリーズしてしまう。身体を起こすと
「ハルカ、食事の用意ができますよ」
クリストフから声がかけられた。ふと部屋を見回すと今日はルイスとアレクサンダーの姿がない。
「領地の方に行っている」
レオンハルトが心の中の私の疑問を見透かしたように答える。
「アレクは昨日は戻ってこなかったの?」
「いや、深夜に一度戻って来て、再度領地の方に戻った」
戻ったってことは『供給』してから、また出ていったんだ。
え? これって避けられてる? もしかして逃げてるの?
「明日には戻るはずだ」
ふう〜ん。まあ、いいけどね。ちょっと話し合いが必要かな。
なんか、一番手がかかるんだけど。え? やっぱりアレクサンダーって「かまってちゃん」なの?
自分が正しいと思ってるんだったら、逃げるなや。
「領地でそんなに深刻な問題が起こっているの?」
念の為、情報収集。
「特には……」
レオンハルトもクリストフも思わず苦笑い。そんな彼らを見て私も苦笑いを返す。
あかんたれすぎるやろ、アレク……
クリストフの用意してくれた食事をレオンハルトと三人で頂く。今朝は『すだち』シャーベットだった。
実は夫君達は庭園の一部をお野菜や果実の種を用意して自家菜園を作り、育てて収穫している。
彼らの魔力を注いでいるからか四季を無視して野菜も果物も育ちまくりなのだ。
う〜ん、異世界あるある?
しかもそれらの種は『レシピ』から取り寄せられたブランド種。収穫したものの味も極上だ。
これは経口として口にする『マナ』の平均化のためらしい。『営み』や『供給』以外でのばらつきをなくすのが目的だとすでに説明を受けていた。
そんな中で私のリクエストしたものもいくつか植えられている。その一つが『すだち』。それの収穫があったということで昨日から色々食事に取り入れられているのだ。
凍らせた『すだち』の果汁で作られたシャーベットは爽やかで美味。
その日の昼食は『冷やしそうめん』。祖父から母へ伝授された『そうめんつゆ』は鰹と昆布だけのもの。それにゆで卵やちくわ、ネギと『すだち』。シンプルだけどこれまた懐かしく美味しいのだ。気持ちがもやる時ほどスッキリする。
そんなこんなでその日はクリストフと『営み』をした。見た目若干他の夫君より華奢で草食ぽいのに、ガッツリ頂かれてしまった。
目を覚ますといつものベットの上で、身体を起こすとアレクサンダーがお痛が見つかって叱られそうな子供のような面持ちで私を見ていた。
「アレク?」
「ハルカ、先日は不愉快な思いをさせてしまってすまなかった」
この星にこんな文化があるのも『渡り人』に日本人が多いせいなのか…… アレクサンダーは四十五度、五秒の謝罪の『礼』で謝ってきた。
元王族なのに? う〜ん……
普通なら、ここまでするならって許してあげるのかもしれないけれど、私は意地悪だ。うん自覚してる。
「何に対して不愉快な思いをさせたと思っての謝罪なの?」
わあ、性格悪い、私。
「それは…… 『渡り人』をまるで『魔力の多い』子供を産むための道具のように表現したからだ」
なるほど、そういう認識が自分の中にあったという自覚ができてるってことか。
「そう。でもアレクにとってはその認識が常識だというのは事実だよね」
アレクサンダーはグッと言葉を詰まらせる。
「アレクは『私』が十人の夫を持った方が良かったと思ってる? そして成せるだけ子供を成せばいいと思ってる? それをしない『私』はわがままで義務を果たせていないと思ってる?」
私の強い言葉にアレクサンダーは涙腺崩壊しながら頭を横に振った。
「ハルカ…… 違うんだ」
「『渡り人』は魔力の多い子供を残すための道具じゃないんだよ。おそらく皆、命を削りながら『浄化』をしている。だからそれ以上を望むのはやめて欲しいんだ。もちろん、これは私のことだけじゃなく、今後ここに渡ってくる『渡り人』全てにいえること。そうしないと過去の悲しい過ちをいつか繰り返してしまうと思う」
