ハルカ 夫君選定と成婚の儀
装飾品は候補者によっては複数用意されているものもあるらしい。
先ずは『首飾り』。七つの首飾りが赤い敷布の上に並べられている。色とりどりの見事なデザインだ。
各国の宝物館に収められているようなゴージャスなものばかり…… これがマナで作られている? 地球でいう宝石と遜色ないという印象を受ける。ダイヤモンドやルビーやサファイヤ、アメジストやトパーズ、真珠のようなものもある。
これを本当に自身のマナで作ったというんだろうか?
マナとは何なんだろう。こんなものまで作り出せるというのか……
一点一点じっくり見ていると最後の一点にくぎ付けになる。宇宙から見た地球のような独特の蒼。レオンハルトの瞳を思い出した。細工も見事で群を抜いている。迷わず、これを選ぶ。
次は『耳飾り』。色とりどりの様々な見事なデザイン。これもマナで作っているのか。ふと一点に目が止まる。晴れた澄み切った青空のような色味のとても繊細で洗練されたデザイン。ふとルイスの顔が浮かぶ。これも迷わず、選んだ。
『腕飾り』も様々だ。どれを見ても見事な細工。その中で金色の見事な細工の腕飾りを見つけた。ただ、何故か、これは自分の為のものではないとふと感じる。その横にあるエメラルドのような色合いの腕飾りが視界に入る。細工も繊細で素晴しい。クリストフの碧の瞳が重なった。それを選ぶ。
選び終わった装飾品を女官達がそれぞれ私につけてくれた。
そのまま、さらに奥の別室へ連れて行かれる。
それから少しして扉が開かれると同時に見慣れた男性が入ってきた。レオンハルトだ。白を基調とした濃紺のラインに金色のモールの飾りの騎士服を身に着け正装姿をしている。
レオンハルトは私のそばに来ると首飾りを触って
「これは私が作ったんだ」
にっこり笑った後、彼は私の正面に立つ。
「ハルカ、どうか私を貴女の第一夫君にして欲しい」
真剣な面持ちでそう言うと私を直視するレオンハルトの瞳と視線が絡み合う。
ああ、この地球みたいな瞳、やっぱり好きだな。
「私でよければ」
「ありがとう」
それではここに署名してくれるかい。と目の前で何やら書類を開く。
見ると「結婚許可申請書」という文字が自動翻訳で目に入る。いきなり、早すぎないか? さすが躊躇していると、レインハルトが先に署名する。迷いも躊躇もない。その勢いに押されて署名する。
あ、書いちゃった、内心自分でも驚いてしまう。私の署名を見ながら
「これがハルカの国の文字なのか」
「高瀬春香」と漢字で書かれた私の署名を見てレオンハルトは不思議そうに感慨深そうにそう口にすると、再び私の正面に立つと片膝をつくと私の右手を手に取り右手の甲にキスをする。
「私は貴女をいかなる時も愛し守ることを誓う。どうか私の妻になって欲しい」
ここで素直に頷けばいいのかもしれないけれど、一点どうしても彼等に確認したいことがあったので、正直にそれを質問することにした。
「一つだけ、答えて欲しいことがあるんだけど…… もし、私が貴方なら自分の妻を他の男性と共有はしたくないし、できないと思う。貴方は本当に平気なの?」
レオンハルトは私の瞳をじっと見つめ返す。
「正直なところ、本当は貴女を独占したい。誰にも触れさせたくはない。でも、貴女の生死に関わるなら…… 貴女の命を守る為ならば私は何でもする。私の(マナ)で足りないならば、他の誰かのマナを受け入れても貴女に生きて欲しいと思う」
レオンハルトは私をぎゅっと抱きしめた。
「私は貴女のものだ、ハルカ」
「どうか私と結婚して欲しい」
耳元で深いバリトンの声でそう言われるとゾクゾクしながら
「はい」
と応えると、抱きしめられた腕に力がこめられた。
「この星の成婚の儀を行なうよ」
レオンハルトは私の後ろに回り込み私の左手の甲の上に彼の左手の甲を重ねた。
