ハルカ 「次元の間」のお話5
いつの間にか防音魔法がばっちり張り巡らせられた真っ白い壁に囲まれた専用の部屋ができていた。
ちょっとした映画館のような、いや完全それっぽいのをわざわざ作っただろうっていうようなクッションの肘掛け椅子。
促されるようにそれぞれが席に座る。私を中心に四方を囲むように夫君達がそれぞれ席につく。
前面には大きなスクリーンが貼られている。
そこで、クリストフからこの部屋にいる五人全部がいわゆる映像流出に対しての守秘義務に関する特別な契約魔法をかけられた書類に署名させられる。契約を破れば『渡り人』であっても存在の物理的な消滅だ。恐らく今回協力してくれたフリードリッヒ国王もだろう。しかも連帯責任だそうだ。まさしく一蓮托生。
映像の内容に関しては文面としては残さない事。話す相手にも守秘義務を守る契約に署名を義務付けること(つまり今回と同様の契約魔法をかけられるということ)も同時に説明される。
つまり今回の映像を見た後、会話をするであろう『次元の間』にいる『大聖女・アイコ』様と彼女の第一夫君『アルフレッド』様にも同様の契約を科するという事なのだろう。
ちょうど私の前の席に座っていたルイスが席を立ち、部屋の照明を調節する。
一見プロジェクターのような機械のスイッチをルイスが入れる。
スクリーンが白く光った。画面にフリードリッヒ国王が映った。
あちら側もよく似たものなのか、背景に映るのは白い壁。
「えっと、もう大丈夫なのか? 音声は?」
「ええ、陛下。音声も画面も問題ないです」
フリードリッヒとルイスの声が部屋に響く。それから、簡単な挨拶をお互い済ませ、いよいよ問題の映像へと話題が移る。画面の向こう側のフリードリッヒはおそらく部屋には一人なのか自ら席を立ち、部屋の照明を調節すると同じようなプロジェクターの機械のスイッチを入れた。
プロジェクターからの画面がスクリーンの向こう側のスクリーンに映し出される。まるで古い映画のフィルムを見ているかのように画面の中でカウントが始まる。
画面に文字が映し出された。この星の言葉だ。スクリーン越しだからなのか、自動翻訳に少し間がかかる。
「建国一〇二〇年 『渡り人・アイコ様』・第一夫君『大魔法士・アルフレッド』成婚の儀報告」と翻訳される。
当時の国王に『成婚の儀』の後の報告をする為の謁見だろうか? 音声はなく、映像だけだ。二人の顔の確認の為に選ばれたシーンだろうか。他の人は映り込まないようにその部分だけが切り取られ編集されている。二人の姿を同時にフォーカスされたところで一時停止のように静止画面になる。
そこに映し出されているのは、私の夫君達とよく似た相貌の二十歳前後の青年。ここの王族ならではの短めの銀髪にレオンハルトと同じようなアースブルーサファイヤの瞳。『大魔法士』にのみ許可される正装を身につけている。
『アイコ様』、『大聖女』ではなく『渡り人』と名称されているのは多分『大浄化』前なのかもしれない。普通の謁見が可能なのも以前『渡り人・アヤノ』さんの時のように『マナ欠乏症』に罹患前なのだからだろう。
夫君色のアースブルーを基調としたドレスに銀糸で豪華に刺繍が施された美しいドレスに身を飾り、日本人特有の黒髪と美しい黒い瞳。(彼女の瞳は黒い。実は私は自分を含め焦茶系だったので、黒目というのに会ったことがなかったんだけど)
彼女は『彼』よりも少しお姉さんに見えるがそれでも二十代前半だろう、まだ若々しく瑞々しい。現状を受け止め、それでも前を見据えようとしている意志の強さがその瞳に映し出されている。
二人とも『次元の間』で会った頃よりふっくらしている。いや、若くピチピチしていると言った方が正しいだろうか?
瞳もキラキラと彼らの希望がそこに映し出されていた。
成程、この映像を見た限り『次元の間』で私が出会った二人は、確かに『アイコ様』と『アルフレッド様』だ。この映像よりは若干歳を重ね二人とも二十代後半で少し人生に疲れたように見えたけれど。
画面が切り替わる。
「建国一〇一二年 『青の星の記憶・第二王子・アルフレッド様』」という文字が翻訳される。先程より八年前?
画面の中に小学校高学年くらいの少年が映し出される。
すごい美少年だ。思わずあんぐりしてしまった。
夫君達も、いや特に瞳の色も考えればレオンハルトの少年期も同じなんじゃないか?
中身私より年上だけど、見た目は超美青年の彼等にほど全ての時間常に接しているからなのか、感覚が麻痺している部分もあるのだけれど、画面に映る『彼』は夫君達の少年期を想起させるには十分だった。
ここの王族、破壊力半端ない。え、これでもっと小さかったら、天使じゃない? 夫君達の子供時代ものすごく見てみたくなった。
ちょっと食い気味に見ていたんだろうか、隣でクリストフが小さく咳をする。
おっといけない、と画面に集中する。
美少年『アルフレッド』君は緊張しているようだ。質問者の姿も声もカットされているけれど、それに対して応答する映像と声。
氏名と生年月日を答えている。
『青の星』の記憶についての言及が始まった。
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