グッと両手を握りしめているアレクサンダー。
「『私』はいいよ、もう、なんていうか、後に続く『渡り人』のプライバシー保護のために、自分の記録を公開される条件をのんだから。でも、どうか他の『渡り人』にそういうのも含めてお願いだから強要しないで欲しいんだ」
私は言葉を続ける。
「私達はもう自分の星に戻ることができないのだから。それでもここに落ちてきた『渡り人』は目一杯みんなこの星で生きていると思うから。それ以上はどうか求めないで欲しいと思う」
アレクサンダーの瞳を直視しながら
「『渡り人』はモルモットじゃないってことを忘れないでほしい。それと『子供』を産む産まないの選択肢も持たせてあげて欲しいんだ」
思ってもみなかったんだろう『私の言葉』にアレクサンダーはひどく傷ついた顔を向ける。
「私はいいよ、『子供』を出産して子育てするというのも『記録』のうちだろうし。おそらくアレクに言われたように『私たちの子供達』の『魔力やマナ』の量も記録されて検証されるんだと思うしね」
「ハルカは『子供』が欲しくなかったのか?」
「う〜ん、そういうのは全く想定してなかったから。まさか三年意識不明の状態で『子供の核』というものが体内で形成されていたという事実は正直すんなりとは受け入れられなかったというのが正直なところかな。でも、色々あったけど産んでみたいと思うようになれたよ。だから心配しないで」
まあ、すでに夫婦なんだからとか、やることやってたんだからとかと言われるかもしれないけれど、三年間意識のない状態で『子供の核』が形成されたっていうのは正直いまだに心のどこかに引っかかってはいるけれど、なんていうか、それが私の『延命』のための『供給』だったってことと、同時に誰かに偏ることなく四人の夫全ての『マナ』を受け継ぐ『子供の核』が形成されたってことは、目の前にいるアレクサンダーもレオンハルトやルイス、クリストフと同じくらい『私の延命』のために目覚めるまでの三年間ずっと『供給』してくれていたってことなんだろう。
『受精卵』と言わずに『核』と表現されるのも違和感の一端かもしれないけれど… とはいえ、そもそもすでに『閉経』していたのだから『卵子』と呼ぶのも変な話かもしれない。『マナ眼鏡』をかけていなければ自分が『妊娠』しているようには思えない。でも『マナ眼鏡』をかけて自分の下腹部を見ると四つの光の玉が夫君の『マナ』の色に近い光を放っていて。それは最初一円玉くらいだったのが十円玉くらいには成長しているのだ。う〜ん、微妙だ。
地球的にいえば『避妊』に対しての同意、不同意的なものと近いのかもしれない。そういえばそんな裁判がネットに出ていたな。
三年も意識がなかったことと、おそらくその殆どで『営み的な供給』は不可能だったらしいからどの時点で『子供の核』が形成されていたのかというのはわからないと言われているので、その事も私の中でのモヤっとした原因の一つなんだろうとは思う。う〜ん、難しい。
でもどうなんだろう、過去の『渡り人』は皆自発的に『同意』して子供を持ったんだろうか? そもそも『大聖人 光様』以前に『渡り人』の人権を擁護する明確な法律そのものがなかったわけで、皆『渡ってきた』と認識されたら『保護』という名のものとに『囲い』込まれていた筈で、男女関係なく『魔力の多い見繕われた王族』の中から『夫君や妻君』を『選ばされて』いたはずだ。『婚姻』にしたっていきなり『ハーレム』なのだ。男性なら喜んでいたかもしれないけれど、いや、それにしたって『受け入れる』覚悟ができていなければ『無理』なんじゃないのかな。ああ、そういえば身体的な変化が起きるまでの『しばらく』の間は『営み』自体が無理なんだっけ。そういう意味では女性よりは男性の方が猶予期間があるのかな。女性はそうはいかないだろうから…… 私のように押し切られてしまうか、むしろ『彩乃さん』のように腹を括るかだろう。それでも私の夫君達のように『譲歩』してくれていたのだろうか?
