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【感謝!3万PV達成!】虹の聖樹 『大聖女・ハルカ』と夫君達との異世界ライフ♫  作者: 天の樹
第四部 『星の核』と『渡り人』の秘密★
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『始まりの記憶』3


 レオンハルトが簡単そうに宣ってくれている。いや、私自身もレオンハルトが目の前であっという間に描いてくれた、ほぼほぼ、いや、これどう見たって『写真』だろっていうくらい精密画のような作品を最も簡単に作り上げていくのを見て、もしかしたら、自分もできるんじゃない? って最初は正直侮りまくっていたのと、利用するのはレオンハルトから送られた『魔力』であって自分のじゃないしって軽く考えていたんだけれど、甘かった。そんなに簡単なものではなかった。


 まず『キャンバス』っていう『魔力の板』をキープするのがかなり難しい。いや、まあ、なんとか作れるのだけれど、それを『維持』しながらそこにさらに『絵』なんか描けるわけない。


 たとえば、念力というものが使えたとして、林檎を宙に浮かせたまま、その皮の表面に絵を描くというのに近いんじゃないんだろうか。

 それでもあれこれ粘りながら『キャンバス』作りに小一時間集中していたら、魔力切れを起こしたのか体に力が入らなくなって座り込んでしまった。


 レオンハルトから『魔力』が注入された後、そのまま昼食休憩に入った。

 共有ラウンジでは今日はアレクサンダーが食事を作ってくれている。クリストフは領地の方で用事が入ったらしく姿が見えない。デザートはルイスが用意してくれているらしい。


 『魔力』を使う訓練が続いているからか、食事はお肉系が多い。とはいえ、見た目、味覚がそれなだけで、食事の形をとりつつも、それらは全て夫君達の『マナ』で作られている。そのため、食べすぎても体内で即『マナ』として吸収されるので、脂肪にならない。デザートも同様だ。胃もたれもない。

 けれど、一見容姿も体質も『変化』していても、この星の人のように『マナ』を生成できないのは不思議なことだと思う。夫君達は基本的に『食事』、つまり外部からの供給はほとんど必要がないのだけれど、私のためだけに『形式』として付き合ってくれているのだ。彼らに取っては『団欒』を楽しんでいるらしい。

 

『マナ』を自己生成できない『地球人』の私は、食事であれ、『営み』や様々な『マナ』の供給が外部からされない限り、生きていく上では『マナ』を消費し続けるのだ。他者の『マナ』によって生かされている。つまり根本的には形は変われど地球にいた頃と同じだ。

 『マナ欠乏症』のように『マナ』がダダ漏れではなくなったにせよ、『マナ』を自己生成できない限りは外部から供給を受けなければならない私は、中途半端な存在で、同時に自分がまだ『地球人』でいられていることに本音的にはホッとしているのだ。


 見た目やいろんなことがどんどん変化して、正直受け入れられなくなっている自分としては、それでも『地球』にこだわり続けてしまうのは、まるで、あの時、自我を手放し、光の中へ吸収されたいと願った自分と矛盾しつつも、それが『私』なのだと思ってしまうのも致し方ないことなのだろうなと最近考えている。


「ハルカ、午後からは僕達も参加するから」


 ルイスが食後のデザートに私のお気に入りのラムレーズンアイスクリームを私の前に置きながらそう言った。


「訓練に?」


「ん、そう。さっき、少し二人の様子を見せてもらったんだけどね。結構難しいみたいだったから……」


 ルイスは私の『魔法』の先生だからか、気になって様子を見ていたらしい。


「うん、そうなんだよね。『キャンバス』? は作れても、キープができなくて、それ以外ができそうもないんだよね。『浄化魔法』って私の場合、何も考えずに『マナ』を放出していただけだし、自分の『魔力』じゃないのにカツカツになっちゃって、へばっちゃうんだよね。難しい。でも急ぐんだよね? 『記録』しないとダメだから。レオンみたいに、あんなにすらすら描けないんじゃないだろうか」


「無理やり引き出すことも可能なんだが、それだとハルカに負荷がかかるからな」

 

 アレクサンダーの眉が八の字に下がる。


「無理やり?」


「記憶に介入するんだ。結構危険でね。後遺症が残ることがあるからね」


 この星では、犯罪というのはほとんどない。自分で全てを生み出せるので『奪う』という概念がないからだろう。それでも思わぬ『事故』が起こった時、それを正しく判断する時『使用』されるのだと。それにはリスクが伴い、稀に記憶障害が起こることがあるそうだ。うん、それは怖い。


