『マンデラエフェクト』と『並行世界』3
甘い果樹の香りに包まれながら目が覚める。ガッツリと抱き込まれて眠るのにもいつの間にか慣れてしまった。
レオンハルトの部屋に移されていたらしい。
男の人の腕の中で眠るようになるなんて『地球』にいた自分では考えられないな。思わず苦笑した。
人生って本当にいろんなことがあるな。まさかの異世界転移だし、一妻多夫で五十五歳過ぎて夫君四人も持つことになるなんて…… しかも全員超イケメンだし人格者だし。
なんのかんのいいながらも皆優しいし、無理強いしないでいてくれるから……
レオンハルトもルイスも私の『マナ』の状態を確認しながら、本当にギリギリまで私の思うままに動くことを許容してくれているのはありがたいと思う。
今回のことにしても先回りして全ての準備をしてくれているのだ。陛下もいくら国王案件とはいえてても協力的で助かっている。
まあ『渡り人』に関わることだから…… というのもあるだろうけれど。
それにしても『並行世界』か。
本当にあるんだな。
多分『地球』軸では物証なんて見つからなかっただろう……
人々の記憶上の違和感を『マンデラエフェクト』と言っているけれど、記憶上はたとえ心臓が左にあったとしても、その違和感を感じているその地点では心臓は中央にあるので、立証できないのだから。
確か上書きされるんだっけ。
とはいえ、私自身少し奇妙な経験をしたことがあった。
おそらくあの日から半年ほど前、ほんの三日間ほど、いつもは胸骨で保護されている心臓が、左胸でドクドクドクと脈打ったことがあった。ものすごく違和感を感じたのだけれど、三日で元の位置に戻ったのか、左からの心音は聞こえなくなった。
その違和感で『マンデラエフェクト』のことを知り、少し調べたことが今回に繋がったのだ。
その多くはおそらく記憶違いによるものなのだろう。けれど、今回質問項目にも取り上げた人体構造に関する『マンデラエフェクト』は自分の体験もあってか興味深かったのだ。まさしく『並行世界』だからって人体構造まで異なるのか? そんな疑問を持ちながら……
でも、この星に来て、アルフレッド少年の記憶の中の『佐藤君』と私の記憶の中の『佐藤君』が全く違うことがわかった時、不意にあの時の『心臓の脈動』が蘇ったのだ。
それでも心のどこかでまさかね? という思いもあった。それを否定するために例の質問項目を作ったのだ。
自分の妄想を否定して欲しかったのかもしれない。でも結果は逆にそれを肯定するものだった。
だからと言ってそれを裏付ける物証はないと考えた時、ここに来てすぐ『光様』の作ったというボディースキャニング装置のことを思い出した。
私と『彩乃さん』のデーターはあるんじゃないのか?
ここがどこかの『地球』ならその星仕様に書き換えられているかもしれないけれど、ここは完全に別物で私たちはこの星にとって『異物』なのだ。
つまりは客観的なデーターとして問題はないのでは? そう思って夫君達に提案をするとすぐに彼らは動いてくれた。フリードリッヒ国王の協力のもとに『光様』の医療データーと共に『地球人(渡り人)』の三つの医療データーが手元に渡された。
三つの記録を比較できるように並べられ映像化されたのを見た時、質問書の回答用紙を見た以上にインパクトがあった。
三人三様心臓の位置が異なるのだ。私は中央。『彩乃さん』は左胸。『光様』はそのちょうど中間といったところだ。
肺の構造も違っていた。
私は左右対称なのに、『光様』と『彩乃さん』は左右非対称だった。右は三層、左は二層に分かれていた。そういえばアルフレッド公もこのタイプで右肺を「上葉・中葉・下葉」、左肺を「上葉と下葉」と書いていた。私と『アイコ様』(あくまで回答用紙上)は左右対称で、いわゆる左右ともに「上葉と下葉」にのみ分かれているのだ。
これだけでも同じ『地球』から来たというのは私の中では否定されてしまったのだ。細かく見ればもっと、本当に少しずつ違うのだ。私にあって彼らにないもの。同じように彼らにあって私にないものもある。
似て非なるもの。
DNA検査をすればもっと明確になるんじゃないだろうか?
とはいえ、それは不可能なのだとか。
『光様』もそれができるものをつくろうとはしたらしいが『星の核』によって拒絶されたのだそうだ。
この星の構成物は全て『マナ』で構成されている。その『マナ』も厳密にいえば『星の核』によって制御されているのとのこと。
つまりは星の意志にそぐわないものはその星には存在できないらしい。
そして、その理は全ての星に共通するものだとルイスから以前聞いた時、かなり衝撃を受けたのを思い出した。
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