私にとっての『供給』は発症した『マナ欠乏症』に対しての『生命維持』の為だった。この星の人である『夫君』達にしてみれば『渡り人による浄化』が最優先だったはずだ。せっかくの『渡り人』が『浄化』を達成できずに死んでしまわれては困るのだ。『魔力』の多い子孫を残す必要もあっただろう。『夫君教育』による刷り込みもあったんじゃないのかな。
私ではなく、他の誰かが『渡って』来たなら、その人を彼らは『迎えた』だろう。
こんなガチガチのおばちゃんではなく、すんなり受け入れられる若い人の方が良かったんじゃないのかな。
アレクサンダーがその例だ。彼にとって身近な『渡り人』は『彩乃さん』だった。私が『逆指名』しなければ彼は『彼女』のそばにいただろう。この星のために『四人目の夫君』を持たなければいけないと言われた時、私にとってはそれを『提案』したアレクサンダーへの一種の『意趣返し』だった。
彼にとっては『渡り人』からの命令に近かっただろう。『元王族』で『第二継承者」でもあったアレクサンダーにとっては『個人』よりも『王族』として、この星を維持するために受け入れただけだ。愛する妻君達や子供、『彼女』を置いて『渡り人』である私のところに来なければならなかった。『マナ欠乏症』による『媚薬フェロモン』の影響で『渡り人 ハルカ』とその夫君達は『隔離状態』だ。アレクサンダーにとっては『家族』から無理やり引き離されたというのが現実だろう。
アレクサンダーが残った理由は『渡り人』との間に生まれる『魔力の多い子供』だったんだろう。私との間に『愛情』の有無よりも彼にとっては『この星の未来』のためというのが最優先ということだ。
『全てを捨てて』私のところに来たのに『捨てないでくれ』というのもあるだろう。『受け入れた』なら最後まで面倒を見ろって事なんだろう。微妙に罪悪感を刺激してくるのもどうなんだって思う事もあるけれど、その手を受け入れたのも『私』だ。叱られた大型犬のようなウルウル目で見てくるアレクサンダーはかなり『あざとい』。
まあ、仕方がないか、とつい流されてしまうのは私の弱さなのかもしれない。そんなことを思いながら、アレクサンダーの頬に手をやり彼の唇に口付けた。
アレクサンダーによって濃厚で激しい愛撫、翻弄され絡め取られてしまいそうな私の意識を引き戻したのは…… レオンハルトだった。
「ん、レオン?」
いつの間にか朝になっていたらしい。レオンハルトがインディゴブルーのシンプルなエプロン姿で起こしてくれたみたいだ。
「今朝はクロワッサンを焼いてみた」
美形の爽やかスマイルは清涼感満載だ。
「ありがとう。起きるね」
身体を起こそうとするけど力が入らない。そんな私をみて
「叔父上は……」
と言葉を濁しながらも私の膝下に腕を差し入れひょいっと抱き上げる。
「『マナの源泉』にゆっくり浸かった方がいい」
『営み』の後は一度『マナの源泉』に浸かって、それから『供給』をしていると最初の頃に聞いていたのだけれど、どうも疲れが取れていないようだからもう一度ということらしい。
あっという間にレオンハルトが『マナの源泉』入りの湯を浴槽に張ってくれた。
ちょうどいい湯加減で気持ちがいい。ここのところ『意識のない』状態で湯に入っていたので、一人で気ままにというのはホッとした。
そんなこんなで『営み再開』から二ヶ月が経ち、『子供の核』は十円玉から五百円玉くらいの大きさになった。
ゆるゆると穏やかに日常が過ぎていく。この星でも『安定期』というものがあるらしい。『子供の核』自体が『消えてしまう』という時期を過ぎることだと言われた。
これ以降は『マナの供給量』の量によって『成長』の遅延、つまり『出産』の時期が影響されるだけで『子供の核』自体は成長し続けるのだそうだ。
なるほど興味深い。
実は『営み再開』以降、屋内から出られなかったのだけれど、今日は久しぶりに『お庭』でお散歩だ。少しは気晴らしできるかな。
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