すると彼の左手の甲に虹色の一本の木のような紋様が浮かび上がる。丁度、幹や枝の部分が強い光を放つ。それとともに私の手の甲も熱くなりエネルギーが体内に流れ込んできた。驚いて手を離そうとするとレオンハルトはがっちりと私の手を重ね、指を絡めて握り込む。エネルギーが私の身体を熱く巡ってゆく。やがて、光と熱が収まると、彼は私の手を離した。
私の手の甲に透けるように幹と枝の紋様が刻まれていた。
「これは?」
「それは聖樹の刻印。パートナーの証だ」
それによってマナの授受が可能になるらしい。
そしてレオンハルトは一組の指輪を目の前に出す。私の為に彼によって作られた指輪と夫君の為に私が選んだ指輪が並べられる。夫君に贈る指輪は妻の瞳の色を基調にしたものを選ぶと王妃達の助言のもと選んだものだ。焦茶色と金と銀を組み合わせたデザインで結構洒落てる。レオンハルトは首飾りの色合いとよく似た彼の蒼い瞳と髪の色の銀を使った指輪を私の左手の薬指にはめた。私もレオンハルトの左手の薬指に私が選んだ指輪をはめる。
そして彼は私の顎の角度を上げると彼の顔を私に近づけると口づけた。始めは軽く、それから啄むようにキスを何度も重ねる。少し息をしようと口を軽く開いた瞬間彼の舌が私の口内に入ってくる。
え? いきなりディープ? 戸惑いつつ受け入れると、その瞬間甘い果実のジュレのような味が広がる。レオンハルトも驚いたように私の顔を見ている。すごく甘い。と同時にものすごいエネルギーが注ぎ込まれていく。
脳内が混乱しつつ、あまりの心地よさに酔いしれていると
「兄上」
その声に反応して、レオンハルトが離れがたそうに身体を離す。お互いに瞳を絡めたまま目がそらせられない。
「レオン。成婚の儀は終わりましたか?」
振り返るとルイスとクリストフが立っていた。
「次は僕だ」
ルイスの言葉に反応するかのようにレオンハルトとクリストフが部屋の外へと出て行く。この流れは三人と成婚の儀を一気にするということなんだろうか。なんだか気まずい。
「ハルカ。僕を貴女の第二夫君にして欲しい」
ルイスは白を基調に濃紫と金のモールの飾りの正装の騎士服を身に纏っている。私の前で跪き私の右手を手に取り、私の目を真っ直ぐ見つめて大魔法士ルイスは私に請う。
その彼にレオンハルトと同じ質問をする。
「君がここにやってきた時、レオンの馬上に落ちてきた、僕は丁度その隣にいたんだよ。あの時ほど僕はレオンになりたかったと思った時はない。僕の馬上の上に落ちてきてくれていたらと何度も思ったよ。僕は初めて兄上、レオンに嫉妬した」
ルイスは続ける。
「誰にも渡したくない。そんなこと当たり前だよ…… ハルカ。でも同時に君を失いたくない。僕のすべてを君に捧げたい。ただ残念ながら僕だけでは君を生かすことは難しい…… 君を愛し守り抜く為には僕だけでは駄目だという限界も受け止めているからこそ、僕は君の為に必要なものを受け入れる」
ルイスは私の手に口付けながら
「君を守りたいんだ。だからハルカ、僕を君の第二夫君として選んで欲しい。」
レオンハルトもルイスもどうしてこんなに断言できるんだろうか? 出会って数日しか経っていないのに。何故? 私が黙っているとルイスは
「どういえば伝えられるんだろう…… 君を初めてみた時、『君は僕のものだ』って確信したんだ。おそらくレオンも同じだろう。僕達は双子だから…… 元は一つのマナだったものが二つに分かれたと両親が話しているのを聞かされている。一つのマナだとあまりにも魔力やマナが膨大すぎるから二つに分けられたのだと。そのせいか普通の双子よりさらに結びつきが深いんだ。
だからかな…… 君と出会って君の驚異的な『浄化』を間近で見て感じたのはもし僕達のマナが二つに分かれていなければ、君を一人ででも受け止めれていたんだろうって思った。だから、ハルカ、どうか僕を受け入れて欲しい」