「本来は、『キャンバス』にそれほど『魔力』は使わないんだ。恐らくハルカの『認識』に問題があるように見えたからね。今日はヘルプに入ることにしたんだ」


「ハルカに負担がかからないことが一番だから、よろしく頼む」


 レオンハルトがルイスとアレクサンダーに協力を求めた。




 訓練場と化した屋敷の外の敷地内の芝生の上で、まずはいつも通りレオンハルトから『魔力』が注入される。

 それを確認するルイスに午前中にしたように『キャンバス』を作るように指示される。


「なるほどね。あ、ハルカ、もう大丈夫だから、一旦止めて。原因がわかったよ」


 そう言いながら、いつの間にか用意していたのか『マナの可視化』に使っていた例のメガネを手渡される。


「ハルカは『自分のマナの魔力化』も同時にしちゃってるんだよ。自分の『マナ』を大量消費しているんだ。だから負荷がかかりすぎているんだ。もう一度、自分の目で確認してごらん。あ、その前に、まずレオンの『キャンバス』をそれで見てごらん」


 ルイスの言葉にレオンハルトが自身の『浄化魔法』で『キャンバス』をさっと作り上げた。


「それで見てごらん。見えるかな? どんな風に見える?」


「えっと、真っ白な『キャンバス』そのもの』


「じゃあ、それを外すと?」


「『キャンバスという『光の粒子の板」」


「じゃあ、ハルカ、君の『キャンバス』をもう一度作ってごらん?」


 そう言いながら『可視化メガネ』を外しルイスに預けた状態で『キャンバス』を作ってみる。一見、レオンハルトの作った『光の粒子の板』だ。その状態のまま、ルイスによって私に『可視化メガネ』がかけられた。


 レオンと全然違う…


 レオンハルトの作った『キャンバス』は『可視化メガネ』だと真っ白な板だが、私の『キャンバス』は白を基調にしながらも『マナ』特有の様々な色合いが混じりながら揺らめいている。


 そのことをルイスに告げると肯定するように頷く。


「ん、じゃあ、まずは止めて。その状態だとすぐ疲れちゃうからね」


 促されるように私は『キャンバス』を『解除』する。


「そうだね、どういえばわかるかな。ああ、まず、レオンの『浄化魔法』を『可視化メガネ』で見てみようか。レオン、いつものでいいからやってみて」


 レオンハルトが聖剣を使って『浄化魔法』を発動する。ものすごい光の粒子が放たれる。圧倒されていると、ルイスからメガネの装着の指示が出る。すると画面が切り替わるかのようにレオンハルトの体を通じて聖剣から『白い』光線が放たれていた。

 それをルイスにそのまま伝えると


「うん、その通り。『浄化魔法』は本当は『白色』なんだ。ハルカ、思い出してごらん。『火』は『赤』。『水』は『青』。魔法を発動する時には『色』のイメージも大きかったの覚えているかい?」


 言われてみれば、そうだった。え? じゃあ『白色』をイメージすればいいの?


「基本的にはね。でも、そうなるとハルカの『マナの魔力化』も同時にしちゃうからね。それだと負荷がかかっちゃうから。そうだね、今、ハルカの中のレオンの『魔力』の流れを見てみよう」


 そう言いながら、ルイスは何やら空中に魔法陣を書き上げると一瞬光ると、半身うつる鏡が出てきた。


 ちょうど私の上半身を写すような位置でそれが浮かんでいる。

 そこに写った自分の姿を見て『ルイスとの初夜』の時に見せられた映像を思い出した。


 『マナの可視化の鏡』だ。鏡に映る私は『マナ化』されたものだ。それは以前の私の『色』とは変化していた。以前よりも夫君達のマナの色彩が色濃く出ていた。何より驚いたのは以前は『マナ欠乏症』の重症化でマナを縁取る輪郭がぼやけていたのに今はかなりくっきりとしたものになっていた。


「ハルカ、以前との違いがわかるかい?」


「輪郭がはっきりしている」


「ああ、そうだね。拡大してみるともっとわかるよ。ほらごらん、今は薄い皮膜で覆われているのがわかるかい? 『マナ』も現段階では流出していないのがみえるかい?」


 ルイスに向かって頷いて肯定する。ルイスの指摘通り、今は『マナ』の流出がなくなっているのがわかったし、薄い皮膜のようなもので体の表面が覆われている状態になっているのも見えた。


「薄い膜なんだけどね。これが今回ハルカに起きた『奇跡』だ。と同時にまだ完治していない状況でもあるんだ。というのもハルカにとってまだまだ予測不可能な状況に陥ることがあるからね……」


「出産のこと?」


「ん、そう。ハルカの変化がどういうものなのか未知数だからね。記録によると『渡り人』の体質の変化によってこの星での『妊娠』や『出産』が可能になるんだけれど、本来は身体的には『青い星』つまり『地球』由来のままで、子宮の中は変化しても子宮の大きさまでが変化するわけじゃないんだ。つまりは子宮内の『マナ』の量はこの星の女性と比べて少ない状態で子供に対して『マナ』を分け与えることになる。このことで『渡り人』が『マナ欠乏症』を発症するとされている。つまりは今後ハルカも同じ状況になりうることになる可能性を否定できないってことも知っておいてほしい。できるだけそのリスクを回避できる策も取るつもりだけれど、一応現在の状況も踏まえて今告知しておくことにした。ハルカの体質の『変化』がどういうものなのかがそれを回避できる変数になるのかはわからないけれどね」


