『マンデラエフェクト』と『並行世界』2
すっかり黙り込んでしまった私の手からアレクサンダーが回答用紙を回収する。
医療データも映像が切られる。
クリストフが私の両頬を両手でそっと挟み込み、心配そうに覗き込む、グリーンサファイヤの瞳。
「大丈夫ですか?」
大丈夫って言いたいのに声が出ない。わかっている、きっともうキャパオーバーなんだ。否定したいのに、否定できない現実を突きつけられてしまった。
並行世界とか、マンデラとか、どこか心の中で否定していた。
でも…… 自分を含めて何層もの、いや、ここに落ちてきた、否、『佐藤君』のように、ここに生まれてきた人の数だけの地球が『消滅』してしまったのだとしたら?
多次元の『地球』がある一点、あの日に砕けてしまったとしたら?
理由はそれぞれだったかもしれないけれど……
そんなことって、あり得るのか?
この星ができて数十億年が経っていると夫君達から聞いたけれど、今尚、星の欠片はこの星に落ち続け、瘴気の原因になっているという。
つまりは、ずっと『地球』が壊れ続けているってことなんじゃ……
いつの間にか、レオンハルトに抱きしめられていた。
あっ、と思った瞬間意識が途切れた。
そのままレオンハルトはハルカを横抱きにすると、共有スペースのベッドの上に寝かせた。
※※※
「危なかったね」
「ああ」
「相当ショックだったんでしょうね」
ルイスやレオンハルト、クリストフがベッドに眠るハルカを見ながら口にしている側でアレクサンダーは腕組みをして黙り込んでいた。
「ルイス、もう一度、全員の医療データー画像を見せてくれ」
アレクサンダーの言葉にルイスが同意して、再び『光様』と『アヤノ様』、『ハルカ』の医療データー画像が映し出される。
「本当に、信じ難いですね。こんなことって、本当にあるんでしょうか?」
クリストフは目の前にある画像を見ながら呟く。
「ハルカは『並行世界』が実証されたと言っていたな。そもそも、ハルカの言っているのは仮想としては成り立つだろうが…… どうなんだ、ルイス」
アレクサンダーの表情も硬い。ルイスはハルカを見つめながら
「我々は『渡り人』はずっと彼らにとっての一つの世界(地球)から渡ってきていたと考えていたのだけれど……
どうやら違うらしいですね。
彼らの選択した未来における結果の一つの世界(地球)の終了の結果だとすっかり思い込んでいました。
その為、過去における『青の嵐』によって記憶が呼び起こされた事例も同じ世界線上であり、全てが同じ一つの地球の出来事だと。
ところが、今回のことはそれを根底から覆してしまった。
ハルカが恐れているのは、あらゆる可能性を選択したとしても、ある一点(この場合は彼らにおける地球での最後の日)を乗り越えられなかったということだろうね。数千、数万、数億、どのような選択をしたとしても彼らの星の最後は変わらない、変えられなかったという…… 結果的にあらゆる『地球』が砕け散ってしまったという仮定が浮上してしまった」
「問題はその日、何があったのかということですね」
「ああ、そういうことだろう。なんらかの原因があるはずだ。普通はありえないだろう星が砕け散るなんて」
クリストフとルイスの会話にアレクサンダーが加わる。
「だが、『白い星』もだったのだろう? 言い伝えによると『星の核』そのものが砕けてしまったと。同じことが『青の星』でも起こったのではないか?」
「『白い星』の場合は彼らの太陽(恒星)の寿命だったと言われているからね。そこに住む生命が影響を及ぼしたわけではないんだよ、確か『白い星の記憶』によると」
ルイスの言葉にアレクサンダーが思い出したかのように頷きながら同意をする。
「ああ、確か、そういう伝承は伝えられていたな」
クリストフがレオンハルトに向かって
「『光様』を含めて、これまでの『渡り人』様の全記録を精査しないといけませんね。何か示唆することを見落としているかもしれません。最初の聞き取り調査だけではなく、全記録を」
「全記録か。膨大な量になるな」
「ええ。但し、これは今すぐということではないですね。量が量ですから。全ては国王案件ですが、とても陛下だけでは難しいでしょう。ハルカもいつも話しています。あくまでデーターの蓄積だと。今回のことについても、とてもではないがハルカだけでは結論は出せません。彼女はそのことを知っています。これらの物証(『渡り人』の医療データー)も、あくまで『仮定』の一つを導き出すに過ぎないということを」
「それにしては衝撃すぎる物証だがな」
アレクサンダーがハルカの寝顔を見てやりきれ無さそうな顔を浮かべた。
「明日は休ませましょう。無理をさせて症状が悪化しては駄目ですから。私は陛下に一度この件について報告します。それから『渡り人』様の記録についても」
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