「はい。受けいれます」
私がそう答えると、ルイスはとても嬉しそうに私の手の甲にもう一度キスをした。
仕方がないと腹を括る。知らない誰かを代わり受け入れるという選択肢は私の中にはないのだから。レオンハルトにしてもルイスにしても私との気持ちの温度差はある。嫌いではない、拒否感もない。
ただ…… 出会って数日でこれほどの熱をぶつけられる純粋さをそのまま受け入れるほど若くはない。なんか羨ましいなとふと思った。
ルイスもレオンハルトと同じように『結婚許可申請書』に署名を促す。今度はすんなり署名する。私が署名した部分にルイスはキスをする。
その後レオンハルトの時と同じように左手の甲を重ねる。ルイスの左手の甲にも聖樹が浮かび上がり光を放つ。私に刻まれている聖樹の印も熱を持ちエネルギーが流入してくる。ものすごいエネルギーが身体を駆け巡る。それが落ち着くとルイスは私の手をそっと外す。レオンハルトに刻まれた印にさらに新たな紋様が追加されている。
どうやら同じ文様ではないらしい。
指輪の交換をする。レオンハルトの蒼より少し明るい青と銀の指輪を左手の薬指に重ねてはめる。ルイスは私の贈った指輪を愛でるかのように指輪にキスをする。乙女過ぎる。
そう、私はルイスの乙女ぶりに油断してしまった。ルイスとの成婚の誓いのキスは濃厚な甘いクリームの味がした。
ルイスもレオンハルトと同じように驚いた瞳で私を見つつ、貪るように深いキスをする。それと同時に強いエネルギーが送り込まれてくる。逃げないように腰をぐっと引き寄せられ、どんどんキスが深くなる。食べられてしまうんじゃないかと思っていると
「ルイス、成婚の儀は終わりましたか?」
冷静沈着なクリストフの声にルイスは名残惜しそうに身体を離す。
一連の流れが繰り返され、部屋には私とクリストフの二人だけになる。
「貴女が私のマナを選んでくれるとは正直思っていませんでした」
クリストフは私の左手首にはめられた腕飾りを見てそうつぶやいた。
「繊細で見事な細工、そして貴方の瞳の色というのもあったのだけど…… 新緑の、五月の風のイメージがふと浮かんで、とても美しいと思ったから……」
腕飾りにそっと触れつつそう答えると、クリストフはぱっと顔を赤らめて、視線を外す。
乙女がここにも一人いた。見た目年齢は二人より大人なのに、実年齢私より年上なのに…… 宰相をやってるってことはいろんなことに百戦錬磨じゃないのか…… この世界の男性達可愛らしすぎる。
私が口説いてる⁇
「貴女と貴女の『浄化』の光を思いつつ作りました」
そう微笑みながら言うと、私の目を直視する。
碧色に時折金色が混ざる。少し不思議な瞳の色。まるで太陽を浴びた新緑の碧、グリーンサファイヤ。視線が絡み合う。軽く息を吐くとクリストフは私の前に跪く。
「ハルカ、どうか私を貴女の第三夫君に選んで下さい。私は貴女を守り愛します」
クリストフは私の右の手の甲にキスをする。
私は返事をする前に先の二人と同じように質問をする。少しの沈黙の後、私の瞳を真っ直ぐ見つめながらクリストフが答える。
「今の私はレオンやルイスに完全に出遅れています。彼等ほど貴女との時間の共有はできていませんし…… お互いのことを知るには正直時間は足りていないと思います…… ただ、『浄化』をしている貴女の姿に完全に魅了されたのは事実です。私は貴女を欲しいと思いました。そして貴女を守りたいと強く思っています。貴女を守る為なら私は可能なことを全てするでしょう。それが自分以外の他者のマナを貴女が受け入れることであっても。
今の貴女には正直時間がありません。本来なら夫君候補と知り合う時間を持つべきですが…… 貴女の身体の状況を見るとそれは厳しいと思います。私には政治的利点もあります。貴女を色々な意味で守ることができます。どうか私を利用して下さい」