 ルイスは私の頭を優しく撫でながら、軽く息をひとつつきながらそう言った。


「ハルカ、鏡の『マナ』の中にレオンの『魔力』が流れているのを見えるかい? ああ、そうだその白いの、それがレオンの『魔力』だ」


 『マナ化』された鏡にうつる私の中を両掌を通じて送り込まれたレオンハルトの『白い魔力(浄化魔法)』がまるで動脈を駆け巡るかのように全身を流れているのが見えた。


「それだけを取り出すんだ」


 ルイスは再度私に『キャンバス』を作るように指示した。胸の前で両掌を合掌しながら『白い魔力』の流れだけを意識しながら放出する。



 『マナの可視化』メガネによって自分の体内に送り込まれた他者(今回はレオンハルト)の『魔力』を見たことで、自分本来の『マナ』と『魔力』の違いが感覚的に感じることができたというのも良かったのか、想像しているより簡単に『白い魔力』だけを逆流させるように両掌から送り出すことができた。


 目の前にレオンハルトの作った『白いキャンパス』と同じものができると


「ハルカ、それを『固定』させて」


 ルイスの指示通りに『固定』を意識する。すると以前ならできなかった『白いキャンバス』が一瞬で『固定』された。


 この星の『魔法』と呼ばれるものは『転移』や『結界』という規模の大きなものや制限されたもの、特殊なもの以外は『魔法陣』というのを特に意識せず、無詠唱に近い状態で、思い描くように、それこそ呼吸をするように使われる。


 まあ、そうでもしないと自分の『マナの魔力化』を使いこなせないからだろう。得意とする『魔法』はあっても、全員が『全魔法』を使いこなすのだ。『マナ』や『魔力』の量は違っていたとしても。だからこそ全てを他者による干渉も搾取もなく、自己完結できてしまう。




 『固定』をされた『白いキャンバス』は私の意識がそこから外れてもそのままの状態を保持したままだ。


「ハルカ、そうだな、レオンの姿をそのままそこに写生してみようか」


 ルイスの言葉に戸惑う。


 写生か…… ちょっと絵筆を意識して描こうとすると


「ん、違うよ。そうだな、ハルカの世界の『写真』ていうのを意識してみて」


 そう言われて初めて『成程』と妙に腑に落ちた。確かにレオンハルトの『絵』は『写真』のようだっだ。


 ふむっ。ということはと、両親指と人差し指で写真のフレームとかたどり、レオンハルトの姿をその中に納め、上半身の構図を決めた。


「ハルカ、決まったら、そこにレオンの『魔力』を注ぎ込むんだ。見たままの姿を。ハルカの瞳から放出してごらん」


 ルイスの言葉にしたがって、今度は目を意識して、体内の『白い魔力』だけを放出してみる。するりと両眼から指で作ったフレームの中へと『白い魔力』が放出され、その中にレオンハルトの姿が、まるでスキャンされるように描かれていく。


「よくできてる。じゃあ、それを『白いキャンバス』へと転写して」


 転写? うんと…… どうすれば? とりあえず、フレームの中に描かれたものを『白いキャンバス』に重ねるように移動させて、微調整しながらそこにシールを貼り付けるように貼り付けてみた。


 手のフレームを外すと、あら不思議『白いキャンバス』に私が決めた構図のレオンハルトの上半身がそのまま描かれていた。


「ん、よくできたね。それでいいんだよ。じゃあ、あとはそれの練習をしていこうか」


 ルイスの言葉に従って、アレクサンダーやルイス、レオンハルトをそれぞれさまざまなポーズを取らせたりしながら『絵』を描いていると


「ずいぶんスムーズに描くことができるようになりましたね」


 ふっと柔らかな笑みを浮かべながらクリストフがやってきた。


「お仕事終わったの?」


「ええ。ハルカも随分上達しましたね。とても上手に描けていますね」


「ありがとう。じゃあ、クリスの『絵』も描いていい?」


「もちろん。楽しみです」


 グリーンサファイヤの瞳を細めて、極上の笑みを浮かべてくれた。 


 あ、それいい。っと思った瞬間、何もしないのに一瞬でクリスの極上の『笑み』が『白いキャンバス』に描かれた。

 『絵を描く』という意識もほとんどしない内に『描けた』ことに驚いていると、レオンハルトが


「それでいいんだ、ハルカ。そうやって心に刻まれたものを描いていくんだ。それを目に見える形にしたのが『絵』。『描く』ということを意識せずに描くのが『絵』なんだ。ハルカの心の中に刻み込まれたもの、『記憶』に刻まれたものを外に転写したものが『絵』なんだ」


 レオンハルトはまるで子供に『よくできました』と花丸を付けてくれるようにあったかい笑顔を浮かべて、私の頭を撫でてくれた。


 『その笑顔もいただきました』とばかりに再度目の前にレオンハルトの『笑顔』の『絵』が描かれていく。


 それからはルイスやアレクサンダーも含めて夫君達の『絵』を何枚も描き上げていった。





いつもお読みいただきありがとうございます。

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