なんか普通の感覚…… それが妙に安心できる。
「亡くなられた奥様のことはよろしいのですか?」
若くして妻を亡くして以来独り身だと聞いている。その辺の所も遠慮なく問うてみる。少しの沈黙の後
「妻と私は幼馴染みでした。好意を持たれていたことは知っていましたが…… 私と彼女では魔力やマナの量が大きな差がありました。それは彼女にとって健康上の問題を引き起こすことがあるので私は彼女を拒んでいました。
ある日、彼女が私のもとに訪れ、望まない結婚が決まりそうだから、逃げてきたので受け入れて欲しいと言われました。私は彼女を受け入れました。私自身も彼女を好ましいと思っていたので…… しかし、その結果、彼女は若くして亡くなってしまいました。直接的にはその年に多くの犠牲者を出した流行病によるものですが……
彼女の場合、私の過剰すぎる魔力による免疫低下によって重症化してしまった結果でした。それ以降、色々お話を頂いたのですがいずれも魔力やマナの差が大きすぎて、お受けることはありませんでした」
遠くの方に視線を向けながら淡々とクリストフはそう語った。
「わかりました。お答えし辛い質問をしてしまってごめんなさい」
私がそう言うと彼は私に視線を戻す。
「いえ、当然のことだと思います。大丈夫ですよ」
クリストフは静かに微笑んだ。
「クリストフさんの申し出をお受けします。よろしくお願いします」
私の言葉にぱっと光が灯ったかのようにクリストフの表情が華やいだ。
「ありがとう、ハルカ」
クリストフは私の身体を引き寄せぎゅっと抱きしめる。そして『結婚許可申請書』にお互いが署名すると
「ハルカ、私と結婚して下さい」
クリストフの言葉に
「はい」
と答えた。
再び成婚の儀の左手の甲を重ね合う儀式に入る。
クリストフの左手には最初の婚姻の時の印がうっすらと残っている。私の左手にはレオンハルトとルイスの儀式に刻まれた印が刻まれている。私の手の甲に重ねるようにクリストフが手を重ねる。
するとクリストフの印を上書きするかのように新たの文様が浮かび上がり光を放つ。それに呼応するかのように私の手が熱を帯びてエネルギーが流れ込んでくる。ものすごい量のエネルギーに圧倒される。やがてそれが落ち着き重ねた手を外す。先程よりさらに複雑な紋様が印されていた。
クリストフから贈られた指輪は腕飾りと同じように碧と銀で作られた繊細な作りだった。左手の薬指に三つの指輪が重なったと思ったら、一瞬で一つの指輪になってしまった。驚いていると
「これは貴女を護るものです。貴女に何かあれば夫君全てがそれを関知し、貴女を守ります」
そしてクリストフと成婚の誓いのキスをする。
最初は軽く少し長めのキス。息をする為に軽く開いた口の中へ彼の舌がするりと入ってくる。口の中に濃厚な蜂蜜のような甘さが広がる。クリストフの大きく見開かれた驚愕の瞳。しかし唇を離そうとはしない。
もっと奥へもっと深く舌を絡め合う。腰をぐっと引き寄せられ呼吸も忘れるくらい一気に注ぎ込まれるエネルギーに翻弄される。いつの間にか壁際に背中を押し付けられる。あまりの迫力に目に涙が浮かぶ。それに気付いたのか、クリストフは唇を離す。
「すみませんでした。あまりにも甘くて気持ちよくて、貪ってしまいました」
クリストフは頬を赤く染め照れたような笑みを浮かべる。
「でも普通のキスと全然違いますね。あまりにも甘い密の味に驚きました」
まじまじ私を見ながらクリストフにそういわれると恥ずかしくて俯いてしまった。
「貴女を絶対に守り、幸せにします」
私をクリストフは抱きしめてそう誓った。
いつも読んでくださってありがとうございます。ここまでがムーンライト版との重複部分になります。
1日1部のペースに戻ります。次回更新は明日の正午です。